話して伝わる、聞いて分かる 話す力・聞く力の基礎・基本を育てる―小学校―下巻

話して伝わる、聞いて分かる 話す力・聞く力の基礎・基本を育てる―小学校―下巻

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話す力・聞く力の基礎・基本となる能力を育成する授業実践の提案

児童が、想像して考えたことを語り合ったり、記録したことを自信をもって報告したりできるような、そしてお互いがきちんと挨拶を交わすことができ、分かり合えるような教室を展開することができる「話すこと・聞くこと」の指導を目指した実践事例集。


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ISBN:
978-4-18-399919-1
ジャンル:
国語
刊行:
2刷
対象:
小学校
仕様:
B5判 112頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

序 話す力・聞く力の基礎・基本を育てる―話す力・聞く力を育成する教育課程作り―
X 効果的な説明をするために
1 例を示して分かりやすく紹介しよう―絵や写真を活用する―
2 図や表を使って分かりやすく説明しよう―図解力や図読力を付ける―
Y 的確な報告をするために
1 自分の思い出を伝えよう―思いをこめて体験報告をする―
2 相手に応じて調べたことを伝えよう―相手の立場や状況に応じた調査報告をする―
3 伝えたいことをはっきりさせてスピーチしよう―主張を明確にする―
4 状況を判断しながら伝えよう―的確に伝える実況中継をする―
Z 相手の考えを聞き出すために
1 一つのことについてたくさん質問しよう―多面的に考える―
2 より詳しくインタビューしよう―より深く相手の知識を引き出す―
3 計画を立てて質疑応答をしよう―想定問答集を作る―
[ 相手に合わせて対話するために
1 意見を整理して話合いをしよう―司会力を育てる―
2 役割をよく考えて三人で話し合おう―鼎談で対話する力を付ける―
3 その場に合った最もよい意見を述べよう―コメント力を付ける―
4 立場を明確にして主張しよう―説得力を高める―
平成20年版小学校学習指導要領「国語」系統表

序話す力・聞く力の基礎・基本を育てる
―話す力・聞く力を育成する教育課程作り―

   文部科学省教科調査官 /井上 一郎


  1 本書の内容と育成すべき能力

 本書は,『話す力・聞く力の基礎・基本』(明治図書,2008)で述べた考え方に基づいて実践した授業を,2巻に編集したものの下巻である。話す力・聞く力の基礎・基本となる能力の育成は,話すこと・聞くことの各種の言語表現様式を取り上げて話したり,聞いたり,話し合ったりする「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」と,それらの言語表現様式に応じて実際の表現行為を行うことができる「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」とを統合的に指導することによって具現する。そのような考え方に立って,上・下2巻の実践編は,次のように構成した。内容とそれぞれの授業でのねらいとしている主な能力は,次のようである。


  [上巻]

 T 声を豊かにするために 【音声の基礎に関する能力】

 U 声を生かすために 【音読・朗読に関する能力】

 V 取材したことを生かすために 【取材及び活用に関する能力】

 W 目的に応じて書き,分かりやすく話すために 【スピーチ原稿に関する能力】


  [下巻]

 X 効果的な説明をするために 【説明力に関する能力】

 Y 的確な報告をするために 【発表力に関する能力】

 Z 相手の考えを聞き出すために 【質問力に関する能力】

 [ 相手に合わせて対話するために 【話合いに関する能力】


 取り上げた授業では,「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」と,「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」とを統合して構成しているが,このような重点化した能力を中心に話す,聞く,話し合う多様な様式の言語活動を行っている。


  2 話す力・聞く力の基礎・基本を育成するための教育課程作り

 上巻では,学習指導要領で求めた基礎・基本について述べた。下巻では,理論編で述べた話す力・聞く力の基礎・基本を育成するカリキュラム作りに関する概要を述べておきたい。

 [重点1] 話す力・聞く力を育てる授業の基本を理解する

 話す力・聞く力を育てるためには,話す力・聞く力を育てる授業の基本とは何かを理解することが最優先される。例えば,次のようなことが重要だ。

 @ 独話と対話と聞く活動の三つの表現様式を区別して指導内容を考える。

 A 話し手と聞き手の両者を育てる。

 B 話し言葉と書き言葉の違いを自覚させる。

 C 言語と言語外のコミュニケーションを統合する。

 D 知識と技能と実技を定着させる。

 E スピーチ原稿の作成と音声化の言語活動を考える。

 F 能力育成のために単元構想を進める。

 G 国語科年間指導計画で評価を確かなものにする。

 H 三領域の言語活動の循環の中で定着を図る。

 I 日常から教科へ,そして教科から日常へと往復させる。

 [重点2] 話し言葉と書き言葉の共通点と相違点を理解する

 〈話し言葉と書き言葉〉の本質的な特徴を理解し,場面に応じて使い分けられるようにする。

 [重点3] 話す力・聞く力を具体化し年間指導計画を構想する

 能力を具体化し,各学年における年間指導計画を構想しなければならない。

 [重点4] 教育課程を改善する

 学校全体での教育課程に位置付ける。例えば,次のような点に留意する。

 @ 教育課程の基準と年間指導計画

 A クラス編制・授業編成の工夫

 B 時間割や日課表の改訂

 C 国語科における話す力・聞く力の活動

 D 各教科等における話す力・聞く力の活動

 E 学校内における日常的なコミュニケーション活動

 F 教室やスペースなどの環境活用

 G 家庭・地域におけるコミュニケーション活動

 [重点5] 話す力・聞くを日常的に指導する

 話す力・聞く力は,日常的な指導が行われてこそ最も定着を確かなものにする。

 [重点6] 話すための原稿を使い分ける

 話すための原稿には,@フル原稿,Aアウトライン原稿,Bデータ原稿,Cアドリブなどがある。これらを目的に応じて使い分ける能力育成が必要となる。

 [重点7] 聞くためのメモを取る

 目的によって聞く力を高めるためには,話し手の目的や意図,聞き手の目的や意図に応じたメモの取り方を指導する。

 [重点8] 質問力を高める

 単に聞く力を育成すると考えるだけでなく,積極的に聞き手として自分の目的や意図に基づいて質問していく力が重要である。

 [重点9] 相互作用的に話し合う対話力を付ける

 話し合う力をさらに高次な段階に高めるために,相互作用的なコミュニケーション力としての対話力を付ける必要がある。

 [重点10] 対話力の中心となる司会力を付ける

 司会力は,話合い全体を統括する重要な能力である。司会者,副司会者,計時係などによる司会団を構成し,自主学習をする要として活用したい。

 [重点11] 聞いたことを活用する

 得られた知識や情報を活用するために,〈前提とすべき活用の枠組みを理解する〉こと,〈活用の場や状況に応じた具体的な方法の知識と技能を理解する〉ことになる。

 なお,このような考え方に立って,実際に年間指導計画を構想した場合にはどのようになるのかを,研究会員による試案を作成し,本稿に続けて掲載している。上巻に第1学年,下巻に第3学年及び第6学年の例を掲載した。表形式は,学校によって工夫することや,新学習指導要領に基づく評価規準などが確定すればそれらに準ずることなどが求められる。


 本書は,佐賀,熊本,福岡・北九州,鹿児島,兵庫などの国語教育カンファランスの研究会員によって行った実践集である。研究会員は,毎月の例会において長きにわたって真摯に研究を重ねた。研究会員には,創立当初からの者,最近になって参加した者がいる。また,研究会に朝早く出発し,2時間もかけてやってくる人もいる。様々な厳しい事情を抱える教師生活の中で,協力し合いながら,議論し原稿を執筆した。研究会で学び,研究することが子どもたちの喜びや発見につながることだけを支えに頑張ってくれた。編者として,研究会員にお礼を申し上げたい。

 本書を手に取られた方が,自分の心を閉ざしいつも黙るしかない苦しい日々を過ごしている子どもたちの心を拓き,想像して考えたことを語ったり,記録したことを誇らしげに発表,報告したりすることのできる子どもたち,学校に来てお互いがわだかまりなく挨拶し助け合えるような子どもたちでいっぱいの教室を展開する指導者となって下さること,そのような教室作りに本書が役に立つことを願ってやまない。

 最後になったが,本書刊行に当たっては,明治図書の石塚嘉典氏,松本幸子氏にお世話になった。表現は簡潔だが,深い謝意とともにここに記しておきたい。


  2008年6月


 単元番号(授業時数) 第3学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画例

(表省略)



 第3学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画の作成例


 年間指導計画の作成に当たっては,「話すこと・聞くこと」の指導を通して,どのような音声言語能力を付けたいのかを明らかにする必要がある。その際,ねらいとする音声言語能力について,一つ一つの単元が,児童に確実に能力を定着させるものとなっているか,よく検討することが重要である。学習指導要領に基づき,具体的な指導目標や評価規準を作成するようにする。

 また,「話すこと・聞くこと」の領域の単元を,どの時期に,いくつの単元を位置付けるのかが重要である。実際には,年間指導計画のモデル(3年)で,下記の四つの単元の種類に分けて配置している。


 @ 日常的な音声言語指導…継続的に取り組むボイストレーニング,音読練習などで,毎学期の最初に,指導の時間を設定した。ボイストレーニングでは,学期ごとに具体的な目標を設定し,体系的に基本的な発音,発声の音声言語指導を行い,日頃の音読練習に生かせるように工夫した。

 A 「話すこと・聞くこと」の領域の大単元…5〜8時間程度の単元で,「話すこと・聞くこと」プロセスを通して学習させたり,様々な表現様式に取り組ませたりする学習である。モデルでは,単元4の自己紹介と単元13の調査報告がこれに相当する。

 B 取り立てて指導する小単元…話すこと・聞くことの能力で,特に指導したい内容を取り上げて学習する単元である。2〜4時間程度の単元で,「話すこと・聞くこと」のプロセスの中で,特に指導したい音声言語の知識や技能,表現様式などを重点的に取り上げて指導するものである。モデルでは,対話を通して,自分の立場を明確にすることを取り立てて指導している。

 C 複合的な単元における音声言語指導…「読むこと」の領域や「書くこと」の領域の単元の一部に音声言語指導を取り入れるものである。「書くこと」の領域単元での「話すこと・聞くこと」の指導,「読むこと」の領域単元での「話すこと・聞くこと」の指導,「総合単元」での「話すこと・聞くこと」の指導が挙げられる。モデルでは,「読むこと」の領域で,QアンドAのクイズ形式を取り入れた紹介活動がそれにあたる。


 これらの四つの種類の単元を,年間指導計画の中で,いかにバランスよく配置していくか,児童の実態や発達段階を考慮しながら作成することが大切である。さらに,具体的な授業をイメージする際は,「話すこと・聞くこと」のプロセス,表現する様式の特徴,学習主体は話し手なのか聞き手なのか,の三つの視点から検討を重ね,学習活動の展開を構想しなければならない。


   /藤瀬 雅胤



 第6学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画の作成例


  1 学年目標と指導事項との関連

 学年目標では,的確に話す能力,相手の意図をつかみながら聞く能力,計画的に話し合う能力を身に付けさせることとなっている。話したり聞いたりする目的や意図が明確であるほうが,児童の学習意欲が増す。そこで,学習計画を立てる際の話題設定が重要となる。考えたことや伝えたいことなどから話題を集め,自ら学習したい気持ちにさせるための導入学習が必要となる。導入学習で前学年までの既習事項を取り入れることができるようにするためにも,他学年の年間指導計画を基に系統的に育成できるようになっているかを検討することが大切である。


  2 言語活動の系統的な位置付け

 言語活動例は,感想→意見→助言・提案,問答→協議→討論,紹介→推薦と系統的に位置付けられている。第5学年及び第6学年では,助言や提案,討論,推薦の言語活動を意図的に位置付けることが必要である。

 言語活動の特徴により,話題設定,話すこと,聞くこと,音声化すること,話し合うことの指導事項の中から,適切な指導事項を取り上げることが大切である。言語活動だけを具体化した年間指導計画にならないよう配慮する必要がある。


  3 各領域と関連付けた指導

 「話すこと・聞くこと」の指導は,年間25単位時間程度となっているため,年間4〜5単元程度を位置付けることになる。定着しにくい面もあるので,繰り返し学習する機会を設定する必要がある。指導時間や言語活動の特徴により,「書くこと」や「読むこと」とを関連付けて行う単元の位置付けと領域間で連携した指導が可能となる。


   /林 理香



 第6学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画例

(図・表省略)

著者紹介

井上 一郎(いのうえ いちろう)著書を検索»

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官・学力調査官。国語教育学者。随筆家(ペンネーム・高橋信一)。奈良教育大学助教授・神戸大学教授を経て,2001年4月から現職。現在は,自ら学ぶ主体的な学習者の育成を基軸に,教科を貫く国語力の体系化と系統化を目指す。2008(平20)年版学習指導要領作成に従事。全国的な研究会「国語教育カンファランス」及び自主公開セミナー「国語教育公開講座」を主宰。各種の作文・読書感想文コンクール中央審査委員を務める。文学・絵画の探訪や視察調査のために,イギリス,フランス,イタリア,ドイツ,スイス,オーストリア,オランダ,ベルギー,スペイン,ポルトガル,フィンランド,カナダ,アメリカ,オーストラリア,ニュージーランド,アジアなどを歴訪。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書

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