- はじめに
- 第1章 臨時休業中の取り組み―そこから見えてきた課題とヒント―
- 1 中学校特別支援学級での工夫
- ・顔を合わせず学習保障?
- 2 知的障害特別支援学校の取り組み
- ・手探りの学習支援から見えてきた「つながる」ヒント
- 3 ポジティブな行動支援に基づいた親子支援
- ・どんなときでもポジティブに!
- コラム 著作権を考慮して,教材を自作しよう!
- ―家庭学習用の「九九チャンツ」CDを作成・配布
- 第2章 学校再開後の学習の様子と指導・支援の実際
- 1 日常生活の指導―着替え,給食,掃除,朝の会・帰りの会
- ・探そう! 今できること,今だからできること
- ・スタンダードが変わる? 日常生活の指導の見直し
- 2 生活単元学習
- ・ちょっとした工夫が功を奏した生活単元学習
- ・Zoomで小中交流会
- 3 作業学習
- ・とにかく場所がない
- ・新しい生活様式を考慮した作業学習の工夫
- 4 各教科の学習での工夫
- ・新しい生活様式を考慮した国語授業の工夫
- ・距離をとって,一緒に学べますか?
- 5 通級による指導
- ・特別支援教室の個別学習課題からのスタート
- ・限りなく減った通級指導の時数の中で,我々は何ができるのか
- 第3章 オンラインを活用した取り組み
- 1 オンラインの有効性
- ・オンライン活用の準備と工夫
- 2 メンターとしてのオンラインの活用
- ・「とりあえず,やってみよう!」から全ては,はじまる!
- 3 Teams活用の取り組み
- ・学ぶ場所は,学校だけじゃない
- 第4章 コロナ禍の保護者や地域とのつながり
- 1 保護者懇談と授業参観
- ・直接? オンライン? 選べる懇談会と授業参観
- 2 進路指導
- ・必要な情報をどう伝える?
- 3 地域での学習の様子の変化
- ・ウリが仇となる!?
- 第5章 コロナ禍のメンタルヘルスケア
- 1 子どもと教師に起こったこと
- ・「未知との遭遇」―暗がりの中,共に歩く仲間たちへ
- 2 子どものメンタルヘルスケア
- ・こころの拠り所をつなぐには?
- 3 教師のメンタルヘルスケア
- ・コロナ禍を乗り越える教師のメンタル
- 4 コロナ禍のメンタルヘルス対応事例
- ・困難な状況だからこそ心がけたいこと
- 第6章 学校の現在地
- 1 学校と私の変化
- ・「行事が生み出す学びの場」「今の自分にできること」
- 2 学校があること
- ・学校の「変わっていくよさ」と「変わらないよさ」
- コラム 緩やかにつながっている実感を
- 第7章 コロナ禍で露呈した特別支援教育の課題
- 1 つながりのある指導・支援のための仕組みの課題
- ・場の連携と教育内容のつながりを
- 2 指導内容や指導方法の固定化―ICTやオンラインの活用
- ・ICTは必須ツールの一つ
- 3 特別支援教育については後回し?
- ・後回しにしない実際的な仕組みをつくる
- 第8章 今後の特別支援教育[座談会]
- ・二分化してきている現場
- ・メンタリティ
- 〈座談会のまとめ〉
- ・オンラインとオフラインのハイブリッドの維持
- ・特別支援を後回しにしない
- ・燃え尽き症候群になるタイミング
- ・行政が動くということ
- ・コロナ禍でも春の人事異動を行う世界
- ・笑い飛ばして進むメンタリティ―最後に
- おわりに
- 執筆者紹介
はじめに
本書は,特別支援教育の最前線の現場にいる人々が,今まで誰も経験をしてこなかったコロナ禍でチャレンジをし続けてきた記録です。長期の臨時休業中の試行錯誤の取り組み,学校再開後の新しい生活様式下での取り組みが記録されています。そしてその中から課題を整理し,一歩先へ進むためにはどうしたらよいのかを考えるきっかけが散りばめられています。
私,郡司が偶然参加することになったSNSグループでの出会いから始まり,臨時休業中から今日までお互いの取り組みにヒントを得たり,ときに支え合ったりした,これまで誰も経験していないコロナ禍での取り組みをなんとか多くの人たちに伝えたいと企画しました。最先端の授業実践ばかりではないですし,華々しいオンライン型の提案だけでは決してないかもしれません。新しい生活様式のもと,慣れない学校生活を子どもとともに苦しみながらも工夫してきた記録です。全国の多くの学校や関係機関の方と思いを共有できる取り組みの数々ですし,一人でも多くの方の明日への取り組みのヒントにしていただければ幸いです。まずはグループの立ち上げ人である野口晃菜さんに,少しお話をお聞きしてみましょう。
1 SNSグループを立ち上げたきっかけ
[郡司] SNS(Facebook)で晃菜さんが立ち上げた「休校中のノウハウ共有【特別支援教育】」での皆さんの発信やオンラインでのやりとりがこの一冊を生み出すきっかけとなりました。グループ設定の情報欄には「コロナによる休校でオンラインでの指導や家庭学習が求められています。特別支援教育においては教科書がないことなどから困っておられる先生方も多いと思います。こちらにて情報共有ができたらと思い,ページを作成しました。(抜粋)」とありました。グループは2020年4月13日に作成されています。まずは,このグループを立ち上げた思いを改めてお聞かせください。
[野口] 2020年3月に学校が休業になり,その後の様子を見ていると,休業が終わったとしても,しばらくこれまでと同じ学校生活に戻るのは難しいと感じました。特別支援教育に関わっておられる先生方から困りの声を聞く中で,継続的に一緒に学校でできることを考えられないか,自分に何かできることがないか,と考え,とりあえずやってみようと4月にグループを立ち上げました。グループの機能としては,@お互いの取り組みの情報共有の場,A安全・安心に愚痴や悩みを話せる場,Bお互いに助言をし合う場,の3つです。とにかくできることをすぐやろう,と思い半ば衝動的に立ち上げましたが,郡司さんをはじめとしたメンバーのみなさまが主体的に参加してくださり,私自身とても学びが多く,気軽に相談できる居場所になっています。
[郡司] 2020年12月5日時点で,グループのメンバーは200人となっています。そのメンバーには学校の教員だけではなく子どもたちを支える多種多様な職種の人たちが集まっています。私自身はこのメンバー構成がすごくいいし,晃菜さんらしいなと勝手に思っています。このメンバー構成についてはどのように捉えていますか?
[野口] 公開グループにするか,非公開グループにするか。保護者や一般の方も希望があれば入れるようにするか。専門家を入れるか。立ち上げ時に悩みました。今回はあくまでも学校の先生が安心して相談や情報交換をできる場にしたかったこと,Facebookは実名であることから,非公開グループにしました。また,私と同じように,学校現場にはいないけれど,何かできることはないか,と感じておられる特別支援教育に関わる専門家もいると思い,希望する専門家の方々にも入ってもらうことにしました。普段から私自身,理論と実践をつなぐことを大切にしていることもあり,定期的に開催しているオンラインイベントでは,現場の先生と専門家それぞれに登壇してもらいます。コメントをもらうことで,専門家は現場のリアルな課題がわかり,現場の先生は理論を実践に活用したりということができていると思います。郡司さんの言う通り,結果とてもいいメンバー構成になっていると思います。
2 今後の展開
[郡司] このグループは現在,各地の学校で休業が明けた状態でも解散されずに維持されています。解散するどころか,休業中から共有してきたメンバー同士の知見等が生かされつつ,学校再開後の新たなニーズにも応えるグループになっていましたし,そこからさらに広がり,新たなグループができて情報共有され続けていると個人的には分析しています。このあたりを含めて今後の展開で何か具体的に考えているものがあれば教えていただけますか?
[野口] おっしゃる通り,「最初はまず休業中の情報共有を!」と思いましたが,その後の分散登校,そして再開後も継続的に情報共有をしています。今後も引き続き,距離を置いた集団生活や,陽性者が出たときの対応,休業中の学習内容をどのように実施していくか等について共有の場を設けられたらと思っています。新型コロナ以前から,先生方が情報共有をしたり,専門家と意見交換をしたりする場があったらいいな,と思っていたので,特別支援教育そのもののあり方についても議論をし合える場に発展させていきたいな,と思っています。
3 この一冊への思い
[郡司] 幸か不幸か,予期してか予期せずかはわかりませんが,こうしてこの一冊を生み出す渦に巻き込まれてしまいました。晃菜さんご自身はこの一冊に対してどのような思いをもたれていますか。
[野口] とにかく郡司さんをはじめとした先生方のパワーに驚きました(笑)。私も本にまとめられるといいな,と思っていましたが,さすがにこの忙しい中先生方に依頼をするという発想がなかったので,ご自身が現場の先生で,かつ,ものすごく忙しいにもかかわらず,「ぜひ本にしたい」と郡司さんから話があったときには,「先生方も忙しいのに大丈夫だろうか……」と歯切れの悪い返事をしたと思います。けれど,その後の郡司さんの粘り強い働きかけとプロットの作成,そしてその呼びかけに対する執筆陣の先生方の「ぜひ書きたいです!」というたくさんの声に,びっくりしましたし,ご自身の経験をより多くの人に届けたいという思いに感激しました。現場のリアルな声と,ときに孤軍奮闘しつつ,できることを模索し続けている先生方の実践を,多くの方々に知ってもらえることが嬉しいですし,楽しみです。
[郡司] なぜあんなパワーが生まれたのかは自分でも正直よく把握できていませんが,晃菜さんはじめ専門家の方々,そして,地域も学校種も越えた教員の皆さんが一つの方向に向かっていくパワーのようなものを感じたのは確かですね。理論をまとめるとか,同じ行動をするとか,同じ実践をするとかではなく,それぞれが違う環境なのに,お互いに刺激を受けて,目の前の子どもたちと向き合うことに集中している空気感がありました。そのときに,「あっ,これ,伝えないといけないやつかもしれない」と思ってしまったのです。
さて,SNSのグループから生まれた一冊が動き出そうとしています。
第1章は,全国の学校が初めて経験する長期の臨時休業中の試行錯誤の取り組みをそれぞれの立場から書き綴りました。第2章からは学校再開後の新しい日常の学習を整理しました。教科や合わせた指導における現状や工夫が伝わるかと思います。第3章は,「オンライン」を活用した先進的な取り組みを報告していますし,第4章は「保護者・地域」,第5章では,学校現場をサポートしている人々の視点から学校を取り巻く現状について整理していただきました。それらを踏まえた形で第6章では学校の今を,7,8章では課題と今後に向けての提案を少しだけさせていただきました。あの時から1年が過ぎた今,一人でも多くの皆様方に,考えるべき視点をお届けできたなら,執筆陣一同これより嬉しいことはありません。
/郡司 竜平,野口 晃菜
今だからこそ、もう一度コロナ禍における取り組みを見直さないといけないのではないだろうか。それには打ってつけの内容となっている。
できることに取り組んでいくことが大切だなあと思いました。