- はじめに
- 〜「いい子たち」に違和感を抱いた日からの挑戦〜
- 1章 「先生,それっていい子すぎませんか?」
- 1 しんどそうないい子が増えていく現代の教室
- 〜教室に潜む「静かなSOS」〜
- 2 KYが,心を縛るとき
- 〜優等生を演じて,自分を語れない教室〜
- 3 「評価がすべて」の教室で,子どもたちが失うもの
- 〜“競争”と“承認”に呑み込まれていく日常〜
- 4 教師がつくる“空気”が,学びの“質”を決める
- 〜支持的風土と防衛的風土の分かれ道〜
- 5 「教育実践戦国時代」に求められる「学級集団」
- 2章 35時間やったのに,何も育っていない問題
- 1 学級活動の位置づけ
- 〜「話し合いが活発だった」で終わらせない〜
- 2 隙間だらけの学級活動
- 3 遊び化する特別活動
- 〜「やったつもり」で終わる活動の構造〜
- 4 形だけのPDCAでは,子どもは動かない
- 〜教室に蔓延する「PDPDサイクル」の罠〜
- 5 「いい子」が育つのではなく,「動ける子」が育つクラスへ
- 3章 “動ける子”はこうして育つ!自己調整サイクル3STEP
- 1 STEP1「予見段階」
- 〜見通しをもつ力〜
- 2 STEP2「遂行段階」
- 〜自らコントロールして動く力〜
- 3 STEP3「省察段階」
- 〜自分を振り返り,改善につなげる力〜
- 4 自己調整に必要な3要素(動機づけ・学習方略・メタ認知)
- 5 動き出すためのポイント
- 〜認知的徒弟制から周辺的参加論へ〜
- 4章 自走するクラスはどうやって生まれる?学級経営365日
- 1 1学期(4月〜7月)の取り組み
- 〜モデリング・コーチング〜
- ⓪ 自己調整に向かう0段階
- 〜まずは“動き出せる空気”をつくる〜
- @【予見段階】学級目標の作成
- 〜クラス全体で“これから”を見通す道しるべをつくる〜
- A【予見段階】でかでか予定表
- 〜予定の“見える化”で,行動の予見力を育てる〜
- B【遂行段階】当番活動と係活動
- 〜「自分たちのクラスを,自分たちで動かす」第一歩〜
- C【遂行段階】「クラス会議」で育む“自走力”
- 〜自己調整サイクルを回す話し合いの場〜
- D【省察段階】行動計画シートの活用
- 〜良質な振り返りが,次なる一歩をつくる〜
- E【省察段階】認め合い活動の実施
- 〜誰かに見てもらえている実感が,次のチャレンジを生む〜
- 2 2学期(9月〜12月)の取り組み
- 〜スキャフォールディング(足場かけ)〜
- @【予見段階】学級目標は「掲げる」から「育てる」へ
- 〜視覚化した目標がクラスを動かす〜
- A【予見段階】“でかでか予定表”で,情報をみんなの手に
- 〜「見える化」から「自分で調整する力」へ〜
- B【遂行段階】当番活動と係活動
- 〜「任されたからやる」から「自分で見つけて動く活動」へ〜
- C【遂行段階】クラス会議を発展させる
- 〜話し合い活動の質を高める2つの事例から〜
- D【省察段階】行動計画シートの活用
- 〜グラフ化して成長の足跡を視覚化する〜
- E【省察段階】認め合い活動
- 〜ピア・フィードバックを実践〜
- 3 3学期(1月〜3月)の取り組み
- 〜フェーディング(足場はずし)〜
- @【予見段階】次年度目標を描く〜未来志向の自己調整サイクル〜
- A【予見段階】自分たちの予定は自分たちでつくる
- 〜「見える化」から「自分たちで調整する力」へ〜
- B【遂行段階】当番活動と係活動をなくしてみる
- 〜「自分の役割」から「誰かの力になりたいという思い」へ〜
- C【遂行段階】クラス会議をやめてみる
- 〜話し合いの「場」ではなく,「文化」を育てる〜
- D【省察段階】行動計画シートの活用
- 〜成長の足跡をピア・フィードバックする〜
- E【省察段階】認め合い活動の最高到達点
- おわりに
- 〜自走するクラスは未来につながる〜
はじめに
〜「いい子たち」に違和感を抱いた日からの挑戦〜
筆者は,初任から6年間,愛知県豊橋市の小学校にて勤務していました。2022年,愛知県からの現職派遣院生として,新潟県の上越教育大学教職大学院に派遣していただき,学級経営について理論と実践を往還するためには何ができるかという視点で研究に没頭していました。そして,大学院での学びを終えた2024年4月からは,豊橋市内の小学校へと転勤となり,再び子どもたちと向き合う日々を送っています。
新天地となった小学校での初日,同僚からは「この学校の子どもたちはみんないい子だよ」と教えていただきました。実際に担任した子どもたちは,素直で落ち着いており,大きなトラブルもほとんどありませんでした。
しかし,そんな子どもたちと過ごしていくにつれて,次第に私はいくつかの違和感を覚えるようになりました。例えば,年度当初には「もらったプリントはしまってもいいですか」や「鉛筆を削ってもいいですか」「下敷きは使いますか」など,自分で判断できそうなことでも,質問をしてくる姿が見られました。どんなことでも,1つ1つ確認してからでないと行動できないのです。あまりに多くの質問が続いたので,「隣の人に相談してみたらどうかな?」と伝えてみました。すると,
「先生に相談した方が楽だし,トラブルにならないから」
「そもそも,隣の人とあまり話したことないし…」
と,あっけらかんとした顔で答えます。そんな子どもたちの姿に,私は違和感を抱きました。
「この学校の子どもたちはいい子だよ」とは聞いていたものの,それは「誰にとっての」「どのような」いい子なのか…。そう考えたとき,それは「大人の指示をしっかり聞く,従順ないい子」を意味しているように感じました。しかし,そのような状態では,先行き不透明な時代を生きていく子どもたちの主体性は十分に育たないでしょう。
このような実態は,金間(2022)が指摘する「いい子症候群」の特徴と重なります(1)。「言動が受け身で自己主張が苦手」「大人の指示がないと小さな決断ができない」といった傾向は,まさに筆者が目の当たりにした子どもたちの姿でした。こうした“指示待ち思考”が身についてしまうと,やがて判断力や実行力が育たないまま社会に出ていくことになります。延いては,現代社会において問題視されている「当事者意識の欠如した若者」の増加につながってしまうのではないでしょうか(工藤・青砥,2021)(2)。
こうした経験を通して,子どもたちが自分たちで考え,話し合い,協力しながら生活上の問題を解決していける力を育てる必要性を強く感じました。子どもたちが「自分たちの生活は自分たちでつくる」という感覚をもち,仲間たちとつながりながら成長できる集団を目指すことが,これからの学級経営において欠かせないと考えるようになりました。
そのためのキーワードとなるのが,本書で取り上げている「自己調整能力」や「相互調整力」という視点です。子どもたち自身が自分の行動や考えを振り返り,必要に応じて調整したり,ときには友達の悩みに寄り添ったりする力。すなわち,自己調整力や相互調整力を育てることが,学級づくりにおいても生活指導においても極めて重要であると実感しました。
本書では,こうした子どもたちの変化を支える「自己調整」につながる理論と,それをどのように学級経営の中に活かしていけるのかという実践の両面を,具体的な事例を交えながら紹介していきます。教育に携わる皆さんが,子どもたちの主体性を引き出し,よりよい学級づくりを進めていくための一助となれば幸いです。
/水流 卓哉
-
明治図書















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