- はじめに
- 理論編
- ◇1 PISA型読解力を育てる授業の基礎知識
- 1 PISA型の授業をつくるときによくある質問
- 2 どのようにPISA型読解力の授業を設計したらよいか?
- ◇2 小学校でPISA型授業を作る工夫
- 1 小学校でPISA型の発問を作る工夫
- (1) 文学的文章における発問の作り方
- (2) 説明的文章における発問の作り方
- 2 PISA型の単元を作る工夫
- 3 PISA型の授業を実施する工夫
- ◇3 中学校でPISA型授業を作る工夫
- 1 PISA型読解力の授業を設計する工夫〈どうすればPISA型読解力を育てる授業ができるのですか?〉
- 2 PISA型の発問を作る工夫〈PISA型の発問は今までの国語の発問とどこが違うのですか?〉
- 3 PISA型の単元を作る工夫〈授業時数が少ないのにどうやってPISA型読解力を取り入れたらよいのですか?〉
- 実践編 小学校
- ◇小学1年 指導事例 「おおきなかぶ」
- ◇小学1年 指導事例 「じどう車くらべ」
- ◇小学1年 指導事例 「たぬきの糸車」
- ◇小学2年 指導事例 「スイミー」
- ◇小学2年 指導事例 「お手紙」
- ◇小学2年 指導事例 「スーホの白い馬」
- ◇小学3年 指導事例 「三年とうげ」
- ◇小学3年 指導事例 「モチモチの木」
- ◇小学3年 指導事例 「ありの行列」
- ◇小学4年 指導事例 「ごんぎつね」
- ◇小学4年 指導事例 「『伝え合う』ということ」
- ◇小学4年 指導事例 「一つの花」
- ◇小学5年 指導事例 「サクラソウとトラマルハナバチ」
- ◇小学5年 指導事例 「大造じいさんとガン」
- ◇小学5年 指導事例 「わらぐつの中の神様」
- ◇小学6年 指導事例 「海の命」
- ◇小学6年 指導事例 「やまなし」
- ◇小学6年 指導事例 「みんなで生きる町」
- 実践編 中学校
- ◇中学1年 文学教材指導事例 「オツベルと象」
- ◇中学1年 文学教材指導事例 「ベンチ」
- ◇中学1年 文学教材指導事例 「少年の日の思い出」
- ◇中学1年 文学教材指導事例 「ふしぎ」
- ◇中学1年 説明的教材指導事例 「ユニバーサルな心を目指して」
- ◇中学1年 説明的教材指導事例 「言葉を考える」
- ◇中学2年 文学教材指導事例 「ジーンズ」
- ◇中学2年 文学教材指導事例 「走れメロス」
- ◇中学2年 文学教材指導事例 「空中ブランコ乗りのキキ」
- ◇中学2年 説明的教材指導事例 「ガイヤの知性」
- ◇中学3年 文学教材指導事例 「故郷」
- ◇中学3年 文学教材指導事例 「ウミガメと少年」
- ◇中学3年 説明的教材指導事例 「メディア社会を生きる」
はじめに
2007年4月に全国学習状況調査が行われ,その「B問題」の中にはPISA読解力調査とよく似たものが含まれている。中には,現在の小中学校では余り教えられていないものも含まれている。しかし,小中学校の先生方の反応は余り芳しくない。
「なぜ国際テストの順位を上げるために,授業を変えなければならないのか?」と反発する人は少なくない。しかし,これは大きな誤解である。
PISAの得点は上がるにこしたことはないが,点数競争を助長してよいことはない。日本の教育界では点数を競わせるような偏った教育はとっくに否定されている。その理由は,点数競争を強調すれば,点数でははかれない「感性」とか「思いやり」とか「協調性」とかあらゆる大切なものがないがしろにされる可能性が高くなるからである。
PISA型読解力が学力調査に取り入れられる唯一で最大の理由は,子どもたちの「生きる力」を育てるためである。我が国ではこれまで「生きる力」は漠然ととらえられがちだった。どんな英語に訳してみても,欧米人には首をひねられることが多かったのである。なぜなら,多くの欧米人はクリティカル・シンキングこそが「生きる力」だと思っているからなのである。
なお,PISA型読解力テストが日本で実施されたことによって,日本人が初めて国際的な基準で「生きる力」を測定されたことになる。なぜならPISAの目玉はクリティカル・リーディングであり,それは日本の教室ではほとんど教えられてこなかったからである。
外国人と交流のない多くの教師には,国際基準がどうあろうが関係ないと思っている人もいるだろう。しかし,それは大きな間違いである。子どもたちはインターネットを通じて音楽や映画などあらゆるジャンルでまったく同時に国際社会に参加しているのである。
芸能だけでなく,最先端で働く企業や官庁もまったく同時に国際社会に参加している。ということはその影響下にあるすべての組織が国際社会に参加しているということである。
だから国際基準に沿った読解力や表現力を身につけていることは,「生きる力」を育てるために欠くことができない。
また,2008年3月に告示された新学習指導要領についても同様の誤解が少なからずある。新学習指導要領には,PISA型読解力テストに対応する指導事項が新たに示されたが,これらもPISAテスト対策ではない。OECDのキー・コンピタンシーを「生きる力」の総体ととらえ,その中のPISA型読解力が,これからの子どもたちにとって必要かくべからざる力と考えて,新学習指導要領にはPISA型読解力が取り入れられたのである。
しかし,PISA型読解力が取り入れられるための大きな障害は,何をどうやって教えたらよいかがまったく未開拓であることである。
この本は,小・中学校の教師が国際基準に沿ったPISA型読解力を育てるために,どのような単元計画でどのような発問をどのような方法で教えたらよいかを提案した。
本書の特徴は次の5点である。
1.PISA型読解力についてのよくある質問をQ&A形式でわかりやすく解説した。
2.小学校や中学校でPISA型読解力を授業に取り入れる際の具体的な留意点をわかりやすく具体的に解説した。
3.小・中学校の教科書に掲載されている有名教材についてPISA型読解力の授業方法を提案した。
4.各教材ごとに具体的な単元計画を提案した。
5.各教材ごとに具体的なPISA型の発問を提案した。
これらの単元計画や発問は実際にさいたま市の小・中学校で実践を重ね,楽しくしかもPISA型の力が育つことが立証された授業実践に基づいている。したがって,基本的な指導技術を持った方なら,必ず楽しく力の付く授業が実現出来るはずである。
この授業プラン集をさいたま市の小・中学校の教諭をメンバーとして行ったことは,さいたま市が,私が関係した限りで最も早くPISA型読解力の育成に取り組んでいたからである。
具体的には,奥脇千鶴子さんが中心になって,小・中学校教諭に指導し,私も支援させていただいた。この本は,さいたま市で行われた研修や授業実践活動の積み重ねの成果である。
小学校の事例については,和田卓也さんが,中学校の事例については,奥脇さんがリーダーとなって指導やアドバイスをしてまとめていただいた。
この本が,PISA型読解力を普及し日本の国語教育の普及に役立つことを祈ってやまない。
2008年10月 /有元 秀文
-
- 明治図書