- 序章・ことばの機能による躾は人間力育成の基盤
- ――学級生活・家庭生活・学校生活における基本的習慣定着の躾―― /瀬川 榮志
- まえがき /榊原 良子
- T 学習への構え
- その@ 発言するときは――
- そのA 話を聞くときは――
- そのB 鉛筆の正しい持ち方は――
- そのC 机上の整理のし方は――
- そのD 道具箱の整理のし方は――
- そのE 初めと終わりのあいさつは――
- そのF 家庭学習のねらいと出し方は――
- U 学習への秩序と人間関係づくり
- 〈場と相手を考えた言葉遣い〉
- (1) 頼まれごとをされたら――
- (2) 来客に対して
- (3) ノートやプリントを提出するとき
- (4) 忘れ物・落とし物をしたとき
- (5) 他の部屋を訪問するとき
- (6) 人に物を借りたとき
- (7) 清掃の初めと終わり
- 〈安全と規律ある行動〉
- (1) 教室移動をするとき
- (2) 靴をそろえる・かさをたたむ
- (3) 教室を美しく
- (4) 公共物の扱い
- (5) ゆずる・待つ・分ける
- (6) 安全な渡し方・扱い方
- (7) 図書室の使い方
- 〈温かい人間関係づくり〉
- (1) あいさつ
- (2) 係りや当番に対して
- (3) 人に迷惑をかけたら
- (4) 友達の失敗に対して
- (5) 行動が遅い子に対して
- (6) 発言が苦手な子に対して
- (7) 友達の誘いを断るのが苦手な子に対して
- V 国語力の基礎を鍛える
- 〈話す・聞く〉
- (1) 「音声言語」を成立させる三要素
- (2) 聞き上手になるために
- (3) 話し上手になるために
- (4) 話し合い上手になるために
- (5) インタビュー上手になるために
- (6) スピーチ上手になるために
- 〈書く〉
- (1) 文字を書くときは
- (2) ノートの意義と使い方
- (3) 低学年のノートづくり
- (4) 中学年のノートづくり
- (5) 高学年のノートづくり
- (6) メモの取り方
- (7) 感じる心を育てるために
- (8) 読みやすい文を書くために
- (9) 視写で書く抵抗をなくすために
- (10) 書き出しの抵抗をなくすために
- (11) イメージを膨らませるために
- (12) 社会の出来事に目を向けて書くために
- (13) 心を伝える手紙の書き方――お見舞いの手紙
- (14) 用件を伝える手紙の書き方――依頼の手紙
- (15) 日記を楽しく書き続けるために
- 〈読む〉
- (1) 教科書の扱い方
- (2) 本を読むときの基礎は
- (3) 音読を上達させるために?
- (4) 音読を上達させるために?
- (5) 音読を楽しむ読み方の工夫
- (6) 音読を楽しむ場の工夫
- (7) 音読の意欲をアップさせる工夫
- (8) 挿絵(絵カード)+キーワードによる粗筋の読み
- (9) 並べ替え操作による順序の確認読み
- (10) 補い書きで省略部分の気持ちを想像する読み
- (11) 心情曲線で気持ちの変化を想像する読み
- (12) 絵に描いてことばの意味や情景を読み取る読み
- (13) 手紙文で感想や意見を伝える読み
- (14) 図式化による構造的な読み
- (15) 重要語句・文の抜粋による読み
- (16) 立場を変えて再構成する読み
- 〈言語〉
- (1) 正しい表記法を身に付けるために
- (2) 乱暴な文字を書く子には
- (3) 辞書を役立てるために
- (4) 楽しい漢字学習のために―読める(1) 〈昔の月の言い方〉
- (5) 楽しい漢字学習のために―読める(2) 〈野菜や果物の名前〉
- (6) 楽しい漢字学習のために―読める(3) 〈海や川の生き物の名前〉
- (7) 楽しい漢字学習のために―読める(4) 〈動物の名前〉
- (8) 楽しい漢字学習のために―読める(5) 〈草花の名前〉
- (9) 楽しい漢字学習のために―読める(6) 〈世界の国の名前〉
- (10) 楽しい漢字学習のために―読める(7) 〈仕事や住まいの名前〉
- (11) 楽しい漢字学習のために―読める(8) 〈四文字熟語〉
- (12) 楽しい漢字学習のために―書ける(1) 〈漢字の成り立ち〉
- (13) 楽しい漢字学習のために―書ける(2) 〈意味が似ている漢字〉
- (14) 楽しい漢字学習のために―書ける(3) 〈ばらばら漢字の正体探し〉
- (15) 楽しい漢字学習のために―書ける(4) 〈漢字のビンゴゲーム〉
- (16) 楽しい漢字学習のために―書ける(5) 〈反対語〉
- (17) 楽しい漢字学習のために―書ける(6) 〈同音異義語〉
- (18) 楽しい漢字学習のために―書ける(7) 〈同じ部分のある漢字〉
- (19) 楽しい漢字学習のために―書ける(8) 〈変かん漢字の間違い直し〉
- (20) 楽しい漢字学習のために―書ける(9) 〈ものの数え方〉
- (21) 楽しい漢字学習のために―書ける(10) 〈自分流「覚え術」にチャレンジ〉
- (22) 楽しい漢字学習のために―調べてみよう(1) 〈自分や家族の名前〉
- (23) 楽しい漢字学習のために―調べてみよう(2) 〈地図を使って名前探し〉
- 答え
- W 子どもを励ます教師の言葉(格言)
- (1) 落ち込みやすい子 「失敗は人間を強くする」
- (2) 飽きっぽい子 「継続は力なり」
- (3) 忘れっぽい子 「忘れることは覚える空間がある証拠」
- (4) いじわる(暴言・暴力)をする子 「友達は宝」
- (5) 嘘を認めない子 「良心の鈴の音に耳をすまそう」
- (6) 当番の仕事を怠ける子 「掃除は自分の心みがき」
- (7) みんなと同じでないと安心できない子 「みんなちがって みんないい」
- (8) マイナス思考に陥りやすい子 「『もう』ではなく『まだ』の気持ちをもとう」
- (9) 間違った友達観をもっている子 「損得を考えず助け合うのが真の友」
- (10) 時間を無駄にする子 「時は命なり」
- (11) ルールを守らない子 「ルールは人の幸せのために作られたもの」
- (12) 協力するのが苦手な子 「一人はみんなのために みんなは一人のために」
- (13) おしゃべりな子 「けじめとタイミングを考えた話こそ輝きを増す」
- (14) 友達と遊べない子 「友達との遊びは社会のルールを守るための準備」
- (15) ものを大切に扱わない子 「ものを大切に扱う子は人にも優しくできる」
- (16) 食べ物の好き嫌いのある子 「人間は食べ物の命をいただいて生きている」
- (17) 失敗を恐れる子 「失敗は成功の第一歩」
- X 信頼され教え上手になるための秘術
- (1) やる気を起こさせるノート・ドリルの評価法
- (2) 作文の短時間処理法
- (3) 教室に備えておきたい教材・教具
- (4) 教室に備えておくと便利な手作りカード・用紙
- (5) 言語環境を充実させる教室掲示
- (6) 指サインで全体を指揮
- (7) 子どもの心を揺さぶる説諭術――けが・けんか・事故等
- (8) 発問のポイントと注意点
- (9) 板書のポイントと注意点
- (10) 教材の読みの過程に即した発問と板書の組み立て技術
- (11) 自ら学習を進めさせる秘術?
- (12) 自ら学習を進めさせる秘術?
- (13) 子どものほめ方・叱り方
- (14) 子どもにやる気を起こさせるほめ言葉
- (15) 個人面談における対応
- (16) 学年・学級懇談の対応
- (17) 学校で起きたけがや事故の対応
- (18) トラブルが起きたときの対応
- あとがき /榊原 良子
まえがき
私たち教師は、「教え屋さん」でも「知識のみを伝達する機械」でもないはずです。人が人を教える「教育」は、まず、教育理念と豊かな人間性、そこから醸し出される言動で子どもたちに人間としての心(魂)や生き方を教えることが肝要であると考えます。
半世紀前の学校では、担任の先生が、自分の体験や自分の家族の出来事などを折りに触れて話してくださいました。当時、担任の先生の意図を汲むことなく聞いていましたが、今振り返ってみると、学習の構えや人間としての生き方をたくさん言葉で教えてくださっていたように思います。
特に、五、六年生に担任していただいた先生は、服装には無頓着で保護者からは不評をかう先生でした。しかし、スポーツ万能の若い男の先生で、休み時間や放課後は子どもたちと遊んでくださり、子どもたちからは慕われていました。私も大好きな先生でした。その、子どもたちが大好きだった先生が、ある日、机をたたいて真剣な表情で関係した子どもたちを廊下に立たせられたのです。そして、一人一人に自分の言動を振り返らせ、今後の決意を話すまで教室に戻らせてもらえなかったことがありました。恥ずかしながら私もその中の一人でした。数日前に転校してきた女の子は、母親と二人暮しで強い意志の子でした。大人から聞いたある子の情報がクラスに広がり、面白半分に投げかけた「父なし子」という言葉は女の子の心にグサッと突き刺さったのでしょう。しばらく学校を休んでしまいました。そのことに対する先生の指導でした。「M子さんはそのような環境を望んで生まれてきたのではない。何も分からずにこの世に生まれてきたのだ。自分の努力で直せないことを言うことは、人間として一番卑劣で恥ずかしいことだ!」
“自分の努力で直せないことを言うことは、人間として一番卑劣で恥ずかしいこと”五〇年前、真剣な表情で諭してくださったこの言葉は今もズシンと私の心の奥に残っている先生の教えです。
即効的な成果を求められる今の教育現場は、教師がゆったりした気分で子どもたちと触れ合う時間と心のゆとりがないのが現状といえます。加えて、学習態度や人と人とのかかわりをもつことよりもテストの点数第一主義の考えの親。幼少期、このような考えで育てられた子どもは、他の人のために奉仕したり困っている人への思いやりの心がもてず、実利効果を求めたり自己中心的な活動が目立ちます。ある学級に補教に行ったときのことです。プリントを配ろうとしたところ、われ先に手を出してむしり取って行く子がいました。また、ある学級で「できた人はノートをもってきなさい」と言ったところ、「ぼくの足が先だった」と言い張り一歩も譲ろうとしないのです。給食のおかわりも、ルールを決めておかないと、好きな料理は独り占めしてしまう子がいるとのことです。たとえ一つのケーキでも、家族みんなで分け合って食べる。母親が兄弟みんなに分けてくれるのを待つ。自分より小さい弟や妹に譲る……など、以前の家庭では当たり前のこととして行われてきたことを、少子化・核家族化で育った子どもたちは経験してきていないのです。この場合は、「順番に並びなさい」「自分の番がくるまで待ちなさい」「分け合いなさい」などという教師の一言が必要です。また、提出物を出すとき、黙って突き出すように提出する子に対して、教師も黙って受け取るのではなく、「『お願いします』『見てください』と言って出しましょう」と、一言をかけて教えたい。“小さなこと”“面倒”かもしれないが、このような教師の一言で、子どもは変わってくるものです。このような教師の一言の指導がもっともっと必要なのです。人間関係が閉ざされ、人間としての生き方が貧しい子どもたちの生活実態のままで、いくら「学力向上」をがんばっても、砂上の楼閣になってしまうのではないでしょうか。
次に、教えることのプロとしての教師は、その人ならではの指導秘術をもつことが大切です。
私が四年生を担任して体育の時間にマット運動で前転を指導することになったときのことです。指導書をよく読んで手の着き方や着く場所など実演しながら一生懸命指導しました。ところが、子どもたちは、マットから出てしまうような大きな回り方をしたり、回り終えた後両足が開いてしまったり……とても連続技などに指導を進めることができませんでした。すると、ベテランの先生が「『お臍を見なさい』と言って回らせると後頭部がマットに着くので安定した回り方ができること」そして、「体育帽を両膝に挟んで回らせると、両足を付けて回ることが身に付いてくること」を教えてくださいました。早速この方法で指導したところ、苦労なくほとんどの子どもたちが合格点で回ることができたのです。まさに、これこそ、教師の指導秘術です。国語科における言語活動においても、「話す・聞く」「書く」「読む」「言語事項」などの技能・能力を身に付けさせるための指導秘術があるはずです。たとえ小さな指導秘術でも、子どもたち一人一人が楽しくやる気と自信をもって自己実現を図ることができればうれしいことです。このような指導秘術を開発したり磨きあげたりすることは、今後、精神的・時間的にゆとりがなくなることが予測される教師にとって、ますます必要になってくると思います。一時期、“教師の指導は子どもの主体性を摘み取る”などという誤った考えが広がり、子どもの生活・学習上で放置できない行動を見ても指導しないことがありました。主体性・創造性は、まず、基礎となる指導があってこそ生み出されてくるものです。安全で楽しい学校生活を送るための学習や生活、人間関係づくりなどの「躾の指導」は、担任を絶対信頼している低学年の時期が効果的であると思います。さらに、仲間意識が芽生える中学年、そして、自我が芽生える高学年……と、子どもたちの発達段階や個々の成長を見極めながら、一貫した姿勢で根気強く指導を続けることが定着につながります。
最近は、“家庭で当然教えられるべきこと”と思うことを学校で教えなければならないことが多くなっていると実感します。しかし、学習や生活、人間関係づくりなどの「躾の指導」は、学校における教育活動の基盤であり、人間の先輩としての教師が、場や機会をとらえて教えていかざるを得ないのが現状です。このことが、今、学校に求められている「学力向上」「確かな学力の定着」に結び付くことになると信じます。
編著者 /榊原 良子
-
- 明治図書
- 言葉の躾が凛々しい子どもたちをつくるのだと感じた。2024/1/2140代・小学校教員