社会科授業づくりの理論と方法
本質的な問いを生かした科学的探求学習

社会科授業づくりの理論と方法本質的な問いを生かした科学的探求学習

近日刊行予定

本質的な問いを生かした社会科授業づくりの理論と方法を徹底解説

名著『社会科授業構成の理論と方法』から40年。本質的な問いを生かした探求学習を切り口に、社会科授業づくりの理論と方法を徹底解説。社会科授業の現状と課題から、科学的探求学習の特長、「問いの構造図」づくりと教材研究から授業モデルまでを網羅した必携の書。


紙版価格: 2,200円+税

送料・代引手数料無料

電子書籍版: 未販売

電子化リクエスト受付中

電子書籍化リクエスト

ボタンを押すと電子化リクエストが送信できます。リクエストは弊社での電子化検討及び著者交渉の際に活用させていただきます。

ISBN:
978-4-18-342923-0
ジャンル:
社会
刊行:
対象:
小・中・他
仕様:
A5判 232頁
状態:
近日刊行
出荷:
2020年10月30日
テキスト採用品見本お申込みはこちらから

Contents

もくじの詳細表示

はじめに
第1章 科学的探求学習の特長
第2章 今日の社会科授業の現状と課題
40年前と今は何が変わり,何が変わらなかったのか
第3章 今こそ,問いからつくる科学的探求学習を
1 「なぜ」の問いがなぜ子どもにとって難しいのか
1 教師の発問の技術的な問題―下手な「なぜ」の問いが原因の場合―
2 問いの性質に内在する回答の難しさ―そもそも「なぜ」に答えるのは大変だ―
2 「なぜ」の問いを社会科で問うことの意義
3 教師が解説するのではなく,「議論」「問いかけ」や「仮説の設定」を重視することの意義
1 科学的探求に必要な「開かれた心」と「知的廉直」の獲得
2 社会的事象の解読方法を知る
3 知識の深化を図る
4 科学的探求の過程としての授業
5 「科学的探求学習」が育成しようとしている学力
第4章 「問いの構造図」づくりと教材研究
問いの構造図づくりと教材研究の実際
第5章 「問いの構造図」からの指導案づくり
1 資料集の選択について
2 掲載資料の整理と吟味
3 掲載資料の活用と問いの精緻化
1 冒頭から中盤まで
2 後半から最後まで
第6章 「本質的な問い」の活用 ―歴史学習の事例研究化―
1 本質的な問い(EQ)
2 歴史から教訓を引き出すことの危うさ
3 教訓を導き出すアプローチの改善における「本質的な問い」の可能性―「後づけ」設計―
4 「真正の学び」を
第7章 「知識の構造図」づくりからの授業づくりの問題点
1 山口康助・北俊夫の「知識の構造図」による授業設計論
2 森分孝治の「知識の構造図」による授業設計論とその実例
3 二井正浩の「知識の構造図」による授業設計論
4 子ども主体の探求の考え方の原点に戻る
第8章 問いを構造化しない「なぜ」問い授業の課題
1 資料の読み取り中心アプローチの課題:加藤公明実践を例に
2 グループワーク中心アプローチの課題:自らの経験と学校現場の観察から
1 有難迷惑なインターネットの存在
2 内容的に広がるが質的に深まらない探求
3 民主主義社会の形成者の育成という観点からの課題
3 問いの構造化の意義
第9章 科学的探求学習の授業プラン
1 「古代の貨幣流通」の授業プラン
2 「鎌倉時代の貨幣流通」の授業プラン
3 実践化にあたり―山村案から井手口案へ―
1 中心発問(MQ)
2 導入
3 発問の再構成
4 資(史)料の選択と編集
5 授業用プリントへの落とし込み
6 授業用プリント
4 本章のおわりに
参考:第1章の資料情報
おわりに

はじめに

 筆者が森分孝治氏の著書『社会科授業構成の理論と方法』(明治図書,1978年)に出会ったのは,大学学部時代であるから,1990年代の後半ということになる。その頃,歴史教師になりたかった自分としては,子どもに好き勝手に歴史を調べさせて発表させる「主体的な学び」タイプの授業を過剰に賛美する傾向のある大学の教育学(特に教育方法学)の講義に飽き飽きしていた頃で(筆者はこうした授業を反知性主義だと感じていたし,放任=無責任に思えた),かといって歴史学の成果を延々と解説する高校の歴史教師を好きになれず,悩んでいた。筆者は当時(大学3年次),東洋史のゼミにいたのだが,卒論の準備に向けてその頃から少しずつ読み進めていた漢語の文献を見ていても,これを子どもたちに読ませるわけにはいかないだろうし,当時町の小さな塾(どちらかといえば,成績は公立学校の中くらいかそれ以下の子どもたちが多く通っていた)で塾講師をしていたのだが,英語を教えると大変人気が出たのに,歴史を教えると「うーん,普通じゃね」と中学生たちに言われ,自分の何が課題なのかが全くわからず,もういっそうのこと英語の教師になろうかなと思うようになっていた(ちなみに筆者は現在,更新していないが英語の一種免許状を持っている)。

 そのようなときに前述の書籍に出会い,筆者は少なからず自分の授業の何が課題であるのかをつかむことができるようになった。同書13〜17頁の「今日一般的にみられる社会科授業構成の原理」で解説されている「社会事象のトータルなはあく」「より詳しく,より概念内容豊かなことばで」が悲しいくらい自分の授業スタイルにどんぴしゃに当てはまっていた。同書に出会うまで,中学生たちが歴史の授業を好きになれないのは,中学校の歴史教師が歴史の中身について十分な理解のないまま大雑把に教えていることに原因があると筆者は考えていた。もっと歴史の事実について詳細かつ包括的に教えていけば,子どもたちはより歴史の全体像を描けるのではないかと考えて,高校の授業かと言わんばかりに中学生に歴史を解説した。また,歴史の「オモシロ」エピソードを添えることも忘れなかった。平安時代の貴族の男色や江戸時代は混浴が一般的であったこと,春日局の教育,秀吉が広島城を馬鹿にした話など,いろいろした。だが,それは今思えば,塾に来ていた中学生たちを教えている中学校の社会科教師たちもおそらく筆者と同じことをやっていたのだと思う。子どもたちはその教え方では駄目だと感じているから塾に来ているのに,結局同じことを自分はやってしまっていたのだから,評価されるわけがない。同書17〜21頁にある「今日の社会科授業の問題状況」,すなわち「教材過剰」「事象の断片的羅列的学習」「転移しない知識」「知的に挑戦しない面白くない授業(「なぜ」を問い,じっくり問題を読み解いていくことをしない授業)」を,その気はなく自分も生み出していたのである。

 同書で森分氏が提案している科学的探求学習とでも呼ぶべき授業理論は,その後筆者が実際に高校現場,特にあまり学力が高いと言えない学校で力を発揮した。同書を最初読んだときは進学校向きかなと筆者は感じていたのだが,実際は違った。むしろ進学校(といっても筆者が勤めていた高校の子どもたちは圧倒的に中堅私立大学志望者が多く,偏差値60に届くかどうかの学校だった)の子どもたちは,2年生くらいから私立文系への対策を望むため,穴埋めプリントを欲したし,同僚は1問1点(計100問)の事実確認型テストを中間・期末試験で実施したため,科学的探求学習をしても「それはそれで面白いが,今はとにかく受験に通ることだ」といった熱によって排除されやすかった。しかし,筆者の予想を裏切って,偏差値40を下回る高校で,その威力を発揮した。そのときに筆者が子どもたちに投げかけた問いは,現代社会の授業だったこともあって,「なんで政府は今,聖域なき構造改革で郵便局をやり玉に挙げているんだろう」「今は莫大な黒字である年金なのに,どうして将来年金が支払われなくなるかもしれないと言われているのか:積立方式と賦課方式」などであった。ただ,決してレベルの低いものをやったつもりはない。最初はそこの子どもたちは筆者の話を面倒くさそうに聞いていた。発問に応じるわけもない。「なんでなんでしつこい」と言われ,「まあええけぇ,解説してや」といった調子だったが,彼らの考えている世界と全然違う世の中の実態があること,いやむしろ,彼らが薄々肌で感じていたことが事実であったことを確認するにいたって,そしてその頃進展していた聖域なき構造改革は自分たち既得権益のない者たちの味方であるどころか,第三次産業が中心となる日本社会において,強烈な実力主義の競争社会(ほとんど勝ちが約束されていない無限の競争)に彼らを連れ出すこと,そして既得権益をもつ者がこの競争でも有利であることを感づくことによって,彼らの間に危機意識が芽生えてきた。年金だって,払っている人が将来馬鹿をみることになる確率よりも,払っていなかった(払えなかった)人が自己責任だと言って将来福祉から切り捨てられる確率の方がずっと高いことを彼らは理解し,自らの親の言うことが全く正しくないことを自覚するようになった。

 筆者にとって衝撃的だったのは,別に進学校ではないので,進学指導をする気などさらさらなかったのに,教室の何人かが「大学に行きたい」と言い出したことだった。ある子どもたちは,「なぜって自分は考えるのが嫌いだったけど,この授業で世の中の読み解き方が少しわかった気がする。もっと大学でなぜを考えたい」と言っていた。

 もう一つ驚いたのは,彼らの親たちの反応である。家族のうちの誰も大学に行っていないような家庭の子たちなので,子どもが大学に行きたいなどと言ったら,「無駄なお金だ」と言って反対するのかなと思っていたら,逆の反応で,むしろ熱烈歓迎といった感じであった。英語の塾講師の時代にも個人的に経験してきたことなのだが,学歴がない親ほど,子が勉強することについて喜ぶ傾向があるようだ。

 こうした経験もあって,筆者は2005年に東京学芸大学の講師職に就任して以来,社会科教育法の授業で,同書を教科書に指定し,科学的探求学習を学生たちに教えてきた。ただ,同書の中身がだんだん時代に合わなくなってきていることは確かだ。事例も「水道管が鉛管」だとか「ヤクルトの瓶がプラスチックに……」など,今の学生にはピンとこない。「幕藩体制」の授業も,今では完全否定されているような歴史学説に基づいて作成されている。同書の中で森分氏が批判の対象にしている各種の民間研究会などが開発した社会科の授業理論も多くが1960年代から70年代のもので,時代に合っていない。そして何より,教育学が発展してきて,森分氏が主張していることのいくつかが,明らかに学説に合わなくなってきている。「知的に面白い」授業をテクニカルに教室で実施することは大切なことかもしれないが,それだけで授業が成り立つのは比較的に学力の高い子どもたちだけであり,多くの子どもたちには別の学びの「意味づけ」が必要となることを,「正統的周辺参加」論などに依拠する研究者が指摘するようになり,また実際にそれを裏づける実証的なデータも存在する。また,昨今では,森分氏が哲学的に保持してきた「事実と判断の二元論」という前提それ自体,もはや正当化することが難しい。

 さらに,本書で筆者が繰り返し述べているのだが,学校現場で実際に行われてきた科学的探求学習は,『社会科授業構成の理論と方法』で論じられているような,「指導された討論」によって子どもたちの主体的な探求を支援する,といった姿からはほど遠い,教師のご都合で一方的に授業が展開していくようなものが多い。これは,教師側が何かしらの知識(法則・理論や概念)を教えるために探求学習を組織していることで生じている現象と言え,法則・理論や概念の教授を重視する地理や政治・経済といった社会科学の領域で行うのであれば,それはそれでよいのかもしれない。しかし,あくまで何が起きたのか事実を捉えることに重きを置く人文学領域である歴史領域,つまり総合科学的な存在とも言える歴史領域においては,何かしらの理論や概念を先に設定して授業を組織することは,矛盾した行為に筆者には感じる。何か特定の理論や概念を教えるための歴史は,ある意味で歪んだ,一面的な歴史認識を容認することになる。歴史領域は歴史的事実を探ることに重きを置くのであれば,理論や概念の学びは副次的に生じるものでなければならず,まず重視するべきは,探求それ自体の方法を学ぶことで,実際に一人一人が歴史で何が生じたのか,なぜ生じたのか,事実を探求し続けることができるようにしていくことでなければならないのではないだろうか。そのためには,知識から授業を組織するのではなく,問いから授業を組織するやり方に転換せねばならない。こうした問題意識から,このたび,筆者は新たなる科学的探求学習の理論書を執筆する決心をした。

 なお筆者は,本書の示す理論が社会科(歴史)教育の本質であって,四六時中,この理論に基づいて授業をするべきである,とは考えていない。社会科(歴史)の授業はもっと多様であってよいし,そうあるべきだ。その方が民主主義社会の形成者の育成に寄与するところは大きい。ただ,教育政策も教育学も主体的な学びを過度に強調する傾向にある最近において,また旧態依然の事実網羅と統制の学習に固執する教師が少なからず存在している今日の学校現場の現状において,どちらの勢力からも科学的探求学習は軽視される傾向にある。筆者はこの学習を学校現場から消すことには強く反対だ。これが民主主義社会の形成者を育成することを教科目標とする社会科(当然歴史も含む)の中で大きな役割を果たすことは,この学習法を行ってきた者であれば,誰もがうなずく部分であろう。私たちは,改良を加えながら,この学習を継承せねばならない。

 なお,本書で示されている理論は筆者が森分氏の提唱したものを独自で解釈し改良を加えたものである。当然のことながら,それらの全てを森分氏やその思想的継承者たちが承認するものではないことは断っておきたい。本書に記載されていることの責任は全て著者のみが負う。


   /渡部 竜也

著者紹介

渡部 竜也(わたなべ たつや)著書を検索»

1976年広島生まれ。東京学芸大学教育学部准教授。博士(教育学)。

日本社会科教育学会評議員,全国社会科教育学会理事。

井手口 泰典(いでぐち たいすけ)著書を検索»

1989年福岡生まれ長崎育ち。青雲高等学校・青雲中学校教諭(社会科)。

東京学芸大学教育学部卒業後,学校法人青雲学園で教鞭を執り現在に至る。全国社会科教育学会会員。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
    • この商品は皆様からのご感想・ご意見を募集中です

      明治図書
読者アンケート回答でもれなく300円分のクーポンプレゼント!

ページトップへ