- 序 /小森 茂
- まえがき /瀬川 榮志
- 発刊によせて /藤原 宏堂
- T 21世紀を拓くことばの力を求めて
- 1 これからの国語科教育に求めるもの
- 2 『21世紀を拓くことばの力』を探る
- (1)21世紀を拓く子供像/ (2)「拓く」とは/ (3)「言語生活力」とは/ (4)「言語生活力」を支える「言語行動力」とは
- 3 「学びの喜び」を探る
- U 国語科指導の変革と創造を求めて
- 1 「学びの喜び」が膨らむ単元化を探る
- (1)子供の意識の流れを重視する/ (2)「言語生活単元学習」を設定する/ (3)「言語生活単元学習」における《価値ある学び》の条件
- 2 「言語生活単元学習」における児童観の確立
- (1)目指す児童像を明らかにする/ (2)子供一人一人の学力の具体的な把握
- 3 「言語生活単元学習」における指導観の確立
- (1)主体的かつ確かで豊かな学びの実現/ (2)1単位時間における指導の在り方
- 4 「言語生活単元学習」における教材観の確立
- (1)教材の吟味,及び,多様な教材の開発/ (2)「21世紀を拓く」教材選定の条件
- 5 「言語生活単元学習」の具体
- 6 「言語生活単元学習」の年間計画への位置付け
- V 文学指導の変革と創造を目指して
- 1 何を変革し,どう創造するのか
- 2 目指す授業像と実践事例
- 1学年 「手紙っていいな」―「ゆきの日のゆうびんやさん」(東書1年下)
- 2学年 「えい画かんしょう会をひらこう」―「名前を見てちょうだい」(東書2年下)
- 2学年 「民話の語りべになろう」―「かさこじぞう」(東書2年下)
- 3,4学年「きつねサミットを開こう」―「手ぶくろを買いに」(東書3年下)「ごんぎつね」(東書4年下)
- 4学年「心の交流をしよう〜TTの働きを生かして」 「ごんぎつね」(東書4年下)
- 5学年 「アレンジ物語でドキドキを伝えよう」 「紅鯉」(東書5年下)
- 5学年「詩っていい感じ」―「こちら5の1編集局」(東書5年上)(まどみちお全集)
- 6学年「よりよい生き方とは」―作者の作品世界に学ぶ(「ヒロシマのうた」(東書6年上)を中心に)―
- W 説明文指導の変革と創造を目指して
- 1 何を変革し,どう創造するのか
- 2 目指す授業像と実践事例
- 1学年 「どうぶつずかんをつくろう〜赤ちゃんへん〜」 「どうぶつの赤ちゃん」(光村1年下)
- 2学年 「ひみつほうこく書をつくろう」 「えん筆の字はなぜきえる」(東書2年下)
- 3学年 「『ミッチェル君のひみつクイズ大会』をしよう」 「もうどう犬の訓練」(東書3年下)
- 4学年 「生き物新聞(家族むけ号)を発行しよう」 「ヤドカリとイソギンチャク」(東書4年上)
- 5学年 「君も博士論文を書こう!」 「春を知らせるサクラの花」(東書5年上)/ 「カブトガニを守る」(光村4年上)「地図が見せる世界」(光村5年上)
- 6学年「未来の生き方を見つめよう」 「熱帯の森が消えていく」(大書6年上)「人間とロボット」(東書6年下)
- 6学年「未来への提言―情報を活用して」 「波にたわむれる貝」(東書6年上)「人間とロボット」(東書6年下)
- あとがき /中澤 敬
まえがき
21世紀の国語科教育を拓く理論と実践の統一
――高い理念と確かな実践理論に基づく学習者主体の授業創造――
中京女子大学教授・全小国研名誉顧問 /瀬川 榮志
「『生きる力』をはぐくむ教育」や「心の教育」そして「自分さがしの旅」は,新世紀の教育を拓くキーワードである。この重要課題は,今日的課題であるとともに「人間が人間としていかに生きるか」ということを根底においた人類の永遠の課題である。この古くて新しい課題を急速に変化していく社会に生きていく子どもたちの幸せ実現のために,どのように構想し具体化していくかを追究していかなければならない。山口県小学校教育研究会・国語部は,この今日的課題にかかわる「21世紀を拓くことばの世界」の理念を追究し,確たる実践的理論を構築し,具体的な国語科の授業を通しての解明・実証に取り組んだのである。
1 21世紀を拓く「言語能力」の実体把握
言語の機能を通して未来社会に生き抜く子どもを育てるために,どんな「国語の能力」が求められるであろうか。また,どのように獲得させればよいか。本研究部は,新しい国語科で培う新国語能力の実体を明確にし,その指導法を開拓している。つまり「生きる力をはぐくむ教育」「心の教育」「『自分さがしの旅』の教育」など,抽象度の高い課題を1単元・1単位時間の授業で具体化しているのである。
その基本的な考え方は「確かで豊かな『言語行動』に支えられた『言語生活力』の育成」で一貫している。
「ことばの力で自ら思考し,判断し,表現・行動する子どもの育成」は,これからの学習観・児童観に連動する。単に理解の段階にとどまったり,知識や記憶の域を越えない学習ではなく,自力で課題を解決するため,創造的に自己実現行動を展開する学習者として成長してほしいものである。
本研究部は,このような,あるべき国語科教育の理念・理論を明確にし,新能力の実体を把握し,その獲得法を開拓して充実した授業を創造している。
2 「言語生活力」を獲得する国語科教育
自ら学び問題を解決する能力や,他人と協力協調していく子どもの育成には,自力で未来社会(精神・社会・文化)を言語で駆使・運用して主体的に拓く〔みつめる(自己啓発力)→かえる→(自己変容力)をつくる(価値生産力)〕人間的能力が必要である。
この資質や能力を本研究部では「精神生活を拓く力」(自己表出力)「社会生活を拓く力」(コミュニケーション力)「文化生活を拓く力」(言語情報発信力)の能力に精選し,その相互作用を重視している。
この理論構築は,21世紀を拓く言語観の確立にも密接な関連を持つことになる。
言語の教育の立場を一層明確にする国語科について,実践的研究を推進していくためには,指導者はその根幹にある言語をどうみるか,すなわち「言語観」を確立する必要がある。
「未来社会に生きていく子どもを言語の機能を通して育てていくには,指導者が正しい「言語観」を確立していなければ,質的に高く,しかも説得力に富む授業を創造することはできないということである。
本書には,このような視点に立った国語科教育の理論に基づき,子どもの側に立つ魅力ある授業を展開しそれを本書に集録している。つまり,普遍性・継続性・発展性を備えた理論と実践を統一した研究内容である。
3 学習者主体・言語行動主体の授業創造
本会では,確かで豊かな言語行動として,@読書行動 A対話行動 B記述行動−を設定している。しかも,それぞれの言語行動に〔話す・聞く・書く・読む〕の活動を表現行為として重視した考え方で段階的に能力を組織化し,さらに学習者の「創造力」「主体性」「行動力」を柱として言語行動を体系化している。これらの能力・資質の解釈についても,科学的な分析過程がみられる。
例えば「創造力」については,確かで豊かな言語行動力を考え出す力として,生産的思考力を位置づけ,拡散的思考(直観力・想像力・認識力)収束的思考(論理的・批判的・判断力)に組み立てている。表現力・思考力が低下していると言われている現在言語行動力が思考力に支えられているということを理論的に追究しているのである。私たちは日々の国語科授業で,思考力を高める方法をどのように実践しているであろうか。「ことばで思考力を練る」ことは,国語学習の中心に据える課題である。
加えて本書の内容は,学ぶ喜びとして,「『自ら学び方(言語行動)を決定しながら,よりよい言語生活をみつめる喜び』『内発する力(言語行動)を確かで豊かなものに変えながら,目指す言語生活を向上的に変革する喜び』『確かで豊かな言語行動のもとに自分にとっての価値ある言語生活を創り出した学びの高まりを実感する喜び』」の理念で一貫した実践理論で構成されている。まさに,学習者主体・言語行動主体の国語科教育である。
以上述べたことは,本書の原稿を熟読し,特に「21世紀を拓く『ことばの力』の育成」の研究構造図を見せていただき,そこに散りばめられているキーワードを引用しながらまとめたものである。この研究構造図と本書に紹介されている理論や実践を照応してみると,そこに21世紀を拓く教育の高い理念があり,国語科教育のあるべき像が描き出される。また未来社会に生きる子どもたちの姿も描くことができて期待がふくらむ。山口県小学校教育研究会・国語部の先生方の教育への高い理念と,熱い情熱や子どもたちへの深い愛に共感・感動である。新時代に対応しつつ,教育者・研究者としての生き方に頭の下がる思いである。
全小国研の山口(徳山)大会は,中教審・教課審の精神を的確に受け止め,地域の特色を生かした先導的な研究である。藤原宏堂先生をはじめ,皆様の努力の結晶によって,永い年月にわたって築き上げた輝く歴史と伝統を継承し,しかも研究部の独自性を発揮して,21世紀の国語科教育を創造していく価値ある情報を全国に発信した。全小国研が築いてきた研究の歴史にも貴重なページを加えていただいたことに深く感謝するものである。企画から出版まで,終始ご尽力いただいた,明治図書出版企画室代表の江部満様に心からお礼申し上げる次第である。
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