- 前書き
- 1 「読むこと」領域の位置と連関
- 一 「読むこと」の能力と授業の革新
- 二 「読むこと」領域の改革ポイント
- 1 教科目標の改革
- 2 学年目標の改革
- 3 指導内容の改革
- 2 「言語活動例」の能力構造と課題
- 一 「言語活動例」の提示の意義
- 二 「言語活動例」が求めるもの
- 三 「言語活動例」の能力構造
- 3 読むことの授業のファイリング
- 一 第一次学習の言語活動例
- 1 導入学習の言語活動例
- 2 学習課題の言語活動例
- 3 学習計画表の構想例
- 二 第二次学習の言語活動例
- 1 中核教材と交響する学習材
- 2 何を読むか
- 3 読むこととしての表現行為
- 三 第三次学習の言語活動例
- 1 発表・交流の言語活動例
- 2 評価の言語活動例
- 4 比べて読む
- 一 比べ読みの意義
- 二 何を比べて読むか
- 三 比べ読みの方法
- 5 作者への旅
- 一《探して読む》能力としての《作者への旅》
- 二《作者への旅》の読書行為法
- 1 ひたすら読む
- 2 エディットしたものを読む
- 3 評論・研究・エッセイを読む
- 4 読んで作る・創る・造る
- 5 読んで演じる
- 6 読んで訪ねる
- 6 人物を読む
- 一 《人物を読む》読書行為の意義
- 二 人物像結晶への道程
- 三 人物像の結晶
- 1 作品の登場人物を描く
- 2 人物の相関図を描く
- 3 人物事典の編纂
- 4 年表・年譜をエディットする
- 5 人物になる方法
- 6 語録集をエディットする
- 7 引用するために読む
- 一 探して読み、引用する
- 二 引用の理論
- 三 引用のルール化試案
- 8 要約するために読む
- 一 情報を活用する引用と要約
- 二 要約の種類
- 三 要約・粗筋のルール化試案
- 9 関わりのある資料を読む
- 一 関わりのある資料を読む
- 二 関連と関係の関わり
- 三 〈関わりのある資料〉の中核と周縁
- 1 図書資料は、どのように全体化するか
- 2 辞書をどのように考えるか
- 3 物語・小説集の何を選ぶか
- 4 詩歌集は何を選ぶか
- 5 絵本は何を選ぶか
- 6 劇などのシナリオは、何を選ぶか
- 7 エッセイは、何を選ぶか
- 8 日記は、何を選ぶか
- 9 伝記は、何を選ぶか
- 10 再読と分読
- 一 再読と分読
- 二 再読と分読における意味の構築
- 三 子どもの再読と分読に関する意識調査
- 1 一年生の再読・分読
- 2 六年生の再読・分読
- 11 評価しながら読む
- 一 自己評価の時代
- 二 言語表現の成立機構と評価
- 三 ロジカル・シンキングと評価
- 四 クリティカル・シンキングと評価
- 五 評価語彙と評価
- 12 読み聞かせの再認識
- 一 読み聞かせの有効性の再認識
- 二 読み聞かせの歴史
- 三 読み聞かせの意義
- 1 読書の楽しみを知り、興味を喚起する
- 2 国語力を育てる
- 3 読書習慣を形成する
- 4 朗読者と聞き手の人間関係を深める
- 5 想像力・創造力を育てる
- 6 朗読者と聞き手の両者を育てる
- 四 読み聞かせの方法の多様化
- 13 図解力と図読力の解明
- 一 図解されるデータと図読の系統化
- 1 各教科における図解と図読
- 2 図読力の発達系統
- 二 図解と図読のリテラシー評価
- 三 図解力と図読力の解明
- 1 図解力と図読力の重層的構造
- 2 図解力と図読力の基本能力
- 14 優れた叙述を読む
- 一 「優れた叙述を読む」とは
- 1 「叙述」力の育成を図る
- 2 叙述法に応じた能力の育成を図る
- 3 優れた叙述を判断する能力を育成する
- 4 優れた叙述を生かす能力を育成する
- 二 「名文」の優れた叙述
- 1 「名文」
- 2 作者に聞く
- 三 読者の判定
- 1 シリーズから優れた叙述を読む
- 2 特定の描写法から優れた叙述を読む
- 3 様式に即して優れた叙述を読む
- 15 覚えながら読む
- ―朗読者への道―
- 一 「覚えながら読む」読書行為力
- 二 ストーリーテラーへの実践過程
- 1 単元構想の実際
- 2 原作からシナリオへ
- 三 暗唱の方法化
- 16 読む力の諸相
- 一 「読むこと」の力
- 二 「言語活動例」の読む力
- 三 「読書術」の力
- 四 「文学の学習資料」の読む力
- 五 「読書力」の読む力
- 17 読書活動のシステムとネットワーク化
- 一 読む力と読書活動システム
- 二 学校図書館に関わる人々の役割関係
- 三 読書活動のシステムとネットワーク化
前書き
読む力の育成について、今改革が強く求められている。その理由は、多様である。
(1) 学習指導要領上、「読むこと」が「話すこと・聞くこと」「書くこと」とともに三領域の一つとして設定された。それを受けて、その指導内容と指導方法を再統合しなければならない。現代の学力観の中で読む力をどのように考えるか。指導内容は、どのように具体化するか。低学年・中学年・高学年のそれぞれにおいて二学年まとめて示された内容を当該学年の系統の中でどのように具体化するか。「話すこと・聞くこと」、「書くこと」とどのように関連付けるか。
(2) 三領域一事項の指導内容と指導方法を明確にし、目指すのは言語主体の育成である。主体的な子ども像を理念とする中で、〈読者としての子ども〉像をどのように描くのか。また、〈表現者としての子ども〉〈創造者としての子ども〉といった子ども像とどのように関連付けるか。また、言語主体を強固なものにするためには、一つの作品を読む力である読書行為力と、日常的に読書を継続する生活を営む読書生活力を統合させるような授業を構想しなければならない。それを教育課程の中でどのように具現するか。
(3) 読むことの対象であるテクストが多彩になっているので、それらに応じて読む力が必要となっている。活字資料のみならず、音声・映像資料もよく活用されるようになった。インタビューを通して得た情報や、テレビ番組のノンフィクション系の情報なども、調べ学習の情報として重要となった。テレビ番組内で、新聞を読んだりするなど、「メディアミックス」といった現象も多い。インターネットなどデジタル資料の活用能力も強く求められている。
このような多彩なテクストが、従来の教科書作品を中核にした教材以外に選択される。これらを副教材や補助教材、学習資料として活用するとき、読む力はどうあったらよいか。一次的な図書資料を対象とする「読書」の力以外に、多彩な「メディアテクストを読む力」の必要に迫られているのである。「読書」ではない読む力が必要である。あるいは、こうも言えようか。「読書」による読む力の育成が、他の多彩なテクストを読む力となるようにするにはどうすればよいか。さらには、物語をシナリオにしたり、報道を評論にしたり、エッセイを小説にしたり、「メディアの転換」というリライトも必要となっている。読む力の範囲が広がっているのだ。
(4) 学習指導要領でも、指導内容を着実に定着させるために、小学校27、中学校7の言語活動例を示したように、読む力は、作品を読むのではなく、「読書活動」という状況において行う能力が必要だ。要約のポイントをいくら知っていても、得た情報をすぐにも自分の意見の援用に活用出来なければ十分ではない。折角よい作品に出合っても、紹介するために要約する活動が出来なければ読む力の広がりはない。どのような読書活動を言語活動として各学年で取り上げるか。
(5) 不読者が多くなったことを受けて「子どもの読書活動の推進に関する法律」(平成一三年)が公布・施行され、さらには、「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(平成一四年)が策定された。『読書力をつける―読書活動のアイデアと実践例16』(明治図書、二〇〇二年)に詳細に述べたが、読書活動を教育課程と関連付けながら、朝の読書や読み聞かせ、ブックトーク、ストーリーテリング、など日常的な活動とどのように関連付ければよいか。私が提唱する、数値目標を明確にして読む「ブックウォーク」のような活動をどのように具体化するか。特に、司書教諭と司書などの人のシステム、学校図書館と公共図書館の連携などの施設システム、どのような資料を活用するのかといった流通や補填などの資料システム、それらの検索システム、など様々な環境作りと人の協力関係などの整備が必要となる。このような環境の中での幅広い視野をもつ読む力が必要となる。
(6) 情報活用リテラシー・コンピュータリテラシー・メディアリテラシーなどの育成が求められている。その中での読む力は、どのように変わるか。コンピュータが確実に普通教室に入っていく状況にある。コンピュータを活用した授業の中で、どのような読書活動が必要なのか。
(7) 読む力は、国語科の力であって、国語科の力ではない。国語科を越えた「国語力」は、他教科や総合的な学習、道徳、特別活動などの中での読む力を育成することを求める。
(8) 新しい評価観に基づいた評価活動が求められている。単元に即して評価規準を設定する。年間指導計画を基盤に、相互に関連付けながら実際の子どもの実態に合わせて評価規準を具体化していく。読む力も、どのように育てたか、その結果が問われる。
*
このような読む力の育成の革新が求められていることに対応するために、本書の基となった連載名を「読むことの革新と新しい授業」(『実践国語研究』二〇〇〇年四月〜二〇〇三年三月、全一八回)としたのであった。ただ、三年間の連載の中で最も心がけたことは、以上述べたような多様な力が求められる時代だからこそ、基礎・基本となることは何かということだった。広がり続ける多様な議論の中で、確実に定着させるべき基礎・基本を明らかにすることが重要な関心事であった。勿論、基礎・基本がそのままそこに閉じこめられるのではなく、読むことの広がりや豊かさにつながるものでなくてはならない。連載をまとめるに当たって『読む力の基礎・基本』としたかったのもそのためである。
*
明治図書の間瀬季夫氏と松本幸子氏には、連載中から本書刊行に至るまでお世話になった。最後になったが、ここに記し感謝の意を表したい。『実践国語研究』の四回の連載を全て単著として世に送り出すことが出来たのもお二人のおかげである。
[第1連載]「再考 文学教材の指導」一九九二〜一九九四年
◆ 『読者としての子どもを育てる文学の授業―文学の授業研究入門―』明治図書、一九九五年
[第2連載]「文学の授業研究」一九九五〜一九九六年
◆ 『文学の授業力をつける―7つの授業と自己学習を進める学習資料40―』明治図書、二〇〇二年
[第3連載]「表現単元の授業の作り方」一九九六〜一九九八年
◆ 『ことばが生まれる―伝え合う力を高める表現単元の授業の作り方』明治図書、二〇〇二年
[第4連載]「読むことの革新と新しい授業」二〇〇〇年〜二〇〇三年
◆ 『読む力の基礎・基本―17の視点による授業づくり』明治図書、二〇〇三年
著者と編集者が、同じ思いを共有しなければこのような刊行は不可能だと思うと、深い感謝を感じざるを得ない。
読者が、本書によって、確実に打ち込んでいく読む力の基礎・基本の楔と、それを身に付けた広がりの楽しさとを同時に感じ取っていただけるならば幸いである。
子どもを導くことを可能にするのは
子どもへの深い愛情と何としても育んでやりたいと思う情熱だ
そして、最も重要なのは、自らの知性が最新の理論によって輝いていることである
二〇〇三年三月 /井上 一郎
-
- 明治図書
- アクティブ・ラーニング型の授業の基本的な考え方が掲載されていて,とてもよかった。参考になった。学校の職員にも薦めた。2015/9/27小学校・校長