「PISA型読解力」が向上する国語科授業の改革 中学年

「PISA型読解力」が向上する国語科授業の改革 中学年

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普段は指導しにくい「PISA型読解力」が身につく実践満載

「PISA型読解力」の向上を視野に、国語科授業をどう図るかを検討し、新学習指導要領の中学年の指導内容を生かすことに重点を置いた。「PISA型読解力」に対応するステップ別学習指導例を豊富に例示。各領域ごとに単元学習指導例で学習改革を提案した。


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ISBN:
978-4-18-398312-1
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 148頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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序章 PISA型読解力を高める国語科授業の創造〜ジャパン・メソッドの開発
――国語科教育の体系化と指導法の組織化で「活用型国語力」を定着→習得→獲得する―― /瀬川 榮志
はじめに /金久 愼一
T 新しい視点に立つ国語科教育
一 新しい視点に立つ国語科教育
二 今後の国語科授業改善の視点
U 「PISA型読解力」に対応する授業
一 「PISA型読解」と「基礎・基本・統合発信力」
二 「PISA型読解」を視野に入れた指導過程
三 「PISA型読解力」に対応する「ステップ別指導」と「単元学習指導」
V 「PISA型読解力」に対応するステップ別学習指導
「情報の取り出し・収集」
一 児童の実態と「情報の取り出し・収集」の重要性
二 「情報の取り出し・収集」のステップ学習
〈その1〉必要な用件を取り出す/ 〈その2〉情景や性格を想像する言葉を取り出す/ 〈その3〉指示や説明されている事項を取り出す/ 〈その4〉記録や報告されている事項を取り出す/ 〈その5〉複数資料の中から必要な情報を取り出す
「情報の解釈」
一 児童の実態と「情報の解釈」の重要性
二 「情報の解釈」のステップ学習
〈その1〉文章の意図を理解する/ 〈その2〉人物の様子や会話から気持ちを想像する/ 〈その3〉考えの根拠となる理由を理解する/ 〈その4〉文章と資料・図を関連づけて理解する/ 〈その5〉文章の中から価値の高い情報を選択する
「熟考・評価」
一 児童の実態と「熟考・評価」の重要性
二 「熟考・評価」のステップ学習
〈その1〉文のつながりや意味を考える/ 〈その2〉文章の説明の仕方を考える/ 〈その3〉目的に合った説明か考える/ 〈その4〉表現の仕方を変更する
「表現」
一 児童の実態と「表現」の重要性
二 「表現」のステップ学習
〈その1〉必要な情報を整理する/ 〈その2〉文章の組み立てを考える/ 〈その3〉事実をありのままに書く@/ 〈その4〉事実をありのままに書くA/ 〈その5〉調べたことを表やグラフや文章にまとめる
【解答例】
W 「PISA型読解力」に対応する単元学習指導
「読むこと」におけるステップ学習
三年・民話に挑戦!――自分と比べて読み、伝え合おう――
一 三年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉全文を読み、課題を設定する/ 〈情報の取り出し・解釈〉物語のあらすじをとらえ、主人公の気持ちを想像する/ 〈熟考・評価〉「モチモチの木」のおもしろさをまとめ、友だちの考えと比べる/ 〈表現〉@グループや全体で音読の発表をしよう/ A他の民話を読んで、おもしろさを紹介し合う/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
四年・新聞情報を読む――教材「小一の手紙、十五年の旅」――
一 四年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉新聞記事を読んで、情報の大体を理解する/ 〈情報の取り出し・解釈〉@新聞記事を読んで、情報の概略を構造的に押さえる/ A記事の本文を読んで、情報の詳細を読み取る/ 〈熟考・評価〉情報の事実と意見を読み分け、情報事項を批判的に読もうとする/ 〈表現〉@新聞情報を読んで、ポスターを作って発信したり、感想を書いたりする/ A新聞情報を読む学習を通して、分かったこと、考えたことなどを書く/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
「話すこと・聞くこと」におけるステップ学習
三年・「魚の身の守り方」について話そう
一 三年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉資料を読んで、魚の身の守り方を知ろうとする/ 〈情報の取り出し・解釈〉@資料から情報の内容の大体を読み取る/ A読み取ったことを話すために、資料の内容を整理する/ 〈熟考・評価〉「魚の身の守り方」を「群れる」「だます」に分け、話すためのメモを作る/ 〈表現〉@「魚の身の守り方」について、みんなによく分かるように筋道を立てて話す/ A「魚の身の守り方」について発表する/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
四年・大好きな恐竜発見!
一 四年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉@学習のめあてをもつ/ A学習計画を立てる/ 〈情報の取り出し・解釈〉図書室で調べる/ 〈熟考・評価〉発表し話し合う/ 〈表現〉聞き手に分かるように工夫して発表する/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
「書くこと」におけるステップ学習
三年・調べたことを伝える文章を書こう
一 三年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉調べたいことをカードに書く/ 〈情報の取り出し・解釈〉調べてカードに書く/ 〈熟考・評価〉正しくまとめ、書き方を考える/ 〈表現〉調べたことを生活に生かす/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
四年・本の紹介文を書こう
一 四年生児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解力に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 具体的授業展開の骨子とワークシートの工夫
五 具体的授業の実際
〈課題意識をもつ〉紹介したいことを決める/ 〈情報の取り出し・解釈〉紹介する事柄をはっきりさせて書く/ 〈熟考・評価〉作者の他の童話と比べて書く/ 〈表現〉生活とつなげて考え、表現する/ ☆本単元学習で活用した「できたかなチェックカード」
六 「PISA型読解力」を視野に入れた授業の成果
【解答例】
おわりに /蛭田 正朝

序章PISA型読解力を高める国語科授業の創造〜ジャパン・メソッドの開発

   ――国語科教育の体系化と指導法の組織化で「活用型国語力」を定着→習得→獲得する――
      中京女子大学名誉教授・全国小学校国語教育研究会名誉顧問 /瀬川 榮志


 PISA型読解指導の究極のねらいは「実社会に活用できる学力」の教育である。わが国の教育も「生きる力を育む『生きて働く学力』」の定着を到達目標にしている。国語科教育においても他教科や日常生活に「波及・応用できる国語力」の習得を最終目標としている。つまり、「活用型学力」の完全獲得が新世紀を拓く教育の重要課題なのである。二十一世紀を拓く国語科教育は、国語教育立国を希求し、伝統文化を継承発展させて生命尊重の平和的な日本新生を目指し、国際社会と協調できる国力を高めていかなければならない。この課題解決に向けて、国民一人一人の取り組みが重要となる。国の存亡に関わるこの重要課題にどのように対応すればよいのであろうか。

 命題解決の具体策としては、国語教育立国の理念を追究し、国語科教育の理論を的確に把握することが求められる。この高い理念と確かな理論を根底に据え、国語科指導の原理・原則による実践を展開することが課題解決の具体策となる。

 最近、インド式最速暗算オリジナルメソッドやフィンランド・メソッドの教科書を保護者がわが子の家庭学習に使用し、学力を強化しているという情報も仄聞している。学校教育で「活用型国語力」を完全習得して公教育に対する信頼を確立することも大切である。「国語教育を中核に据えた学校教育」が中央教育審議会答申でも強調されている。

 これからの日本の国語科教育においては、海外の教育理論や効果的な指導法を積極的に導入していくことも重要である。また、日本の伝統的な教育法や国語科教育の理念・理論・方法も重視しなければならない。温故知新・不易流行の精神でジャパン・メソッドを開発し、確立したいものである。


一 「活用型言語力」を獲得する国語科教育の体系化

 全国小学校国語教育研究会は、二〇〇二年七月に「国語力をつける『基礎・基本・統合発信力』ワーク」全七巻(小学校六巻・中学校一巻)を明治図書から刊行している。本書の趣旨は基礎的技能(文字力・語彙力・文法力・発音・発声・リズム・間・緩急・強弱……等の言語に関する事項)を生きて働くスキルとして完全に定着させ、その「活用型技能」を基本的能力(話す、聞く・書く・読むなどの活動で身につく要点・段落・中心・情景・心情……等の能力および説明文・文学文等の読み書き・文字言語能力やインタビュー・プレゼンテーション・討論……等の音声言語能力)へと波及・応用させ、「活用型基本能力」へと高め、完全習得をさせることである。さらには、情報化時代を生き抜く人間力を育成するために、情報発信力(情報活用力と人間関係力〜価値ある情報を双方向的に交流することによって「伝え合う心と技」を身につけた人間関係力の獲得)、すなわち、「活用型統合発信力」を完全獲得させるといった国語科教育の体系化を構想した研究書である。

 この研究書の一貫している理念は実生活に「生きて働く国語力」の定着→習得→獲得である。また、「為すことによって学ぶ」国語科教育指導の原理・原則に基づき「行動学習法」重視でも一貫している。従来の国語科授業は言語知識や技能の一方的な詰め込みが多かったという指摘がある。しかし、新世紀を拓く授業は、学習者主体・言語行動主体でありたいものである。

 「『基礎・基本・統合発信力』ワーク」は単なるワークではなく、生き生きと言語行動を展開する過程で確実に基礎的技能や基本的能力および統合発信力を身につける学習法である。しかも、易から難へのステップを段階的に踏み、フィードバックとアタックとで向上的変容・変革を体験しながら最終目標に到達する「ステップワーク」なのである。統合発信力で獲得した「活用型言語力」は、他教科はもちろん、日常生活や実社会に生きて働く人間力である。

 国語科教育の体系化では、統合発信力について学習指導要領の内容分析を行うとともに、実践を通して修正を加えてきたところである。そして、二〇〇七年二月に@情報収集能力、A情報選材能力、B情報統合能力、C情報分析整合能力、D情報交信能力、の五能力・五過程とした。Bは情報の全体像を描き、Cは描いた全体像を分析・評価する解釈を介入させている。こうした考え方はPISA型読解法の原理・原則をより具体化したものとしてとらえている。

 情報の氾濫による浮薄・軽薄なマイナス情報に対して毅然とした態度で対応し、真理・真実・誠実・寛容・協力協調・精進・努力・敬愛・博愛・奉仕・貢献の精神等の価値ある内容を含む情報を双方向的に交信して、望ましい人間関係を深めていく「統合発信力」を獲得させたいものである。


二 PISA型読解法と国語科教育の螺旋的系統

 国語科教育の体系化は、児童・生徒の言語能力の発達段階に即して基礎・基本・統合発信力を系統的・螺旋的に位置づけるとともに、「活用型学力」を生きて働く国語力として体系化している。実社会に生きて働く「活用型学力」は、基礎的技能の定着段階はもちろん、基本的能力の習得段階においても確実に指導できる。特に統合発信力の獲得段階では的確に指導できる。つまり、螺旋的系統による国語科教育の体系化を企図することによって、PISA型読解法の原理・原則に共通した指導法を従来より実践してきたのである。

 PISA型読解力は「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれた文章や資料を理解し、利用し、熟考する能力」と定義されている。また、フィンランド・メソッドには、@発想力、A論理力、B表現力、C批判的思考力、Dコミュニケーション力、の五つの基本を学ぶことを根底に教科書を編集している。特に価値ある情報を視覚的・論理的に表現した構造図・グラフ・表・地図・写真・漫画・広告……等の非連続型教材を読解する能力を強調している。加えて、理解したことを確たる意見をもって文章表現する能力もPISA型学習法では重要な条件である。つまり、文章中に自分の意見についての根拠が明確であることや、自力で作成した文章を評価する能力が求められる。このような読解力、表現力は、国語科教育の体系化に積極的に組み込む必要がある。「活用型国語力」を駆使するための基礎的技能の定着や基本的能力の習得が徹底されていないと、PISA型学習法を駆使・運用することはできない。なぜなら、語彙力、文字力、文法力等が身についていなければ、確かな理解や論理的な表現などはできないからである。したがって、基礎・基本・統合発信力の螺旋的系統による「活用型国語力」を育成するとともに、各段階においても常時「活用型国語力」を培うようなシステム化が不可欠となる。


   1 活用型基礎的技能の定着

 基礎的技能習得の指導段階における「活用型国語力」定着の学習法を例示する。

 「活用型漢字力」を定着させるためには、@漢字の音訓読みをする、A漢字の字形・筆順を正確に書く、B漢字を文や文章の中で適切に使える、という、「読む」→「書く」→「使う」のステップアップの学習過程を踏む。この学習法で定着した漢字力は文章表現に生きて働き、日常生活や社会生活にも活用される。単なる一〇〇字練習のような書き取り学習では「活用型漢字力」は定着しない。たとえば、漢字書き取りで一〇〇点をとったとしても作文を書くときに、覚えたはずの漢字を使うことができないという結果となる。

 また、「活用型語彙力」を定着させるためには、音読集などを活用して詩を音読・朗読・暗唱させる方法が効果的である。一年生で五〇編、二年生で一〇〇編、三年生で一五〇編……と暗唱している学校の子どもたちの語彙は豊かである。文章理解力も確かになり、文章表現力も伸びていくのである。名作の朗読・暗唱は社会貢献や生涯教育に連動する。このような確実で地道に実践している学校は感性を磨き、心の教育を推進して人間形成の国語教育を目指している。

 国語科教育の体系化では、基礎的技能に単一技能を加え、順序・要点・要約・中心・段落・情景・心情・性格……等の技能も位置づける必要がある。その理由は、たとえば、小学校高学年や中学校・高校・大学の児童・生徒・学生が小学校中学年で習得すべき要点技能を活用できないために説明文・論説文等の読み書きができないという指摘や、会話、討議、スピーチができないという実情に対応したものである。この喫緊の課題解決のために「国語力を高めるワークの開発」【行動学習法による単一技能定着のステップワークの内容構成】(明治図書)一五巻を刊行している。


   2 活用型基本的能力の習得

 基本的能力習得の指導段階における「活用型国語力」定着の学習法を例示する。

 国語科教育の体系化による「基本的能力」を習得する指導において自己変容・変革の習得過程で、「生きて働く国語力(活用型国語力)」を段階的に、「行動学習法」の駆使・運用によって完全に身につけていく。この習得法は「基礎的技能」定着のシステムと同様である。指導対象の「基本的能力」の習得は「基礎的技能」を確実に定着することが前提条件である。従来の国語科指導においては、基礎的技能の系統的指導が不徹底であった。その結果、説明文や文学文の読み書きができなかった。

 「基本的能力」は上位技能であり、支持技能である「基礎的技能」に支えられているという国語能力の実体を構造的に把握することも必須条件である。つまり、「基礎的技能」の的確な位置づけがなければ「基本的能力」は成立しないのである。

 説明文を読む・書く・説明する活動や、文学文を読む・書く・感想を発表する活動には、文字力・語彙力・文法力等の言語事項に関わる「活用型スキル」が支持しているのである。また、順序・要点・要約・中心・段落・要旨・心情・性格・情景・主題等の「活用型単一スキル」も相乗的に作用し、支持しているのである。


   3 活用型統合発信力の獲得

 PISA型読解法においては、非連続的な教材・素材を活用することや情報収集・発信交信力を獲得することが重視されている。第三五回全国小学校国語研究会沖縄(名護)大会では、統合発信力において教科書や新聞・雑誌・ポスター・漫画・図表・グラフ・インターネット・携帯電話等を活用・駆使した単元を構成している。国語教科書に日本の言語文化に関する教材が少ない憂慮すべき実情である。したがって、日本語・標準語・俳句・川柳・和歌や古典等の文学に関する文化をはじめ、漢字文化・朗読文化・方言文化・手紙文化……等の単元を精選し設定する必要がある。そうでないと国語についての知識・教養を身につけ、日本人らしく生きることが希薄になる。


三 国語科教育の研究理念と実践的展開

 本書は北海道国語教育連盟〈低学年〉(平成二一年度全国大会開催)と北九州市小学校国語教育研究会〈高学年〉(平成二二年度全国大会開催)ならびに東京・全国小学校国語教育研究会事務局〈中学年〉が分担して編集する。つまり、全小国研の組織で企画編集する研究書である。これまでも都道府県の公的国語教育研究会で今日的課題について多数出版してきた。その結果、各研究会相互の連携が強化され全小国研の研究内容が充実した。

 本会では質的に高い国語科教育を推進し国語教育立国を目指している。その基本図書として、二〇〇七年二月に「国語教育立国論」No.1『国語教育を中核に据えた学校教育の創造』(明治図書)を発刊した。この研究書は、全小国研の教育理念と研究構想を基底に内容構成している。No.2は『国語科教育の原点追究と改革課題』である。


【新世紀の国語科教育を拓く全小国研の教育理念と研究構想】

   1 教育を育む哲学・文化・思想の創造

 人間が人間としてどう生きるかを真剣に思索・熟考する子どもを育てる。国際社会に伍していく日本人を目指す教育を実践する。教師は自己の人生観・教育観を確立し、教育立国の道を拓くことに専念する。倫理観・価値観が揺れ動き、国の存亡を危惧する社会の実情に対応するため、「教育を育む哲学・文化・思想の追究と具現化を図る」ことが重要である。この基本理念が学校経営・学級経営・日々の授業に具体的に浸透しないと教育活動が浮薄に流れる。


   2 国語科教育の原点を追究し実践理論の確立

 学習指導要領の趣旨を理解し、理論と実践を統一した研究を徹底する。学力低下が問題となっているが、真の学力とは何か、学力向上対策として教師の授業力をどう高めるかが課題となっている。そこで教育実践者は、その対策をどうするか、等々を解決しなければならない。言語の教育としての立場をいっそう明確にして「活用型国語力」で日本人として具備すべき資質・教養・徳性・品格の育成を目指し、国語教育立国論の実践的展開を推進することが必要である。この理想を希求しないと国語授業は軽薄になる。


   3 活用型言語行動力を重視した言語観の追究

 国語科教育を研究する前提は、言語をどう解釈するかを究明することである。言語をコミュニケーションの道具としてみるか、または、人間形成の機能的役割を果たすものとしてみるか、あるいは、言語をスキル重視の解釈としてとらえるか、等を熟考し判断することが大切となる。国語科教育には内容主義と技能主義という対立する主張もある。教育現場においては、価値内容と技能能力を「学習者の言語行動で統一」するようにしたいものである。生き生きと言語行動を展開する過程で確実に「活用型国語力」が定着する授業を創造することが重要にして緊急課題である。


 本書は以上のような全小国研の教育の原点・理念を根底においた、質的に高く、しかも実践的な内容で一貫している。私はフィンランドに三度訪問し、教育実情を視察した。世界に誇る福祉国家は、国の教育体制が確立している。PISA型読解法にももちろん、根底には教育理念や学力観・言語観がある。しかし、わが国には日本独自の哲学・思想・文化があり、国語科教育にも理念・理論・方法が確立されている。要は、国際的視野に立って普遍性・客観性があるかを検証しつつ日本独自の国語科教育を確立しなければならない。日本人として日本語を愛し、国語教育立国が実現できるようなジャパン・メソッドを開拓していきたいものである。

 全小国研はこれまでに各都道府県の小学校国語教育研究会で時の課題について多くの研究書を刊行してきた。このことによって、本会は研究活動が充実するとともに、組織も強固になってきた。本書は低学年、中学年および高学年を三都県の研究会で分担している。編集過程で密接な連携を保ち、情報交換をしないと実践理論として一貫性のある研究書誕生は困難である。情報化時代に研究情報を交流しつつ価値ある単行本を発行することは全小国研の今後の新しい道を拓くモデルとなり、試金石となる。この価値ある研究事業推進にあたっては、金久愼一先生(北九州)に総括という重責をお願いした。確かな理論と的確な企画推進力で対応していただき敬服している。


 全小国研の充実発展のために発足当時から力強いご支援をいただいている明治図書の教育図書出版企画開発室代表の江部満様に心からお礼を申し上げる次第である。また、本企画についても温かいご配慮を賜り深く感謝している。ご期待に添うよう本会のさらなる発展に努めたいと意を新たにしている。

著者紹介

瀬川 榮志(せがわ えいし)著書を検索»

現在 中京女子大学名誉教授 全国小学校国語教育研究会名誉顧問

日本子ども文化学会名誉会長 全国日本語教育学会名誉会長

全国創造国語研究会名誉顧問 全国国語科教育研究所長

21世紀の国語教育を創る会代表

1928年鹿児島に生まれる。東洋大学国文学科卒業。鹿児島県・埼玉県・東京都の公立学校教諭,青梅市教育委員会〜東京都教育委員会指導主事として12年,墨田区〜中野区の校長として10年勤務。その間,文部省教育課程教科等特別委員,教育課程調査研究協力者ならびに副委員長,学習指導要領指導書作成委員,NHK学校放送教育番組企画委員を歴任。公立学校定年退職後,中京女子大学教授として17年間勤務。同大学の子ども文化研究所長として全国組織を拡大。幼・小・中・高・大学の実践指導,経営の教育研究を経験。現在も全国規模で授業実践,理論の確立と「国語教育立国論」の提唱と展開に活躍中。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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