- 刊行のことば
- 第1部 公教育経営学の方法論と概念
- 第1章 近代公教育分析に関する方法論的諸問題
- 第2章 「学校経営論」と「公教育論」
- ─その位置関係と課題性─
- 第3章 「教育経営」概念の実体性と有効性
- 第4章 単位学校経営論と学校の自律性
- ─吉本学校経営学の基本構造─
- 第2部 公教育経営の展開と改革課題
- 第5章 教育行政と学校経営の関係構造
- ─組織・権限・機能の検討を通じて─
- 第6章 公教育の意義と公教育経営の概念
- 第7章 公教育の成立・展開と公教育経営構造
- 第8章 日本の公教育の展開と公教育経営の特質
- 第9章 教育行政の地方分権化と学校経営の自律性確立
- ─1998年中教審答申から2013年中教審答申へ─
- 第3部 学校論
- 第10章 学校論の課題と領域
- 第11章 学校教育と子どもの学校生活
- 第12章 学校機能の再検討と教育改革課題
- 第13章 学校の社会・歴史構造からする存在理由
- 初出一覧
- 解題
刊行のことば
京都教育大学名誉教授の堀内孜先生が,2021年6月25日,ステージ4の宣告を受けてから5年近くに及ぶ闘病の末,ご逝去されました。平均寿命からするとまだまだ早い享年74歳でした。
先生は数多くの業績を遺されましたが,特筆すべきは「公教育システム経営」という概念を提起されたことだと受けとめています。先生ご自身もご著書(『公教育経営の展開』東京書籍,2011年)で述べられているように「奇異に感じられる方は少なからずおられる」と思いますが,先生から直接に教えを受けたわたしたちは,「教育経営」概念に対する批判的視点から,吉本二郎先生,持田栄一先生,伊藤和衛先生の着想を敷衍し,国民国家における公教育システムの重層構造とそのことから起こる実際的,具体的な教育問題について経営作用の「機能と構造」を解明せんとして打ち出されたもの,子どもや父母,地域住民の教育意思を尊重し,上からの規制圧力に対して,あえて「学校経営」を公教育システム経営の基盤に位置づけることで,逆に上向的な指向性を有した鍵概念であると理解しています。今もこの先も流動する社会状況にあって教育現実は揺らいでいくでしょうし,その全容解明は未だ途上にあるとも思いますが,主権者にとって最適な公教育実態を創造する上で継承すべき視角であると考えています。
さらに特筆すべきは,先生の教育学研究者養成力についてです。先生は教員生活の大半を研究大学ではない大学で送られました。そのような教育環境でありつつも,堀内研究室出身の教育学系大学教員は多数います。ゼミなどでスコープの開き方,論理的思考力や論理構成力など多くのことを学ばせていただきました。しかし,それは通常の「授業」の一環でした。飲みにはよく連れていっていただき刺激的なお話を多く伺いました。むしろ先生からすると,そういう機会が研究者養成の場だったのかもしれません。
第三に特筆するのは,先生の研究組織力についてです。先生は,1980年に「大学と学校現場の交流を図る」目的で,堀内研究室で卒論を書いて卒業した者たちを主たるメンバーにして京都教育大学教育経営研究会(後に京都教育大学公教育経営研究会に改称)を結成されました。1982年には機関誌『現代学校研究論集』を創刊し,大学院が設置されると修論生も加わり,先生の京都教育大学ご退官まで続きました。同時に,先生の親しい人たちの指導下にある卒論・修論生を集めての合同卒論・修論指導会を定期に開催され,所属を超えて厳しく温かく指導されてきました。こうしたご指導の下で,卒業生,修了生は「実践と研究の往還」を体感できたと思います。
これらご業績を形にしたいというのが,本著作集刊行の動機です。しかも,先生ご自身にも著作集刊行のご希望があったようで,先生のパソコンに各巻の構成が遺されていました(残念ながら,諸般の事情からそこに書かれていたソビエト教育論=卒論・修論を著作集に組むことは叶いませんでしたが)。そのため,三周忌に当たる「偲ぶ会」(2023年11月)以降,先生の教えを受け大学に籍を置く者たち有志が,各巻ごとの検討会とは別に,改めて先生の書かれたものを各巻構成に沿って読み込み,その意味や意義を再確認する全体学習会を重ねてきました。そうした中で,先生のご存命のうちにもっとお聞きしておくべきであったと悔やまれることも多々でてきましたが,それらも含め一つひとつ協議を重ねてきた検討会・学習会の成果は,各巻に「解題」として付しています。
卒論・修論をはじめ,先生の書かれたものをすべて集録することは叶いませんでしたが,ご意向に沿って「第1巻 公教育論・学校論」「第2巻 教育行政論」「第3巻 学校経営論」「第4巻 教師教育論」に著作集をまとめることができました。
各巻の詳しい紹介や考察は,解題を参照いただきたいのですが,先生は,公教育のあり方に強く拘った立論の元,教育制度,教育行政,学校経営,学校を論じてこられました。その意味で,第1巻から順を追って各論の第2巻,第3巻を読み進めていただければ,先生のお考えの全体がご理解されやすいかと思います。特に第1巻第1部では,近代公教育分析の方法論と「公教育(システム)経営」概念の意義が提示され,第2部では公教育経営改革の実態と課題,第3部では近代公教育制度としての学校の構造と機能についての議論が展開されています。
第2巻では,先生が編集され執筆された教育行政学・公教育経営学に関する「教科書」並びに教育行政制度の構造を分析した諸論文と教育行政改革に関する諸論文によって編集がなされています。これらを通読すると,第1巻での公教育システム経営観を下敷きにした堀内的教育行政構造が読み取れるかと思いますし,教育行政単位として教育事務所が果たしうる可能性や地方分権改革が新たな教育委員会−学校経営の関係構築に果たしうる可能性が読み取れるかと思います。
第3巻は,公教育経営下にある学校経営の自主性・自律性論をベースとした学校経営論が集約されています。ただし,他の巻とは異なり,先生の唯一の単著である『学校経営の機能と構造』(明治図書,1985年)を第1部に組み込んだため,第2部では,他の巻には章に位置づけられている諸論考が節の位置づけとなっています。ここでは,第1部を通じて先生の学校経営論の全体を読み取り,第2部での展開を読み解いていただければ幸いです。
一方,先生は,教員養成を担当する大学教員というお立場を強く意識され,教員養成課程や教師教育における養成−採用−研修の連続性にも関心を有してこられました。この延長上に,タイにおける教員養成制度改革にご尽力されたご功績が位置づくかと思いますし,その発展型としてラトビアでのご活躍があります。また,京都教育大学大学院連合教職実践研究科(教職大学院)の整備・確立や,兵庫教育大学大学院教育政策リーダーコースにおける教育長をはじめとする教育行政リーダーの養成にもご尽力されてきました。第4巻は,そうした背景を踏まえてお読みいただけると幸いです。
なお,著作集への集録に当たっては,法令略称,旧法令の条数・条文を含め原文に従うことを原則としました。ただし,明らかな誤字・脱字,誤用と判断できる言葉は修正しましたが,判断に迷う表現は原文通りという意味で「ママ」とした上で,編者補注や解題でその趣旨を補っています。巻の特性上,法令の略表記一覧があったほうが読者の皆さまにわかりやすいと判断した第2巻以外には,一覧は掲げていません。また,暦については西暦で統一し(一部,元号表記がわかりやすいと判断したものについては,元号併記にしています),数詞については引用部分を除き原則として基数詞以外は算用数字で統一しています。注の表記についても,全巻で統一し,原文に不足する情報は文献検索等に依って補っています。外国人名については,名を先に姓を後に記載することにしました。
各巻末には,「堀内孜先生ご略歴」を付けています。すべてを網羅することは叶いませんでしたが,先生のご活躍の足跡を偲んでいただければ幸いです。
出版事情の悪い中,快く刊行をお引き受けいただいた明治図書出版株式会社に感謝いたしておりますし,本著作集への転載をご許可いただいた大塚学校経営研究会,株式会社学術図書出版社,株式会社学文社,株式会社風間書房,株式会社ぎょうせい,株式会社東信堂,株式会社教育開発研究所,第一法規株式会社,多賀出版株式会社,東京学芸大学出版会,日本教育行政学会,日本教育経営学会,株式会社日本標準(順不同)の皆さまのご厚意をありがたく思っております。
2025年3月 /堀内孜先生著作集刊行委員会
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