日本語の力を鍛える「古典」の授業

日本語の力を鍛える「古典」の授業

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古典のおもしろさを最大限に引き出す授業のポイント満載!

著者は「古典」教材の扱いについて、@音読・暗唱の重視、A内容理解を伴う音読・暗唱にする、B文学の読み方を身につけていく、C今の自己や社会・世界のあり方などを考える視点をもつ、D体験・見学などの機会をもつことで古典の世界を実感させるなど主張。


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ISBN:
978-4-18-312427-2
ジャンル:
国語
刊行:
3刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 112頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
T 古典はおもしろい
U 日本語の力を鍛える古典の授業
――その三つのポイント
一 音読・暗唱を大切にする
二 一つ一つの表現にこだわる
三 読み方を教える
V 楽しい古典の授業を創るための三つのポイント
一 教師自身がおもしろいと思える授業を創る
二 日本語教育(国語教育)として古典教育を位置づける
三 言葉の力を鍛える古典の授業を創る
コラム@ 日本語の中の色―古典の授業のはじめに
W あたらしい古典の授業のための教材研究
一 「竹取物語」冒頭を読む
1 物語の基本を読み取る その@ 「時・場・人物」を読む
2 物語の基本を読み取る そのA 事件のはじまりを読む
3 「かぐや姫」はどのように発見されたか?
4 翁と「かぐや姫」の関係は?――「竹取の翁といふ者」と「三寸ばかりなる人」
二 「徒然草」第五十二段「仁和寺の法師」を読む
1 石清水八幡宮を知る――文章理解のための知識はしっかり教える
2 歴史的仮名遣いの読み方
コラムA 現代仮名遣いと歴史的仮名遣い
3 「かばかり」を読む――法師の視点と話者の視点
4 「ただひとり」「徒歩より」を読む――法師はなぜ失敗したのか
コラムB 「参りたる人ごとに」――「ごと」に着目する
三 「奥の細道」冒頭を読む
1 対句を読む
2 「舟」と「船」の違い
コラムC 古典教材の表記
3 「古人も多く旅に死せるあり」――「も」に着目する
4 旅、旅、旅――テーマとしての旅
四 「枕草子」
1 春はあけぼのが素晴らしい?
2 リズムのよさ
3 「春」だけ、評価を表す言葉がない
4 夏の夜の魅力
5 「秋」における「ずらし」の効果
6 冬は「つきづきし」
コラムD 日本の四季観を考える
五 百人一首 三首
1 なぜ百人一首か
2 和歌の読み方
コラムE 和歌と短歌は違う?
3 田子の浦にうち出でて見れば〜「転」から歌の工夫を読み取る
コラムF 三十一文字(みそひともじ)
4 奥山に紅葉踏み分け〜歌を二通りに読む
5 天の原ふりさけ見れば〜仮名表記であることのおもしろさ
(1) 詞書を読む――唐土(中国)で詠まれた歌
(2) 「転」を読む
コラムG 仲麻呂、李白、そして芭蕉
(3) 仮名書きの意味を読む
六 漢詩を読む――「静夜思」(李白)
1 「転」を読む
2 比喩の読み方を教える――「地上の霜」
3 「静夜思」の主題を読む
コラムH 漢詩は書き下し文で読む
X 「竹取物語」冒頭の授業記録
Y これからの古典教育のために
一 「古典教育」のブーム
二 「古典教育」のもつ危うさ
三 古典を学ぶ意味を考える
四 言葉を大切にする古典の授業
おわりに

はじめに

 立命館小学校では、小学校五年生から国語の中に「古典」という科目をおいている。立命館の小・中・高十二年間にわたる一貫教育は、小学校四年生までを第一ステージ、五年生から中学二年生までが第二ステージ、中学三年から高校三年生までを第三ステージと、三つの段階に分けて考えている。「古典」は、その第二ステージのはじめからスタートする。

 本書は、この二年間の立命館小学校における「古典」の授業の実践から生まれたものである。

 私は、立命館小学校での「古典」をスタートさせるに当たって、以下の五つのことを大事にしようと考えた。


 @ 古典教材の音読・暗唱を重視する。

   →古典を通して、日本語のリズムを体得することをめざす。

 A 内容理解を伴う音読・暗唱にする。

   →音読・暗唱を生徒にとって意味のある、かつ興味・関心のもてるものとする。

 B 古典教材の読解を通して、文学の読みの方法(読み方)を身につけていく。

 C 古典の理解を通して、今の自己や社会・世界のあり方などを考える視点をもつ。

 D 京都という立地を積極的に生かし、体験・見学などの機会を多くもつことで、生徒が古典の世界を実感をもって受け止めることができるように努める。


 立命館小学校では、五年生になるまでにも朝のモジュールの時間に古典作品の音読はかなり行われていた。百人一首大会も行われており、百人一首の歌も子どもたちに身近なものとしてあった。そのような古典とのふれあいを活かし発展させていくことをまず、大事にしようと考えた。

 そして、内容理解を伴った音読・暗唱にすることで、子どもたちにとって古典の世界をいっそう魅力的で興味のもてるものにしようと考えた。低・中学年は意味がわからなくても、リズムや語呂のよさなどで喜んで音読・暗唱に取り組んでいく。しかし高学年ともなると、それだけではむつかしくなる。高学年では、リズムのよさがなぜ生まれるのか、その文章がどのように素晴らしいのか、どんな工夫がそこではされているのか……そういうことも理解できるし、わからせていきたいと考えた。そのような理解に支えられた音読・暗唱は、意味もわからず声を出すものとは、自ずと異なりより高度なものとなる。

 また、ともすれば古典を学ぶ意味は、子どもたちにとって見えにくい。千年も前の文章をなぜ読まなくてはならないのか。昔の言葉をなぜ勉強しなくてはいけないのか。その問いに対して、古典は長い時間を経て残されてきた素晴らしいものだから学ぶのだ、とは答えたくなかった。それは答えであって、答えになっていない。今を生きる子どもたちが、彼らの感覚で素直に理解でき、実感できる、そんな「古典を学ぶ意味」を子どもたちに示さなくてはならないと考えた。


 私は、長く高校の現場にいた。そこで、古典教育がたくさんの古典嫌いを生み出す様を見てきた。高校での古典教育をかろうじて維持しているのは、大学入試さらにいえばセンター試験である。入試があるから、古典を勉強する。したがって、大学入試という枷がはずれてしまうと、古典は見向きもされなくなる。また、受験勉強は、合格の一点に目を向けさせるがゆえに、何のための勉強かもを見えなくさせることがある。 

 国語科という教科それ自体が、何を教えるかという教科内容を曖昧にしてきたと私は考えている。それゆえに、国語の中の一科目である古典で何を教えるかもこれまで十分に明らかにはされてはこなかった。古典文法、語句の意味、解釈の仕方……、むしろ教えなくてはならないものが多く存在していただけに、古典は不幸だったともいえる。

 文法を覚え、語句の意味を覚え、ひたすら口語訳にはげむ。いや多くの場合は、教師のいう口語訳を一言一句逃さないように、ノートに写し取る。そんな授業に生徒たちが魅力を感じるわけもない。


 子どもといっしょに考える古典の授業をしようと考えた。古典嫌いをつくらない授業にしたいと考えた。古典を学ぶ意味が子どもたちにはっきりと見える授業にしたいとも考えた。そして、なによりも、授業をしている私自身にとって楽しい授業をしたいと考えた。

 「教師」にとってではなく、「子ども」にとって楽しい授業をめざすのではないか、とツッコミを入れられそうだが、私は、授業はまず教師にとって楽しいものであるべきだと考えている。教師自身が楽しいと思っていない、また思えていない授業を、子どもたちが楽しいと思うだろうか。まず授業は、教師自身にとって楽しいと思えるものでなくてはならない。教壇に立つ教師自身にとって、その授業が楽しいと思えるかどうか、それが授業をはかる第一の基準ではないだろうか。

 ここに示した立命館小学校での実践と研究は、私にとってとても楽しいものであった。子どもたちからも楽しかったという声をたくさんもらった。そしてこの二年間の実践は、先に示した、「古典」の授業をスタートさせるに当たっての五点の中身をよりいっそうふくらませ、肉づけし、豊かなものへとしてきた。その内実は、本書をごらんいただきたい。

 ここに示した古典教育の実践は、これまでの古典教育のあり方を変えるものになると考えている。これからの新しい古典教育の方向性を示すものになり得ていると自負するところもある。それだけに本書は、小学校の先生方だけでなく、中学高校の先生方にも読んでいただきたいと思っている。小学校からはじまる古典教育が、中学そして高校とどのように受け継がれ発展していくか、言い換えれば小・中・高での一貫性をもった古典教育が展開されていくためにも、多くの方々にお読みいただきたいと願っている。そして、本書がみなさんの授業づくりに少しでも役立つのであれば、何よりの幸せである。


 最後になったが、本書の出版に当たっては明治図書の江部満氏にたいへんお世話になった。江部氏のお力なくしては本書が世に出ることはなかった。この場を借りて、厚くお礼を申し上げたい。


   /加藤 郁夫

著者紹介

加藤 郁夫(かとう いくお)著書を検索»

1953年,愛知県生まれ。立命館小学校教諭。名古屋大学卒業後,大阪の府立高校に27年間勤務。2008年より立命館小学校で「古典」を教えはじめる。科学的「読み」の授業研究会事務局長。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • ただ暗唱したりばかりがはやってしまっているが、どうすれば古典の授業も「読む」授業になるのかという視点がわかりやすく、授業の構想を立てる上で非常に役に立っている一冊です。
      2012/12/20

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