- T部 構造学習の考え方
- 1章 構造学習のすすめ
- 1.1 「思考指導」の欠如─短絡的正解追求学習─
- (1) Why can't little Taro think ? ─なぜ日本の児童生徒は考えることができないのか?─
- (2) 「答えの体系」でなく「問いの体系」に基づく指導を
- 1.2 構造学習法のすすめ
- (1) 教科内容の知識構造をしっかりとらえる
- (2) 構造学習の心理学と諸原則
- (3) 学習の構造化を促進させるために
- 2章 ブルーナーの「教科の構造」と構造学習法
- 2.1 「教育の過程」における教科の構造
- (1) ブルーナー著「教育の過程」誕生の経緯
- (2) 著書「教育の過程」における主なテ─マ
- (3) ブルーナーの提唱した教科の構造
- 2.2 構造学習法
- (1) 教材構造の概観図
- (2) ISM教材構造化法
- (3) 構造的テキストデザイン法
- (4) 構造学習法
- U部 国語科教育における構造学習
- 1章 国語科教育と構造学習論
- 1.1 国語科教育の基礎・基本
- 1.2 構造学習と国語科の基礎・基本
- (1) 構造学習の意味と必要性
- (2) 構造的言語化能力の育成
- (3) コンセプトマッピング法と構造的テキストデザイン法
- 2章 構造学習の方法─コンセプトマッピング法を活用した構造的言語化能力育成の事例─
- 2.1 教材内容の構造分析・解釈
- (1) 客観的文章から主人公の心情を読み取る(小学校)
- (2) 文章の論理構造を読み取る(中学校教材を用いた教員養成課程の学生への指導)
- (3) 文章の内容を叙述に即して読み取る(高等学校)
- 2.2 学習指導の構造化(小学校)
- 2.3 学習目標・内容の構造化
- (1) 文章理解を最終目標とする文法学習の構造図(中学校)
- (2) 漢文の訓読方法に習熟させるための構造図(高等学校)
- 2.4 書くことによる思考トレーニング
- (1) 文章の「推こう」 A.国語科教員養成課程での指導
- (2) 文章の「推こう」 B.ある教師の行った再編集
- (3) 文章の構想を練る
- 2.5 表現力と理解力を伸ばす「総合的な学習の時間」での適用
- (1) 雑誌の編集
- (2) 学習テキストの作成
- (3) 新聞づくり
- (4) 「総合的な学習の時間」の基本コンセプト
まえがき
小学校から高等学校までの12年間,子どもたちは国語科の授業を受けています。それにもかかわらず,10代の若者の多くに「国語の力(表現力・理解力)」がそれなりに育っていないのは,なぜでしょうか。
ある大学生は,自分の受けてきた国語科の授業について,次のように述壊しています。
小学校・中学校・高等学校と教えてきてもらったが,教科書を使って,教科書に沿って計画どおりに教える。黒板にただ書いて,生徒に写させる授業,教科書を読んでいくだけの授業など,どれも楽しい授業など一つもなかった。 (N.I)
自分自身が受けてきた授業を思い出しても,訳も分からずただ先生が,「段落に分けなさい」と言うから分けた,という記憶しか残っておらず,どういう意味があったか分からないままで,機械的な作業のイメージだけしか残っていません。これでは,本当に国語科の授業を受けたとは,言えないと思います。 (Y.H)
教師にとっては耳の痛い内容です。学習の目的や意味や内容も分からず,考えることもさせてもらえずに,ひたすら教師の指示どおりに作業をしている退屈そうな子どもの表情が浮かんできます。このような調子で授業をするのですから,国語の力が育たないのは当然です。
何を学んでいるのかが分かり,また,子どもたちが目的をもって主体的に「国語」と取り組み,自らの力で理解し表現する,という自己実現や達成感を覚えるような,文字どおり,子どもを「学び」の主体とした学習活動を営ませなければ,「国語の力(表現力・理解力)」は育ちません。
このようなことを考え続けていたときに,佐藤隆博先生と出会い,コンセプトマッピング・アプローチによる構造学習を教授していただきました。その後,筆者自身の研究活動や教員養成課程における教材解釈,授業設計,テキスト編集,作文の推考・推敲活動といった学習活動にこの方法を実践し,国語の力を育成する学習指導方法として適用できることを確信しました。そして,教える者も,学ぶ者も,構造的思考,すなわち体系的思考をしてこそ,真に「教育」(教えることと育つこと)が成り立つことを実感しました。
本書は,これまで佐藤先生のご指導の下に実践された初等・中等教育における構造学習の事例や,筆者の教員養成課程での実践例などを,構造学習の理論的背景や新学習指導要領を踏まえてまとめたものです。実践例は,新学習指導要領に改訂される以前のものです。
しかし,よいものは不易な価値をもち,時代を超えて光を放ちます。その理由は,きちっとした構造学習理論に基づいて実践され,またその実践によって理論の正しさが立証されたものだからです。しかも,これらの実践は,論理的な思考力・判断力・表現力を育成し,国語に対する興味・関心を高めるものです。そして言語に関する知識を,体系的に学習させるものです。知識は体系的に学習してこそ,確実で,長く保持され,活用されます。
さらに,これらの事例は,「言語の教育」という国語科教育の本流に立っており,新学習指導要領の精神にも即しています。取り上げた内容は,「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域,言語に関する知識の学習,さらに「総合的な学習の時間」の学習活動にも及んでいます。このように様々な学習活動に構造学習やコンセプトマッピング・アプローチが適用できる理由は,構造学習が基本的学習であり,その学習指導方法であるコンセプトマッピング・アプローチが構造的思考をはぐくむからです。
国語は,「生きる力」です。しかし,使い手自身に国語を生きて働くものにする能力がなければ「生きる力」とはなりません。コンセプトマッピング・アプローチによる構造学習は,その能力や資質を育成する方法です。本書によって,従来の固定化された国語科の学習内容や学習指導方法が見直され,国語の表現力・理解力が真に「生きる力」として子どもたちの身に付くように改善される一助となれば幸いです。構造学習の志向する精神・哲学をしっかり認識・理解されて,方法を実践していただけることを願っています。
貴重な事例をご提供いただき,本書の執筆を促してくださった,佐藤隆博博士と,本書の企画ならびに校正の労に当たられた明治図書出版株式会社の仁井田康義氏に,深謝の意を表します。
平成12年6月 /瀬川 武美
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明治図書















