- まえがき
- 第1章 対等・安全戦略 みんなが大切な教室の基盤をつくる
- 見るだけでつかむ!「対等・安全戦略」
- 分析01 関わりの違和感はどこからくるのか
- 戦略01 全員を大切にしたいと公言する
- 戦略02 対等性を強調するアクティビティを行う
- 戦略03 「みんなに話が聞いてもらえる」という安心感をもたせる
- 分析02 「コミュ力」を重視したキャラ付けが教室に与える影響
- 戦略04 みんなのために行動してくれる人に光を当てる
- 分析03 子ども達が一番恐れているのは「非公式な制裁」
- 戦略05 教室に飛び交う言葉を「安全」なものにする
- 戦略06 「失敗」をリフレーミングする
- 第2章 他者意識戦略 心の傷を未然に防ぐ
- 見るだけでつかむ!「他者意識戦略」
- 戦略07 声掛けの中に「他者に目を向けさせる言葉」を入れる
- 戦略08 あなたも,他の子も大切な一人であることを伝える
- 戦略09 遊びの計画を通して他者視点を学ぶ
- 戦略10 アクティビティを生かして「他者に目を向けられる子」を価値付ける
- 戦略11 ただ「目を向けられたこと」から認めていく
- 戦略12 利他行動を学級全体に広げる
- 戦略13 感謝の気持ちをもつことのメリットを伝える
- 戦略14 関わりのモデルとしての役割を果たす
- 戦略15 学級内の「関わり上手」を見つけて,その価値を伝える
- 第3章 回数×本数戦略 関わりの量を計画的に増やす
- 見るだけでつかむ!「回数×本数戦略」
- 戦略16 遊びの力を借りて交流の助走をつける
- 戦略17 「明確さ」と「当事者感」を意識して交流活動を活発にする
- 戦略18 ダイナミックなグループワークの中で様々な関わりを経験させる
- 戦略19 サブカルチャーとなる遊びを推奨する
- 戦略20 2種類の班をつくり関わりの「本数」を増やす
- 戦略21 関わりを広げるメリットを説明する
- 戦略22 「ご近所付き合い」を大切にする
- 戦略23 共通の話題をデザインする
- 戦略24 関わりを広げるメリットを伝える
- 第4章 シェアのつながり戦略 つながりを教室全体に広げる
- 見るだけでつかむ!「シェアのつながり戦略」
- 分析04 学級全体に「つながり」をつくることはできるのか
- 戦略25 「つながり」のイメージチェンジを図る
- 戦略26 あいさつとちょっとした会話からスタートする
- 分析05 子ども達は「分かち合う経験」が不足している?
- 戦略27 シェアのつながりを目指した対話実践
- 戦略28 「質問タイム」と「私はタイム」を生かして問題を全員でシェアする
- 戦略29 ともに解決策を生み出す
- 戦略30 シェアのつながりの中に身を置けるようにする
- 分析06 「シェアのつながり」にも深まりはある
- 第5章 個別のアプローチ戦略 この子もあの子もつながりの中へ
- 見るだけでつかむ!「個別のアプローチ戦略」
- 戦略31 「静かな子」が活躍できる機会をつくる
- 分析07 「一人でいたい子」は本当に一人でいたいのか
- 戦略32 グループ活動への捉え方を変えていく@
- 戦略33 グループ活動への捉え方を変えていくA
- 分析08 一部の相手としか関われない子にはどうすればいいのか
- 戦略34 一部の相手としか関われない子へのアプローチ
- 戦略35 話すことが苦手な子へのアプローチ
- 戦略36 グループ活動で揉め事が起こった時のアプローチ
- 戦略37 他者とつながれる子を一人でも増やしていく
- 第6章 共同体感覚戦略 つながれる子を育てる
- 見るだけでつかむ!「共同体感覚戦略」
- 分析09 「つながれる人」はどんな感覚をもっている?
- 戦略38 「WE」の感覚をもたせる
- 戦略39 積み重なっていく掲示物で所属感を高める
- 戦略40 貢献感を得ることができるような仕掛けをつくる
- 分析10 共同体感覚を高めるために必要な共感能力とは
- 戦略41 「自分の身になってくれる人」に教師がなる@
- 戦略42 「自分の身になってくれる人」に教師がなるA
- 戦略43 その子の立場になって考える言葉掛けをする
- 戦略44 エンパシ―の価値を言葉にする
- 戦略45 文章を通して,その子の身になる機会を増やす
- 第7章 脱・同調戦略 自分らしく仲間とつながる
- 見るだけでつかむ!「脱・同調戦略」
- 分析11 気付かぬうちに生まれる「同調圧力」
- 分析12 「同調圧力」が奪うものとは
- 戦略46 互いの意志や,気持ちを尊重できるように声を掛ける
- 戦略47 それぞれの声を大切にする「話し合いカード」
- 戦略48 一人一人の意見を尊重する「私はタイム」と「質問タイム」
- 戦略49 「関係性の中での自立」を目指す
- 戦略50 その子らしさが表れた瞬間を見つけて,喜ぶ
- 戦略51 その子らしさを喜べる学級にしていく
- 分析13 同調を脱した先にあるのは
- 第8章 共創・創発戦略 つながりの価値が実感できるように
- 見るだけでつかむ!「共創・創発戦略」
- 戦略52 意見をつなげて新しいものを生み出せるようにする
- 戦略53 マインドマップを生かして意見を出し合う価値を実感させる
- 戦略54 学級のルールや価値観を共創する
- 戦略55 子ども達が生み出した新しい遊び
- 分析14 つながることの価値が現れる「創発」という瞬間
- 戦略56 自由なネットワークをつくる
- 戦略57 一人一人が自律して行動できるようにする
- 戦略58 「創発」のきっかけを与える
- 分析15 学級経営の理想は?
- あとがき
- 引用・参考文献
まえがき
「先生,俺,人に食べてるとこ見られたくない」
コロナ対応が緩和され,給食をみんなで食べられるようになったその日。多くの子ども達がみんなと顔を向き合わせて食べることを嫌がりました。班活動に参加できない。趣味や価値観が近い相手としか関わりをもてない。教室に困っている子が居ても見向きもしない。自分と,仲の良い数人が良い思いをすれば,他の子がどう思おうと関係ない…。そんな冷たい光景を目にすることも少なくありません。現場にいると,子ども達の「つながり」がこの数年でより一層,薄く,脆くなってしまったことを感じます。私の杞憂ならいいのですが,きっと同じような“危機感”をおもちの方は多いのではないかと思います。
おそらく原因は,コロナ禍だけに限りません。臨床心理士の東畑(2022)は,今の社会を「小舟化する社会」と例えました。社会が自由になる一方で,親族や企業,集団といった大きな船は姿を消し,ネットでのつながりに代表するように,必要がない時には簡単にそのつながりを断ち切ることができてしまう。遭難しようが,沈没しようが自己責任のひどく孤独になりやすい社会になっているというのです。こうした社会の変化と,学級からつながりが消え始めていることは決して無関係ではないはずです。実際に,縁を切る,関わりたくないという言葉を簡単に口にする子もたくさんいます。
そもそも,現実世界で趣味や価値観が合わない相手と無理に関わらなくても,インターネットの世界に行けば似た嗜好をもつ相手がたくさん見つかります。そこにいる人達の顔や名前は分かりませんが,すぐに「いいね」といって承認欲求を満たしてくれます。自分の好きな時に関わることができますし,万が一,その相手と関係がうまくいかなくなったとしても,関係を“ブロック”してまた新たな相手を探せばいいのです。
加えて,セルフレジや宅配サービス,インターネットの普及によって,日常生活の中で「他者」を感じることが少なくなりました。欲しいと思ったものが,翌日には玄関の前に届く時代です。直接誰かと関わらなくても,1日の生活が成立してしまいます。
そう考えていくと,他者とのつながりを築いていこうとする営みが,社会の変化と逆行していることに気が付きます。せっかく関わる時間をつくったのにかえって関係が悪化してしまったり,いつまでたっても冷たい関わりばかりが見られたり。そんな一筋縄ではいかない問題が度々訪れるのも無理はありません。
こうした逆風の中で,つながりを築くためには計画的な方略をもって,粘り強く戦う必要があります。そこで役に立つのが学級経営の戦略です。戦う相手はつながりが消えていく現代社会。決して子どもたちを攻略したいわけでも,制圧したいわけでもありません。そのあまりにも分の悪い相手から,子ども達のつながりを守る戦いのサポートができたら。そんな願いを戦略という言葉に込めました。
誰かと分かり合えた嬉しさ。同じ気持ちを共有できる喜び。心の穴を埋めてくれるような温もりや,一人では知る由もなかった新たな気付き。他者とのつながりは,私たちにかけがえのないものをたくさんもたらしてくれます。6月に閣議決定された教育振興基本計画に「人とのつながり・関係性に基づく要素が人々のウェルビーイングにとって重要な意味を有している」と示されているように,つながりは幸せに欠かせないものだと思うのです。
本書では,ばらばらに見える昨今の教室に,つながりを築いていくための戦略を@対等・安全戦略A他者意識戦略B回数×本数戦略Cシェアのつながり戦略D個別のアプロ―チ戦略E共同体感覚戦略F脱・同調戦略G共創・創発戦略の8章に渡って紹介しています。消えていくつながりに危機感を抱き,なんとかそれを守ろうと戦っている方々のお役に立てれば幸いです。
2024年1月 /佐橋 慶彦
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- 明治図書
- キャッチーなワードは心に留まり日々の教育活動のバイブルになります2024/8/2850代・中学校教員
- よかった2024/8/230代・小学校教員
- 学級づくりをしていく上で大切な視点が沢山学べました。子どもどうしをつなぐことの大切さが分かりました。2024/7/640代・小学校教員
- 細かいところまで書いてあっていいと思います。2024/4/430代・小学校教員