- はじめに――教室に読み聞かせを
- T 読み聞かせ入門
- 一 「読み聞かせ」とはどのような言語活動か
- 1 「読み聞かせ」の定義
- 2 国語教育の「読み聞かせ」
- 二 読み聞かせの魅力
- 1 声を届かせることの魅力
- 2 価値を共有化できることの魅力
- 3 自由に想像できることの魅力
- 三 読み聞かせと子どもの発達段階
- 1 読み聞かせにおける「聞くこと」の能力
- 2 読み聞かせにおける読み物と発達段階
- U 読み聞かせの実際
- 一 「読み聞かせ」の基本
- 1 場所と配置
- 2 「読み声」を作る
- 3 紙芝居
- 二 『スイミー』を用いての指導
- 1 はじめに
- 2 枠組みと教材
- 3 どんな技術の指導が必要か
- 4 音読の技術
- 5 続き話を書く
- 三 レオ・レオニの世界を探ろう―複数教材を重ねて読む―
- 1 レオ・レオニ作品の教材としての特質
- 2 教材の分析と指導との関連
- 3 重ね読みの可能性
- 四 絵本と音声言語の指導―『フレデリック』を例に―
- 1 絵本と音声言語の指導
- 2 提示の方法
- 3 読み聞かせの実践例
- 五 『りすのわすれもの』―教師による読み聞かせ―
- 1 はじめに―教師による読み聞かせをしよう
- 2 教材と子ども
- 3 指導の実際と留意点
- 4 評価と発展
- 六 『セロ弾きのゴーシュ』―読み聞かせから読書へ―
- 1 指導のねらい
- 2 教材の選定
- 3 展開のしかた
- 4 実践のポイントと評価の観点
- 七 『急行列車』―中学校の読み方指導における朗読―
- 1 読解指導と音声化
- 2 作者ディーノ・ブッツアーティーとその作品の特色
- 3 『急行列車』の構成
- 4 作品世界の特質
- 5 語りと表現
- 6 読み方指導と音声化に関して―『急行列車』の音声化の可能性を探る
- V 読み聞かせの指導の歴史
- 一 大正期の口演童話―下位春吉・水田 光を中心に―
- 1 口演童話への評価
- 2 大正期の「口演童話」の広がり
- 3 児童文化としての「口演」
- 4 大塚講話会の周辺
- 5 口演童話の今日性
- 二 成城小学校「聴き方科」のお話を聞く指導―聞くことの指導実践史 戦前―
- 1 先行実践としてのお話を聞く指導
- 2 授業の具体例
- 3 聴き方科の意義
- 4 お話を聞く指導の成果
- 付録 読み聞かせに適した図書一覧(小学校)
- おわりに
序
有働玲子さんが読み聞かせの本を著した。まず、「おめでとう」と、その出版を祝いたい。
「声の復権を」という。大賛成である。今、子どもたちは声を失っている。小学校高学年、中学校になると、ひどくなる。声で相手に触れていこうとしない。声が萎縮している。体と心が自閉している。彼らは閉塞的状況の中に押し込められている。透る声が出せないでいる。彼らに、声の力のすばらしさを身を以て理解させ、声の力の優れた発揮者になってもらいたい。彼らに「声の復権」を図ってやりたい。
そのために、親と教師が彼らに、声を、肉声を、届け声の魅力を味わわせてやるところから出発しよう。そのために、読み聞かせは最適の手段である。この書は、読み聞かせの意義と、効用と、方法とを示している。
この書は、有働さんの生きてきた、また、今を生きる、時間と空間との接点から生まれてきたものである。
有働さんは、これまで主として日本の音声言語教育について歴史的な見地から調査し、考察してきた。そのことは、この書にも見えるように、口演童話や聴き方指導から読み聞かせの意義の評価研究にまで至っている。一方ではまた、有働さんは、日本ばかりではなく、欧米の読み聞かせの実態についても研究の視野を広げ、実際にアメリカ合衆国ウィスコンシン州オークレア地区の公立校、ロビンズ小学校に、二度にわたって出掛け、日本語の読み聞かせの実験を行っている。時間と空間を結ぶ研究とはこのことをいうのである。
視点を変えて見れば、この書は有働さんの理論研究と実践研究との接点から生まれてきたものであるともいい得る。
有働さんは、中学校・高等学校の国語科教師として、読み聞かせを含む音声言語の指導の実際を研究してきた実践研究家である。その間に、朗読や読み聞かせの養成講座に参加し、自ら実力を磨きもしたと聞いている。有働さんはまた、勤務大学の児童学科で、学生に読み聞かせを中心とした国語教育の理論と実践とを指導する教育者でもある。さらにまた、地域の読み聞かせボランティアを育てるなど、その理論と実践の教育活動は社会教育にまで及んでいる。読み聞かせを含む音声言語の教育にあって、理論と実践との両方を指導できることの意義は相当に大きい。
読み聞かせをしようとするとき、必要になるのは、読み聞かせに関する知識と実力である。知識だけではどうにもならないし、知識がなければ実力は身につかない。ジム・トレリースはその著『読み聞かせ―この素晴らしい世界』(亀井よし子訳 ・高文研)の「やってほしいこと」の第条で、次のようにいっている。
「初めから読み聞かせを自然にできる人は、ほとんどいないということを忘れるな。うまく自然にできるようになるためには、練習が必要である。」
読者諸氏に訴えたい。読み聞かせに興味を持たれたならば、さっそく実践に入ろう。まずはご自分で興味ある本を手にすること。次に練習すること。練習とは、読む練習と、聞かせる練習とである。そして、子どもたちの「声の復権」を図ろう。その際、この書は大きな助けとなる。
奥付に有働さんの旧姓が紹介されている。「草間さん」の時代、当時私が勤めていた東京学芸大学附属世田谷中学校に教育実習で見えた時から、既に音声言語の教育に興味を持っていた有働さんであった。有働さん、ご出版おめでとう。
平成一三年四月二九日 /高橋 俊三
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- 明治図書
- 自分で読んでみる時に、参考になると思いました。(^^)/2018/5/19ムーミン