- まえがき
- 第1章 100万人が受けたい!歴史的な見方・考え方を鍛える授業のポイント
- 第2章 歴史的な見方・考え方を鍛える「原始・古代」大人もハマる授業ネタ
- 1 四大文明 なぜ4大文明が大河と乾燥地帯の近くに発生したのか?
- 2 邪馬台国 推定! 邪馬台国
- 3 倭と東アジア 古代の鉄を解剖する
- 4 古墳 なぜ古墳はつくられたのか?
- 5 冠位十二階 ワークショップ! 役人になろう
- 6 平安遷都 泣くよ坊さん平安京!
- 7 平安文化 源氏物語の謎
- 第3章 歴史的な見方・考え方を鍛える「中世」「近世」大人もハマる授業ネタ
- 1 御成敗式目 土地を仲立ちとしていた中世を御成敗式目から読む
- 2 貨幣の発生と普及 鎌倉時代に貨幣が普及したワケ
- 3 モンゴル帝国 ハンバーグとユッケはどこから?
- 4 南北朝時代 一休さんの両親は誰?
- 5 室町時代 肖像・年表・文化遺産から考える足利義満
- 6 自力救済 村の自治
- 7 ルネサンス 活版印刷機発明の意義
- 8 大航海時代 なぜイタリアは凋落し,スペインが隆盛したか?
- 9 少年使節 天正遣欧少年使節から見える日本と世界
- 10 江戸初期 江戸城に天守閣がないワケ
- 11 部落差別のはじまり 「ケガレ」意識から部落差別へ
- 12 江戸時代の交通 北前船によって栄えた日本海側
- 13 江戸時代の経済 富山の薬から元禄期
- 14 江戸時代の貿易 グローバル化の中の江戸時代の衣食
- 15 江戸時代の経済 日本の銀生産と経済の自立
- 16 幕末の商業経済 二宮金次郎はなぜ薪を背負うのか?
- 17 政府の役割のめばえ 天明の大飢饉は天災? 人災?
- 第4章 歴史的な見方・考え方を鍛える「近代」「現代」大人もハマる授業ネタ
- 1 フランス革命 ナポレオン軍が強かったワケ
- 2 産業革命と19世紀の海運 マルコはなぜアルゼンチンまで行けたのか?
- 3 イギリスのインド支配 イギリスが綿布生産国になったワケ
- 4 戊辰戦争 戊辰戦争ってどんな戦争なの?
- 5 太陽暦 太陽暦と政府の財政事情
- 6 普通選挙 多面的・多角的に普通選挙実現を考える
- 7 第一次世界大戦 毒ガスを発明したハーバーの悲劇とは?
- 8 アジアの植民地化 なぜタイは植民地にならなかったのか?
- 9 満州事変 リットン調査団の提案を受け入れるべきだったか?
- 10 沖縄戦 沖縄戦を住民とともに歩んだ知事
- 11 15年戦争 戦争の“いつ”を記憶するか?
- 12 戦後の政治と外交 東京オリンピックから核実験まで
- 13 戦後経済史 キャッチコピーといす取りゲームから戦後経済史を見る
- 14 戦争と平和 戦争シナリオのつくられ方
- あとがき
まえがき
私の実家である京都府木津川市の木津駅近くにマフィンを提供するステキなカフェがある。国道24号線沿いにあり,隣は田園地帯だ。カフェができるまでは,冬場の田園は農業従事者以外は,誰も見向きもしなかった。年末に墓参りに行ったおり,たまたま入ったカフェの窓越しから見える景色が実に素晴らしかった。ときおり走るJR奈良線の列車と田園地帯のコントラストが,店の風情を高め,客のささやかな和みの時間をつくっているようだった。
カフェと田園そしてJRのつくる見事な空間に「授業」を考えるヒントがあるように思う。「田園を走るJRの列車」という題材には,これまでは,誰も見向きもしなかったが,カフェ,そして美味しいマフィンを介することにより,素晴らしい情景がつくり上げられた。授業では,一つ一つの何ら脈絡のないモノを繋ぎ,関連性を紐解き,「へっ!」「ウソ!」「ホント!」という驚きや知的興奮を与えることが不可欠である。学ぶ場を提供していく教師や教材は,このカフェと同じ役割を担うべきではないだろうか。
また,この田園とJRの列車を別の視点から見てみよう。この二つは,誰からも忘れられていたものが,カフェとマフィンにより復活したものである。私たちは,目立たない生徒やヤンチャな生徒を,おきざりにしたまま授業を展開してこなかっただろうか? 多少,こじつけがましいが,そんな自問自答をしてみた。
私は2012年から『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズを世に出した。そのおり,本来「学ぶ」とは“新たな発見”をし,“知的興奮”を喚起し“生き方”をゆさぶるものでなくてはならないとした。しかし「学力低位層」や「学習意欲のない」生徒にとっては,「抑圧装置としての授業」になっているのではないだろうかと自問自答した。ここで,ドラマ『塀の中の中学校』の刑務所に収監されている,中学校を卒業していない服役者(千原せいじ)が,学び直す物語を紹介した。「わからない」授業に耐えられず,「俺をやめさせてくれ。もう耐えられない。俺はいじめなどしたことがなかったが,今,俺はいじめをしている。このまま,ここにいたら,どんどんイヤな人間になってしまう」(要旨)と叫び,自殺しようとした物語である。再度,学ぼうとする服役者の気持ちを生かすことができなかった物語の世界が,現実の学校にも,事実として存在することは否めない。いわゆる「できない子」に光をあて,この「カフェ」のようなモノ(授業)があれば救われるのに……と。
その後,約10年が経過したが,いわゆる「学習意欲」のない生徒への眼差しは,一向に変わらないのではないだろうか? 「主体的・対話的で深い学び」がキーワードになっているが,彼らの「学習意欲(主体性)」は問題視されず,「対話」においても「疎外」されている現状がある。「思考力,判断力,表現力等」「見方・考え方」を問う「深い学び」は,「知識」「理解」ですらあやうい彼らにとっては埒外であろう。私は,「学習意欲」のない生徒が活躍できる授業への工夫をライフワークとしており,授業力は,このような生徒により鍛えられてきたと思っている。「できる」生徒だけが主役なのではなく「すべての生徒」が意欲的に参加できる「学力差のない」授業を追究するのがプロとしての教師の“仕事の流儀”であろう。
本書は「見方・考え方」を軸にすえた授業事例をまとめたものである。「できる生徒」=「活用・探究」,「できない生徒」=「習得」ではなく,「すべての生徒」が「思考力,判断力,表現力等」「見方・考え方」である“汎用力”を身につける,そんな授業が広がることを願ってやまない。
/河原 和之
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- 明治図書
- 以前の版よりも内容が充実しており、使いやすかった。2023/3/2620代・中学校教員
- 教材研究の切り口として参考にさせていただきます2021/6/620代・中学校教員
- 教材研究の際に参考にさせてもらっている2019/7/3120代・中学校教員