- はじめに
- INTRODUCTION なぜ,今,数学的探究なのか
- 0.1 次世代の学びが必要だ!
- 0.2 算数・数学の学習過程のイメージが示すメッセージを受け取る
- 0.3 コロナ禍,GIGAスクール構想を変化へのチャンスとする
- 0.4 受け身の学びを個別最適化していくインフラとしてICTを用いる
- 0.5 対話や探究を支援するためにICTを用いる
- CHAPTER1 探究とは何かを実感する
- 1.1 筋書きとは少し違う授業を経験する
- 1.2 一つの問題に長く取り組む経験をする
- 1.3 思考の「サイクル」に注目する
- 1.4 問いの連鎖と深まりに注目する
- 1.5 観察と問いのかかわりを具体例で実感する
- CHAPTER2 探究を支援する道具を理解する
- 2.1 ICTを学びの道具として位置づける
- 2.2 省力化の向こうにあるものを見据える
- 2.3 わかりやすい解説の向こうにあるものを見据える
- 2.4 体験を変える仕掛けとしてICTを用いる
- 2.5 探究を設計し具現化する仕掛けとしてICTを用いる
- 2.6 体験していないことはわからない
- CHAPTER3 タブレットPCで学びを変える
- 3.1 タブレットPCの特徴を知る
- 3.2 対話と探究を支援する道具としてタブレットPCを用いる
- 3.3 いつでもどこでもタブレットPCを使えるようにする
- 3.4 教育用ソフトのあり方を広げる
- CHAPTER4 グループの学びに任せる
- 4.1 1つのGCの画面で4人が学び合う魅力を感じる
- 4.2 発表の準備や教え合いとは別のものをグループに求める
- 4.3 「集まりたいから集まる」ようにする
- 4.4 自分たちの感覚に則した疑問・仮説を主体的に検討する
- CHAPTER5 教科書の問題を探究してみる
- 5.1 教科書の図形の問題を動的に探究してみる
- 5.2 四角中点を探究する
- 5.3 円周角の定理を探究する
- 5.4 等積変形を探究する
- CHAPTER6 探究のための教材研究をする
- 6.1 すべての子にチャンスを与える
- 6.2 数学のよさを実感できるようにする
- 6.3 図を工夫しながら発問を変える
- 6.4 思考のサイクルを生み出す
- 6.5 ある程度のまとまりの課題をグループに任せてみる
- 6.6 言語活動に注目する
- 6.7 生徒の多様性を生かす
- 6.8 メタ思考を生かす
- 6.9 ストーリーをつくり主体的・主観的な問題にしていく
- 6.10 フリーハンド,アナログ,デジタルを組み合わせてみる
- 6.11 想定とは違う数学とのかかわりもあり得ると理解する
- 6.12 デジタルとのつきあい方を考える
- CHAPTER7 ライブ感のある授業を準備する
- 7.1 スライドは生徒に合わせて作成する
- 7.2 意思決定の連続を図る
- 7.3 指導案は忘れ,目の前の生徒に合わせて行動する
- 7.4 失敗を記憶に刻み,同じことが起こるリスクを避ける
- 7.5 実践から学ぶ
- CASE STUDY1 探究のための教材研究の実際
- CASE1-1 四角中点の類題
- CASE1-2 外心・内心
- CASE1-3 最短経路問題
- CASE1-4 PA=2PBを満たす点Pの位置(アポロニウスの円)
- CASE1-5 あえてフリーハンドの作図を使った方がいい問題
- CASE STUDY2 探究に焦点を当てた授業の実際
- CASE2-1 1992年の玉置実践(名古屋中学校)─不可能の証明─
- CASE2-2 2003年の公開授業(名古屋中学校)─正方形に内接する四角形の面積─
- CASE2-3 2013年の研究授業(新城中学校)─2つの角の関数関係─
- おわりに
はじめに
2021年4月に,国内のほとんどの小中学校で,そして一定の数の高校で,タブレットPCが1人1台の道具になりました。これはとても大きなチャンスです。
これまで変えたかった様々なことが提案・試行錯誤・取捨選択され,次の時代のための標準が確立していく。本当はもっと時間をかけるはずのことが,一気に加速されていく。混乱やトラブルもあるでしょうが,10年後に振り返れば,間違いなく大きな分岐点として認識されるはずです。
この変革の中で,私たち数学教育にかかわる者は,どういうスタンスで取り組むのがよいのでしょうか。
私は30年ほどGCという図形のソフト開発・教材開発・授業研究にかかわってきましたが,シンプルに「数学らしさ」と「よい授業」にこだわることにつきると思います。
数学の一番の特徴は,知識やスキルよりも,思考そのものに本質があります。例えば,電卓は日常生活に浸透していますが,算数・数学では定着していません。数学らしい思考を生み出す道具になっていない,あるいはそれを妨げるものになっていると私たちが認識しているからです。では,ICTはすべて数学的な思考の妨げであって,伝統的な学びに徹すればよいのでしょうか。
ICTは教具の発展です。生徒に合わせて先生方が教具を工夫するように,工夫次第で生徒が実感する数学は変わります。一方ICTは教具とは比べ物にならないくらい思考を大きく変えます。既知の望ましい数学的思考を実現するだけでなく,未知の数学的思考が生まれる場所でもあります。それを設計・分析・検討しながら数学の授業について考えるうえで,本書では「数学的探究」という言葉を使っています。生徒にとって望ましい「数学的探究」とは何か。これがICT利用の一つの視点になると思うのです。
もう一つ,日本独自の教育文化として,授業へのこだわりが大切です。オンラインで新しい授業の可能性も生まれてきました。でも,多くの学校で対面授業にこだわった最大の原因は,リアルな教室で取り組む授業の魅力であり,価値ではないでしょうか。個別の学びを実現する手段はICTにより拡大しています。それでも集団で集まって時間を共有し授業をする価値はどこにあるのでしょう。
日本の先生方は明治以降それにこだわり,授業研究の文化を継承してきました。もちろん,日本の伝統的な授業には,良い点も悪い点もありますが,違う学びの可能性が広がってきたからこそ,授業としてこだわるべきこと,残すべきことは何かを改めて探究していく中でこそ,Society 5.0時代における教育のあり方や,専門職としての教員の仕事の魅力が具現化されていくのではないでしょうか。
そこで本書では,まずINTRODUCTIONの中で,GIGAスクール構想などの変化への構えについて述べています。そして,CHAPTER1ではICTの存在によって,数学や授業を考えるきっかけや視点がどう生まれているのかを素描してみます。CHAPTER2では,私たちにとってICTは何をしてくれるべきものなのかを素描してみます。
2021年4月から私たちの手元に届くのは1人1台のタブレットPCです。私と本学附属名古屋中学校の先生方にそれが訪れたのは2010年のことであり,この10年ほどタブレットPCはどんな数学と授業を実現してくれるかに取り組んできました。タブレットPCに関して実感したことをCHAPTER3にまとめています。授業の中での生徒たちの学びについて実感したことをCHAPTER4にまとめています。
実際に先生方が動き出そうと思ったとき,ソフトの選択や教材研究,そして授業の実践や振り返りなどが必要になるはずです。私のホームページもぜひ活用してください。
CHAPTER5では教科書の問題について検討します。ICTは教具であるとともに,生徒の活動や思考そのものを変えます。何をどう変えるかを実感せずに使うと,木に竹を接いだような授業になってしまいます。GCは動的な見方・考え方を具現化しているので,静的な見方・考え方とのかかわりとの違いなどを考慮すると何を意識化すべきかを具体的に示しています。このような教材研究を,より多くの教材に対して広く・深く行っていくことが次のステップになりますが,CHAPTER6では,そのための基本的な視点を挙げています。
「よい授業」にはいろいろな基準があると思います。現実にはICTを使っているものの,とても授業とはいえないレベルになってしまっていることもあります。授業の専門家としての皆さんから,一般の方々が納得する基準や事例をいずれ示すことが必要です。私は,本書では「ライブ感のある授業」という言葉で表現してみました。そして,そのための基本的なスタンスをCHAPTER7でまとめました。
上記を深め,具現化する豊富な教材研究と授業研究が必要です。代表的なものを,いくつかCASE STUDYとして収録しました。教材研究の中で生徒がどんな活動をし,どんなことを考えるはずか,そこで教師は行動の選択肢として何をもつかなどを検討する様子を実感していただきたいと思います。指導案はつくるけれども,授業は生徒があってこそのライブ。臨機応変の対応とは行き当たりばったりとは違います。生徒の活動の観察・解釈と意思決定の連続です。その様子は会話記録だけでは決してわかりません。当事者として考えたこと,感じたことをまとめる形で授業の実際をまとめてみました。
教材研究や授業研究を,ぜひ,いろいろな機会に一緒に深めながら,2030年に向けたこれからの10年で次の時代の数学教育を築いていければと願っております。
本書は,多くの先生方とのコラボがあって生まれました。愛知教育大学,上越教育大学附属学校の皆様。馬場英顕先生,地曳善敬先生をはじめとする多くの先生方に,心から感謝申し上げます。
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- 明治図書
- 勉強させて頂きました2021/9/1930代・中学校教員
- 使うということだけではなく、深めるための活用のノウハウが分かりやすく書かれていた。2021/6/1920代・中学校教員