- T 社会科教育におけるエネルギー問題
- 1 エネルギーの科学的分析 /岩田 一彦
- (1) 現代社会と石油
- (2) 石油をめぐる紛争
- (3) 技術開発とエネルギー
- (4) 持続可能なエネルギー
- 2 エネルギーをめぐる社会科授業 /岩田 一彦
- (1) 食料生産とエネルギー
- (2) 工業生産とエネルギー
- (3) 資源・エネルギー
- (4) エネルギーをめぐる論争問題
- 3 社会科論争授業の設計 /岩田 一彦
- (1) 社会科論争授業の単元での位置づけ
- (2) 社会科論争問題の性格
- U エネルギー問題を考える視点
- ―教材解釈―
- 1 石油と社会(現状分析) /馬場 勝
- (1) 石油に支えられた社会
- (2) 石油需要の見通し
- (3) 石油供給の不安定さ
- (4) 石油の枯渇と開発の技術
- (5) 石油の偏在と紛争
- 2 エネルギーと人間の歴史 ―政治的視点から― /中谷 昇
- (1) 石油と戦争
- (2) 石油の歴史
- (3) 湾岸戦争と石油
- (4) 日本の領土問題(尖閣諸島問題)と石油
- 3 エネルギーと人間の歴史 ―経済・技術革新の視点から― /大牟田 孝夫
- (1) エネルギーの歴史
- (2) エネルギー利用による社会経済の変化
- (3) エネルギー不足がもたらした代替エネルギー
- 4 持続可能なエネルギー開発と社会 /石川 照子
- (1) なぜ持続可能性が問題とされるのか
- (2) 新エネルギー開発の動向
- (3) エネルギー政策の動向
- V エネルギー問題をめぐる社会科授業の焦点
- 1 日常生活におけるエネルギー /永野 裕一
- (1) 家庭生活におけるエネルギーの視点
- (2) 時系列による日常生活のエネルギー消費の視点
- (3) グローバルな比較による日常生活におけるエネルギー
- (4) 現代社会生活におけるエネルギー
- (5) むすびにかえて
- 2 農林水産業学習におけるエネルギー /藤原 正治
- (1) 農業用エネルギーの使用状況
- (2) 地球環境問題に対する議論
- (3) 成長促進エネルギー投入の視点からみた農業
- (4) 動力源エネルギー投入の視点からみた農業
- (5) 社会科地理的分野の農業学習におけるエネルギー投入の視点
- (6) エネルギー投入量を視点とする授業設計
- 3 工業学習におけるエネルギー /高間 裕策
- (1) これまでの工業学習におけるエネルギー
- (2) エネルギーの科学的なS見方
- (3) エネルギーを視点にした工業学習の焦点
- 4 資源学習におけるエネルギー /加藤 有悟
- (1) 常識的授業展開と再生産される「常識」
- (2) 資源・エネルギー問題をとらえる観点
- (3) 時間軸の観点
- (4) 空間軸の観点
- 5 エネルギーの獲得をめぐる政治・経済論争 /石川 照子
- (1) エネルギー資源の獲得をめぐる対立・紛争
- (2) エネルギーの確保をめぐる紛争問題の位相
- (3) 論争問題を組織する視点
- W エネルギー問題をめぐる社会科論争授業の設計
- 1 日常生活におけるエネルギーをめぐる論争授業 /永野 裕一
- (1) 題材「コンビニの24時間営業は、続けるべきか」
- (2) 教材観
- (3) 単元目標
- (4) 単元計画(5時間扱い)
- (5) 学習過程
- 2 農林水産業学習におけるエネルギーをめぐる論争授業 /藤原 正治
- (1) 論争授業に関する必要な条件
- (2) 「地域の規模に応じた調査―身近な地域(新居浜市)―」の授業
- (3) エネルギーの視点を取り入れた農業学習
- (4) 単元の指導計画(12時間扱い)
- (5) 学習過程(事実認識過程における農業グループの学習指導案)
- (6) 学習過程(価値分析過程の学習指導案)
- 3 工業生産とエネルギー使用をめぐる論争授業 /高間 裕策
- (1) 「鉄鋼業」単元の概要
- (2) 単元「鉄作りと私たちの生活」の指導計画(全5時間)
- (3) 学習指導細案(全5時間)
- 4 エネルギー資源の利用と開発をめぐる論争授業 /加藤 有悟
- (1) 授業モデルにおける時間軸と空間軸
- (2) 注目するエネルギー資源―次世代の主役と目される天然ガス―
- (3) 授業モデルの実際
- 5 電源開発をめぐる論争授業
- 〈1〉 水力発電をめぐる論争授業 /山口 偉一
- (1) 単元名 規制緩和時代の電源開発と環境問題
- (2) 単元の目標
- (3) 単元について
- (4) 単元の指導計画(全9時間)
- (5) 学習過程(価値分析過程の学習指導案)
- 〈2〉 原子力発電をめぐる論争授業 /谷 和樹
- (1) 単元の構成
- (2) 環境・エネルギー問題の授業についての基本的な視点
- (3) 「原子力発電」を扱うときの留意点
- (4) 授業の実際
- 6 エネルギー資源の獲得をめぐる論争授業 /水山 光春
- (1) 教材観
- (2) 単元の目標
- (3) 学習過程
- (4) 資料
まえがき
エネルギーは人間活動の源泉である。エネルギーがなければ1日たりとも人間は生きていけない。現在,人間が使用しているエネルギーの大半は化石エネルギー源に頼っている。このような状況下で,エネルギーをめぐっては,政治紛争,経済戦争,持続可能なエネルギー開発,省エネルギーへの工夫,技術開発等が日常的に行われている。
このように重要な要因を,社会科教育はどのように考えていけばよいのだろうか。社会科教育においてエネルギーをどのように扱ってきたか,どのように教材化していけばよいのかについて,本書において考察していく。本書の内容は,次のような構成で展開する。
現在の人間社会はエネルギー源を石油に頼り切っている。その現状,石油の確保をめぐっての政治的対立,戦争,技術開発等の現状分析を行う。現在の状況に至る以前は,木材の燃焼エネルギー,水力,石炭などをエネルギー源として使用してきた。そこには,人類1万年の歴史がある。政治,経済・技術革新の視点から,「エネルギーと人間の歴史」を解明する。続いて,現状分析,歴史的分析を踏まえて,未来社会におけるエネルギー問題を考察し,「持続可能なエネルギー開発と社会」について考えていく。エネルギー資源の枯渇による暗澹とした未来でなく,人間の英知を結集しての明るい未来社会の可能性について考察を進める。
次には,これまでの社会科授業がエネルギー問題を,どのように扱ってきたのかについての検討をする。社会科の重要な教材の一つである農林水産業は,基本的には,太陽熱をエネルギー源とした循環型の人間活動である。自然の恵みに大半を頼ってきたことから,これらの学習において,エネルギーの視点からの教材分析は不十分である。エネルギーの視点からの教材の見直しをしてみたい。日常生活とエネルギー・省エネ生活は社会科学的に解明されてきたのだろうか。化石燃料を大量に使用する工業生産は,エネルギーをどのようにとらえているのだろうか。石油,石炭,ウラン等のエネルギー資源をめぐっては,どのような授業が展開されてきたのか。また,これらのエネルギー源の獲得をめぐっては,様々な紛争が起こってきている。これらはどのような授業展開になっているのだろうか。こういった問題意識から,これまでの社会科授業を,エネルギー問題に焦点を当てて解明していく。
以上の展開を受けて,これからの社会科授業において,エネルギーをめぐってどのような論争授業を展開すべきかについて,学習指導案レベルで示す。「生きる力」が大切にされる今日,論争授業の中で問題に対して価値判断をして,自らの意志を決定していく能力を育成することが重要である。エネルギー問題は子どもの日常生活と密接に絡んでいる。したがって,論争授業として組んでいくにふさわしい論争問題である。科学的な現状分析に基づく知識,生活と密着した実感的な論争問題,未来予測を踏まえた価値判断・合理的意志決定,こういった内容を備えた「エネルギー問題をめぐる社会科論争授業」を具体的に示す。
本書で展開した内容が,社会科の教材をより豊かにし,また,論争授業を活発にしていく契機になることを期待している。
/岩田 一彦
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