- はじめに
- 第1章 高等学校 どの子もつまずかせない柔軟な体制づくり
- 01 教育の現状と課題
- 02 困っている生徒への気づき
- 03 組織的な体制づくり
- 04 生徒指導と特別支援教育
- 05 生徒の実態に応じた指導・支援の工夫
- 06 全体への支援と個別の支援
- 07 高等学校教育におけるユニバーサルデザイン
- 08 通級による指導の制度化
- 09 キャリア教育と進路指導
- 10 外部の関係機関,家庭との連携
- 第2章 学びにくさのある生徒への支援アイデア
- 学習・授業面への支援
- 01 整理・管理しやすい配付物・提出物の手立て
- 02 見通しをもちやすい授業の構成
- 03 学びやすくする学習内容の変更・調整
- 04 わかりやすい教材・教具
- 05 解きやすいプリント,テスト
- 06 実力を発揮しやすい定期考査,試験
- 07 実力を反映しやすい成績評価
- 08 困難さに応じたノートテイクでの配慮
- 09 見通しがもてる実技や実習
- 10 内容理解を深めるパソコンやタブレット端末の活用
- 11 柔軟に検討する単位の履修と修得
- 12 読み書きの困難への支援
- 13 集団活動が行いやすくなるルールの明確化
- 14 ティームティーチングや少人数指導の工夫 @個に応じた指導
- 15 ティームティーチングや少人数指導の工夫 A教師の役割分担
- 16 各教科の授業での工夫 @「国語」
- 17 各教科の授業での工夫 A「数学」
- 18 各教科の授業での工夫 B「英語」
- 19 各教科の授業での工夫 C「体育」
- 20 安心して参加できる班活動やグループ学習
- 21 刺激量を調整した教室環境
- 22 サポートし合える課外活動の進め方
- 生活・行動面への支援
- 23 居心地のよい環境・集団づくり
- 24 連携してあたる生活リズムの乱れへの対応
- 25 生き方の選択につながる自分の特性理解
- 26 低い自尊感情,自己評価への配慮
- 27 二次的な障害で苦しめないための対応
- 28 友達関係のトラブルへの相談支援
- 29 ストレス対処,気持ちの切り替え支援
- 30 身につけてほしいセルフアドボカシー ─自己権利擁護─
- 31 実態に応じて進めたい感情のコントロール
- 32 多様な場面を想定した対人関係,コミュニケーション
- 33 社会に適応するためのソーシャルスキル
- 34 自立と社会参加に向けたライフスキル
- 35 困っているのに「大丈夫です」と言わないための相談スキル
- 36 忘れ物,提出物遅れを防ぐ時間・スケジュールの管理
- 37 見通しがもてないことへの不安,こだわりへのサポート
- 38 我慢しない,感覚の過敏さへの対処
- 39 不登校の状態にならないための生徒への関わり
- 組織的な体制づくりと進路
- 40 校内支援の組織体制 @教職員の理解と協働
- 41 校内支援の組織体制 A合理的配慮
- 42 教職員間の共通理解・連携
- 43 教育的ニーズへの気づき,実態把握
- 44 ケース会議(事例検討会議)
- 45 個別の教育支援計画と個別の指導計画
- 46 通級による指導 @形態・指導内容
- 47 通級による指導 A個への支援を全体への支援へ
- 48 通級による指導 B心理アセスメントの活用
- 49 外部の関係機関の活用 @特別支援学校のセンター的機能の活用
- 50 外部の関係機関の活用 A本人が活用できるための支援
- 51 周囲の生徒や保護者への理解啓発
- 52 小学校,中学校からの引継ぎ
- 53 高等学校の入学試験における配慮
- 54 進学先,進路先への情報の引継ぎ @進学の場合
- 55 進学先,進路先への情報の引継ぎ A就職の場合
- 執筆者紹介
はじめに
中学生のほとんどが高等学校へ進学しており,小学校,中学校で特別な支援を受けてきた生徒も確実に増えてきています。一方でそれまで特別な支援を何も受けずに学習面や生活・行動面に困難さを抱えたまま,高等学校に進学している生徒もたくさんいます。高等学校では,学習面や生活・行動面あるいは対人関係の面で課題を抱えている生徒に対しては,ホームルーム担任や教科担当の教員による配慮や支援を中心に,教育相談や生徒指導の対象として個別的な対応がなされています。しかし,指導上それほど大きな問題と受け止められない場合は,教育相談や生徒指導の対象として挙げられず,特別な配慮や支援を受けられず,適応上の困難さを抱えているままの生活を送っている生徒も少なくありません。高等学校には思春期特有の様々な課題があり,配慮や支援については小・中学校の延長線上で考えるだけでは十分とはいえません。生徒自身が抱えている悩みや課題について真摯に受け止めること,相談できる人や場所を確保することがとても重要になります。
平成28年4月1日に施行され,令和6年4月1日に改正された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」では,障害のある人への「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」が,国や地方公共団体,事業者等において義務づけられました。障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合は,その実施に伴う負担が過重でない時は,障害者の権利利益の侵害とならないよう,社会的障壁の除去の実施について合理的配慮を行うことを求めています。また,意思の表明がない場合でも,社会的障壁が明白な場合には合理的配慮が提供されることになります。意思の表明とは,本人が自分の特性を理解し,必要な配慮について表明できるということです。本人が自分の困難さに対して必要な配慮を提供されることにより,学習や生活の状況が改善されているという実感と認識がもてることが重要になります。そのことが,また自分の特性に関する自己理解を深めていくことにもなります。
平成30年に告示された高等学校学習指導要領解説総則編では,生徒の発達を支える指導の充実及び特別な配慮を必要とする生徒への指導について規定されました。生徒の発達を支える指導の充実としては,生徒一人一人の発達を支える視点から,ホームルーム経営や生徒指導,キャリア教育の充実と教育課程との関係,そして個に応じた指導の充実,学習の遅れがちな生徒の指導における配慮事項も示されました。また,特別な配慮を必要とする生徒への指導では,障害のある生徒などへの指導,海外から帰国した生徒や外国人の生徒の指導,不登校生徒への配慮について,具体的な例示とともに示されました。
特別な支援が必要な生徒への指導・支援においては,授業全体における配慮や工夫,個に応じた配慮や工夫,情緒の安定など心の育ちに関する支援なども重要になります。高等学校においても必要な生徒がいる場合には,合理的配慮とそのための基礎的環境整備は実施されなければならないものとなります。生徒の実態に応じたわかる授業づくり,授業のユニバーサルデザイン化なども積極的な取組が望まれます。知識・理解や技能の習得だけでなく,社会性やコミュニケーション能力を高める指導も教科の指導の中に取り入れていくことが望まれます。心の育ちの支援に関しては,教育相談室や保健室が大きな役割を果たしますが,相談室への相談は負担が大きいという生徒もいます。教師の生徒との信頼関係をベースとして日常的に気軽に相談できる人や場の仕組みの構築も大切です。
本書は,高等学校における多様な生徒の実態から,生徒の困難さへの気づき,指導・支援の考え方と具体的な実践についてまとめました。障害のある生徒や特別な支援が必要な生徒にとどまらず,まず困っている生徒に気づくために本書を参考にしていただければ幸いです。
編著者を代表して /笹森 洋樹
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明治図書- 特別支援教育に携わる高等学校の現場の先生方が執筆された各内容は、今の高等学校での様々な課題を解決するために大いに参考になるものばかりだと思います。この書籍を一つのきっかけにして、読者の方々がさらに自己研鑽を積まれ、各高等学校の特別支援教育が推進され、困っている生徒や先生方の一助になることを信じています。2025/10/15森のくまさん















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