- まえがき
- 第1章 教科の本質をふまえたコンピテンシー・ベースの国語科授業づくり
- 1 新学習指導要領の背景とその特徴
- 新しい教育課程の方向性
- 新しい学習指導要領の趣旨
- 新学習指導要領「国語」のポイント
- 2 コンピテンシーとは何か―PISAの調査問題から―
- 「キー・コンピテンシー」とは何か
- 「コンピテンシー」としての「問題解決能力」
- 3 教科の本質とは何か―教科固有の「見方・考え方」と深い学び―
- 「見方・考え方」とは何か
- 国語科の「見方・考え方」とは何か
- 4 先導的なコンピテンシー教育論―浜本純逸氏の学力論を中心に―
- 浜本純逸氏による「基礎」と「基本」の区別
- コンピテンシーとしての「認識諸能力」と「自己学習力」
- コンピテンシーとしての「21世紀型スキル」
- 5 コンピテンシーとしての論理的思考―根拠・理由・主張の3点セット―
- 根拠・理由・主張の3点セット
- 「大造じいさんとガン」(椋鳩十)の授業―「心に響いた表現 私はこれ! ぼくはここ!」―
- 特別支援学級の実践から
- 6 コンピテンシーとしての「類推」―「未知の状況にも対応できる」思考力のために―
- 「類推」という思考
- 「類推」による詩の解釈
- 「類推」の留意点
- 7 大学入学共通テスト試行問題の検討 ―「根拠」を問い直す―
- 記述式問題の導入?
- 「正答例」の問題〜具体的な根拠をあげること〜
- 8 コンピテンシーとしての「学びに向かう力,人間性等」とは何か
- 「学びに向かう力,人間性等」とは
- CCRのモデル
- メタ認知と「対話的な学び」
- 9 「根拠・理由・主張の3点セット」の活用による深い学び
- 「ちいちゃんのかげおくり」の授業
- 「お手紙」の授業
- 10 「根拠・理由・主張の3点セット」の活用による深い学び(続)
- 「豆太」がいちばん勇気を振り絞ったところ
- 予想外の意見
- 「アプロプリエーション」としての学び
- まとめ
- 11 教科の本質をふまえたコンピテンシーの育成のために
- 授業で育てるべき「資質・能力」の具体化
- 〈教育内容〉〈教科内容〉〈教材内容〉の区別
- 「大造じいさんとガン」の授業デザイン
- まとめ
- 第2章 コンピテンシーとしての論理的思考力・表現力をどう育てるか
- 1 論理的とはどういうことか
- 論理的思考力・表現力の必要性
- 論理的に考えるということ
- 2 論理的であるとは具体的であるということ(その1)
- 論理的イコール具体的
- 授業の事例から
- 3 論理的であるとは具体的であるということ(その2)
- 「大造じいさんとガン」(椋鳩十)の授業
- 「類推」による理由づけ
- 4 「類推」による思考の重要性
- 「故郷」(魯迅)の授業
- 理科の授業における「類推」
- 5 「類推」としての「たとえばなし」
- 「たとえばなし」に見る「類推」
- 「類推」は論理的思考力の前提
- 6 理由づけの質を高める―「すがたをかえる大豆」の授業(その1)―
- 筆者の考えと事例はつながっているか
- 第一次のデザインの重要性
- 7 理由づけの質を高める―「すがたをかえる大豆」の授業(その2)―
- 事例の順序性を検討する
- まとめ
- 8 理由づけの質を高める―「じどう車くらべ」の授業―
- 「導入」に見られる工夫〜生活経験を想起する〜
- まとめ
- 9 理由づけの質を高める―「モチモチの木」の授業―
- 「豆太」の必死さが分かるところ
- 子どもたちの限界
- 10 「根拠・理由・主張の3点セット」の有効性―推薦文を書くために―
- 「大造じいさんとガン」の推薦文を書こう
- 言語活動で留意すべきこと
- 11 論理的な対話が成立するために―質問することの重要性―
- 質問するということ
- 今後の課題
- 第3章 「アクティブ・ラーニング」を超える授業づくり
- 1 「アクティブ・ラーニング」の背景と定義
- 「アクティブ・ラーニング」はどこから生まれてきたか
- 「アクティブ・ラーニング」とは何か
- 2 子どもの問いから出発するアクティブな学び
- 身近な「アクティブ・ラーニング」の事例〜「ごんぎつね」〜
- 頭の中がアクティブな状態であること
- 「アクティブ・ラーニング」の留意点
- 第4章 「見方・考え方」を働かせることによる「深い学び」―西郷竹彦氏の「気のいい火山弾」の授業を中心に―
- 1 「見方・考え方」と「深い学び」
- 2 「見方・考え方」を育てる授業
- 3 「気のいい火山弾」(宮沢賢治)の授業
- 授業の概要
- 授業の考察
- 4 「気のいい火山弾」の授業の意義
- 第5章 困難を抱えた学習者の〈わがこと〉としての学び
- 1 石井順治氏の授業で起こった出来事
- 2 「ごんぎつね」の授業でのエピソード
- 3 私の大学の実践
- あとがき
まえがき
近年,各教科固有の知識・技能に基づく「コンテンツ・ベース」の教育にとどまらず,教科の枠を超えた汎用性の高い能力(コンピテンシー)を軸に,「コンピテンシー・ベース」の教育を推進しようとする動きが世界的に広がっている。
この背景には,産業社会から知識基盤社会への進展にともない,正解のない問題状況の中で,よりよい解決に向けて知識をいかに創造・活用するかということが課題になっているという認識がある。
単に教科書に示された知識・技能の習得・活用にとどまるのでなく,思考力・判断力・表現力などの認知スキル,協働的に問題解決に取り組む意欲や自己調整能力,対人関係などの社会スキルまで学力概念が拡張しているのである。例えば,OECDのDeSeCoプロジェクトによる「キー・コンピテンシー」,ATC21Sプロジェクトによる「21世紀型スキル」などが知られている。日本でも「生きる力」をはじめとして,「社会人基礎力」「学士力」などさまざまなコンピテンシーが提起されてきた。
先の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016年12月)では,次のような「資質・能力の三つの柱」が示された。
@何を理解しているか,何ができるか
(生きて働く「知識・技能」の習得)
A理解していること・できることをどう使うか
(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)
Bどのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか
(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)
2017年3月に告示された小・中学校の学習指導要領では,この三つの柱が,@「知識・技能」,A「思考力・判断力・表現力等」,B「学びに向かう力,人間性等」と整理して示された。そして,こうした「資質・能力」を育てるために,「主体的・対話的で深い学び」の推進が強調されている。
しかし,教育現場がこうした教育行政の動きに振り回されてしまい,「木を見て森を見ず」といった状況に陥るとしたら問題である。
私は,2018年度から,山梨県の「主体的・対話的で深い学び」推進事業のアドバイザーとして,ある中学校の研究・実践に関わっている。当初,先生方の間には「何か特別なことをしなくてはならないのではないか」といった意識が見られた。そこで私はこういう話をした。
「研究推進校に指定されると,特別な研究をしないといけないと思われるかもしれないが,そんなことはありません。『主体的・対話的で深い学び』も同じで,どの先生にもこれまでに『よい授業だったなあ』と感じた授業がいくつかあったと思います。子どもたちが生き生きと目を輝かせて取り組んだ。子どもにとっても教師にとっても新しい発見があった。今日は手応えがあった……。そういう授業が何度かあったと思います。そういう授業は『主体的・対話的で深い学び』になっていたはずです。ですから,教科を超えて,そうした授業づくりに取り組んでいきましょう。」
この話は先生方に安心感や共感を持って受け入れられたようである。そして,本書でも述べるように,教科書の内容を自分の知識・経験と結びつけて〈わがこと〉として学ぶこと(主体的な学び),「教材との対話」「他者との対話」「自己内対話」という三つの対話(対話的な学び),これを通して教科内容の理解が深まり,自己や世界についての認識が深まっていくこと(深い学び)などの基本原則が共有されていった。
本書でも,新学習指導要領の趣旨をふまえつつ,それらを相対化する視点も持ちながら,これからの国語科の授業づくりにおける課題について明らかにして,社会に生きて働くような学力を形成することができるような実践的な提案をしていきたいと思う。
/鶴田 清司
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- 明治図書
- 鶴田先生の研究の内容を、学校教育の場に落とし込んでくれている。2023/5/2720代・男性
- 授業の本質について、なかなか考える機会がなかったですがこの本をきっかけにコンピテンシーベースの授業作りをしてみようと思えました。2023/3/1420代・公務員
- 著者の考え方がわかりやすくまとめられていた。2022/12/3060代・男性
- 類推の記述が面白かった。2020/5/17Y.S