- はじめに
- T つくば言語技術教室の基本的な考え方
- 一 国際社会に通用する日本人を育てるために
- 1 体系的カリキュラムと系統性、継続性のある教材を作る
- 2 作文技術教育を言語技術教育の中心に据える
- 3 話し方を鍛えて書き方を鍛える
- 二 言語技術を鍛えるために
- 1 多作を通して作文技術を身につけさせる
- 2 客観的な文章で言語技術を習得させる
- 3 日本語を外側から見る
- (1) 「母国語」の概念を教える
- (2) 「翻訳できる日本語」を教える
- 4 美しい日本語の表現を崩さない
- 5 古典に触れさせる
- U カリキュラムと教材
- 一 ドイツの言語技術教育の体系と指導内容
- 1 ドイツの学校制度
- 2 ドイツの言語技術教育のカリキュラム
- 3 ドイツのカリキュラムの特色
- 二 つくば言語技術教室のカリキュラム
- 1 小学校六年間のカリキュラム
- 2 カリキュラムの実施状況
- 3 ドイツのカリキュラムとの相違点とその理由
- 4 各分野の内容と指導目的
- 三 教材
- 1 どのように教材を作成しているか
- 2 文種相互の関連性
- 3 教材づくりの失敗
- 四 添削と評価
- 1 添削と評価の対象
- 2 添削指導の方法―「つくば言語技術教室」方式
- (1) 主語の問題
- (2) 表現について
- (3) 構成について
- (4) 段落について
- (5) 基本方針
- V 作文技術を獲得させるための基本的な訓練
- 一 問答ゲーム
- 1 導入の理由
- (1) L先生の英語の授業
- (2) 問答型と羅列型のレトリック
- 2 目的
- 3 方法
- T シリーズ1 問答型レトリック
- (1) シリーズ1―@―1 「好きですか。嫌いですか。」
- (2) シリーズ1―@―2 「なりたいですか。なりたくないですか。」
- (3) シリーズ1―A 「どちらが好きか。」
- (4) シリーズ1―B 「どちらを選ぶか。」
- U シリーズ2 曖昧な表現
- (1) シリーズ2―@ 曖昧な表現「……くらい」
- (2) シリーズ2―A 曖昧な表現「……とか」
- (3) シリーズ2―B 曖昧な表現「……はどうですか」
- (4) シリーズ2―C 曖昧な表現(言葉の省略)
- V シリーズ3 事実か意見か
- W シリーズ4 賛成か反対か
- X シリーズ5 説得と交渉
- (1) シリーズ5―@ 説得と交渉(二年生用)
- (2) シリーズ5―A 説得と交渉(三年生用)
- (3) シリーズ5―B 説得と交渉(四年生用)
- (4) シリーズ5―C 説得と交渉(五/六年生用)
- Y シリーズ6 討論の技術 「なるほど(たしかに)……しかし(zwar……aber)」
- 二 ショウ・アンド・テル
- 1 目的
- 2 方法
- 3 成果
- 三 ナハ・エアツェールンク(再話)
- 1 ナハ・エアツェールンクとは何か
- 2 目的
- 3 ナハ・エアツェールンクは読書感想文ではない
- 4 有効性
- 5 評価の基準
- 6 方法
- 7 再話に利用するテキストの例
- 8 作品例
- 9 添削例
- 四 短文づくり
- 1 目的
- 2 方法
- 3 作品例
- 4 添削例
- W ディベートの実践記録
- 一 目的
- 二 実践記録
- (1) 一回目
- (2) 二回目(一回目にすぐ引き続いて実施)
- 三 論証文(意見文)
- 1 教材
- 2 作品例
- (付録)参考図書目録
はじめに
「つくば言語技術教室」の目的は、国際社会に通用する「日本人」を育てることである。これは決して、英語のできる日本人を育てるということではない。国際社会に通用する言語感覚を持ち、国際社会に通用する言語技術を使って「日本語」を駆使できる日本人を育てる、ということである。様々な国、様々な人種、様々な民族の集う国際社会では、意思疎通の唯一の手段は言語である。私達日本人が、日本人としての尊厳を傷つけられることなく、対等の立場で国際社会に参加するためには、そこで通用する言語感覚、言語技術を身につける必要がある。「自分を語る言葉」を国際社会の流儀に従ってきちんと持つことが、国際社会へ出るための最も重要なパスポートだからである。
パスポートを取得するために、今私達がすべきことは、私達の母国語である日本語による言語技術の訓練である。言語技術は長期的な視野に立ったカリキュラムに従って積み上げて行く必要がある。それはさながら煉瓦を一つ一つ積み上げて家を建てて行くのと似た作業である。煉瓦、つまり技術を一つ一つ積み重ねていくことにより、やがては揺らぐことのない堅牢な家、つまり言語技術が出来上がるのである。そしていったんこの技術が確立してしまえば、その上にはあらゆる言語を乗せることができる。技術は普遍的なものであり、従ってあらゆる言語への応用がきくからである。
本書は、国際社会に出るためのパスポートを子供達に取得させるために、「つくば言語技術教室」で実践している訓練について詳述したものである。「教室」は、私の精神に染み込んだドイツ流の徹底と合理性をもって、言語技術の指導に取り組んでいる。「教室」を始めて既に十一年になる。私の願いは、言語技術教育が日本の公教育の現場に広く浸透し、「教室」を一日も早く発展的に解消できる日が来ることである。そのような理由から、本書を書くことにより、私の考えている言語技術教育の在り方を少しでも多くの方に知って頂ける機会を得たことは望外の喜びである。
本書を書く機会を私に与えて下さったのは、第四回言語技術教育学会で、明治図書の江部編集長に「教室」の文集をお渡しするように勧めて下さり、お話をして下さった野口芳宏先生である。野口先生のご尽力がなければ本書が世に出ることはなかったはずである。ここにあらためて御礼申し上げたい。また、ご多忙な中、原稿を書くことに不慣れな私のご指導を辛抱強くして下さった江部編集長にも、この場を借りて御礼申し上げたい。
最後に、本書を執筆するにあたり、「つくば言語技術教室」の所有する教材を全て公開すること、子供達の作品を公開することを快く承諾して下さった「教室」の子供達の保護者の方々にここであらためて感謝の意を捧げることをお許し頂ければ幸いである。
一九九六年一月
つくば言語技術教室主宰 日本言語技術教育学会会員 /三森 ゆりか
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