- T “民主政治”をめぐる論点・争点と新しい社会科授業
- 1 政治学習の現状と課題 /片上 宗二
- 2 政治学習改革の方向 /片上 宗二
- 3 「論点・争点」の教材化・授業化の意義 /片上 宗二
- 4 新しい社会料授業の創造と「論点・争点」 /片上 宗二
- U “民主政治”をめぐる論点・争点と教材化の新視点
- 1 “制度のあり方”をめぐる論点・争点と教材化の新視点 /畑 浩人
- (1) 民主政治の相対的かつ動態的な理解をめざして
- (2) “制度のあり方”をめぐる論点・争点とは?
- (3) “制度のあり方”の考察を生かす教材化の新視点
- 2 “自治のあり方”をめぐる論点・争点と教材化の新視点 /西村 公孝
- (1) “自治のあり方”をめぐる論点・争点とは
- (2) “自治のあり方”を生かす教材化の視点
- 3 “議会政治”をめぐる論点・争点と教材化の新視点 /平田 浩一
- (1) “議会政治”をめぐる論点・争点とは
- (2) “議会政治”を教材化する上での新視点
- V “民主政治”をめぐる新しい社会科授業の構成
- 1 小学校社会科における“民主政治”のウェッビング法による授業構成
- ―“日本の選挙制度”を検証する― /關 浩和
- (1) 日本の民主政治における諭点・争点
- (2) ウェッビング法による社会科の授業構成
- (3) 「日本の民主政治」の単元構成
- (4) 「日本の民主政治」の学習指導案
- (5) 論点・争点を明確にした授業展開のポイント
- 2 小学校社会科における“民主政治”の新提案授業
- ―“日本的民主政治”は世界に通用するか― /茂松 清志
- (1) 題材設定について
- (2) 指導計画ならびに主な単元ストーリー
- 3 小学校社会科における“民主政治”の国際比較学習
- ―“首相公選制”是か非か― /菊池 八穂子
- (1) “首相公選制”をめぐる論点・争点と教材化
- (2) 単元の学習過程
- (3) 学習過程例(第2次3時)
- 4 中学校社会科地理的分野における“民主政治”の新しい授業づくり
- ―“地球温暖化”をめぐる各国の対応―国益か人類益か― /湯浅 清治
- (1) 新しい教材観
- (2) 学習指導要領における環境問題の位置付け
- (3) 「地球温暖化を通した環境問題」の単元構成と授業展開例
- 5 中学校社会科歴史的分野における“民主政治”の教材化
- ―“ヒトラーの政治”は民主政治か― /二井 正浩
- (1) 「ヒトラーの政権」に関する授業の現状
- (2) 「“ヒトラーの政治”は民主政治か」の単元構成と授業モデル
- 6 中学校社会科公民的分野における“民主政治”の新論争授業
- ―日本の刑事裁判とアメリカの陪審制― /豊嶌 啓司
- (1) どのようなことが問題となっているのか?
- (2) いったい、どのような方向で教材解釈すればよいのか
- (3) それを授業にどのような形で入れていくか
- 7 中学校社会科公民的分野における“民主政治”の国際比較学習
- ―多様な政治形態と民主政治の条件― /小谷 恵津子
- (1) 中学生に求められる公民的資質と国際的視野
- (2) 民主政治の条件をめぐる論点・争点ととその教材化
- (3) 単元の構想
- (4) 学習指導案
- W “民主政治”をめぐる新しい社会科授業への課題
- 1 民主主義教育のスタート /谷田部 玲生
- 2 民主主義教育の展開 /谷田部 玲生
- 3 民主政治学習の課題 /谷田部 玲生
- 4 民主政治学習の課題の解決に向けて /谷田部 玲生
- 参考文献目録
- 執筆者一覧
まえがき
「民主主義は最高の政治制度である。」
たしかに,橋爪大三郎氏の言われる通りであろう。
しかし,その民主主義を具現化する“民主政治”とは,いったいどのようなものを言うのであろうか。
選挙制度をひとつ取り上げても,そこには,さまざまな諭点が存在し,さまざまな争点が展開されていることに気づかされよう。ランダムに少し列挙するだけでも,「1票の格差はどこまで許されるのか」「欧米のように選挙権は18歳から与えられるべきか否か」「どのような選挙区制が最も民意を反映するのか」「在日外国人の投票権は制度化されないのか」「電子投票制はなぜ許されないのか」といった具合である。
同様に,議会政治をめぐっても,「国会は国民の意思を反映しているのか」「首相は議会から指名すべきか公選にすべきか」「連立内閣制の是非」「二院制は必要か」「国会議員の特権は必要か」など,実に多くの諭点や争点が存在しているのである。
ところが,これまでの社会科教育では,教材解釈を豊かにし,教材開発のウィングを広げ,社会科授業に新しい展望を柘く可能性を豊かに蔵した“論点・争点”の教材化・授業化という発想は乏しかった。その理由は,社会科授業,とりわけ政治や経済や社会に関する学習は,“仕組みや建前”を教えることでよしとする,といったところにあったと考えられる。
社会は,今,激動のまっただ中にある。だからこそ,「社会科授業は面白い。」「社会科の授業は最高だ!」そんな思いを,子どもたちに味わわせてやりたい。いうまでもなく,生きて動いている社会に関する事柄を直接取り上げて学べる教科は他にないからである。
その際,有効な手立てとしてぜひとも活用したいのが,“論点・争点”なのである。“論点・争点”という視座から,“民主政治”を見れば,政治が,さらに社会が,よくわかり,どのような方向に政治や社会が動いて行くのか予想が立てられ,今の制度やしくみはどの諭点に依拠したものかが理解できてこよう。また,自分は,どの諭点に依拠してあるべき制度等々の姿を描いたらよいかも考えやすくなる。そしてそれは,逆にある諭点を軽視(無視)したことであることも自覚できやすいと考えられる。
本書では,以上のような考え方に立ち,以下のような形で新しい提案を行っていく。
まず第T章では,全体的な考え方を社会科授業の新構想とからめて,具体的に述べる。それを受けて,第U章では,民主政治をめぐる論点・争点を,制度のあり方,自治のあり方,議会政治のあり方の三つに紋り,その具体的な内容を明確にするとともに教材化に向けての新視点を提示する。第V章では,論点・争点を軸にどのような新しい授業を構想できるかを,小学校と中学校のそれぞれに即して,単元構成,学習指導案の形で示し,読者の先生方の参考に供する。第W章では,以上を踏まえ,新しい社会科授業の課題を検討し,提示する。なお,読者への便宜を考え,参考文献目録をつけることにした。
本書が,今を生きる子どもたちに希望を与え,さらには社会に活力を取り戻すささやかながらも一つの取り組みになりうることを願っている。
なお,本書は,樋口雅子編集部長のお骨折りで出版にこぎつけることができた。まずもって樋口編集部長にお礼申し上げたい。なお,出版にあたっては,校正はもとよりさまざまな細かな点まで,原田俊明氏の暖かいご配慮をいただいた。お二人に,心より感謝申し上げたい。
/片上 宗二
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- 明治図書