- 序
- 第V部 実践編
- コミュニケーション能力を向上させる学習指導
- 1 この単元でねらうコミュニケーション能力/2 単元の特色と仕組み/3 単元の目標/4 単元の指導過程/5 学習の実際/6 まとめ
- 1 親和的なコミュニケーション能力
- @ 楽しく語ろう「たろう物語」
- A 句会ライブをしよう
- B 兼好法師の知恵に学ぼう!
- C 「私を支える言葉」の語り合いをしよう!
- 2 異質と交流するコミュニケーション能力
- @ わくわく遊び発見隊
- A 台湾の友達と交流しよう
- 3 読書・出版に関わるコミュニケーション能力
- @ ブックマーケットを開こう!
- A そのとき心が動いた「秋の読書スペシャル」
- B ザ・ニュースペーパー
- C パンフレットで修学旅行を伝えよう!
序
千葉大学教育学部教授 /寺井 正憲
語りや落語の授業を参観することがある。拝見する場面はお話を覚えた後あたりが多い。学習目標は,声の大きさや語る速さ,間,アイコンタクトなどの技能を磨くとなっている。技能は大切だが,もっと大切なのは,実現しようとする語りのイメージである。例えば,落語などのおもしろい話であれば聞き手に笑ってもらうことであるし,主人公が苦難を乗り越えるような民話では,苦難の折には悲しんで成功の折には喜んで聞いてもらうことである。そのような実現しようとするコミュニケーションのイメージやそれによって生まれる結果のイメージを具体的に持つことが大切で,その上で,それを具体化するにふさわしい技能が磨かれなければならない。これがコミュニケーション戦略を立てるということだが,このような自己実現の能力を中核に据えたコミュニケーション教育がこれからは求められる。
それと同時に,これからのコミュニケーション教育で重要になるのが,協同的なコミュニケーションの発想である。例えば,意見を交わす対話では,論理の対立を明らかにしながら合意を形成することであろうし,落語であれば語り手がおもしろいお話をして聞き手はそれに笑いで応え,落語の世界を共に生み出し支えることであろう。つまり,話し手と聞き手が協同してコミュニケーションを営むという発想である。この発想で授業づくりを行い,協同的なコミュニケーションの能力や態度を育成することが大切である。語りには,参加型の語りという聞き手を積極的にお話の世界に巻き込んで,聞き手の参加度を高めるものがあるが,そのような手法を応用することが協同的なコミュニケーションの授業づくりには有効となってこよう。
これに加えて,これから重要になるのは,メタ・コミュニケーション能力の育成であろう。これはコミュニケーション戦略と連動するものだが,コミュニケーションのイメージを実現するために,自らのコミュニケーションをモニターしたりコントロールしたりする能力である。相互評価と称して教え合いを行うが,人から指摘されなければ声が届いているかどうか分からないような子どもでは困る。自らの語りを自らの耳で聞いてモニターしたり聞き手の反応を見てモニターしたりして,語りをコントロールするような能力を育てていきたいものである。
下巻は,このような課題意識に立って,コミュニケーション能力を向上させる学習指導の授業実践を提案している。現実の歩みは,いろいろな条件の制約もあって遅々としたものではあるが,初志として掲げたコミュニケーション教育を実現できるように今後とも努力していきたい。その意味で,多くの方々にこの本を読んでいただいて,共に豊かなものを目指して歩んでいけることを心より願っている。
2006年12月 編著者
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- 明治図書