言語活用力を高める説明文の指導 中学年

言語活用力を高める説明文の指導 中学年

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説明文読みの改革課題として(1)読みの追求過程で児童の好奇心や問題意識を刺激しおもしろさを体得させる(2)説明文の学習を嫌う児童への対処(3)情意的側面を重視し言語活用力の育成を強調する。そのために情報受信読みから情報発信読みへの授業構成をする。


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ISBN:
978-4-18-386418-5
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 160頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

序章 実生活に生きて働く「言語活動」育成の授業開発
――「活用型国語力」は情報操作スキルを駆使する言語行動力―― 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
はじめに 全三巻統括責任者 /金久 愼一
T 説明文読みの改革課題
一 説明文指導の課題
1 学習課題設定に対する固定観念
2 説明文の学習を嫌う児童
3 説明文の授業展開の課題
二 情報受信読みから情報発信読みへの授業構成
1 情報受信読みから情報発信読みへの授業展開の必要性
2 説明文読みの基本的な単元展開の構想
U 言語活用力を高める必要性
一 「つめこみ」から「ゆとり」教育への転換課題
二 PISA型読解力低下の実態
1 PISA型読解力結果からの課題
2 PISA型読解力を支える能力
3 全国学力・学習状況調査結果からの課題
三 PISA型読解力を高める新学習指導要領
1 新学習指導要領の基本的方針
2 言語活用力を高める新学習指導要領
V 言語活用力を高める授業構成
一 PISA型読解力の向上を目指す授業構成
1 PISA型読解法の目指す力
2 PISA型読解力の育成を支える七つの力
3 PISA型読解力向上を目指す単元構成
W 言語活用力を高める説明文のステップワーク
一 説明文指導における基礎・基本・統合発信力の螺旋的系統
二 言語活用力を高める基礎・基本・統合発信力の把握
三 言語活用力を高める発問とステップワーク
1 言語活用力を高める発問のポイント
2 言語活用力を高める発問とステップワークとの連動
X 言語活用力を高める基礎学習
1 読点・かぎ
レベル1 読点のちがいを見つけよう
レベル2 読点のちがいから文の意味のちがいを考えよう
レベル3 句読点やかぎ(「 」)を正しく使おう
2 修飾語
レベル1 くわしくする言葉はなぜ必要なのだろう
レベル2 しゅうしょく語を使って文をくわしくしよう
レベル3 しゅうしょく語を使った文をくらべてみよう
3 送り仮名
レベル1 送りがなはどうして必要なのか考えよう
レベル2 送りがなの活用を調べよう
レベル3 送りがなを正しく使って文を書こう
4 慣用句
レベル1 言葉集めゲームをしよう
レベル2 かんよう句カードで遊ぼう
レベル3 かんよう句クイズで遊ぼう
5 類義語・多義語
レベル1 にた意味でちがう言葉・同じ言葉でちがう意味の言葉をさがそう
レベル2 類義語・多義語について調べよう
レベル3 類義語・多義語を広げよう
6 接続語
レベル1 生活の中の接続語をさがそう
レベル2 接続語による文章の意味のちがいを考えよう
レベル3 接続語の世界を広げよう
解答例
Y 言語活用力を高める基本学習
第三学年
段落意識をもちながら読み、要点をまとめよう
一 児童の実態と教材の価値
1 児童の実態
2 教材の価値
二 本教材の技能能力の構造
三 本単元の指導目標と指導計画
1 本単元の指導目標
2 ワーク作成の観点
3 学習指導計画(総時間数11時間)
四 本時の学習指導(4/11)
1 本時のねらいと指導目標
2 本時活用したワークシート
〈ホップ〉 中心となる語句を取り出し、小見出しをつける
〈ステップ〉 形式段落Bで説明されていることを絵に表して、内容をとらえる
〈ジャンプ〉 形式段落Cで説明されていることを絵に表して、内容をとらえる
五 学習の成果と課題
1 本単元学習指導の成果
2 本単元学習指導上の留意点
解答例
段落相互の関係をとらえながら読み、自分の思いや考えを発表しよう
一 児童の実態と教材の価値
1 児童の実態
2 教材の価値
二 本教材の技能能力の構造
三 本単元の指導目標と指導計画
1 本単元の指導目標
2 ワーク作成の観点
3 学習指導計画(総時間数9時間)
四 本時の学習指導(4/9)
1 本時のねらいと指導目標
2 本時活用したワークシート
〈ホップ〉 大切な言葉を見つけ、要点をまとめる
〈ステップ〉 筆者がどうしてB〜Fの順に段落を並べたのか考える
〈ジャンプ〉 自分だったらどんな順番で並べるかを考える
五 学習の成果と課題
1 本単元学習指導の成果
2 本単元学習指導上の留意点
解答例
第四学年
段落相互の関係をとらえ、説明文を書き、文章構成に対する理解を深めよう
一 児童の実態と教材の価値
1 児童の実態
2 教材の価値
二 本教材の技能能力の構造
三 本単元の指導目標と指導計画
1 本単元の指導目標
2 ワーク作成の観点
3 学習指導計画(総時間数9時間)
四 本時の学習指導(4/9)
1 本時のねらいと指導目標
2 本時活用したワークシート
〈ホップ〉 大切な言葉を見つけ、要点をまとめる
〈ステップ〉 「かむことの力」の文章構成を考える
〈ジャンプ〉 自分の説明文の文章構成図を作る
五 学習の成果と課題
1 本単元学習指導の成果
2 本単元学習指導上の留意点
解答例
Z 言語活用力を高める統合学習
第三学年
「食べ物はかせブック」を作ろう
一 児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 本単元学習展開の骨子(総時数8時間)
1 本単元学習展開の骨子
2 本単元学習で活用したワークシート
五 具体的授業の実際
六 言語活用力を高める授業の成果
1 教材研究を生かした授業の成果
2 本単元学習における児童の姿と支援
解答例
第四学年
「MOTTAINAI」新聞を作ろう
一 児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 本単元学習展開の骨子(総時数8時間)
1 本単元学習展開の骨子
2 本単元学習で活用したワークシート
五 具体的授業の実際
六 言語活用力を高める授業の成果
1 教材研究を生かした授業の成果
2 本単元学習における児童の姿と支援
解答例
新聞記事を使って、話し合おう
一 児童の実態と教材の価値
二 PISA型読解に対応する指導展開の工夫
三 本単元の指導目標
四 本単元学習展開の骨子(総時数8時間)
1 本単元学習展開の骨子
2 本単元学習で活用したワークシート
五 具体的授業の実際
六 言語活用力を高める授業の成果
1 教材研究を生かした授業の成果
2 本単元学習における児童の姿と支援
解答例
あとがき /金久 愼一

序章実生活に生きて働く「言語活動」育成の授業開発

   ――「活用型国語力」は情報操作スキルを駆使する言語行動力――
      中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志


 実生活において説明する場面や機会は多い。例えば、学校で学習した内容を親に説明する。家族で話し合ったことを近隣の方に説明し人間関係を深める。学校で研究した結果を説明文で同じテーマの研究校へ送信する。図書館で調べた研究内容を説明し知識を広める。地域社会の伝統文化の研究会に参加し、説明を聞いてその内容を友達に解説する。……等々が想定される。このような実生活における説明の言語活動を積み重ねることによって、説明力を獲得し社会に主体的に参画貢献する人間育成ができる。

 従来の学校教育では、生きて働く言語活動を積極的に推進していなかったようである。これからは、国語科の学習で習得した国語力を実社会に活用できる指導計画や指導法を開発していくことが大切である。そのためには「活用型国語力」が習得できる国語科授業を開発する必要がある。


一 「活用型国語力」を獲得する国語科研究法の開発


 「活用型国語力」は、意図的・計画的に「習得・活用・探究」あるいは、「定着・習得・獲得」または、「思考力・判断力・表現力」育成の言語活動のプロセスで、学習者が主体的・能動的に身につける「生きて働く言語力」である。また、「活用型国語力」育成には、「基礎的技能・基本的能力・統合発信力」の螺旋的系統に即した体系化や、自己実現・変革過程を重視した指導の組織化による授業開発を前提とすることが求められる。我が国の国語科教育では戦後六十余年に及ぶ研究の歴史があるのに、この重要事項を軽視した結果、他教科は勿論、実社会に活用できる「生きて働く国語力」を獲得することができなかったのである。

 実社会に活用できる説明文の指導も、以上の反省事項を的確に押さえて授業開発をすることが大切である。現実の国語科授業では、学習者が生き生きと言語活動を展開する過程で、確実に「基礎・基本・統合発信力」を習得していない学習場面や、共感・感動を共有して主体的学習が展開できない授業が多くなったという声を聞くことがある。つまり、国語力が定着しない授業や、深く思索し感動する授業でなく、軽薄・空転の授業があるという批判である。このような実態の学校は極めて少ないであろうが、打開策としては、校内研究で教材研究や授業研究を徹底し授業力を高める必要がある。また、教育の原点や指導の原理・原則についての研究を重視することも大切である。

 筆者は校内研究や研究団体に二年〜三年の常任講師を依頼された場合には、授業研究スタート前に、教育基本法や学習指導要領の理念・趣旨と、これからの学校教育の方向や国語科教育の在り方について、講義する時間をいただくことが多い。最近は、国語科研究法(教材研究法―指導案作成法―授業分析〜再構成法のサイクル)についても研究授業開始前に具体的な講義をして欲しいと希望する学校も増えている。授業研究は実践理論に基づいて研究し、校内研究の質を高めようという本格的研究が始動しているように実感している。

 平成十九年二月九日に開催された全国小学校国語研究会沖縄名護大会では、僅か一年の研究期間で驚異的な実績を挙げた。経験年数の少ない若い先生方が「生きて働く国語力」が定着するモデル授業を実現した。全国から参加した先生方からは、「理論と実践を統一した研究成果」を子供たちの学習力で実証した素晴らしい研究大会であったという高い評価を得た。「やればできる!!」……という自信と達成感を起点に、現在も国語科研究法に基づく実践を継続している。他府県の全国大会で授業をしたり、提言や研究発表をしたりする実践研究で授業力を発揮している。このように研究成果を収めている原点は、哲学者・教育者である郷土の聖人「順程則翁」の遺訓「六諭のこころ」〔孝順父母・尊敬長上・和睦郷里・教訓子孫・各安生理・母作非為〕を幼・小・中・高等学校の校訓の源泉とし、高い教育理念を掲げて実践活動を展開していることに拠るのである。教師が教育を育む哲学を根底におくことは極めて重要であることを立証している。


 鹿児島県西之表市では、市制施行五十周年を記念して『国語教育立国論No.4 伝統文化に親しむ学校と地域の連携教育』=『活用型学力向上を目指す実践』を明治図書から刊行した。種子島は鉄砲伝来で日本の歴史を変えた島である。現在では、日本唯一の実用ロケット基地があり二十一世紀の宇宙時代を拓く島となっている。赤尾木湾にある西之表港は、天文十二年に孫東珠号が火縄銃を運び伝えた港である。赤尾木城主では、島の基を定めた信基・仁の時堯・智の栖林・勇の久時……と文武両道優れた名君が島を鎮めていた。赤尾木城跡にある榕城小学校の初代校長は、種子島を文化の島、学問の島に築き上げた種子島聖人といわれた前田豊山である。先生は、明治末に新聞界で活躍し「天声人語」の名付け親であった。また、大正の初め、宮内省で勅語や詔書を草稿した西村天囚などの多くの偉人を輩出している。榕城小学校は、前田豊山の遺訓〔人無信不立・慎規律・厳礼儀〕を継承し「榕城魂」とし教育目標に具体化しているのである。市内の各学校でも郷土や地域の偉人・先達の教訓を学校教育を始め家庭や社会に浸透させている。西之表市は伝統文化を継承し発展させるための授業研究法を開発し、今日的課題である「伝統文化重視」と「活用型学力向上」を目指し先行的に実践し、その成果を単行本「教育立国の基盤である国語教育立国論シリーズ」に収録し全国に価値ある情報を発信している。

 子供の学力を向上する源泉である教師の授業力を高めるには、「理念なき教育は軽薄である。理論なき実践は空虚である。実践なき理論は砂上の楼閣である。」を信条に研究を深化し進展することが大切である。


二 基軸となる価値観で日本人育成の国語科教育


 沖縄県名護の「小学校国頭地区小学校国語教育研究会」や、鹿児島県西之表市の「学校と地域の連携教育」のように、教育立国に連動する不易・普遍の理念や価値を基軸にした学校教育を構想する必要がある。教育立国を支える国語教育立国論の理念追究と実践的展開を志向する教育を推進しないと、新世紀を生き抜く日本人育成は実現しないと考える。改訂された教育基本法の第一七条第一項に基づき、教育振興基本計画が策定された。第一章「我が国の教育をめぐる現状と課題」の3に「『教育立国』の実現に向けて」という項目が設定されている。

 教育の新時代を拓くために、国の基本方針として「教育立国」の必要性を提示したことは高く評価できる。この「教育立国」を実現するには「国語科教育」を徹底することが前提条件である。母語・日本語を正確に駆使・運用する国語力・人間力・日本人力を国民一人一人に獲得させることが重要課題である。

 「国語教育立国論」の理念と研究の構想と展開は、「言語行動観に立つ国語教育」(一九七七・七)に遡る。序文の冒頭には、〔変転極まりなく揺れ動いていく時代においては、われわれの価値観も変わってきます。物・量・地位・スピード礼讃の時代から、ひたすら自己実現を目指し、生き甲斐を求め、価値ある行動を希求する気運が高まってきたようです。激動期における『人間性の回復』は、全人類の深刻な課題であり、教育者は人間が人間としての生き方を追究する主体的・創造的人間の育成に全力を傾倒しなければならないと思います。……〕と提言している。

 約三十年前の状況より、さらに、日本の将来を危惧する事態が起きかねないような深刻度を増している現実の社会である。金銭至上主義・物量過剰・精神貧困・スピード礼讃競争激化……等が急速に進み価値観・倫理観が低迷している。この怒濤のように押し寄せてくる社会現象に対応して、日本の国を再建できるのは教育力であると信じている。「言語行動観に立つ国語教育」の序文の中段では〔国語教育は人間形成に直接寄与する教科であると述べています。言語の機能で確かな思考力・創造力を培うことを目的としています。私たち実践者はこの教科の特質に基づいて今日的課題である『生き甲斐を求め人間性豊かな児童・生徒の育成』と『自ら考え正しく判断し、行動する人間の育成』にどのように関わり合いをもつかを真剣に吟味し、その打開策を講じる必要があると考えています。……〕と述べている。


 教育基本法には新しい教育の基本理念が提示され目標も明記された。集約された三事項に注目し、教育実践においては常時念頭におく必要がある。

 (1) 知徳体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間の育成

 (2) 公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する人間

 (3) 我が国の伝統と文化を基盤として国際社会に生きる日本人の育成〜この目標には多様化していく新時代を生き抜く人間像が描かれている。我が国には、今後教育力を必要とする厳しい時代が到来することが予想される。

 したがって、その全体像を把握して、先見性や創造性に富む日本人を育成する学校教育の確立を強調しているのである。高度情報化や国際化が進んでも、不変・普遍の真理・哲学が必要である。短期年限で変転する教育理念では確たる教育改革はできない。ゆとりの教育を重視したり敬遠したりして深く思索しない人間が育つような失策を繰り返してはならないのである。

 「言語行動観に立つ国語教育」の中心思想は、「日本人としての資質『誠実・謙虚で有言実行の価値的言語行動』であり人間力である」と解釈することができる。誠実・謙虚・謙譲・敬愛・忍耐・奉仕・協力・礼節……等は日本人の資質であり美徳である。これら人間の条件を喪失すると人間不信の社会となり、児童・生徒の学習環境は悪化の傾向を辿る。説明文で論理的思考を磨く指導の根拠に教育哲学がないと、人間形成に深く関わる思考力・創造力は育たない。人間社会に背徳行為が多くなることの原因は何か。それは教育の原点追究と改革課題解決に取り組まないことにある。

 説明文の指導も、要点スキルや要約スキル等の技能を指導する域に止まっていてはならない。技能主義万能では、知・徳・体の調和的人間、自己実現を目指し社会の形成に主体的に参画できる日本人を育成することは困難である。

 現代の教育実践で最も大切なことは、軽薄な授業をしないように教育基本法や教育振興基本計画の提示されている事項を哲学的思索で吟味し解釈して自分で納得する授業を創ることである。


三 活用型学力は情報を選択駆使する言語行動力


 現代の社会は、子供の教育にとってよい環境とはいえない事象もみられる。社会人の充実した生き方は子供の鏡であり指標である。「子供は 親の背を見て育つ」ともいわれている。また、知・徳・体、知・情・意の完全発達で調和のとれた日本人育成に役立つ物的環境も整っている社会とはいえないようである。特に懸念されるのは、情報の氾濫である。大人も子供もプラス・マイナス混在の情報の渦中にある。日本国民の価値観が揺らぎ規範意識や倫理観が低下しているのは、情報過多社会現象が深く影響している。高度情報化・国際化が急速なテンポで進んでいる中で、国民の知的レベルを高め、日本社会の発展に寄与し、個人の能力を伸長し、自立した人間を育成し、幸福な生涯を実現するためには、良質な教育的情報環境は不可欠である。

 教育の抜本的改革を構想する前提は「情報教育を中核に据えた学校教育」を実現することである。

 学習指導要領には、第2[各学年の目標及び内容]の〔第3学年及び第4学年〕の2内容「B 書くこと」(2)ウに「収集した資料を効果的に使い、説明する文章などを書くこと。」「C 読むこと」(2)オに「必要な情報を得るために、読んだ内容に関連した他の本や文章などを読むこと。」の二事項を示している。〔第5学年及び第6学年〕の2内容の「B 書くこと」(1)アに「考えたことなどから書くことを決め、目的や意図に応じて、書く事柄を収集し、全体を見通して事柄を整理すること。」「C 読むこと」(1)イに「目的に応じて、本や文章を比べて読むなど効果的な読み方を工夫すること。」(2)イに「自分の課題を解決するために、意見を述べた文章や解説の文章などを利用すること。」を提示している。第3[指導計画の作成と内容の取扱い]の1指導計画の作成(2)には、「第2の各学年の内容の〔A 話すこと・聞くこと〕、〔B 書くこと〕、〔C 読むこと〕及び〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕では、相互に密接に関連付けて指導するとともに、それぞれの能力が偏りなく養われるようにすること。その際、学校図書館などを計画的に利用しその機能の活用を図るようにすること。また、児童が情報機器を活用する機会を設けるなどして、指導の効果を高めるよう工夫すること。――が示されている。学習指導要領に示されている情報活用能力は第2の内容に五事項の提示である。


 情報化時代に対応する学習指導要領には、情報スキルを積極的に盛り込む必要がある。従来の目標・内容の構成では極めて消極的である。戦後六十余年概ねこのような構成である。「表現・理解・言語事項」の二領域一事項の構成は、言語能力の構造が明確になったことは特記すべき改訂であった。しかし、情報教育を重視するための基本的な理念・理論や構成としては大きな変革はないと解釈してよいのではないかと判断している。

 このような目標・内容の構成で「生きて働く国語力」が定着しなかったのは何故であろうか。その原因を厳しく分析し検討することが必要である。また、学習指導要領の指導内容は、量的に多く全指導事項を完全に定着させることは困難であるという声もある。波及・応用する技能・能力精選を徹底して、国語科教育の理念・原理・原則に拠る、目標・内容に再構成することが重要な課題であるという意見もある。つまり、「第1目標と第2内容及び第3指導計画の作成と内容の取り扱い」〜の精選系統化や体系化・組織化を図ることも国語科教育の抜本的な改革課題であるというのである。

 それでは、国語科教育の新時代を拓く「情報活用能力」を獲得する方策をどうすればよいだろうか。その前提条件は、新学力の定義を「活用学力=情報活用能力」であるというように発想転換することである。

 現代の大人や子供たちの日々の生活は、興味・関心のあることについて詳しく知りたい。必要なことについて調べたい〜という意欲的な生き方の連続であると考えたい。いろいろな出来事に無関心な人間もいるが、おもしろく珍しい事件に対して全然関心を示さないという人間は少ない。興味喚起の場面で情報収集力があれば、新しい課題発見のきっかけとなる。人間は日常生活で価値ある情報を、収集・構成・発信・受信・交流活動を通して人間関係を深めていかなくては充実した人生にはならない。このように実生活に活用できる活用力を学校教育で育成することは当然である。

 学校における学習は、全て情報力駆使・運用の連続である。例えば、社会科の授業では社会的情報を単元の目標に即して焦点化し、調べたい情報を取り出し、構成し、評価し、役に立つ情報の交流によって友情を深めていくものである。学級生活や学校生活においても価値ある情報交流をする教育環境を構成したいものである。


 国語科の説明文の指導においても、国語科の学習情報を獲得する過程を重視する。例えば、単元「方言と共通語」の授業では、言葉の機能や言語文化の価値を探究するために情報収集をする。複数の作品・文章や情報機器を活用して学習材を集め、精選し構成して、双方的に交流する活動を展開する。この言語活動には言語技術を必要とする。即ち、言語活動過程では、レポートを書いたり、討論したりする。言語活動過程で、順序力・要点力・要約力・段落力・要旨力や指示語・接続語・キーセンテンス・キーワード……等の言語の基本的能力や、基礎的技能が必然的に作動し定着する。また、この過程で論理的思考や批判的思考等も言語の駆使・運用で獲得されていくのである。

 以上のように情報収集・精選・分析・構成・交信・保存……等々の各情報能力に、言語の基礎的技能と基本的能力を系統的に組織化すると「統合発信力」を主軸とした高度情報化時代に対応する国語科教育の体系化が実現する。

 「『生きる力』を育む国語学習」[一九九七年・明治図書月刊「国語教育別冊」]の創刊号には「情報活用能力を育てる統合的な指導」のタイトルで、単元「太郎図鑑をつくろう〜昔話を楽しく読もう(力太郎)〜二年生」の授業実践を掲載している。授業に挑戦した浅利順子先生は実践報告の冒頭に「与えられた教科書教材を重視した受け身の学習指導から、自分に必要な情報を収集し分類、整理し、『太郎図鑑』にまとめ、さらに、情報を発信し、他者への関わり合い(人間関係力)を獲得しようとする能動的、積極的な学びへの脱却を試みた。本単元は、自分の選んだ昔話を自分の考えた方法で表現行動する言語活動を通して自己実現を図るものである。……」と提言している。

 この授業は、低学年から情報活用能力を完全習得できることを子供の情報活動で実証している。情報化社会に生き抜く人間育成を熟考し構想した浅利先生の授業実践は、新学力観や教育の新時代を拓く国語科教育への先見性を高く評価することができる。子供たちの可能性を信じ教師の確かな指導理論や授業力に期待して「生きる力」を育み「生きて働く国語力」が定着・活用・獲得されていく国語科教育の体系化・組織化を強力に推進したいものである。


 編著者の金久愼一先生は、高い教育理念に基づいて国語科教育の確かな理論と独創的な発想で多くの編著書を出版している。新刊の『価値目標設定で「文学文の読み方」授業を変える』明治図書(全三巻)は、価値目標を達成する、基礎・基本・統合学習で「生きる力=人間力」を育成する貴重な研究実践書である。本著では、教育基本法に提示されている日本人形成に連動する国語科教育の普遍性を提言している。『国語学力を高める「言語事項」の指導』明治図書(全四巻)は、学習指導要領の「国語の特質に関する事項」の本質を的確に押さえ、基礎的技能の完全定着を保証した実践者必携の研究書である。

 本書『言語活用力を高める説明文の指導』(全三巻)は、教育立国の基盤である「国語科教育の原点追究と改革課題」を解決するという視点から、教育観・学力観・国語科教育観・国語能力観を明確にして「活用型国語力」が完全獲得できる具体的な指導法を開発している。

著者紹介

瀬川 榮志(せがわ えいし)著書を検索»

現在 中京女子大学名誉教授 全国小学校国語教育研究会名誉顧問

日本子ども文化学会名誉会長 全国日本語教育学会名誉会長

全国創造国語研究会名誉顧問 全国国語科教育研究所長

21世紀の国語教育を創る会代表 全国小学校国語研究所名誉所長

1928年鹿児島に生まれる。東洋大学国文学科卒業。鹿児島県・埼玉県・東京都の公立学校教諭,青梅市教育委員会〜東京都教育委員会指導主事として12年,墨田区〜中野区の校長として10年勤務。その間,文部省教育課程教科等特別委員,教育課程調査研究協力者並びに副委員長,学習指導要領指導書作成委員,NHK学校放送教育番組企画委員を歴任。公立学校定年退職後,中京女子大学教授として17年間勤務。同大学の子ども文化研究所長として全国組織を拡大。幼・小・中・高・大学の実践指導,経営の教育研究を経験。現在も全国規模で授業実践,理論の確立と「国語教育立国論」の提唱と展開に活躍中。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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