- はしがき
- T 全校読書活動の展開
- 1 読書離れを克服する
- (1) 目に余る読書意欲の欠落を打開する
- (2) 望ましい読書習慣を養うことは簡単ではない
- (3) 椋鳩十の「母と子の20分間読書」に学ぶ
- 2 読書によって感性を育む
- (1) 幼児期の感性を大切に伸ばそう
- (2) 宮沢賢治の「注文の多い料理店」のおもしろさを探る
- (3) 優れた読書感想の基本的な条件となるもの
- 3 OECDの学力調査のもたらしたもの
- (1) 「2000年の読解力調査」の問題例をめぐって
- (2) 読書活動と総合読解力の得点との関連性
- (3) 娯楽読書に偏向している日本の読書傾向
- 4 デューイの図書館思想のもたらしたもの
- (1) デューイの「子ども中心の教育」の提唱
- (2) デューイは図書館を授業の出発点と位置づけた
- (3) 学校図書館活用能力で最も欠けているもの
- 5 図書委員の活動内容を再検討する
- (1) 図書委員のカウンター当番は主な活動ではない
- (2) 図書委員が主体的に取り組む企画の例
- (3) 学級分館の活性化の推進役を図書委員が果たす
- 6 司書教諭の職務とリーダーシップ
- (1) 司書教諭が配置されて学校図書館は変化したか
- (2) 司書教諭の職務内容の再検討と新しい方向
- (3) 余暇利用の楽しみと個に応じる調べ学習と
- U 読み聞かせからブックトークへ
- 1 小学校低学年の読み聞かせ
- (1) 本に親しみ,言葉に関心を持つ
- (2) 豊かな感性(心)を持つ
- (3) 一人読みへの基礎的な力を育む
- 2 中学年からの読み聞かせ
- (1) 長編読書への道
- (2) 本との出会いから本の選択力へ
- (3) 感動を伝えようとする読み聞かせ
- 3 多読期の読書活動を支えるブックトーク
- (1) 多読期の読書活動
- (2) 個人個人に合った読書教材の提供
- (3) テーマが導き出す読書
- 4 個人の読書に取り入れるブックトーク活動
- (1) ブックトークによる読書発表会
- (2) ブックトークからテーマ読書へ
- V 読書活動を楽しむ読書まつり
- 1 楽しい読書活動
- (1) 春の読書まつり
- (2) 秋まつり週間
- (3) 作家講演会
- 2 大型紙芝居
- (1) 読書まつりを盛り上げる大型紙芝居
- (2) ペープサート
- (3) 影絵
- 3 集団読書の発展
- (1) 読書会
- (2) まんがの方法
- (3) 読書まつりにアニマシオンを
- 4 その他の校内読書活動
- (1) クラスのおすすめ本の紹介
- (2) 語り聞かせや落語を授業に導入
- (3) 夏休み図書館開放・読書郵便
- W 読書討論会からブックディベートへ
- 1 描く――「本の帯」
- (1) 読むこと,かくこと,発表(討論)すること
- (2) 「描く」こと
- (3) 「本の帯」を作る
- 2 書く・描く――「読書新聞」
- (1) 「読書新聞」を作る
- (2) 作成上の留意点
- (3) 「読書新聞」の効用
- 3 討論する――「書評座談会」
- (1) 相乗効果をもたらすもの
- (2) 「書評座談会」とは
- (3) 変容する生徒
- 4 ディベートする――「ブックディベート」
- (1) 「ブックディベート」とは
- (2) 実践の概要
- (3) 深化する読書
- X 学校図書館教育のカリキュラム
- 1 学校図書館の組織と運営
- (1) 学校経営の中核としての位置づけ
- (2) 「学校図書館」の基本的な考え方
- (3) 授業を支えるために
- (4) 学校図書館部会の役割
- 2 学校図書館の年間計画
- (1) 学校図書館を利用する授業
- (2) 学校図書館での授業を通して見えてきたもの
- (3) 「学校図書館メディアを利用する授業」(国語科のみ抜粋)
- (4) 「学校図書館の利用教育・読書教育の授業」
- (5) 学校図書館メディアを利用する学習計画<1年生>
- 3 学校図書館メディアの整備
- (1) 学校図書館メディアの構成
- (2) 「学校図書館を利用する授業」の研究
- (3) 『小学校図書館の学習基本図書』(西宮市小学校図書館研究会編)
- ――国語科・社会科・理科・生活科・総合的な学習――の編集
- (4) 読書案内適書群――「読んでほしいな これだけは」
- (5) 「読んでごらん
- (6) 特別書架として配架
- (7) 情報ファイルの整備
- (8) 学習した児童の主な作品
- 4 子どもと本と学びをつなぐ
- (1) 学校図書館から,「つながる授業」の楽しさ
- (2) 低学年の児童に関わって見えてきたこと
- (3) 1年生の国語科授業(ティームティーチィングの授業例)
- (4) 調べる学習に取り組んで見えてきたこと
- 5 終わりに
- Y 学校の読書環境を整える
- 1 学校図書館の環境を見直す
- (1) 図書館の場所と施設
- (2) 司書教諭として関わった静岡の3校の施設と場所等
- (3) 校外の施設の利点を吸収する
- 2 プロムナード構想(図書館に人を呼ぶ作戦)
- (1) 図書館を広げて生まれる可能性
- (2) 全職員にお願いする「リフレッシュの秘訣」
- (3) 観山中の自慢――読書掲示物の工夫
- (4) 新規採用教師の意欲的な試み
- 3 保健室,心の相談室ライブラリー
- (1) 心のオアシスとしての保健室と図書館
- (2) 保健室ライブラリーと相談室ライブラリー
- 4 人的な読書環境を整える
- (1) 全職員体制で,人的読書環境を整える
- (2) 学校図書館のビジョンのアピール
- 5 読書環境としての担任,個人への読書相談
- ――「心の旅に」に触れて。中3の担任として――
- Z 学校図書館のボランティア活動
- 1 司書教諭がリーダーシップを発揮して
- (1) 保護者の立場のボランティア
- (2) 自主運営で行うボランティア
- 2 図書ボランティアの活動とその効果
- (1) 読み聞かせ
- (2) 環境づくりボランティア
- (3) 本の貸し出し,長い休み時間の見守り
- (4) 本の管理補助
- 3 地域の図書館活動とのつながりと学校支援体制
- 4 図書ボランティアQ&A
- (1) 読み聞かせボランティア
- (2) 学校図書館環境づくりボランティア
はしがき
平成9年6月11日に公布された「学校図書館法の一部を改正する法律」によって,「平成15年4月1日以降,12学級以上の学校には,必ず司書教諭を置かなければならないこと」と決定されてから,私の生活は急変した。放送大学の司書教諭養成講座を担当することになったからである。
私は,昭和53年度から東京の青葉学園での司書教諭養成講座に,毎夏,出講するようになっていたから,司書教諭養成講座の内容については,熟知していたので,私が担当することになった8回(毎回45分)分のテレビ放送の計画はスムーズに立てることができた。
しかし,毎回,45分もの長い時間,一人の話を聞かせるのは,聞く者はつらいだろうと考えて,学校図書館のロケーションによる映像を,できるだけ多く取り入れるように心がけた。とはいっても,この科目に使える予算は限られているから,第1回のロケは東京と大阪,第2回は本州の各地,第3回は沖縄と,いくつかの地域の先進校に協力していただいた。
学校図書館の優れた実践校のロケをするといっても,「どういう目的で」「どういう学習活動を」という,私自身の目的意識がはっきりしていなければ,撮影の専門家たちを動員してカメラを回しても,こちらが望んだ画像を得ることはできない。
幸いなことに,大阪府和泉市の幸小学校から,図書館教育について,講演を依頼され,私が同校を訪れたことがきっかけとなって,毎回,必ず実践授業を見させてくださるという条件のもとに,3年間に19回,授業を見せていただき,それに合せて講話して,図書館をどのように改善していけばよいのか,お話した。最初のうちは消極的だった先生方も,自分の授業について丁寧な指導を受けて,それを明日からの授業に生かせたし,その結果,子どもたちの目の色が変わっていき,積極的になった。
図書館を改善するにしても,形の面にこだわると,子どもたちはついてこない。「本を読め!」と呼びかけても,子どもはすぐに動かない。だが,全校の教師が自分の教室の入口に,イラストを交えた「読書ゆうびん」を毎月掲げることによって,子どもたちも動きだすようになった。
千葉県市川市の富貴島小学校の三浦せい子さんは,私が担当していた青葉学園の司書教諭の講座を受講したが,休憩時に,講義の内容について話しかけてきたことがきっかけとなって,同校の読書教育研究会にお招きくださるようになり,新しいアイデアを提案させていただいた。
放送大学の司書教諭養成講座を立ち上げるにあたって,学校に足しげく通わせていただく土台となったのは,東京都小学校図書館研究会の蔵元和子さんと,東京都中学校図書館研究会の池田茂都枝さんである。このお二人との交流は,かれこれ30年に登る。学校現場の生の声を聞くことによって,学校図書館の研究や読書教育の推進は,ひとりだけの研究では達成できにくいことを,私は長い時間の流れの中で学んだ。
曲里由喜子さんと牧野雅子さんは,放送大学のロケを通してお世話になった人である。渡辺暢恵さんは学生時代に読書教育を卒業論文のテーマに選んだことから,おつき合いが始まった。千葉市の小学校に勤務されていたが,研究に対する熱意が高まり,現在は筑波大学の大学院に進まれて,研究を深めつつある。私の放送大学のロケーションは3期に分けられるが,渡辺さんは第2期の司会の補助役をしてくださった。
この本を出版するにあたって,もうひとり,特記しなくてはならない人がいる。それは,明治図書出版の企画開発室の江部満氏である。江部氏とも30年以上前からのお付き合いであることから,私は年賀状をさしあげるときに,「司書教諭が配置されたというのに,活気がないですね」と添え書きした。その結果,「編著で,『読書活動と図書館の活用』という本をやってくれませんか」という話になったのである。
私は,この誘いに大変感動させられた。江部氏の「読書活動」という言葉によって,「読書教育」と「読書活動」の違いの大きさに気づかされたのである。教師の感覚からすると「教育」なのだが,子どもたちの立場からすると「活動」でありたいというのである。「教育」という言葉から連想されるのは「教科書・教師・指導・課題・評価」などであるのに対して,「活動」から連想されるのは「楽しみ・仲間・感動」である。この差はとても大きい。
戦後ずっと続いている日本の学校教育を代表する言葉を探すと,「学力低下・学校ぎらい」かと,私には思える。その原因を集約すると,「教科が増えすぎたこと・勤勉の放棄」などが浮かび上がる。いずれ,各教科が存在することの是非を検討するときが来るだろうと思う。図書館については「利用指導」意識が強すぎた。「活用」との違いを考える必要がある。
第T章の第4節で,現代の学校教育の理論の柱となっているジョン・デューイ(Dewey, John,1859〜1952)の神髄を取り上げたが,その意図を汲みとっていただきたい。私自身,学習者中心の学校への転換の必要性を長い間訴えてきた。今後の展開を期待したい。
本書の執筆分担は次のようになっている。ご協力いただいた皆さんに心から御礼申し上げたい。
増田 信一(京都女子大学発達教育学部教授) 第T章
蔵元 和子(文教大学非常勤講師) 第U章
三浦 せい子(千葉県市川市立国府台小学校司書教諭) 第V章
池田 茂都枝(元東京都杉並区立大宮中学校教諭) 第W章
曲里 由喜子(兵庫県西宮市立広田小学校司書教諭) 第X章
牧野 雅子(静岡県静岡市立観山中学校司書教諭) 第Y章
渡辺 暢恵(筑波大学大学院院生) 第Z章
2006年7月30日 /増田 信一
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- 明治図書