「読解力」を高める国語科授業の改革
PISA型読解力を中心に

「読解力」を高める国語科授業の改革PISA型読解力を中心に

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PISA型読解力はどのように育てるのか

「読解力の低下」の視点から、国語の授業のあり方を見直し、向上へのヒントを提出する。そのためにPISA調査の結果分析をめぐる多くの言説を分析し、国内の学力調査結果と比較しこれからの国語科教育の方向を提示する。論理的思考力・表現力を育てる方策も提案。


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ISBN:
978-4-18-338112-5
ジャンル:
国語
刊行:
3刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 164頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき
第1章 「読解力の低下」問題への基本的な視座
――国語の授業のあり方を見直していくこと――
1 「読解力の低下」問題の本質
2 国語の授業が好きになること―私の実践から―
3 「あとかくしの雪」の学習課題
4 「読解力」の向上を考えるためのヒント
第2章 PISA調査の結果をどう見るか・その1
――「読解力の低下」は真実か――
1 PISA二〇〇三年調査の結果
2 国内の学力調査の結果
3 「読解力」は低下傾向にある
第3章 PISA調査の結果をどう見るか・その2
――「読解力の低下」をめぐる言説の問題――
1 「読解力の低下」をめぐる言説の問題
2 PISA型読解力と国語科の読解力
3 PISA型読解力を育成する場としての総合的学習
第4章 PISA調査の結果をどう見るか・その3
――国内の学力調査結果もふまえた今後の国語科授業のあり方――
1 国内の学力調査から見えてくるもの
2 PISA型読解力の向上のためのプランを検討する
3 これからの国語科授業のあり方
第5章 PISA調査の結果をどう見るか・その4
――「読むこと」指導の改革・三つのポイント――
1 基礎的な読解力を保障する
2 批評力を育てる
3 論理的な思考力・表現力を育てる
4 指導上の留意点
第6章 PISA調査の結果をどう見るか・その5
――フィンランドの国語教科書を検討する――
1 フィンランドの国語教科書の翻訳
2 「フィンランド・メソッド」における「五つの力」
3 「読むこと」の教材について
4 日本の教科書との比較
5 まとめ
第7章 国語科と総合的学習との関係・その1
――国語科練習単元という発想――
1 実用的・機能的リテラシーを育てる場としての総合的学習
2 総合的な学習の時間は十分に機能しているか
3 国語科練習単元の発想
4 総合的学習と言語技術教育との関係
5 PISA型読解力を高めるための国語科練習単元
第8章 国語科と総合的学習との関係・その2
――機能的・実用的なリテラシーの育成に向けて――
1 「わたしたち“町のひみつ”たんけんたい」の授業(小学校二年)
2 「魚を育てる森」の「吟味よみ」の授業(中学校三年)
第9章 PISA型読解力を高める国語科授業のあり方・その1
――情報として読むこと――
1 PISA型読解力は国語科に何を提起しているか
2 古典的名著『本を読む本』を読む
3 「情報読み」の実践提案
4 まとめ
第10章 PISA型読解力を高める国語科授業のあり方・その2
――批評すること――
1 「批評力」としてのPISA型読解力
2 「批評力」の育成をめざす先行研究・実践
3 松本サリン事件の新聞報道を批判的に読み解く
4 批評的に読むことの最終的な目的
第11章 PISA型読解力を高める国語科授業のあり方・その3
――論理的に思考すること・表現すること――
1 論理的な思考力・表現力を育てるための学習法
2 アメリカの作文教育に学ぶ
3 PISAの自由記述式問題
4 まとめ
第12章 PISA型読解力を高める国語科授業のあり方・その4
――〈解釈〉と〈分析〉の見直しとその統合――
1 はじめに
2 〈解釈〉と〈分析〉の背景と概念
3 PISAにおける「解釈」と「熟考・評価」
4 まとめ
第13章 PISA型読解力育成のための教科間の連携・協力のあり方
1 教科間の連携・協力―PISAショックへの対応―
2 一般的な「読解力」と教科固有の「読解力」の異同
3 まとめ
第14章 PISA型読解力育成のための教材集
1 『思考力トレーニングシート ことばの力』
2 「わかりにくいところを見つけよう」
3 「かん板を作り直そう」
4 まとめ
第15章 今なぜPISA型読解力の必要性が叫ばれているのか
――総括に代えて――
1 PISA型読解力はなぜ重要なのか
2 PISA二〇〇三年調査の意味するもの
あとがき

まえがき

 周知のように、二〇〇三年七月に実施された「OECD生徒の学習到達度調査(Programme for nernaional Sden ssessmen)」(PISA)の結果、日本の高校一年生の「読解力(reading lierac)」が前回調査(二〇〇〇年)よりも大幅に低下した。それによると、平均点の順位は八位から一四位になった。上位集団からOECD平均と同程度への低落である。しかも、諸外国に比べて日本の平均点が二四ポイントと一番大きく下がっている。なお、そこで問題になっている「読解力」は「PISA型読解力」とも言われ、本書でも詳しく述べるように、これまでの国語科教育における読解力よりも広義で、機能的・実用的な性格が強いものになっている(図表などの非連続型テキストを含み、思考力や表現力なども求められる)。

 この衝撃的な結果は「PISAショック」とも言われ、近年の「学力低下」論と重ねる形で、マスコミもこぞってセンセーショナルに取り上げた。当事者である文部科学省がこの問題を深刻に受け止めたことは言うまでもない。さっそく「読解力向上に関する指導資料―PISA調査(読解力)の結果分析と改善の方向―」(二〇〇五年十二月)を発表したことにもそれが表れている。

 こうした情勢の中で、教育雑誌も相次いで特集を組んでいる。『初等教育資料』誌では、二〇〇六年五〜七月号において各教科における「読解力」の育成のあり方を探っている。また、『現代教育科学』誌二〇〇六年九月号では「PISA型読解力は何を示唆するか」、『BERD』誌二〇〇六年第六号(ベネッセ教育研究開発センター)では「読解力(reading lierac)、日本の教育の何が問われているのか」、『月刊国語教育』誌二〇〇七年六月号では「PISA型読解力向上の方略」、『教育時評』誌第一二号(学校教育研究所、二〇〇七年七月)では「PISA型学力を考える」という特集を組んでいる。

 単行本では、横浜国立大学附属横浜中学校編『「読解力」とは何か〜PISA調査における「読解力」を核としたカリキュラムマネジメント〜』(二〇〇六年、三省堂)、人間教育研究協議会編『教育フォーラム38いま求められる〈読解力〉とは』(二〇〇六年、金子書房)などもこの問題に取り組んでいる。

 学会レベルでは、日本言語技術教育学会が第15回大会(二〇〇六年)で「『読解力の低下』問題と国語科授業の改革」というパネルディスカッション、日本教育方法学会が第43回大会(二〇〇七年)で「PISA型読解力を検討する」というシンポジウムを開催している。

 いずれもPISAに対する関心とその影響の大きさが感じられる。

 一方、国語科教育の世界では、従来の狭い意味での読解力だけではPISAのような学力調査に通用しない、もっと言うと、それだけでは社会生活に必要なリテラシーを身につけることができないという意味で、国語科の「開国」が迫られていると考える向きが多い。そのため、PISA型読解力そのものに異論を唱える人はほとんどいない。その必要性は共有されていると言えよう。

 二〇〇六年十月に開かれた全国大学国語教育学会宮崎大会では、「他教科と国語教育〜各教科は読解指導をどう考えているか〜」というテーマのもとで、シンポジウムが行われた。参加者からは、「これまでの読解力という言葉はもう寿命が尽きたと考えられないか」、「教科による思考や言語の違いを明確にした上で国語科の枠組みをもっと広げるべきである」といった意見が出た。

 このように、旧来の読解指導の問題を乗り越えようという志向が濃厚である。「読解力とは何か、それをどのように育てるか」という問題をめぐって、国語科教育の世界でも議論が活性化することになるだろう。

 二〇〇二年に「総合的学習の時間」がスタートしたとき、筆者を含めて、調べ学習や発表学習を支える実践的な国語力(言語技術)の重要性とその育成を指摘する声があった。そのときにも国語科の「開国」が迫られていた。「PISAショック」は、それに続く二度目の「開国」要求であると言える。

 最近、各地区の教育研究協議会や各学校の校内研究レベルでも、基礎学力の向上と関連させて、PISA型読解力の育成を研究テーマに掲げるところが増えている。

 例えば、静岡県沼津市の「言語科『読解の時間』」の取り組みもその一つである。沼津市立第五小学校ではPISA型読解力の育成を意識した系統表が作られている。例えば、「分析的思考力」では「比較」「分類・類推」「関係」、「論理的思考力」では「順序」「因果」「理由・主張」となっている(詳しくは本書第13章を参照)。

 広島県安芸高田市立向原小学校の「論理科」、香川大学附属坂出小学校の「思考様式」研究なども、教科横断的にどのような思考力を育てるかという実践的試行であり、PISA型読解力の育成に通じている。

 まもなく改訂される学習指導要領にも、PISAの結果が大きく影響することは間違いない。現に二〇〇七年四月二十四日に一斉に実施された全国学力調査の「国語B」は、まさしくPISA型読解力対応の問題であった。

 PISA型読解力の本質や旧来の読解力との相違は、本書の中でも明らかにされるだろうが、いずれにしても《読む力》は国語科の基礎学力として最も重要である。いや各教科を通して、それはすべての学習の基礎である。読めなければ書けないし、読み書き能力が低ければ、音声言語活動も貧しいものとなる。

 本書は、こうした情勢をふまえて、今後の国語科教育においてPISA型読解力のような新しい「読解力」をどのように育てるかという問題に対して、教材論や授業論のレベルで具体的に答えようとするものである。

 なお本書では、旧来の読解力と区別して、カギカッコ付きの「読解力」と表記している。それは基本的に、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」というPISAにおける「読解力(reading lierac)」と同じような概念であるが、私個人は、「書かれたテキスト」だけに限定せず、実物や映像なども読み解く対象に含めていきたいと考えている。PISA型読解力とは本来、それほどに広範で機能的・実用的な概念なのである。最近では、“読解力”という手垢にまみれた用語を避けて、「情報リテラシー」とか「情報活用能力」といった用語を使っている人たちもいるが、それでも構わないだろう。

 読者各位には忌憚のないご意見・ご批判をお願いしたい。


   /鶴田 清司

著者紹介

鶴田 清司(つるだ せいじ)著書を検索»

1955年,山梨県生まれ。都留文科大学教授。教育学博士。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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