- はじめに
- 第1章 バーンアウトの現況と予防・軽減の具体方策
- 1 教師に吹きつける厳しい「風」
- 2 バーンアウトという「病」の現状と私の実践
- 3 バーンアウト予防・軽減のポイント〜私の研究から
- 4 自尊感情を高める「言葉綴り」〜守り紙は守り神
- 第2章 自尊感情を高める「言葉綴り」ワーク
- 第2章の読み方
- 事例1 大地先生(30代,小6担任)の悩み 「同僚からの非難」
- 事例2 彰先生(30代,中2担任)の悩み 「生徒に褒めが効かない(1)」
- 事例3 啓輔先生(20代,中2担任)の悩み 「不登校傾向生徒とのかかわり」
- 事例4 英治先生(30代,特別支援学校中2担任)の悩み 「生徒に褒めが効かない(2)」
- 事例5 響子先生(20代,小1担任)の悩み 「子どもの成長が感じられない」
- 事例6 稔先生(40代,教育委員会指導主事)の悩み 「予期せぬ異動」
- 事例7 康子先生(40代,中2担任)の悩み 「生徒の強い反抗」
- 事例8 紀子先生(30代,小1担任)の悩み 「感情的に叱ってしまう」
- 事例9 敬一先生(40代,研究主任)の悩み 「進まぬ『一枚岩』実践」
- 事例10 真野先生(20代,中学校講師)の悩み 「将来の雇用不安」
- 事例11 由起子先生(30代,小1担任)の悩み 「気になる子とのかかわり」
- 事例12 直子先生(20代,特別支援学校小3担任)の悩み 「教育観の合わない同僚とのかかわり」
- 事例13 真理子先生(30代,中1担任)の悩み 「『ねばならない』思考への固執」
- 事例14 颯太先生(20代,中1担任)の悩み 「うつ病休職に伴う焦り」
- 事例15 大輔先生(30代,高2担任)の悩み 「キャリア不安の高校生とのかかわり」
- 事例16 ゼミ生(教職課程履修,大学4年生)の「言葉綴り」実践
- おわりに
はじめに
子どもが目を輝かせて学習に向かい,笑顔で友だちとかかわり合う姿は,教師であれば誰もが願う子どもの姿でしょう。18年間,担任として子どもの前に立っていた私も,日々願っていた姿です。このように幸せな子どもの姿が学校にあふれるには,教師自身のメンタルヘルス(心の健康)が良好であることが大切であると,私は思っています。
教師が明るく,元気であれば,子どもはその姿を鏡のように,自分に反映します。「私の笑顔や上機嫌,ブスっとした顔や不機嫌等々,それらがみな子どもに伝染していた」ということが,担任時代を振り返るとよくわかります。
2020年初頭から今に至るまで世界中を席巻し続けているコロナ禍は,学校現場にも多くの制限に伴う混乱を生み,そのことは,「人とかかわることによるストレス」とも称されるバーンアウト(燃え尽き症候群)として,教師の心に暗い影を落としているのではないかと推察されます。教育職員の精神疾患による病気休職者数が,ここ10年間,5000人前後(全教職員の0.5〜0.6%)で推移している(文部科学省.2020)という事実からも,教師のメンタルヘルスの悪化が危惧されます。
「自分を責めてしまう」「何もかも放り出したくなる」「子ども・親・同僚等に八つ当たりしたくなる」等々の“オニの心”は,私たちの誰もが持ち合わせています。そうした心を鎮め,メンタルヘルスを良好に維持して教壇に立つにはどうすればよいのでしょうか。
ストレス反応やバーンアウトの予防・軽減に関する先行研究を紐解くと,「自尊感情」に焦点を当てたものが多くあります。例えば,自尊感情とストレス反応の相関関係(負の相関)の高さを明らかにしたもの,つまり,「自己評価の感情」である自尊感情の高い人は,「不機嫌・怒り感情」「抑うつ・不安感情」等のストレス反応が抑えられる傾向にあるということです。私自身も学位論文(曽山.2010)の中で,先行研究同様の知見を得ています。
それゆえ,本書では,私たち教師自身のメンタルヘルス維持方策として,自尊感情に焦点を当てた次のようなアプローチを提言しようと考えました。
「言葉綴り」による 10分間 セルフカウンセリング
この,「言葉綴り」「10分間」「セルフカウンセリング」という3つのワードに込めた私の想いを,以下,お伝えします。
<言葉綴り>
私たちは,人とのかかわり,書物,映像,講演等を通して,多くの人の想いによって綴られた様々な言葉を文字・音声の形で届けられています。それらの中でも,自分のお気に入り・自分を支える言葉等があるのではないでしょうか。私にもそうした「宝」のような言葉がたくさんあり,私はそれらを日記やブログに日々,綴っています。
<10分間>
「これはとても効果的だからお薦めです!」と言われても,その実践に時間がかかるようでは,なかなか「取り組みへの一歩」を踏めるものではありません。「10分間」ならば,1日の中でも,1週間の中でも,どこかで「気軽な一歩」を踏みやすいことでしょう。
<セルフカウンセリング>
「この頃,気分が落ち込んで仕方がない。カウンセリングを受けたい」と思っても,クリニック等の「専門機関への一歩」を踏み出すのは,なかなか容易なことではありません。先に述べた時間的なことに加え,「専門機関」という響きが,踏み出しを躊躇させている場合も少なからずあることでしょう。そうであるならば,「自分で,自分にカウンセリングをすればよいのでは?」という想いからの「セルフカウンセリング」です。カウンセリングについては様々な定義がありますが,本書は,師である國分康孝先生の定義;「言語的および非言語的コミュニケーションを通して,相手の行動の変容を援助する人間関係」(國分.1980)を参考に論を展開します。
つまり,本書で提言する,「教師が自尊感情を高めるための10分間セルフカウンセリング」の具体とは次のようになります。
「言葉綴り(自分のお気に入り・自分を支える言葉を文字として綴る)」を通して「わたし」の自尊感情を高めるための「わたし」との10分間対話
本書は2章構成であり,各章の概要は次の通りです。
【第1章 バーンアウトの現況と予防・軽減の具体方策】
1.教師に吹きつける厳しい「風」;教師が直面している困難さについて整理
2.バーンアウトという「病」の現状と私の実践;教師の精神性疾患を「バーンアウト」の視点で捉え,その現状を統計データにより確認するとともに,国が提示する予防策に準じた私自身の実践例を提示
3.バーンアウト予防・軽減のポイント〜私の研究から;私の研究知見から得たバーンアウト予防・軽減の基本を整理
4.自尊感情を高める「言葉綴り」〜守り紙は守り神;自尊感情にターゲットを絞ったバーンアウト予防・軽減策の具体を提言
【第2章 自尊感情を高める「言葉綴り」ワーク】
事例1〜15;私が出会った先生方のエピソードを,教育カウンセリングの理論・技法により整理。自尊感情を高めるためのセルフケアシート;「わたしの守り紙」枠も設定
事例16;ゼミ生の「言葉綴り」実践を紹介
私がこれまでに出会ってきた多くの言葉は,「宝」として,「箱」に大切に収めてあります。本書では,その宝のいくつかを取り出し,教育カウンセリング理論・技法による「磨き」の作業に取りかかりました。その磨き上げた私の宝を参考に,皆さん自身の宝を見つめ,想いとともに磨き直してみるということ。その磨き直した宝が,時に「自分を責めてしまう」「何もかも放り出したくなる」等の,“オニの心”を鎮め,私たちは,元気に仕事・生活に向き合うことができるのではないか…そう思っています。
日々,一生懸命,頑張っている私たちです。「言葉綴りは想い綴り」…様々な想いによって綴られた言葉を今,ゆっくりと見直し,改めて自分の手で文字に綴ってみる…。皆さん自身の手書き文字によって綴られる本書が,いつも皆さん自身を応援する「宝箱」になります。泣きたいとき,倒れそうなとき,そっと宝箱を開けてください。きっと皆さんの心が元気になり,笑顔もあふれることでしょう。
令和3年初秋 少しずつ色づくキャンパス内の紅葉に癒やされながら
/曽山 和彦
〈参考・引用文献〉
・國分康孝(1980)カウンセリングの理論 誠信書房 p.5
・曽山和彦(2010)学校不適応予防に向けたコンサルテーション活動に関する研究〜構成メンバーの特性抽出を中心に〜 中部学院大学大学院人間福祉学研究科人間福祉学専攻博士論文
・文部科学省(2020)令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果(概要)
https://www.mext.go.jp/content/20201222-mxt_syoto01-000011607_00-2.pdf(2021.05.13閲覧)
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- 明治図書
- セルフカウンセリングというテーマが参考になりました。2022/9/1520代・小学校教員