- まえがき
- T 理論編
- 一 論理教育はなぜ必要か /井上 尚美
- 1 論理的思考とは何か
- 2 論理的思考力を育てる具体的方策
- 3 「論理科」新設をどう考えるか
- 二 「論理科」に関する実践研究の意義と期待 /尾木 和英
- 1 先導的な実践研究
- 2 本校の取り組みの重要性
- 3 指導改善の道筋の明確化
- 4 教師に問われるカリキュラム開発力
- 5 学校改善の中心に位置する校内研究
- 6 学習する組織を目指す
- 三 「論理科」の目指すもの /河野 庸介
- 1 論理科とはどういう教科か
- 2 論理科設置の意義
- 3 論理科とPISA型「読解力」
- 4 論理科の課題
- 四 論理教育としての読解教育――フィンランドの事例から /北川 達夫
- 1 対話によって論理的思考力を育む
- 2 対話によって論理的表現力を育む
- 3 おわりに
- U 実践編
- 一 実践研究の概要
- 1 研究開発課題
- 2 平成一八年度実践研究の概要
- 3 平成一九年度実践研究の概要
- 二 論理科学習指導案
- 三 各学年での実践例
- 1 第一学年
- 2 第二学年
- 3 第三学年
- 4 第四学年
- 5 第五学年
- 6 第六学年
- V 資料編
- 一 小学校学習指導要領「論理科」(二次案)
- 二 「論理科」年間指導計画表
- 1 第一学年
- 2 第二学年
- 3 第三学年
- 4 第四学年
- 5 第五学年
- 6 第六学年
- 三 各教科と「論理科」との関連一覧表
- 四 「論理科」オリエンテーション学習指導案(略案)
- 五 論理スキル学習指導案(略案)
- 1 カルタ
- 2 フォーマット「意見と理由」
- 3 フォーマット「原因と結果」
- 4 短作文
- 5 メリット・デメリット
- 六 「論理科」シラバス(平成一八年度版)
- 1 第一学年
- 2 第二学年
- 3 第三学年
- 4 第四学年
- 5 第五学年
- 6 第六学年
- 七 もう一つの効果
- 八 思考力を育てる「論理科」の試み――『「論理科」の開発と実践』の研究成果及び課題と今後の方向性―― /東 佐都子
まえがき
世界各国は、今や教育を最重要課題として掲げている。なぜなら、ITやバイオなどの科学技術の急速な発展により目まぐるしく変化していく二一世紀の社会では、科学力・技術力で立ち遅れた国は国際競争力を失ってしまうからであり、その科学力・技術力の基礎にある発想力や思考力は、教育の質の高さによってのみ保証されるからである。
特に日本のように資源の乏しい国では、知恵を働かせる以外に国際競争に勝ち抜くことはできない。
幸い現在までのところ、日本は特許件数などで表されるアイディアや、鉄鋼、自動車産業などで示される技術力の高さで世界をリードしている。しかしながら、次の世代はどうであろうか? 教育界の現状は、はなはだ心もとない。
したがって、思考力に焦点をしぼった教育を行うことは、いまや国策・国是といってよい。私たちが論理教育の重要性を主張しているのは、そうした世界情勢を踏まえてのことである。
一方、PISAの学力調査で世界一になったフィンランドの国語教育では、次の五つの能力をつけることが大きな柱となっている。
@ 発想力 A 論理力 B 表現力 C 批判的思考力 D コミュニケーション力
すなわち、重点目標のうち二つまでが「論理力」「批判的思考力」となっていて、論理的思考力の育成が大きな目標となっているのである。
また、メディアリテラシーという考えも最近教育界に広く浸透するようになった(PISAの「読解リテラシー」も、結局はメディアリテラシーと同じようなものだといえよう。それは、どちらも論理や批判的思考の重要性を強調しているからである)。
これらの動きに刺激されて、日本でも論理重視の発言が目立つようになってきた。例えば、文化審議会の答申「これからの時代に求められる国語力について」(二〇〇四年)には、「論理」「論理的思考」という語が四〇回近く出ているし、文科省から出されている各種の文書などを見ても、「論理」とか「批判的な読み」という語が何回も使われるようになった。
今や、論理や批判的思考力育成に対する要請は教育界全体に広がっている。
こうした気運の中、広島県安芸高田市立向原小学校では、文部科学省から研究開発校の指定を受け、東佐都子校長の下、十数名の教員が一体となって三年計画で「論理科」新設に取り組んできた。これは、同校で「筋道を立てて考え、根拠に基づいて判断し分かりやすく表現する論理力の育成」を目指して申請してきたものである。
その初年度の成果が、平成一八年十一月十九日に公開された。その模様は翌日の中国新聞にも報道されている。本書は、そのときまでにまとめられた同校のプログラムを中心として、「論理科」の全体像、カリキュラム、教材開発、授業の指導案などを「資料編」としてまとめてある。また、実際の授業実践を記録してあるので(「実践編」)、読者には同校の目指す「論理科」の全貌が明らかになろう。
この「論理科」はあくまでも一つの試みであり、それをそのままの形で普通の学校にとり入れることはできないが、その方法については、すべての学校で導入できるはずである。
本書は、その向原小にたびたび出向いて指導助言を行った尾木和英、河野庸介、また第一回発表会に講師を務めた井上尚美、さらに東佐都子校長以下、同校の教員によって編集された。
本書が日本の「論理教育」にとって一石を投ずることになれば幸いである。
なお、本書の「実践編」「資料編」については、安芸高田市立向原小学校(文部科学省研究開発学校)「平成一八年度 研究開発実施報告書」等からの引用部分のあることを明記しておく。
二〇〇八年六月 編者一同
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- 明治図書