国語科授業で実現する「探究」
深い問い・対話・批判的思考・創造的思考

国語科授業で実現する「探究」深い問い・対話・批判的思考・創造的思考

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国語科で「哲学する」学び・「創造する」学びへ

「よりVUCAな時代」において、子どもたちが探究心を培い、探究法を知り、クリティカル・シンキング(批判的思考)とクリエイティブ・シンキング(創造的思考)を学び取っていく授業を、国語科でいかに実現するか? 教材発掘から授業開発の具体までを丁寧に解説。


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PDF
ISBN:
978-4-18-441510-2
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 184頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年7月29日

目次

もくじの詳細表示

まえがき
第1章 近未来社会が求める「探究の学び」
1 国際的な「探究の学び」の高まり
第2章 探究を強化するクリティカル・シンキング
2 「クリティカル・シンキングする」スキルと態度
第3章 哲学対話を生かした「話合い」探究活動
3 哲学対話を学ぶ,哲学対話に学ぶ
第4章 「読むこと」から始まる探究―説明的文章
4 書き手の探究を追う(説明文)
5 書き手の探究を追う(論説文)
第5章 「読むこと」から始まる探究―文学的文章
6 文学で探究心を呼び覚ます
7 論証の合理性を探る―語り手の事実認識を探る
8 灰色を探る
9 根本原因から探る
10 類比で解決策を探る
11 品定めで物事の見方を広げる・深める―基準を設定し,物事を評価する
12 対立から合意を探る―対立者の価値判断における基準を探り,合意点を見出す
第6章 イメージやアイデアを創造する
13 創造的想像でイメージを創る
14 拡散的思考でアイデアを広げる
15 類比でアイデアを生む
あとがき
索引

まえがき

 2018年に実施された「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)」の結果報告によると,「批判的に考える必要がある課題を与える」に「しばしば・いつも」と回答した日本の教員は,参加国・地域の中で,小学校・中学校とも最下位,同じく「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」では小学校が最下位,中学校は下から4番目でした。このデータは,国際比較上,日本の学校現場では,批判的思考を導入した授業,答えが確定しない問いを探る授業が定着していないことを示唆しています。したがって,教員は,教室の子どもたちに向けて,創造的思考とそれを支える批判的思考の実体を理解し,それを取り入れた授業にふさわしい教材を発掘し,その教材を使った探究の授業を開発することが求められていると思われます。

 本書は,このような求めに応えるべく,探究の学びを実践する教員の一助となり,学校教育に浸透することを願って生まれました。一般に,探究の学びの在りようは様々ですが,本書が対象とするのは「哲学する」学びと「創造する」学びです。子どもたちが授業を通して,探究心が培われ,探究法を知り,哲学的なクリティカル・シンキング(批判的思考)とクリエイティブ・シンキング(創造的思考)を学び取っていくことをねらいとしています。


「哲学する」探究の学び

 本書の大部分は,国語科を居場所とする「哲学する(philosophizing)」学びです。文章を読むことは欠かせませんが,学びの目的は,文章の意味を省察することにあります。その向こうの目的は,学びで得た探究心や探究法を,生きることで出合う社会への疑問,自分への疑問,そして,学問への疑問の文脈に応用することにあります。

 「哲学する」といったのには,4つの理由があります。

 第1に,いわゆる「答えのない深い問い」を探り続けます。答えがどこまでも広がったり,答えから次の問いが生まれたりします。時に,その答えに「ちょっと待った!」がかかるかもしれません。そう簡単に答えは出ませんから,熟慮を強いられ,子どもたちにとっては認知的負荷が大きく知的忍耐を要する学びです。

 第2に,「対話(dialogue)」が基調にあります。対話の源流は,ソクラテスの問答法が記されたプラトンの『対話篇』にみられますが,後に,哲学者リチャード・ポールは,「対話的プロセス」と読み替え,自分の考えと他者の考えの交流は元より,自分の考えと本の考え,自分の考えとこれまでの経験,ある分野の考えと別の分野の考えの交流も含めています(1)。この多様な多元的交流は,『学習指導要領解説総則編』にみる「主体的・対話的で深い学び」の「対話的な学び」と重なります。

 第3に,本書の探究法の多くは,哲学者のリチャード・ポールとマシュー・リップマンの論考を理論的根拠としています。ポールは,哲学的なクリティカル・シンキングの理論研究を進めると共に,クリティカル・シンキング方略を各教科教育に導入したクリティカル・シンキング教育を,アメリカを中心に推進しました。惜しくも2015年に亡くなりましたが,カリフォルニアのThe Foundation for Critical Thinkingを拠点としてその知見は受け継がれ発展されて,世界に発信されています。本書には,クリティカル・シンキング方略や編纂された授業書が度々登場します。

 リップマンは「子どものための哲学(Philosophy for Children:P4C)」教育プログラムの創始者で,ポールはこのプログラムを「反省的思考の習慣を育てるようにデザインされている(2)」「推論スキルが教科教育に転移することを可能にした(3)」と評しています。元々リップマンは,コロンビア大学で論理学の教鞭を執っていましたが,論理を教えるのは大学生では遅いと考え,11歳向けの物語『ハリー・シュトットルマイヤーの発見』を書きました。それが認められ,物語教材と指導書を完備する幼稚園から高校までのP4C教育プログラムを作り上げ,「探究の共同体」の理念と共に,世界各国に影響を与えました。日本では,近年,ハワイ大学のトーマス・ジャクソンが改良したハワイ版p4cの実践が報告され,国語科教科書にも哲学対話が登場しています。第3章では,哲学対話の手法を生かした各教科の「話合い」活動,そして,国語科の読みを生かした哲学対話を提案しています。

 第4に,非形式論理の思考スキルを導入しています。1970年代後半,伝統の形式論理とは別の非形式論理が現われ(4),同じく盛んになり始めた「非形式論理とクリティカル・シンキング運動」と相まって,スローガンであった「クリティカル・シンキング」の,思考スキルが地固めされたという経緯があります。やはり,探究の学びにおいて,論理的に思考することとその思考を公正に評価することは,探究の道筋の確かさを保証するためには欠かせません。しかしそれは容易ではありません。文章中の論証を識別し,論証の中の前提と結論を区別し,論証の構造を分析して,ようやく探究の道筋をクリティカルに評価する準備が整います。したがって,探究の学びを実践する教員にとって非形式論理の体系的な習得は必須といえるでしょう。日本では,非形式論理を礎とする本格的な授業は科目「論理国語」に代表されるように中等教育からになりますが,初等教育でも,論理語彙を馴染みやすい言葉にして探究の学びの折々で使いながら指導すれば,中等教育への橋渡しになります。第2章と第4章5節で,非形式論理をダイジェストして解説しました。本書が専門の演習本を手にする契機になればと思います。


「創造する」探究の学び

 本書では,「創造する」学びも取り上げました。『学習指導要領解説総合的な学習(探究)の時間編』には,「創造的思考とそれを支える論理的思考」が「探究的な学習を進める上で大変重要な」能力の1つで,その育成は国語科を要とすると示されています。そもそも創造的思考は複合的な精神活動で,アイデアを生む「類比」,アイデアの数を広げる「拡散的思考」,その中の独創的なアイデアを新しい価値をもったものに練り上げる「集中的思考」が含まれます。集中的思考には,目的に合ったアイデアに洗練する「論理的思考を含むクリティカル・シンキング」や,イメージを創る「創造的想像」が関わります。国語科では創作が創造的思考と親和性が高いですが,本書の第6章では,「創造的思考を育てる」に力点を置き,創造的思考を構成する各々の精神活動をメタ認知することで,その力を育てる授業法を提案しています。


本書を活用するために

 第4章と第5章7節がクリティカル・リーディングです。説明的文章の書き手の探究の道筋を追い評価するのが前者,語り手の人物評価を評価するのが後者で,明瞭性・信頼性・妥当性を評価しています。数あるクリティカル・リーディングの中では非形式論理スキルに則った原理的なもので,緻密さと背景知のリサーチが求められます。研究レポートを書く学びにも直結します。

 第5章6節は,探究心を呼び覚ます心理に着目して文学教材を発掘していることから,子どもよりの探究の学びといえます。8節「灰色を探る」・9節「根本原因から探る」は,自分を含む人間を洞察し,社会現象に根本から切り込む探究法で,いかにも哲学的です。10節の「類比で解決策を探る」は,文学の力を借りて社会問題を解決する探究法で,創造的思考にも通じます。11・12節は,「基準」を援用して,多基準で客観的に対象を探ろうとする探究法で,筆者は平和的合意の原型と捉えます。これらの探究法の学びにおいて,文学は,フィクションとはいえ,人間の内面深くをも窺い知ることを可能にする,読み手の心を揺さぶる教材であり,それが国語科の強みです。

 本書を自らの教室に合わせてアレンジし,やがて教室から飛び出した子どもたちが,文脈が変わっても,学び方を応用して,探究が続きますように。


  2023年10月   /酒井 雅子



(1)Paul, R.W.(1990)Critical and Reflective Thinking : A Philosophical Perspective,In Jones, B.F.,Idol, L.(eds.)Dimensions of Thinking and Cognitive Instruction,North Central Regional Educational Laboratory,Lawrence Erlbaum Associates,NJ,p.456.

(2)Paul, R.W.(1984)The Socratic Spirit : An Answer to Louis Goldman,Educational Leadership,vol.42,no.1,p.63.

(3)Paul, R.W.(1990)前掲書,p.475.

(4)Lipman, M.(2003)Thinking in Education,2nd ed.,Cambridge University Press,p.40.

著者紹介

酒井 雅子(さかい まさこ)著書を検索»

福島県生まれ。

東北大学教育学部教育心理学科卒業。

東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程短期特別コース修了。

早稲田大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(教育学)。

公立中学校教員,東京成徳大学特任教授を経て,現在,玉川大学文学部国語教育学科准教授,早稲田大学教育学部非常勤講師。

専門は,クリティカル・シンキング教育,国語科単元学習。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • 探究する学びをつくりたいと思い、参考にさせていただきました。
      2024/2/1740代・小学校教員
    • 言葉による見方・考え方を働かせ、探求的に課題解決をしていく授業の重要性は今後さらに増すと思います。そのためにも子どもたち学びを持続できるような「問いの設定が重要であると感じました。
      2023/12/1940代・教委
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