- 序文 「一時間の授業で『生きて働く国語力』が定着する指導秘策」 /瀬川 榮志
- はじめに /上田 保明
- 第T章 一時間の授業で読む力をつける効果的指導
- 1 読む指導のポイント
- 1 学びの喜び
- 2 教材研究の重視
- 3 学びの過程を生かす
- 4 指導方法を工夫する
- 2 一時間で読む力をつける具体的方法
- 五感を使って さらに操作活動を行って
- 1 『ごんぎつね』を動作化で読む ―「くりが固めて置いて」から時間の経過を―
- 2 『ごんぎつね』を動作化と吹き出しで読む ―「あなの中にしゃがむ」ごんぎつねに同化して―
- 3 『カブトガニ』をカードで読む ―「それで」のはたらき―
- 第U章 「読むこと」の基礎的技能の指導
- 【三年生の授業展開】
- 1 相手を意識して 単元名「詩の音読発表会を開こう」
- 2 段落の役割 単元名「わかったことをみんなに知らせよう」
- 【四年生の授業展開】
- 1 声の大きさを変えて 単元名「作品のおもしろさを語り合おう」
- 第V章 「読むこと」の基本的能力の指導
- 【三年生の授業展開】
- 1 それぞれ意味があるのです 「合図としるし」(学図三年)
- 2 これらのかんさつから〜と考えました 「ありの行列」(光村三年)
- 3 霜が足にかみつく 豆太はおくびょうか! 「モチモチの木」(光村三年)
- 4 目を細くして受け取った 「サーカスのライオン」(東書三年)
- 【四年生の授業展開】
- 1 それなのになぜ 「ヤドカリとイソギンチャク」(東書四年)
- 2 段落と段落をつなぐ言葉 「『かむ』ことの力」(光村四年)
- 3 目をつぶったままうなずきました 「ごんぎつね」(東書四年)
- 4 一つだけのお花、大事にするんだよう―― 「一つの花」(光村四年)
- 第W章 「読むこと」の統合発信力の指導
- 【三年生の授業展開】
- 1 伝承文化〜民話の会と交流しよう〜
- 【四年生の授業展開】
- 1 映像文化〜声優に挑戦〜
- おわりに /上田 保明
はじめに
教育基本法の改正をはじめとして教育へ向ける社会やマスコミの目はすさまじいものがある。ことの発端は悲しいかな教育を巡る事件や事故であると言っても過言ではない。深刻ないじめやいじめによる自殺報道の後を絶たないこと、いじめへの教師のかかわり、教師の不祥事の多発、指導力不足教員の問題などなどマスコミの報道は後を絶たない。連鎖的に同様の事件が報道され世論の厳しい目にさらされてきた。まさに学校教育の崩壊を報じているようにも感じられる悲しい日々の連続である。
一方で「二十一世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、教育の再生を図る」ために内閣府に設けられた教育再生会議の立ち上げに見られるように、この現状をどうにか切り抜けなければ、再生しなければとの国民の熱い思いのあることも事実である。指導要領の改訂に向けては、「言葉の力」をキーワードとして行うとの報道に、国語力が再生の鍵を握っていると感じるのは私一人ではなかろう。
単語でしか自分の気持ちを伝えることのできない子どもたちの言葉の現状を見るにつけ、「国語の力」をつけることが急務であると考える。子どものかかわるいじめや事件は「心の荒廃」の結果であると言い続けられ、「豊かな心」を醸成することがその解決策であると唱えられ、各学校においても「心の教育」に十数年来、心血を注いできた。ところが、一向に「心の荒廃」に歯止めがかかるどころか、子どもたちの言動は過激化の一途をたどるばかりとなってきた。
「心の教育」の充実のために 道徳教育=@の浸透を図ってきたが功を奏しなかった。その原因は、極論すれば心を構成する大きな要素である言葉を抜きにして道徳教育を行ってきたからに他ならない。社会生活を営む上で、自分一人ではなく他の人と共存する社会では、コミュニケーションをうまくとることが重要であることは言うまでもない。そのコミュニケーション、人とのかかわりは表情であり行動(態度)であり、声である。声はすなわち言葉である。言葉の学び無くして心の醸成はなされないのは当然である。語彙の豊かな人は、人と豊かなコミュニケーションをとることができ、人とのかかわりを楽しむことができる。語彙を豊かに解釈できる人は自分の感情を豊かに表現できる。また、語彙の豊かな人は他者の言葉を温かく受け入れることができる。そうすれば摩擦は生ぜず、楽しく充実した日々を過ごし、豊かな人生を送ることができると確信する。
このように、豊かな人生を一人一人の子どもたちに歩ませるためにも小学校段階から国語教育に真剣に取り組まなければならない。それは単に国語科教育を一生懸命行えば事足りるというものではない。子どもたちに確かな国語の力をつけるという考えを持って、全教科、全領域にわたって指導にあたらなければならないのだ。中でも、扇の要としての国語科教育は殊の外重視する必要がある。国語科の一時間一時間を大切にした学習の実施。一時間を大切にする学習とは、指導者が、この時間に何を学ばせるのかを明確にして学習に臨むことである。教材研究を行わずして授業はできないとまで厳しく自らを律し、子どもたちの前に立つ気概を新たにしなければこの現状を打破できないとまで危機感をもって日々、一時間一時間を大切にしなければならない。
本書はこのような気概に立って、子どもにとって二度と繰り返すことのない貴重な一時間でどんな国語力を身につけるかを明確にして、一時間の授業プランを立てようとするものである。そのために、当然のことであるが、とかく軽視されがちな教材研究を充分行って、取り上げる教材で学ばせることは何か、つけたい力は何かを明確にした。本書では、その教材研究の結果を構造図として示し、子どもたちにつけたい言葉の力を、 言葉=@そのものとして抽出し、その言葉の価値を追究し、学ばせることとした。単に言葉の意味や解釈を追究するのではなく、学んだ言葉の波及効果はいかなるものなのかを示したつもりである。価値ある言葉を体系的に学ぶならば、スパイラルに子どもは言葉の使い方を豊かに学び、 言葉の力=@のすばらしさを実感し、さらに言葉に積極的にかかわって言語生活を豊かにしていくはずである。
二十一世紀に活躍する子どもたちが、幸せで豊かな人生を歩むためにも、一時間の授業が子どもを変える、否、一時間の授業で子どもを変えるという信念をもって日々の教育活動、なかんずく国語教育に熱意を傾注したいと思う昨今である。
本書では、一時間の授業を大切にして子どもたちに国語力をつける授業のある姿を示したつもりである。ご一読いただき、ご叱正を賜りたい。
山口二十一世紀の国語教育を創る会代表 /上田 保明
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- 明治図書