- はじめに
- T いま求められる「古典に親しむ態度」
- 1 小学校で「古典に親しむ態度」を養うために
- @ なぜ小学生なのに古典を学ぶのか
- A 社会全体が「日本離れ」しているなかで
- 2 「伝統文化」を小学校の古典教育でどう教えるか
- @ 小学校らしさを出す古典教育の工夫とは
- A 偏狭な民族主義に陥らぬ伝統文化の尊重を
- B 古典の授業を面白く展開させるには
- C 豊かな古典単元の開発に向けて
- U 古典に親しむ名作・名場面ライブラリー
- [1] 「古文」編
- 1 〈ふるさと〉を愛する心 『古事記』のヤマトタケルの望郷歌(中巻 景行天皇)/ 『常陸国風土記』の筑波山の歌(筑波郡)
- 原文=現代語訳/(一部あらすじも掲載)
- 解説=@ 子どもに伝えたい教材の面白さ/ A 基礎知識/ B 参考文献/ C この教材を授業で活かすには
- 2 わたしたちの祖先が見た神さま 『古事記』(上巻) 「因幡(稲羽)の白兎」
- 3 いつの世も〈子は宝物〉『万葉集』の「宴を罷る歌」 「子等を思う歌」
- 4 日中の文学コラボレーション 『和漢朗詠集』 「祝」
- 5 ものがたりの元祖は名付けの名人 『竹取物語』 「ふじの山」
- 6 和歌で伝えた親子の愛情 『伊勢物語』 「さらぬ別れ」
- 7 今から千年前の転勤の旅 『土佐日記』 「門出」 「帰京」
- 8 平安〈かわいい〉ものコレクション 『枕草子』 「うつくしきもの」 「虫は」
- 9 平安時代のセレブな邸宅 『源氏物語』 「少女巻」
- 10 『源氏物語』の作者のホンネ 『紫式部日記』 「宮の御しと」
- 11 権力の座への名勝負 『大鏡』 「弓争い」
- 12 〈無常〉を見つめる心 『方丈記』 「養和の飢饉」
- 13 昔の人も〈不思議〉好き 『宇治拾遺物語』 「蔵人得業、猿沢の池の竜の事」
- 14 戦場からの教訓 『平家物語』 「敦盛最期」
- 15 生きる知恵の宝庫 『徒然草』 「ある人、弓射る事を習ふに」 「高名の木のぼり」
- 16 知っているようで知らない話 『御伽草子』 「一寸法師」
- 17 江戸のワイドショー 『日本永代蔵』 「世界の借屋大将」
- 18 〈田舎に泊まろう〉 江戸バージョン 『奥の細道』 「那須野」
- 19 人々に歌われた古典 謡曲『高砂』 と 近代歌謡 『山家鳥虫歌』
- 20 輸入された古典 『伊曽保物語』 「蟻と蝉」
- 21 落語のルーツ 『醒睡笑』 「星とり」
- 22 俳諧に支えられた人生 小林一茶 『おらが春』
- 23 コメディー好きは昔も同じ 狂言 『附子』
- 24 日本のシェークスピアの最高傑作 近松門左衛門 『曽根崎心中』 「道行き」
- 25 江戸の詩人も富士山好き 『富士山』 石川丈山
- 26 勉強はいつの時代もつらいもの江戸のイケメンに挑戦 『桂林荘雑詠、諸生に示す』 広瀬淡窓
- 27 江戸のイケメンに挑戦 歌舞伎十八番 『助六』
- [2] 「漢詩・漢文」編
- 28 嫁ぐ娘に贈る漢詩 『詩経』国風 周南 「桃夭」
- 29 今に生きる中国の知恵 『論語』 「為政」 「里仁」 「衛霊公」
- 30 故事成語の世界 『孟子』 梁恵王 「五十歩百歩」
- 31 古典で育てられた昔の子ども 『蒙求』 「叔敖陰徳」
- 32 落語も中国から輸入品で 『五雑組』 「畏周南」
- おわりに
はじめに
この本は、今回の学習指導要領改訂により小学生への本格的な古典教育が開始されるのを受けて、古典についてもっと知りたいとお考えになられたり、発展的な古典の単元づくりを意欲的になさりたいと思われる先生方に活用していただくために作りました。
古典教育は、国語・国文学科を卒業した、いわゆる専門家でないと口出しできないかのような雰囲気が一部にあり、専門ではないために教科書から踏み出して発展的な指導を試みることをためらわれてしまう小・中学校の先生方も多いようです。この本は、かならずしも国語・国文学の分野の専攻をした方でなくても、古典教育に少しでも関心を持ち、その充実を図りたいと考えられている先生方にとって古典教育の単元づくりが簡便にできるように配慮しました。
そのため、専門家の目からすると参考図書などが不十分ではないかという批判もあることは承知のうえで、市立図書館などで閲覧できる範囲にしぼって選定して示してあります。本文も、なるべく原文の雰囲気は保ちつつ、小学生がそのまま学習材として音読できるように配慮をしました。口語訳もできるだけ逐語訳にしてあるのは、古語と現代語の対応関係をわかりやすくするためです。作品の選定は、有名な古典作品であっても、小学校の教科書で扱われる可能性の高い部分はなるべく避け、教科書での学習をふまえてさらに授業を発展させていく場合に活用できそうな部分を中心に選定してあります。また、できるだけ児童たちの興味・関心を持たせるために、主として子どもが登場したり、親子関係が描かれている場面を選定しました。
執筆者は全員が中・高校での教職経験者で、古典研究に携わりつつ古典教育にも強い関心を持っている者です。上代・日本漢文/西一夫、中古・中世/須藤敬・石塚修、近世/石塚修、漢文/小原広行がそれぞれ分担して執筆しました。
この本が一人でも多くの小学校の先生のお手元に置かれ、小学校における古典教育の種となり、いつしか我が国の伝統的な言語文化を伝える大きな花として開き、それによって生涯にわたる豊かな国語の使い手が数多く世に生まれることでその実を結ぶことを祈ってやみません。
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- 明治図書