21世紀型授業づくり16「伝え合う力」を育てる双方向型作文学習の創造

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書くこと(作文)は国語授業の原点であり「伝え合う力」を育てるために「双方向型作文学習」の開拓により基礎学力の向上を図る実践提案。従来型の作文学習を乗り超える。


復刊時予価: 2,618円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-346410-2
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 168頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
T 「伝え合う力」を高める双方向型作文学習の提唱
一 「コミュニケーション」という用語の危うさ
二 「コミュニケーション」という用語に関わる歴史的背景
三 「伝え合う」という用語の意義
四 「双方向型作文学習」とは
U 双方向型作文学習の構想
一 「コミュニケーション作文」という用語の曖昧性
二 「コミュニケーション作文」における〈双方向型〉の作文学習事例
1 物語の感想を〈鉛筆対談〉で話し合う
2 「インタビュー」活動に基づいた〈聞き書き〉作文
3 仮想の題材に基づいた〈手紙・報告〉作文
4 新聞の投書欄へ〈投書(意見文)〉を書く
5 読み手からのフィードバックを組み込んだ〈手紙〉作文
三 現在の作文学習指導に見られる〈双方向型〉の事例
1 「クイズ形式」の手法
2 「問い」と 「答え」の鉛筆対談の手法
3 「ディベート」「パネル・ディスカッション」と関連させた手法
4 リレー形式で〈お話〉や〈意見文〉を書く
5 「変身作文」の手法で説明文を「対話形式」の〈シナリオ〉に書き替える
6 「QA化(問いと答え)」の手法で説明文を書き替える
7 物語の登場人物に成り代わって〈往復書簡〉を書く
8 生徒同士で〈説得―納得〉の関係を生み出す意見文指導
V 従来型の作文学習を双方向型作文学習に変える
一 簡単な挿し絵をもとに友達同士で〈お話〉作り
二 お互いの思いを〈手紙〉に託す
三 新聞の投書欄を読んで〈意見〉の交換をする
四 物語を共同で〈シナリオ〉に書き替える
五 説明文を〈インタビュー〉形式に書き替える
六 四コマ漫画をリレー形式で〈お話〉に書き替える
七 料理番組のシェフと視聴者が伝え合う
八 教師とその教え子の間で〈手紙〉のやりとりを行う
九 切実な状況の「虚構の場」を設定して〈手紙〉で伝え合う
1 「恋文」を介して「お断りの返事」と再プロポーズの〈手紙〉のやりとりをする
2 特攻隊員の「遺書」を介して〈手紙〉のやりとりをする
W 双方向型作文学習の創造
一 「ラジオドラマのシナリオ」作りで双方向型作文学習
1 「シナリオ」制作のプロセス
2 制作された「ラジオドラマ」のシナリオ
二 「連詩」作りで双方向型作文学習
1 「連詩」とは何か
2 単元名「連詩に挑戦」の構想(対象―小学校高学年・中学校・高校)
―想像の翼を広げて共同で詩を創ろう―
3 授業の実際
三 「連句」作りで双方向型作文学習
1 「連句に親しむ五つのステップ」
2 現代版 「連句十四」方式による実践
四 「説得劇」作りで双方向型作文学習
1 単元「劇や手紙によって説得をしよう」の授業計画
2 「説得劇」の生徒作品例
五 「物語」作りで双方向型作文学習
1 単元のプロフィール
2 教師の〈読み聞かせ〉で「遊び場の夢」が大きくふくらむ(第一時)
3 楽しい「夢の遊び場」を想像して絵に描く(第二時)
4 「みんなの遊び場のゆめ物語」作りの始まり(第三時・第四時)
5 この話が「ゆめの遊び場の物語」のお勧めです(第五時)
あとがき

まえがき

 数年前まで、あれほど活況を呈していた作文指導(「短作文」指導が中心であったが)がほとんど鳴りを潜めてしまった。これまで、作文指導の時数指定という優遇措置で追い風に乗っていたのが、今回の改訂学習指導要領で「話すこと・聞くこと」がトップの座に躍り出たからであろうか。

 加えて、これも今回新たに登場した「総合的な学習」にあおられたためか、国語科の存在が薄くなってしまった。国語科なくして「総合的な学習」など成立しようもないのに、国語科がまるで「総合的な学習」に寄り添う影のような存在となってしまっているような感すらある。

 しかし、嘆いていても始まらない。何の展望も切り開けない。この辺で、せっかく盛んになった「書くこと(作文)」の活動の教育的な意義を見直していく必要があろう。国語科が、いかに「総合的な学習」にとって重要な位置を占める教科であるかを認めてもらえるような実証的な実践が求められているのだということを認識する必要があろう。

 そのために必要なことは、私たちがもう一度「書くこと(作文)」の指導や国語科の指導の在り方を原点に立ち返って見つめ直していくことである。勿論、今回の新教育課程との関わりも無視するわけにはいかない。新教育課程との関わりを見据えながらも、最も身近で行われている私たちの実践の在り方を見つめ直していくことである。

 本書での提案も、これまでの作文指導の在り方を見つめ直すところから始まった。そして、学級という集団の場で行われている「書くこと」の活動があまりにも〈個〉に埋没し過ぎていたのではないか、という問題点を取り出すことになった。

 確かに、一般的に見れば、「書くこと」の活動は、「話すこと・聞くこと」の活動と比べて〈場面性〉や〈臨場性〉に乏しい。「書くこと」の活動では、「話すこと・聞くこと」の活動のように、書くことの相手である読み手を想定することは出来ても、その読み手が目の前にいなかったり、直ちに読み手からの反応が得にくいといった状況の中で書かざるを得ない。それに比べて、「話すこと・聞くこと」の活動の場合には、聞き手が目の前にいてその反応を確かめながら話を続けていくことが出来る。その結果、話す活動への弾みもつく。

 しかし、これは、あくまでも社会一般の生活の場における状況である。学校という学習の場では、状況が異なる。学級という場では、話すことの活動ばかりでなく、書くことの活動においても、工夫次第で書き手も読み手も同時に存在するような状況を創り出すことが可能なのである。

 つまり、読み手が次の学習ステップにおいては書き手となり、反対に最初の書き手が読み手となるといった状況を意図的に創り出しさえすれば、学級という同じ場所に書き手と読み手がほぼ同時に存在するということになるのである。

 学習の場には、せっかく大勢の子どもたちが机を並べているのである。こうした環境を利用しない手はないだろう。これからの「書くこと(作文)」の指導においては、社会一般の生活の場とは異なるこのような学級という学習の場の特性を大いに活用していくべきである。

 こうした考え方は、今回の新学習指導要領の国語科の総括目標に入ってきた「伝え合う力」の育成とぴったり重なっていくのである。そこで私は、右のような「書くこと(作文)」の学習の方法を「伝え合う力」を高める〈双方向型作文学習〉と名づけることにした。

 今回は、この双方向型作文学習を、教育現場において積極的に創り出していって頂くために、可能な限り具体的な実践事例を取り上げて、その手順や方法を提示することに努めた。

 なお、私は、平素から教育用語、とりわけ実践用語の曖昧性に強い関心を抱いてきた。新学習指導要領において「伝え合う力」という用語が登場した途端に、「コミュニケーション」とか「コミュニケーション能力」という言葉が世上を賑わし始めた。「コミュニケーション」という概念が大切でないとは言わない。しかし、この言葉は非常に多義的でその意味するところが曖昧である。こんな曖昧な言葉を子どもの前で、しかも国語教師が四六時中使っていたら国語の教室はどうなるのか。そこで私は、今回、本書においてこの「コミュニケーション」という言葉に敢えて〈ノー〉という回答を下した。

 この「コミュニケーション」という用語も含めて、我々国語教師は、もう少し教育用語、実践用語について意を用いていく必要があるのではないかと思う。それでなければ、「総合的な学習」のオンパレードの中で、基幹教科としての国語科の立場は維持しきれなくなる。


  二〇〇〇(平成十二)年十二月   /大内 善一

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