- はじめに
- 第1章 「自閉スペクトラム症」とは
- 自閉スペクトラム症は謎多き障害だ
- 「自閉スペクトラム症」の診断基準
- 「自閉スペクトラム症」のコミュニケーションは何かしっくりこない
- 「自閉スペクトラム症」は臨機応変が難しい
- スペクトラムと重篤度
- 第2章 教室の中の「自閉スペクトラム症」
- 教室の中の多様性とは?
- …「教室の中の一人一人はみんな違う」と知ることだ。
- 特別支援教育が目指していることは?
- …児童生徒の可能性を、最大限まで伸ばすことだ。
- 学びの場を考える時に大事なことは?
- …家族一人一人が安心し、笑顔で子どもの就学を祝えることだ。
- みんなと仲良く遊べることは必要か?
- …難しい子どもにとって、学校はなかなか大変だ。
- 話を続けてよいか、どう判断する?
- …その手がかりがわからなくて子どもは、困っている。
- 「表と裏」のある世界や、曖昧な世界とどう付き合う?
- …境界線が見えない。だから難しい。
- 「時と場合」をどう使い分ける?
- …その都度、教えてあげる方がよいだろう。
- 「こだわり」にはどう付き合ったらいい?
- …我々の方こそ、「こだわらない」ことだ。
- 急な予定変更をどう受け入れたらいい?
- …可能な限り減らし、できる範囲の「想定」を。
- 柔軟で変化のある遊びについていけないのだが?
- …年齢と共に、段々と減っていくだろう。
- 定型発達の人とは異なることが気になってしまうが?
- …どうしても、目に飛び込んでくるようだ。
- 教室の中は、違いで溢れているが?
- …それを認めよう。そうしなければ時代の針は進まない。
- 感覚過敏で「うるさすぎる」と訴えるが?
- …その声を遮音しているのは、我々かもしれない。
- 原因不明の困った行動が増えたら?
- …環境・季節・体調の変化が影響しているやも。
- 第3章 「自閉スペクトラム症」への支援
- 「交流及び共同学習」で大切にしたいことは何か?
- …教員同士の「交流及び共同学習」が必要だ。
- 学んだ「社会的スキル」が機能するためには?
- …教員が、常に連携していることが必要となる。
- わかりやすい教室環境はどうしたら作れる?
- …構造化の考え方を学ぶことをお勧めする。
- 自分でできるように、支援は減らしていくべき?
- …やめてはいけない。次へと引き継いでいかなければならない。
- 必ず使えるようにしてほしい「ことば」は?
- …「ありがとう」
- 参考文献
はじめに
「サボテンと、チューリップの育て方の違いもわからず、同じ肥料に、同じ水の量を与えれば、サボテンは枯れます」
ある自閉スペクトラム症の男性と話をした時に、彼の口から出た言葉だ。確かに、そうだ。サボテンにジャンジャンと水を与えれば枯れる。一方、サボテンと同じように水をあまり与えなければ、チューリップが枯れる。どちらも花を咲かせたいのなら、それに合った育て方をするしかない。植物を育てる時の常識だ。
多様な植物が、さりげなく育っている庭の方が好きだ。変に整った庭よりは、荒れない程度に雑然とした庭の方が落ち着く。きっと、それが自然だからだ。
「そんな庭、手入れが大変ですよ。庭師を雇えばお金がかかりますし。だから育てやすい花だけを一角に植えます」
確かに、そうだ。手間をかけずに済むのなら、その方がよいだろう。いつの間にか、店先には、そんな都合のよい花が並ぶようになった。こうして、どこもかしこも、似たような景色になっていった。そこに趣などない。
「それが、私たちの過ごしてきた教室の中です」
ドキッとした。否定のしようもない。「違い」はあっても、同じように育てれば、子どもたちはいずれ花開くと思い込んでいた。仮に違っていても、教育の力で「同じ」にできると誤解していた。それでも「違ったまま」ならば…彼らに合った庭を探してきた。そうこうしているうちに、教室の中の景色は変わった。みんなと、うまくやっていくことが苦手な子どもが、そこでどんな花を咲かせていくのか、それすら想像できなくなってしまった。
「どんな教室だったら、よかったのですかね…?」
恐る恐る聞いてみた。
「人も植物と同じ。みんな違う。そのことに気づくことができる教室にしてほしかった」
想像してみた。自閉スペクトラム症の人たちと、私たちの相ズ違レはどこにあるのか。そして、書いてみた。それを埋めるためにではなく、それに気づくために。
著者 /有川 宏幸
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