- はじめに
- 1章 静かなクラスはいいクラス?
- 1 昭和のレジェンドのクラスは騒がしかった!?
- 2 「騒がしいクラス=ダメ」ではない!VG(Very Good)な騒がしさとは@
- 3 VG(Very Good)な騒がしさとはA
- 4 「静かなクラス=OK」ではない!NG(No Good)な静けさとは
- 5 VG(Very Good)な静けさとは
- 6 「授業のめあて」に沿っていても、絶対にダメな騒がしさ
- 2章 子どもと一緒に考える「良い騒がしさ」「悪い騒がしさ」
- 1 「悪い騒がしさ」とは何か
- 2 授業における「良い騒がしさ」とは何か
- 3 授業の場面以外における「良い騒がしさ」「悪い騒がしさ」とは何か
- 3章 「悪い騒がしさ」をうまくつぶす方法
- 1 ただ騒がしいクラスをつくらないための「3つのルール」
- 2 「3つのルール」で「つぶやき」を授業に生かす
- 3 「小さく叱る」ことで「3つのルール」を徹底させる
- 4 これをするから騒がしくなる。やってはいけないNG指導
- あなたは、やってはいけないNG指導を無意識に行っていませんか?
- 悪い騒がしさをつくるNG指導1 「モグラたたき的指導」
- 悪い騒がしさをつくるNG指導2 脊髄反射的に叱る
- 悪い騒がしさをつくるNG指導3 大きな声で指導する
- 悪い騒がしさをつくるNG指導4 叱る基準があいまい
- 悪い騒がしさをつくるNG指導5 早く終わった子に本を読ませる
- 悪い騒がしさをつくるNG指導6 空白の時間をつくってしまう
- 悪い騒がしさをつくるNG指導7 机がずれていても気にならない
- 5 「悪い騒がしさ」のリセットスキル
- 4章 「良い騒がしさ」を育てる教師の手立て
- 1 「良い騒がしさ」を育てるために必要な教師の意識
- 2 ペアトークで「良い騒がしさ」を体験させる
- 3 ペアトークのレベルを上げるために
- 4 ペアトークでより多くの子と関わらせるために
- 5 班活動で「良い騒がしさ」を体験させるための手立て3つ
- 6 「良い騒がしさ」を体験させる班活動(実践編)
- 7 ワールドカフェで「良い騒がしさ」を体験させる
- 8 ジグソー学習で「良い騒がしさ」を体験させる
- 9 一斉授業の音読で「良い騒がしさ」を体験させる
- 10 子どもたちが主体になる音読指導バリエーション
- バリエーション1 「代わりばんこ音読」
- バリエーション2 「スピード音読」
- バリエーション3 「ダウト音読」
- バリエーション4 「ひたすら音読」
- 11 「指名無し討論」につながる音読指導
- 12 教師が指名しない授業「指名無し討論」への挑戦
- 13 オーソドックスな一斉授業に、ボケとツッコミを取り入れる
- おわりに
- 参考文献・参考作品一覧
はじめに
『さわがしいクラスの伸ばし方』―――
このちょっと風変わりなタイトルに目を留めたあなたは、きっと今、教室の「音」に敏感になっている先生なのではないでしょうか。
「この子たち、なんでこんなに落ち着かないんだろう……」
「もっと静かなクラスにしたいのに、うまくいかない……」
そんなふうに、日々頭を抱えている若い先生かもしれません。
あるいは、ある程度の経験を積んできて、
「『さわがしさ』を伸ばすって、どういうこと?」
と、このタイトルに知的な違和感と好奇心を覚えた勘のいい先生かもしれません。
どちらであっても、あなたは今、教室に溢れる子どもたちの「音」と真剣に向き合っている方です。私は、その姿勢こそが教師として最も大切な資質の一つだと考えています。
少し話は変わりますが―――
私は野外フェスが大好きです。
山のふもとや海辺の広場、街中の大きな公園、時には牧場やキャンプ場……
そんな場所に全国から音楽ファンが集い、アーティストたちのパフォーマンスが繰り広げられます。
炎天下の中で汗をかきながら…。
雨に打たれ泥だらけになりながら…。
モッシュに巻き込まれて体当たりされながら…。
長いトイレの列に並びながら…。
快適さとはほど遠い環境の中で、それでも音楽と人と空気がごちゃ混ぜになり、「何か」が生まれる。あの感じがたまりません。
そして何よりも私が惹かれるのは、そこに満ち溢れる「音」です。
メインステージではエレキギターが鳴り響き、
その裏からはアコースティックな歌声が風に乗って流れてくる。
最前列でサイリウムを振りながら「うりゃ、おい!」と絶叫している人もいれば、
地べたに座って静かにビールを飲む人もいる。
誰かが歌い、誰かが叫び、誰かが笑い、時には誰かが泣いている―――そんなバラバラの「音」とリズムが、気づけば一つのグルーヴになっている。
これこそが野外フェスの魅力であり、醍醐味だと言えます。
この感覚を味わうために、私はフェスに足を運んでいるのです。
私は、教室も、そんな場所に似ていると思っています。
子どもたちの話し声、笑い声、立ち歩く足音、鉛筆の転がる音、誰かのぼそっとしたつぶやき……それらの中には、教師が理想とする「落ち着いた教室」のイメージから外れているものもあるかもしれません。でも、そこには、子どもたちの「いま、生きている」熱量が確かにあります。
その雑多な音の中にこそ、学びの芽があり、楽しさがあると私は信じています。
もちろん、「雑多な音がすべて良い」というわけではありません。
ライブでも、演奏中にずっと大声でおしゃべりをしていれば、雰囲気は壊れます。
周囲に配慮せずにいきなりダイブすれば、事故にもつながります。
「楽しむ自由」と「他者への配慮」は、常にセットです。
だからこそ本書では、まず「騒がしさ」や「静けさ」にも「良い」ものと「悪い」ものがある、というところから始まります。
1章では、「騒がしいクラス=悪いクラス」「静かなクラス=いいクラス」といった、教師が陥りがちな思い込みを問い直します。自由進度学習など、これからの「学び方」には価値観の転換が必要です。そのためには、教師が「騒がしさ」をポジティブに捉え直す視点を持つことが、第一歩になります。
2章では、「良い騒がしさ・悪い騒がしさ」について、子どもたちと一緒に考える授業実践を紹介します。教師の押しつけではなく、子どもたち自身が考え、言語化することで、クラスの空気は自然と変わっていきます。
3章は、「悪い騒がしさ」への具体的な対応です。「もっと静かなクラスにしたいのにうまくいかない……」と、今まさに悩んでいる先生に向けて書いています。実践していただければ、きっと変化が訪れるはずです。
4章では、「良い騒がしさ」を伸ばすための仕掛けや手立てを紹介します。子どもたちに「良い騒がしさ」を意図的に経験させることで、教室にポジティブな空気をつくり「さわがしいクラス」を育てていくのです。
以前、氣志團万博2016で10-FEETのTAKUMAがステージからこんな言葉を投げかけました(これは私の主観的な記憶によるものなので、正確ではありません)。
「いいかぁ、この場には俺らのファンもいれば、モノノフもいる。それぞれ応援のやり方は違う。だけど、ファン同士でけんかしたらあかんで。お互いのやり方を尊重して、仲良く盛り上がるんや」
この言葉は、当時はまだあまりよく知らなかった10-FEETのパフォーマンスをぼんやり眺めていたら、突然モッシュに巻き込まれ少しイラッとしていた私に突き刺さりました。
その日の出演者は、アントニオ猪木からSIM、東京スカパラオーケストラ、森山直太朗、TUBE、10-FEET、ももクロ、矢沢永吉、氣志團まで千差万別。TAKUMAの一言が、多様なファンの心を一つにした瞬間でした。
教室にも、いろいろな子がいます。
熱く語りたい子、コツコツと静かに取り組みたい子、いつも笑っている子、すぐに立ち上がる子、全体をまとめようとする子、黙って教室のすみっこから見ている子。
それぞれの子が、それぞれのペースで、自分の「音」を鳴らしています。野外フェスと同じように、そんな音と音とのぶつかり合いこそが、学級の面白さです。
そして、お互いを尊重して、気持ちを一つにして何かに取り組むことでクラスの中に「良い騒がしさ」が生まれます。その騒がしさは、クラスにプラスのオーラをまき散らし、みんなをハッピーにしてくれるはずです。教室を、毎日がフェスティバルのようなワクワクする空間に変えてくれるのです。
本書が、あなたにしか育てられない「さわがしいクラス」をつくるための、ささやかなヒントとなれば幸いです。
それでは、本編も最後までお楽しみください。
令和7年5月17日(ももクロ結成17年の日に) /俵原 正仁
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