価値目標設定で「文学文の読み方」授業を変える低学年

価値目標設定で「文学文の読み方」授業を変える低学年

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価値目標を明確にした授業実践とステップワークを提案!

現在の国語教育の実情は時代に迎合し妥協する風潮がある、と瀬川榮志氏は指摘する。活動あって指導事項が無い、スキル一辺倒で内容価値を無視した指導案もあると強調する。生きる力(人間力)を育む内容的価値の明確化が必要。価値目標設定でその実現をはかる。


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ISBN:
978-4-18-399013-6
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 160頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

序章 価値目標達成の過程で技能・能力が定着する授業を創る――学習者主体の「行動学習法」で完全習得し達成感を満喫する―― 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
まえがき /金久 慎一
T 価値目標で「生きる力」を育成
一 文学の内容的価値
1 文学を読む価値
2 人間形成に資する文学の機能
二 新しい視点に立つ文学の学習指導
1 文学の学習指導の目標と「生きる力」
2 生きる力に連動する言語行動力
三 価値目標の明確化を通して「生きる力」の育成
1 文学作品の価値目標を明確にする
2 新しい視点に立つ発見的・創造的指導法開発の必要性
3 新しい視点に立ち授業に生かす教材研究内容
U 内容的価値を位置づけた読みの構造と指導計画作成
一 文学作品の内容的価値に迫る児童の読みの波及・発展構造
1 内言活動を活発化し、言語行動化する
2 指導者が作品に感動する
3 授業に一人読みの場を設定
二 「生きる力」に連動する言語行動力の育成
三 文学教材に内容的価値を位置づける
四 価値目標に迫る指導計画
1 教材研究内容の指導計画への位置づけ
2 ステップワークによる「行動学習法」の開発
五 文学教材の内容的価値に迫る低学年の「基礎的技能」「基本的能力」「統合発信力」
六 文学文において価値内容を明確にした指導計画例
七 ワークシート作成にあたっての具体的な留意点
V 価値目標に迫るための基礎学習
第一学年
○助詞を正しく書く―「は」「へ」「を」―
一 一年生児童の実態と指導の必要性
二 ワーク構成上の工夫
〈ホップ〉「は」「へ」「を」をつかった文をよもう
〈ステップ〉「は」「へ」「を」をまちがうと、いみがつたわらないことをしろう
〈ジャンプ〉「は」「へ」「を」をつかって、ことばあそびをしよう
○語句を広げる―「漢字の読み・書き」―
一 一年生児童の実態と指導の必要性
二 ワーク構成上の工夫
〈ホップ〉なかまのかん字をさがそう
〈ステップ〉にているかん字に気をつけよう
〈ジャンプ〉かん字であそぼう
第二学年
○文の構成を考える―「主語」と「述語」―
一 二年生児童の実態と指導の必要性
二 ワーク構成上の工夫
〈ホップ〉しゅ語とじゅつ語のやくわりを知ろう
〈ステップ〉しゅ語とじゅつ語がそろった文を作ろう
〈ジャンプ〉しゅ語とじゅつ語に気をつけて読もう
○語句・語いを豊かにする―「かたかなで書く言葉」―
一 二年生児童の実態と指導の必要性
二 ワーク構成上の工夫
〈ホップ〉かたかなで書く語のしゅるいについて知ろう
〈ステップ〉かたかなのつかい方に気をつけて書いてみよう
〈ジャンプ〉かたかなで書くことばあそびをしよう
○やさしい読み物に興味をもつ―「わたしのおすすめの本」―
一 二年生児童の実態と指導の必要性
二 ワーク構成上の工夫
〈ホップ〉おすすめの本を読んでブックトークをしよう
〈ステップ〉同じ作しゃやシリーズの本をさがしてみよう
〈ジャンプ〉本のせかいを広げよう
◆解答例◆
W 価値目標に迫るための基本学習
第一学年
○イメージを広げ、読書を楽しむ―「たぬきの糸車」―
一 一年生児童の実態
二 教材選定の観点
三 本単元の指導目標
四 本時場面と授業展開(7/13)
〈ホップ〉小屋の戸を開けたおかみさんが何に驚いたのかを考える
〈ステップ〉おかみさんがびっくりしたところを読み深める
〈ジャンプ〉糸車を回すたぬきと、そっと見るおかみさんの心の交流を読み取る
五 教材研究の成果と授業の再構成
第二学年
○心の通い合いを想像する―「お手紙」―
一 二年生児童の実態
二 教材選定の観点
三 本単元の指導目標
四 本時場面と授業展開(9/18)
〈ホップ〉音読を通して、一の場面との違い、変化を発見する
〈ステップ〉お手紙を出したことを言ってしまったかえるくんの気持ちを考えて音読する
〈ジャンプ〉手紙が来ることがわかっているのに待つ、ふたりの友情について考える
五 教材研究の成果と授業の再構成
○想像を広げながら読む―「スイミー」―
一 二年生児童の実態
二 教材選定の観点
三 本単元の指導目標
四 本時場面と授業展開(8/14)
〈ホップ〉小さな魚のきょうだいたちと出会ったときの会話読みをする
〈ステップ〉スイミーが真剣に考えている様子を読み取る
〈ジャンプ〉スイミーの知恵の素晴らしさについて考える
五 教材研究の成果と授業の再構成
◆解答例◆
X 価値目標が生きる統合学習
第一学年
○おんがくげきをつくろう
一 一年生児童の実態と授業構想
二 本単元の指導目標
三 本時場面と授業展開(5/7)
〈ホップ〉グループごとに音楽劇にする場面を選び、役割分担をする
〈ステップ〉グループで音読のしかたを工夫して聞き合い、よかったところさがしをする
〈ジャンプ〉グループが選んだ場面を楽しい音楽劇にするために場面に合った楽器を選ぶ
四 教材研究の成果と授業の再構成
第二学年
○すきなお話をしょうかいしよう
一 二年生児童の実態と授業構想
二 本単元の指導目標
三 本時場面と授業展開(5/7)
〈ホップ〉自分がスピーチで話してみたい事柄の順序を決める
〈ステップ〉スピーチメモを書き、スピーチの練習をする
〈ジャンプ〉グループ内でスピーチの聞き合いをして、よいところを見つけ合う
四 教材研究の成果と授業の再構成
○ジャンボしおりをつくろう
一 二年生児童の実態と授業構想
二 本単元の指導目標
三 本時場面と授業展開(8/8)
〈ホップ〉ジャンボしおりに載せたい事柄を順序に気をつけてメモする
〈ステップ〉ジャンボしおりの下書きをする
〈ジャンプ〉グループ内でしおりの読み合いをして、よいところを見つけ合う
四 教材研究の成果と授業の再構成
◆解答例◆
あとがき /金久 慎一

序章価値目標達成の過程で技能・能力が定着する授業を創る

   ――学習者主体の「行動学習法」で完全習得し達成感を満喫する――
      中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志


 教育の究極のねらいは、人間が人間としていかに生きるかを深く思索し、充実した人生にするために「価値ある行動を累積して真の幸せを獲得する」ことである。


 現在の日本社会は、科学至上主義、拝金至上主義、自己中心主義の世相であり、情報優先の激しい濁流に押し流されていると酷評しても過言ではない。特に情報モラルの低下は著しく、人間形成に役立つ価値ある情報選択ができず軽薄な思想が蔓延し、日本のよき伝統や日本人としてのよさが失われようとしている。

 このような価値観・倫理観が低迷している現代社会を生き抜く「生きる力〜『人間力』を育成する」視点に立つ教育観を確立し具体的に推進することが現時点における重要課題である。

 新生日本の復興再建を日本語力で実現しなければならないのは当然のことである。「国語教育立国論」の理念と研究構想を提言して久しいが、この具現化を早急に取り組む必要がある。その具体策は言うまでもなく国語科教育の改革である。

 現在の国語科教育の実情は、時代に迎合し妥協する風潮がある。真理・真実を追究し人間性豊かで逞しく生きる力を育成する実践が行われているとは言い難い。例えば、学習指導案に活動の記載のみで定着→習得→獲得すべき技能や能力が密接不離の関連で織り込まれていないプランもある。つまり、活動あって指導事項がないのである。また、スキル一辺倒で内容価値を無視した学習指導案もある。学習過程も自己実現・変容・変革を工夫しない堂々めぐりの授業展開も多いようである。


一 生きる力(人間力)を育む内容的価値の明確化


 学習指導要領には、人間形成に役立つ話題・題材選定の項目が示されている。この中から、児童の内面的な生き方にかかわるもの、豊かな心の教育にかかわるもの〜等の「生きる力」育成に連動する価値的内容の事項と、日本の文化・伝統に関連する事項、並びに国際社会に伍していく世界の中の日本人としての資質向上に関係する事項が取り上げられている。いずれも国語を通して自分の考えをもち、日本語力を育成するとともに、豊かな人間性を育て視野を広げる内容的価値であり人間形成に大きく寄与する事項である。

 ◎ 生活を明るくし、強く正しく生きる意思を育てるのに役立つこと。

 ◎ 生命を尊重し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。

 ◎ 自然を愛し、美しいものに感動する心を育てることに役立つこと。

 ◎ 我が国の文化と伝統に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。

 ◎ 日本人としての自覚をもって国を愛し、国家・社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと。

 ◎ 世界の風土や文化などを理解し、国際協調の精神を養うのに役立つこと。

…等々が記載されている。

 これらの各事項を吟味していくと、急速に変化進展していく社会に適応し、世界の中の日本人として充実した人生を刻んでいくために必要にして欠くことのできない価値的内容であることがわかる。この他にも、忍耐・努力・精進・奉仕・貢献・勤労・感謝・謙虚・誠実・慈愛・敬愛・真理・真実・尊敬・畏敬・信念・理念・進取・決断・倫理・切磋琢磨・相互信頼〜等々…吟味していくと、人間が人間として生きていく条件として、極めて重要な事項であることがわかる。


 これらの人間形成に役立つ内容的価値は、学習指導要領が変わっても一貫して取り上げ強調すべき事項である。

 文学的教材「大造じいさんとがん」の内容的価値としては、ハヤブサの仲間に対する愛情や頭領としての勇気・決断力・統率力・知恵の大切さが含まれている。また、ハヤブサに対する大造じいさんの温かい心情が内包されている。この作品を読むことによって児童は深く感動したり独創的な解釈をしたりして、作品の裏を洞察し、自分の生き方を考えることにとどまらず、日常生活において他人を思いやったり勇気ある行動ができるようになることが望ましいのである。そうでないと名作を読んだ意味がない。読み終えてからもさらに読み続け、深め、広げて行動化し、向上的変容・変革をしていきたいものである。深く思索し人間としていかに生きるかを熟考し、「価値ある言語行動」を連続していくような人間を育成するための国語科教育を確立したいと念願している。

 現在の読解指導には、このような人間形成に直接寄与する授業が少ないのではなかろうか。


二 価値目標を達成するために必要な文学文の読む基礎・基本・統合発信力


 価値ある目標に向かって「知・情・意・体」「真・善・美・敬」等の人間形成に寄与する内容価値を完全習得するには、粗筋・場面・描写・要約・主題把握力、音読・朗読・暗唱等の「基本的能力」や、文字・敬語・語彙・文法的知識・発声・発音・間・リズム・イントネーション・プロミネンス・緩急・強弱・転調〜等の言語事項に関する「基礎的技能」を駆使・運用するスキルが必須となる。

 加えて「基礎的技能」と「基本的能力」を波及・応用して価値ある情報を収集・構成・編集し、双方向的に交信して知る喜びを満喫し合って真の友情を醸成し、人間関係力を育む「情報発信力」を獲得しなければ情報化時代に生き抜く人間力は育成されないのである。文化審議会においても「国語の力で情報操作能力」育成の重要性を提言している。


 生きて働く国語力を完全獲得させるためには「国語科教育の体系化」を推進しなければならない。「基礎的技能」を定着させ、そのスキルを「基本的能力」に波及・応用し、そこで定着した能力が「統合発信力」の獲得に役立つような体系化による学習法を開拓することが重要である。特に情報化時代には、言語の力で人間形成に役立つ価値ある情報を選択・精選・構成・発信し、双方向に交流し人間関係力を育成することは極めて重要な今日的課題である。また、国語科教育の現状を分析して憂慮・危惧する事項として「基礎的技能」の軽視がある。語彙の貧弱現象は豊かな表現力の不足や心の教育の不徹底に関連している。敬語の指導や文字の指導の系統的指導も徹底していない実情である。この言語事項にかかわる「基礎的技能」を「基本的能力」の活動中心の授業で習得することは極めて困難である。つまり、系統的に基礎的技能を定着させる指導ができていないのである。文学文を読む能力低下の最大の原因は「基礎的技能」の系統的指導の不徹底にあることを猛省すべきである。


 このような視点から螺旋的系統による「国語科教育の体系化」の構想である「基礎的技能」→「基本的能力」→「統合発信力」→総合的学習・他教科や日常生活に生きて働く国語力の指導を強力に推進しないと国語科教育の改革は実現しないことを認識すべきである。

 新世紀を拓く国語科教育の重要課題は「生きて働く国語力」の獲得と「生きる力に連動する人間関係力」である。「国語科教育の体系化」は、今日的課題であるとともに普遍的課題を解決し進展できるものと確信している。


三 内容的価値と技能・能力を言語行動で統一した「行動学習法」ステップワーク開発


 児童の内面的な生き方にかかわる内容的価値を重視した内容主義は、道徳教育と全く同じ徳目であり言語の立場としての国語科教育ではないと批判されてきた。また、技能・能力の指導に偏した国語科教育はスキル中心の技能主義・形式主義であり、人間形成を軽視した方法であるといわれてきた。

 教育現場で日々子どもたちと接している先生方は、内容主義の理論に基づいた実践が国語学力をつけることになるのか、あるいは、技能主義による授業展開が国語学力向上に連動するのか、〜その判断・選択に悩み、去就に苦しむことになるはずである。

 国語科教育の理論や方法にはいろいろな主義・主張がある。それぞれの特色を学び客観性と独創性を統一した実践理論を確立することが肝要である。学習者主体の授業観に立って慎重に熟考すれば、「内容主義と技能主義を学習者の言語行動で統一」する必要性を認識すべきである。つまり、「価値ある言語行動力」を中軸に活性化した授業を展開するのである。

 具体的には、「価値ある目標を解決するために、『基礎的技能・基本的能力・統合発信力』を駆使・運用し、『生きる力〜人間力育成』に直結する価値的内容を生産する」という単元を構成し教材解釈をする。また、一単位時間の授業にもこのシステムを適用すると、効率的に指導できるという国語科指導法の原理・原則を実践者が共通理解し、授業改革を目指すことが大切である。

 例えば、文学文「モチモチの木」を読む価値目標は、「登場人物のおじいさんに対するひたむきで純粋な愛と勇気・行動力」であり、「愛・勇気・行動力」は生きる力の源泉である。この作品の主題・生命に迫るには、粗筋を理解し、場面の様子や心情の推移・重要語句を押さえて読む技能・能力が作動し定着して読みが深まっていくはずである。また、読み深め広げた感動や知識・情報等を双方向的に交流して人間関係力を高める活動を展開する。その読みの過程で、音読・視写・サイドライン・書き込み・枠囲み・心情曲線法……等の「行動学習法」を駆使すると授業が活性化し、学習者主体・言語行動主体の授業を創ることができる。

 このように、「内容価値」と「技能・能力」を「学習活動」で統一すると、生き生きと言語行動を展開する過程で「生きて働く読みの力」が身につくことになる。


 「行動学習法」は、ワークを通して国語力を定着→習得→獲得するメリットがある。しかも、易から難へステップアップすることによって学習者は向上的に変容・変革し、達成感・充足感を満喫することができる。「わかる→かわる→できる」「ホップ→ステップ→ジャンプ」「レベル1→レベル2→レベル3」の学習過程は自己変容・変革のプロセスである。現在一般に行われている授業は、単元や本時の学習が堂々めぐりで空転することが多いのではないか、学習者も向上的に変容しないので授業に退屈し、国語学習嫌いになるのではないか、と懸念する場面に接することがある。「直幹節を抱き屹然として天空に向かう」〜竹は節があって強靱で弾力性がある。そして、ぐんぐん成長していく性格をもっている。授業にも節が必要である。だらだらと無秩序に流れていく授業から脱皮し、柔にして剛の精神で一貫し、児童の反応に合わせて弾力的に対応して可能性を発揮させていく授業を実現したいものである。


 教科書教材で「基礎・基本・統合発信力」を確実に獲得できないこともある。その理由は新しい視点に立つ「国語科教育の体系化」の理念・理論による内容構成でもなく「生きて働く国語力」が螺旋的に系統化されていない教科書もあるからである。個に応じた「基礎・基本・統合発信力」の指導はワークシートを併用すると一層効果を高めることができる。特に「行動学習法」の原理・原則を基盤に作成し、活用すると驚異的に学力が向上する。その根拠は学習者が自力でフィードバックとアタックを段階的に向上反復しながら「探究型学習法」を獲得し成就感を満喫できるからである。しかも、ワークの過程やまとめの段階で「学習と評価を一体化した活動」で自分自身のステップアップの向上過程を把握できるメリットがある。これからの教科書はこの原理を導入する必要がある。

 以上、述べた理念・理論を基盤にした学習法を「本研究実践書」の指導事例の中にステップワークとして組み込んでいるので指導効果を一層高めることができる。また、ワークシートを導入した実践事例を参考にすると学習者一人一人の習熟度に応じて個別指導を徹底することができる。


 国語科教育の改革に五つのキーワードを設定している。

 ◎ 教育理念の追究(人間形成に寄与する価値内容・価値目標の重視)

 ◎ 人間関係力の獲得(価値ある情報交流による伝え合う心と技の練磨・統合発信力)

 ◎ 言語観の確立(為すことによって学ぶ言語行動を根底に「行動学習法」の開発)

 ◎ 国語科教育の秩序化(螺旋的系統による基礎・基本・統合発信力の体系化)

 ◎ 学習者主体の指導法のシステム化(『わかる・かわる・できる』〜の自己実現過程の編成)

 この「不易と流行の精神」と、「普遍性と客観性の理念・理論」を統一した基本構想を根底に据えて国語科教育を刷新改革しないと混沌・激動の21世紀を生き抜く児童の育成は困難である。


 本単行本の企画編集は、以上のような「教育を育む哲学・文化・思想」とは何かを追究し、質的に高い教育を目指すとともに、一人一人の児童の幸せ実現に連動する、より具体的でわかりやすい内容構成にしたいと考えている。理念や理論の裏付けのない軽薄な実践の積み重ねの結果、現時点における国語科教育の実情は確たる人間形成の具体的授業実践が少なく、教材研究や指導案作成並びに授業研究・再構成を手抜きし簡略化している授業が多い。教材研究も不徹底で指導略案・細案の作成も不十分であることもある。これでは、奥行きのある感動の授業は展開できないし、「生きて働く国語力」や「価値的な人間関係力」が育つ授業を創ることもできない。単に、にぎにぎしく楽しく面白く活動しても、「基礎・基本・統合発信力」が定着→習得→獲得され「言語の教育として立場を明確にした国語科教育」は確立されない。最近、教師の授業力が低下したという批判がある。重要な研究事項や方法を省略したりすると、国語科教育の理論や指導法の原理・原則を重視しない授業では、労多くして効果の少ない実践となってしまう。


 しかし、先に述べた五つの基本理念や研究構想の意義を的確に把握し、国語科指導の実践的研究を積み重ねている学校や研究会で真剣に実践研究に取り組んでいる先生方は、確実に授業力を高め、児童の学力も向上している。「教育科学『国語教育』」(明治図書)月刊誌に連載している「現場訪問」の研究校(一一〇余校)においては「学力向上の国語教育」のテーマに沿った充実した校内研究で、実践理論構築を目指す「国語科研究法」の徹底研究によって多大の実績を上げている。本単行本の内容構成も「真を極める」心構えで、新しいタイプの「研究実践書」を提示していただきたいと期待している。


 明治図書の江部満様には、国語科教育の理念・理論・方法についてご指導をいただいている。今回の企画においても「価値目標と人間形成」が今日的課題であることを強調されたのである。本単行本では、この価値ある課題を解決し、ご期待に沿うように編著者並びに執筆者の先生と努力精進して、最高の結果でご高配に報いたいと考えている。

 「理念なき教育は皮相浅薄である。理論なき実践は空虚で空転する。実践なき理論は砂上の楼閣である」を合い言葉に「新世紀の要請に応えるモデルとなる研究実践書」を完成したいと念願している。

著者紹介

瀬川 榮志(せがわ えいし)著書を検索»

現在 中京女子大学名誉教授 全国小学校国語教育研究会名誉顧問

日本子ども文化学会名誉会長 全国日本語教育学会名誉会長

全国創造国語研究会名誉顧問 全国国語科教育研究所長

21世紀の国語教育を創る会代表

1928年鹿児島に生まれる。東洋大学国文学科卒業。鹿児島県・埼玉県・東京都の公立学校教諭,青梅市教育委員会〜東京都教育委員会指導主事として12年,墨田区〜中野区の校長として10年勤務。その間,文部省教育課程教科等特別委員,教育課程調査研究協力者並びに副委員長,学習指導要領指導書作成委員,NHK学校放送番組企画委員を歴任。公立学校定年退職後,中京女子大学教授として17年間勤務。同大学の子ども文化研究所長として全国組織を拡大。幼・小・中・高・大学の実践指導,経営の教育研究を経験。現在も全国規模で授業実践,理論の確立と「国語教育立国論」の提唱と展開に活躍中。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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