- はじめに
- 第1章 問題解決の授業づくりへの認知的アプローチ
- ―意味と手続きによる学びの構造を軸に―
- 1 問題解決の授業とは
- 2 うまくいく!,うまくいく!!,えっ!?
- 3 意味と手続きでみえてくる学習/変容の系統
- 4 意味と手続きからみた学習の困難性とその教育的価値
- 5 ずれ活かし、納得を引き出す授業づくり
- 第2章 生徒の考えを活かす問題解決授業づくりの方法
- ―意味と手続きの視点による授業づくりの事例を通して―
- 1 生徒の考えを活かす問題解決授業のねらい
- 2 生徒の考えを活かす問題解決の授業づくりの方法
- 3 生徒の考えを活かす問題解決授業の実践
- 第3章 生徒の考えを活かす問題解決授業の実践
- 1 1次方程式を解くとは x=□にすること?
- 2 文字式の計算と1次方程式の解法のずれ
- 3 求められているものを x とすると?
- 4 同一の関係でも判定法によって結果が変わる?
- 5 比例の対称性を1次関数に生かそうとすると?
- 6 対称な図形の作図をやってみると?
- 7 おはじきで説明したことを文字で説明してみると?
- 8 三角形を2等分する直線の式は?
- 9 垂直二等分線の作図で条件を満たす点をさがそうとすると?
- 10 未知数 x で両辺をわると?
- 11 2次不等式 x2−3x+3>0の解を求めようとすると?
- 12 絶対値記号を外すのは場合分け?
- 13 二重根号を外すのは簡単です?
- 第4章 生徒の分かり方を捉える視点
- ―数学教育における二元論的枠組みの展開―
- 1 はじめに
- 2 概念的知識と手続き的知識による二元論
- 3 数学学習の分析枠の再考
- 4 問題解決授業への示唆
- 5 おわりに
- おわりに
はじめに
日本の問題解決の授業が世界で注目されている.
第三回理科数学教育国際調査では日米独三ヶ国の授業比較が行われた.世界中に配布されたその紹介ビデオの中で,代表者スティングラーは,日本の授業が「難しい問題に挑み,自分なりの考えを得て,それを示し合い,議論し,まとめていく」という理解重視の展開であると語っている.海外の研究者はそのビデオを見て,その特質を絶賛している.残念なことは,日本で30年以上前には既に存在した指導法,問題解決型の指導を,彼が「問題解決の授業」と呼ばないことだ.日本以外の国で問題解決と言えば文字通り問題を解くことを指しており,その呼称は,単純な問題練習や小ステップ質問に繰り返し答えさせる指導法を連想させかねないからだ.今,米国の先生方は,日本の問題解決授業を含む優れた指導法を学んでいる.既に米国らしい改編の基,複数の教科書プロジェクトで指定指導法となり,すばらしい実践を生み出している.指導法の範を示したのは,むしろ日本の先生方である.
では,今日,先生は問題解決の授業に成功されたであろうか.
21世紀の新教育課程像を示した教育課程審議会答申では,ゆとりを作って「自ら学び,自ら考える力を育成する」必要を謳い,「発達の状況に応じて,知的好奇心・探究心をもって,自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付けるとともに,試行錯誤をしながら,自らの力で論理的に考え判断する力,自分の考えや思いを的確に表現する力,問題を発見し解決する能力を育成し,創造性の基礎を培い,社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視した教育活動を積極的に展開していく」ことを求めている.筆者等は,この一文を問題解決の授業の徹底とそのさらなる進化を求めたものと読む.では,今日の授業で,先生は,生徒からどのような問いを引き出しすことができたであろう.生徒は,その問いに挑む中でどのような考えをえて,他者と自らの考えを比較することを通じて,どのように認識を深めることができたであろうか.
そうは言っても,なかなか難しいのが問題解決の授業である.
なぜ,問題解決の授業が難しいか.それは生徒の理解に立つからだ.
かつて問題解決の授業と言えば,よい問題が必要と言われた.その条件として「子どもにとって未知」「子どもにとって興味関心」などなど.しかし,いずれの条件を吟味しようとしても,実は,生徒一人一人の理解を知ることなく語れない.では,その都度,生徒の理解を調べて臨めばよいかと言えば,それも現実的でない.調査をした瞬間,それが学習機会となって生徒の変容を促していく.では,どのようなアプローチが有効だろうか.
本書では,それぞれの教材の指導場面でよくみられる誤反応を,生徒の理解の現れとみなして,その反応に授業展開の本質的な役回りを与えるアプローチを提案する.なぜなら,そのような反応が現れる場でこそ,生徒は真にわからなさを感じて自ら問いを発することができるからである.そして,他者の考えや自らの既知とのずれを解消しようと,自らの考えを再構成する必要を迫られるからである.本書は,そのアプローチを認知心理学に起源する用語,意味と手続きで解説していく.この用語を使うと,教材の本質と対照した生徒の理解進化の様相が,鮮やかに映し出され,授業づくりの見通しが得られるからである.
本書は,算数科「多様な考えを生み練り合う問題解決授業」明治図書刊(1996)の中学校・高校版として計画されたが,その遂行は共編者の絶大な力によっている.算数版を作る際にお世話になった櫻井芳子氏,そして,本書を企画制作くださった立花正夫氏は今年度,共に出版社の定年を迎えられた.教育科学算数教育,数学教育誌の編集を通じて日本の先生方の授業創造を支えてくださった,知る人ぞ知る両氏である.心から感謝申し上げたい.
/礒田 正美
正しいか正しくないかを判断する「言語活動」指導が文部科学省から提案される以前に、その指導法を説いたのが本書である。算数編もある。