- はじめに
- 第1章 新学習指導要領と知的障害特別支援学校において求められるシラバス
- 1 学習指導要領の意義と新学習指導要領のポイント
- 2 学習指導要領に基づく教育課程
- 3 知的障害特別支援学校において作成が求められるシラバス
- 4 教育課程に基づく授業の位置づけ
- 5 カリキュラム・マネジメント
- 第2章 新学習指導要領を踏まえた各教科のシラバスの構築
- 1 新学習指導要領への理解と活用を図るための具体的な取組
- 2 新学習指導要領を踏まえたシラバスの作成
- 3 新学習指導要領を踏まえた授業づくりとシラバスの充実
- 第3章 新学習指導要領を踏まえた各教科の授業実践
- 1 [国語 小学部1段階] ぺこぺこ あおむし
- 〔小学部1年〕
- 2 [国語 小学部2段階] どんな おはなし?
- 〔小学部3年〕
- 3 [国語 小学部3段階] ものがたりを よもう
- 〔小学部6年〕
- 4 [算数 小学部1段階] 形の なかまで 分けましょう
- 〔小学部2年〕
- 5 [算数 小学部2段階] ながいへび・みじかいへび
- 〔小学部3年〕
- 6 [算数 小学部3段階] かずの せいりを しよう
- 〔小学部5年〕
- 7 [音楽 小学部2段階] なんの どうぶつかな? どうぶつに なりきって きこう
- 〔小学部4年〕
- 8 [体育 小学部3段階] ボールゲームを しよう
- 〔小学部5年〕
- 9 [国語 中学部1段階] 家に名前をつけましょう
- 〔中学部1年〕
- 10 [社会 中学部2段階] 海外の食文化と気候について知ろう
- 〔中学部2年〕
- 11 [数学 中学部1段階] 文化祭のチケットを数えて配ろう
- 〔中学部1年〕
- 12 [理科 中学部1段階] ニホンイシガメとわたし
- 〔中学部3年〕
- 13 [音楽 中学部1段階] 食べ物の名前でラップを作ろう
- 〔中学部2年〕
- 14 [保健体育 中学部1段階] サッカー
- 〔中学部2年〕
- 15 [職業・家庭 中学部2段階] 正月の伝統的な料理(雑煮)に親しもう
- 〔中学部3年〕
はじめに
本書を手に取られた方は,新学習指導要領を踏まえた授業づくりに力を入れて取り組みたいと考え,数ある書籍の中から本書を選んでくれたのではないでしょうか。
令和2年度より新学習指導要領の完全実施が小学校より順次始まりました。特別支援学校においても,一般の小学校,中学校,高等学校に合わせて実施されることとなっています。新学習指導要領は,新たに盛り込まれた学習内容だけでなく,学ばせ方である「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」にも大きな注目が集まっています。そのような状況を踏まえ,新学習指導要領の理念を踏まえた授業実践が求められる中で,授業づくりは改めて重要なテーマとなっています。しかし,知的障害特別支援学校における授業づくりでは,一般の小学校,中学校,高等学校での授業づくり以上に「授業」そのものやその過程について深く考えなくてはならない課題がいくつもあります。
学習指導要領は,我が国では法規としての性格を有するものです。それゆえ,全国どの地域で教育を受けても同じ機会が与えられ,同水準の教育を受けることが可能です。各学校は授業づくりの過程で,@「学習指導要領の基準性」を十分に理解した上で,A教育課程を編成し,B授業を実施します。さらに授業の実施後,Cこれまでの過程や授業の結果を評価することが求められます。このように授業づくりの過程を整理して考えると,一般の小学校,中学校,高等学校では各過程において学習指導要領に示される内容を具現化した教科書が大きな役割を果たしていることに気付きます。
一方,知的障害特別支援学校では,どうでしょうか。多くの知的障害特別支援学校においては,@の過程に依拠し,A〜Cの過程の支えであり,授業づくりの「核」ともいえる教科書のような存在がない学校が多いのではないでしょうか。そのような状況では,授業1つ1つは関連や連関をもたない「点」として存在しているに過ぎないことになります。たとえ一つの授業としては素晴らしい実践であっても,1つ1つの授業を結び児童生徒の学びの軌跡を線として描けるような取組にしなければなりません。
この課題に取り組むに当たって,学習指導要領が「学びの地図」としての役割を果たすように,校内の「学びの地図」を構築する必要があります。新学習指導要領を踏まえた授業づくりは喫緊の課題ですが,各学校の学びの地図すなわち,「シラバス」の作成が無いまま授業づくりに取り組んでも,点としての授業実践に終わることでしょう。「シラバス」の作成は,授業づくりの「核」づくりであり,それゆえ今この時期に急務の取組です。児童生徒が,「いつ」「どこで」「何を」「どこまで」「どのように」学ぶのかを明確にすることによって,授業が授業づくりの過程に位置づき,点ではなく線として児童生徒の確かな学びにつながります。また,既習事項を大切にした発展的な学習にも取り組むことができ,知的障害のある児童生徒も教科のアカデミズムに触れられることとなります。
本書では,新学習指導要領を踏まえた授業づくりを考える上で解決すべき課題について,その方策やステップをできるだけ分かりやすく示せるように章立てを工夫しました。
第1章では,改訂された学習指導要領のポイントや教育課程,授業づくりについての理論を学ぶことができるようにしています。続く,第2章では,第1章の理論を具現化した特別支援学校の取組を紹介します。学校全体で新学習指導要領をどのように理解していったのか,その方法としての校内研修の持ち方,そして各学校で作成する「学びの地図」すなわち「シラバス」の作成において参考になる実践です。第3章では,本書のタイトルどおり,新学習指導要領を踏まえた授業づくりモデルを紹介します。新学習指導要領の目標や内容に依拠した指導案を作成すべく,新学習指導要領を視覚的に示した構成図から題材観を述べているところが大きなポイントとなっています。新学習指導要領では,各段階に目標や内容が整理されましたので,各段階の授業づくりが急務な中で第3章の授業づくりモデルはその参考になるのではないでしょうか。本書を手に取った多くの方々は,すぐに第3章からページを開くかもしれません。しかし,本書は特に第1章から第3章へのつながりを大切に考えています。
教師の仕事で最も重要な事は,授業を通して子供たちを成長させることです。これからの社会がどんなに予想困難になっても,実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」,未知の状況にも対応できる「思考力,判断力,表現力等」,学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間性等」をバランスよく育んであげることです。新学習指導要領の理念を鑑み,この3つの力を子供たちにバランスよく育ててあげることが教師の役割ではないでしょうか。
バランスよく,そして体系的に3つの資質・能力を子供たちに育てるためには,学校をあげて組織的に取り組むことが必要となります。そのためにカリキュラム・マネジメントの確立が必要です。ここまで述べてくると,本書に示した章立ての意味合いや各章の重要性が理解いただけたことと思います。学習指導要領や教育課程,シラバスは組織的な教育活動において重要な役割を担います。授業づくりのために,これらについても理解を深め,新学習指導要領を踏まえた授業づくりに取り組んでくださることを切に願います。
本書が新学習指導要領の理念を実現する上で皆様のお役に立てること,また,皆様の実践に寄与できれば幸いです。
編著者 /菅野 敦
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- 明治図書
- 具体的で、俯瞰するには良い内容でした。2021/8/2840代・男性