- 推薦文
- はじめに
- T 「物語の創作/お話づくり」で子どもたちの書く力を育てよう
- 1 基礎基本の活用でできあがる「お話づくり」
- 2 児童も教師も「書くこと」が苦手?
- 3 子どもたちは「お話づくり」にあこがれる
- 4 海外で評価される創作活動―『ファンタジーの文法』
- 5 「お話づくり」の活動で鍛えられる様々な能力
- 6 「お話づくり」の魅力は「書くこと」+α
- 7 「言葉による表現力」は子どもたちを救う
- 8 これからの子どもたちに身につけさせたい「想像力」と「創造力」
- 9 創作活動の原点は「認識力」の育成
- 10 新学習指導要領にも「文学的創作」が登場
- 11 「物語の創作/お話づくり」学習の構想
- 12 目に見えて成長する子どもたちの「書く力」
- U 感性と技能が身につく「物語の創作/お話づくり」のカリキュラム30
- カリキュラムについて
- [カリキュラム30]
- 1 日記
- 2 連想ゲーム
- 3 イメージマップ
- 4 6W1Hゲーム
- 5 五感でスケッチ
- 6 比喩@
- 7 視点転換
- 8 物語あそび
- 9 季節と俳句
- 10 俳句のレシピ
- 11 詩人になろう
- 12 読書感想文
- 13 場面を描こう
- 14 書き換え@
- 15 書き換えA
- 16 起承転結
- 17 比喩A
- 18 ベファーナの分析
- 19 物語の評価
- 20 情景描写のレトリック@
- 21 情景描写のレトリックA
- 22 心情描写のレトリック
- 23 物語の構成@
- 24 物語の構成A
- 25 プロップのカード
- 26 随筆/エッセイ
- 27 お話の種探し〜材料
- 28 物語の設計図
- 29 さあ書こう!
- 30 助言しあおう
- 作品集 大人もビックリ! 子どもたちの珠玉の作品紹介
- ◆児童の優秀作品
- 心は虹色(6年生)
- 海のレストラン(5年生)
- みんなならんだ(2年生)
- わたしと,イタリアと,ヒヨコ(3年生)
- 70歳のお友達(6年生)
- ◆児童の喜びの声
- おわりに
はじめに
平成23年(2011年)から実施の新学習指導要領は国際的な学力調査の結果も意識した新たな学力観が盛り込まれ,「活用」という概念がそのキーワードのひとつとして取り上げられました。さて,その「新学習指導要領(小学校・国語)」の中で,本書が注目したいのは「書くこと」の言語活動例として「物語を書いたりすること」という「文学的文章の創作」が登場したことです。
この「物語を書いたりすること」という言語活動は様々な基礎的基本的言語知識・技能を「活用」しなければできない学習です。本書はこの活用的な学習である「物語を書いたりすること」の意義や有用性をみなさんと考え,Uに挙げた指導案集をもとに「物語を書いたりすること」の指導方法を探っていきたいと考えています。
新学習指導要領では「言語の力」が各教科の基盤になると考えています。思考し,判断し,表現するには「言語の力」が必要です。その「言語の力」を身につけさせるためのスタートとして,本書はまず子どもたちが「言葉って楽しいね!」「日本語って素敵だね!」と実感すること,言語に対する関心意欲をしっかりもつことが重要だと考えます。それを実感させることは大人の,教育者の務めであり,その実感が子どもたちの「高度な言語力の基盤」になると考えるからです。それは「生涯学習」へ繋がるものであると同時に,日本語や日本の伝統文化に親しみを感じ,母語である日本語を大切にしよう,探究していこうという気持ちや態度も育ててくれることでしょう。
「物語を書く」学習はこれらの気持ちや態度という土壌の上において,言語の知識・技能を活用して行う複合的・総合的な言語活動です。そういう意味では入り口は広く,子どもたちが大変喜ぶ言語活動でありながら,高度な学習でもあります。しかし,高度であってもその学習の中で子どもたち自身が再び「基礎的基本的事項」の重要性に気づき,自らそこに立ち戻りたい,という「自己評価活動」も自然発生的に起きてきます。
このPDCAサイクルをスムーズに回す原動力は何でしょう。それは「物語を書く」学習への子どもたち自身の「興味・関心」の高さです。つまり「おもしろい話を書きたい!」「うまくなりたい!」という思いが子どもたちを自然に「学びのサイクル」へ導いてくれる,そんなポテンシャルをもつ学習です。
広島大学名誉教授の森田信義先生はご著書『表現教育の研究』(溪水社)の中で次のように述べておられます。
「わたしたちは生きているかぎり表現する存在であり,生きていることの証として表現し続けるのである。」
「わたしたち人間は,表現せずには生きられない存在である。」
子どもたちは元来「表現したい」のです。この原理を学びに生かす,変換することは自然の摂理に叶った理想的な学びでもあります。
「物語を書く」学習は「思考力」「判断力」「表現力」の育成においても有用性が高いと考えています。新学習指導要領で注目を浴びるこの3つの力はいったいどのように身につけさせることができるものでしょうか。「物語を書く」学習はその問いに答える力があります。「物語を書く」とは無から有を産み出す活動です。何もないところから論理性と感性,一定の構造と美しさを持つ「完成品」を創り出すクリエイティブな学習です。その学習過程は問題解決型学習と似たところもあり,子どもたち自身が自らの学びを設計して思考し,判断し,表現していくことでしか「完成」しない学習活動です。つまりこの3つの力抜きにはゴールへたどり着くことは不可能なのです。
さらに,この3つの力と合わせ,ぜひ押さえておかなければならない力も「物語を書く」学習は育成します。それは「想像力」であり,「創造力」です。今の時代ほど「想像力」や「創造力」が求められている時代はかつてなかったかもしれません。新学習指導要領(国語)を執筆され,以前より「物語創作」の教育力を説いておられる元文部科学省教科調査官(現京都女子大学教授)の井上一郎先生もご著書『国語力の基礎・基本を創る―創造力育成の実践理論と展開―』(明治図書)の中で次のように述べておられます。
想像力及び創造力は,存在しないものや不可視のものなどを我々の目の前にいかにもあるかのように,あるいはすぐにも起こるかのように見せる。(中略)時代や社会が大きく動くときには,あるいは動かして改革を行わなければならないときにはとりわけ重要なものとなるのである。
(中略)現在の教育改革は,戦後に限ったとしてもかつてないほど激しい変容したイメージを要求していると言えよう。つまり,教師にとっても子どもにとっても,新しい時代に即応する想像力(イマジネーション)とそれらを生かした創造力豊かなクリエーターになることが求められているのである。(中略)
人間形成の立場からも,重要な表現力を身に付けるためには想像力及び創造力は欠かせない。従来のように,整理された学問的知識を理解するだけの時代は終わっている。
これまで,国語の目標にも掲げられながら,国語の研究テーマとしてあまり論じられることのなかった「想像力」,そして「創造力」。これらをどのようにして育成すればよいのか。その答えのひとつとして「物語を書くこと」の学習があります。
特にこの本が強調したいのは「子どもたちは書きたがっている!」ということです。
「そんなことはない。子どもたちは書くことは好きじゃない。」そう考える方もおられるかもしれません。しかし,それは「書くことのおもしろさを教えていない」,あるいは「指導者が『書くこと』を好きじゃない」「指導に消極的である」ということの裏腹な結果かもしれません。
「作品集」にもありますように,子どもたちはこの学習が大好きです。そういう子どもたちの心の声に,教師も,保護者も,子どもたち自身でさえこれまで気づいていなかったのです。「書きたい」「上手になりたい」「楽しかった」「またやりたい!」このような思いを子どもたち自身が持っていて,学力が上がらないということがあるでしょうか?
本の構成は3部形式になっています。Tは「『物語の創作/お話づくり』で子どもたちの書く力を育てよう」。少し原理的なところから掘り下げて考えています。Uは「感性と技能が身につく『物語の創作/お話づくり』のカリキュラム30」。筆者勤務校*で実際に4年間実施したものをもとにしたカリキュラムと指導案集です。最後は「大人もビックリ! 子どもたちの珠玉の作品紹介」です。子どもたちの作品や実際に体験してみた600名にのぼる子どもたちの生の声をお読みください。
なお,この本は教育関係者の方々や,ご家庭,場合によっては「おもしろい物語を書きたい」と思う子どもたち自身にも読んで欲しいと思っています。本書はどこから読んでいただいても構いませんし,場合によってはどんどんとばしていただいて結構です。要はこの本が1ページでも子どもたちの心の奥底に眠る「書きたい!」の思いを呼び覚まし,そのことによって「想像力」や「創造力」を含む「生きる力」の育成や「賢い子どもを育てること」に結びつけば,筆者は幸せです。なお,本書の理論や考え方をまとめるにあたっては,ご指導いただいた広島大学名誉教授の森田信義先生をはじめ,多くの関係者の皆様に大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼を申し上げます。
/三藤 恭弘
実際にこの本の指導案の追試をしてみました。子ども達は,自分でおはなしを創ってみて,はじめてわかることがあったようです。
国語が苦手な子が,おはなしづくりの授業の後,自ら図書館に行き本を借りたことを聞いて,とても嬉しく思ったのと同時に,本書の魅力を感じました。
ワークシートや資料も使いやすい。多くの文献や研究者の言葉も引用されている。