「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門

「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門

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これならうまくいく! 理論から授業プランまで詳説した入門書

PISA型読解力の弱点として指摘されている熟考・評価の発問ばかりに重点を置いて、教材理解と教材解釈の過程を軽んじていると指摘しています。本書ではPISA型に対応して開発された「ブッククラブ」の授業を提案します。読解力は読書量に比例すると強調。


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PDF
ISBN:
978-4-18-305117-2
ジャンル:
国語
刊行:
3刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 144頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

はじめに
T 理 論 編
1 「PISA型読解力の授業」への誤解について
2 「PISA型読解力の授業への誤解」の具体的な事例
(1) 事例1
(2) 事例2
(3) 事例3
3 ブッククラブとは何か
成人のブッククラブ
4 ブッククラブの理論的背景――なぜブッククラブが必要か――
5 日本と欧米の国語教育・読書教育の違い――なぜクリティカル・リーディングが必要か――
6 ブッククラブの目的
7 ブッククラブの基本仮説とその根拠
8 国際的な(PISA型)読解力とブッククラブの関連
9 読書へのアニマシオンとブッククラブの関連
10 読書会とブッククラブの違い
U 実 践 編
1 年間授業計画の中でのブッククラブの実施方法
ブッククラブをやればやるほど受験には強くなる
2 教師が準備すること――選書と教材研究――
(1) 選書
(2) 本の入手
(3) 教材研究
3 ブッククラブの単元構成
(1) 読書単元としてのブッククラブ
(2) 詳細すぎる読解の2つの欠点
(3) 教科書教材で詳細すぎる読解をやめる方法
(4) バックグランド・ナリッジ(背景の知識)
(5) リーディング(読み)
(6) ライティング(書き)(1〜2時間)
(7) ディスカッション(話し合い)
(8) シーケンス・チャートで行う「テクストに基づいた推論」――「スイミー」を例にして――
4 ブッククラブの授業をどう評価するか
5 ブッククラブで,子どもをどう評価するか
6 どうしたら教室の秩序が保てるか
(1) 教室の秩序が保てない3段階
(2) どうしたら子どもの自尊感情を高められるか
7 絵本で読みきかせによって行う授業プラン(小学校低学年から中学校向き)――「がちょうのたんじょうび」を例にして――
(1) 教材研究
(2) 授業シナリオの例
8 絵本で読みきかせによって行う授業プラン(小学校中学年から中学校向き)――「きつねのおきゃくさま」を例にして――
(1) あらすじ
(2) 教材研究
(3) 指導法の一例――「きつねのおきゃくさま(あまんきみこ,サンリード)」――
9 本によって行う授業プラン(小学校高学年から中学・高校向き)――「蠅」を例にして――
(1) あらすじ
(2) 教材研究
(3) 「蠅」のブッククラブの例

はじめに

 この本ではブッククラブの指導法をわかりやすく具体的に紹介します。

 まず,この本で提案するブッククラブの特徴を,従来の国語教育と比較して示します。詳細な説明は本書をご覧ください。


(表省略)


 PISA型読解力の弱点

 私の著書やWEBサイトの情報が広まって,いわゆるPISA型と呼ばれる授業が広まっています。従来行われがちだった枝葉末節の曖昧な発問が改善されることは素晴らしいことですが,困ったこともでてきました。それは丁寧な教材理解と教材解釈の過程を軽んじて,クリティカル・リーディング(熟考・評価)の発問ばかりに重点を置いてしまうことです。

 例えば,小学校で「ごんぎつね」を教えるときに「ごんのおわびの気持ちはどうすれば兵十に伝わったでしょうか?」というようなクリティカル・リーディングの発問をすれば,子どもたちは実に楽しんでいろいろな発言をします。授業が盛り上がれば教師は楽しいからPISA型にやみつきになります。これがPISA型授業が広まる大きな理由でしょう。

 しかし,この問にきちんと答えるためには,従来から行われてきたような内容の理解と教材解釈をきちんと行わないと,教材を正しく理解しない実にいい加減な議論を子どもたちはしてしまいます。

 また,PISA型の発問をつくるのは容易なことではありません。なぜならPISA型の発問は欧米人のコミュニケーションに基づいていて,日本人の頭からはでてきません。だからPISA型の発問を模倣してもとんでもない見当違いの発問をつくってしまうことがよくあります。

 PISA型授業が引き起こす弊害については,冒頭に詳述しますが,このような事情で,今まで私のリーディングリテラシーのサイト

 http://www.nier.go.jp/arimoto/index.html

 に掲載されていた「PISA型授業実践事例」は全部削除しました。


 ブッククラブの提案

 この本は,PISAに対応するために開発したPISA型の授業をさらに発展したブッククラブという授業を提案します。

 ブッククラブとは,読解力を向上させるためにはたくさんの本を読ませて,読んだことについて質問したり討論したりする,多読と討論が最も効果的だという確信に基づいて,アメリカで非常に普及している方法です。

 ブッククラブとは単なる読書教育ではありません。

 教材を段落や場面ごとに読み進める従来の授業とは異なり,文章や本の全体を理解させ,質問に答えさせ討論して読みを深めさせます。

 アメリカでは,国語の授業の代わりに行う教師たちもいて,国のカリキュラムにあたるナショナル・スタンダーズや州や学区のカリキュラムが求めている,読む・書く・聞く・話すの学習内容をすべて学ばせようとします。

 従来の国語の授業と違うのは,大量の本を読ませて,子どもたちが中心になって本の内容についての討論をさせるように導くことです。


 ブッククラブを広く実践しているアメリカのPISAの順位がそれほど良くないのはなぜか

 これは,アメリカは移民などの外国人が多く,したがって英語のできない子どもたちが少なくないからです。

 カリフォルニアなどではほとんどの子どもたちの親が外国人で,家では英語以外の言語を話していることが珍しくありません。

 そういう特別な状況があるからこそアメリカでは,英語の力を付ける最も合理的な方法として,多読と討論を重視した多様な指導法が開発され,その中の1つがブッククラブです。

 PISAテストで読解力がトップクラスのフィンランドの国語教科書を見ると,質問や課題の出し方などでアメリカのブッククラブと共通する指導法が多くあります。

 アメリカのブッククラブのやり方は,フィンランドのように教育の質が高く,子どもたちのもともとのリテラシーが高ければ,非常に効果的だという証拠になります。

 またアメリカのPISAの得点は国際平均並ですが,これは多読と討論によるブッククラブが普及しているためにここまで得点が引き上げられたと考えられます。多読と討論による指導法が普及していなければもっとアメリカの得点は低いと私は思います。

 逆に,日本は外国人の数が少ないにもかかわらず得点がアメリカと同じ国際平均並ということは,教科書重視で詳細すぎる読解をする極端な精読が非常に非効率だからだと私は思っています。


 ブッククラブを日本の授業に取り入れる

 日本では,アメリカと同じようなやり方をすることはできませんが,例えば教科書教材を使った単元が従来16時間かけていたら10時間に短縮して,余った6時間で教科書教材に関連する本や絵本を2〜3冊読ませるようなやり方を本書では提案しています。

 読解力は読書量に比例しますから,「ごんぎつね」を16時間かけて詳細な読解をやるよりも,「ごんぎつね」を10時間に短縮し,余った時間で,ほかのきつねが主人公になった絵本を3冊読む方が確実に読解力は向上するのです。

 16時間の単元を10時間に短縮したからといって,教材理解が甘くなることはありません。むしろ,従来の段落や場面ごとに少しずつ教えていくやり方の方が,全体像が把握できず,十分な教材理解ができないことが多いのです。

 この本では,教材の理解と解釈が,クリティカル・リーディングには何よりも大切だという確信に基づいて,従来よりは短時間でしかも正確で深い教材の理解と解釈を行う方法を提案します。


 相互交流のコミュニケーションからブッククラブへの進化

(図省略)


 上の図は,最初の主な著書が発行された順序に私の指導法の進化を図示したものです。

 今まで私が提案した指導法は,すべて積み木のように積み重なり,スクラップにしたものは1つもありません。しかし,すべて前の指導法の弱点を補強しながら進化してきました。

 2002年には,今まで読み書き中心で一方通行のコミュニケーションが多かった授業から,聞く話すを重視した「相互交流のコミュニケーション」を提案しました。

 2003年には,「相互交流のコミュニケーション」が聞く話す偏重になり,読むことがおろそかになる弱点を克服して,スペインから「読書へのアニマシオン」を導入しました。

 2006年には,「読書へのアニマシオン」がゲームに流れがちになり,授業に応用しにくい弱点を克服して,PISA型(国際的な)読解力の授業を提案しました。

 そして今,2009年,PISA型読解力が,PISAテストの発問の模倣になりがちで,教材理解と教材解釈がおろそかになりがちな弱点を克服し,なおかつ「読書へのアニマシオン」も吸収して多読と討論による読解力向上を目指して,アメリカから「ブッククラブ」を導入しました。


 ブッククラブの位置づけ

 ――コミュニケーション,PISA型,アニマシオン,国語の授業の相関図――

 私が提案した,相互交流のコミュニケーション,読書へのアニマシオン,PISA型読解力,ブッククラブと,国語の授業との相関を図示しました。

 すべてに「相互交流のコミュニケーション」が関係しています。

 「読書へのアニマシオン」は「相互交流のコミュニケーション」を基礎にしていますが,読んだことについてコミュニケーションする点が違います。75のティーチング・ストラテジー(指導戦略)が開発され,ブッククラブと重なる部分も多いのですが,ブッククラブでは行われないストラテジーもあります。

 「PISA型読解力」も「相互交流のコミュニケーション」を基礎にしていますが,読んだことについてPISA型の発問について討論させる点が違います。

 今行われている国語の授業には,コミュニケーションはかなり取り入れられていますが,私が意図した双方向のコミュニケーションはなかなか行われません。

 国語の授業で,読書へのアニマシオンを試みる人も多いのですが,換骨奪胎,ただのゲームとして扱う人が多いのは残念です。読書へのアニマシオンが本当にできるようになるためには,ブッククラブで行われているような討論の力を身に付ける必要があります。

 国語の授業で行われるPISA型読解力の授業には誤解が多いのは前述した通りです。

 ブッククラブは読書会や読書の時間などと共通する部分もありますが,日本で行われる読書会や読書単元はブッククラブとは似て非なるもので,まったく別物と考えた方が誤解がないと思います。

 ブッククラブのコミュニケーションは,子どもたちが自分で課題を見つけお互いに批判し合ってディスカッションし,課題を解決しようとします。課題解決型のディスカッションです。

(図省略)


 本書の特徴

 この本は,小学校から高校までの教師が対象のブッククラブ入門書として,理論から具体的なディスカッションの仕方,教材分析の仕方,具体的な授業プランや授業シナリオを詳しく開発しました。

 アメリカで行われているブッククラブをコミュニケーション・スタイルのまったく違う日本にそのまま導入することはできません。

 アメリカのブッククラブから多くを学びながら,ブッククラブ研究会の仲間たちと試行錯誤して研究授業を重ねながら,現在の段階でこれならうまくいくという確かな方法を提案しました。

 さあ,ブッククラブを楽しんでください。


  2009年11月   /有元 秀文


 謝  辞

 次の方々から,本書の原稿について貴重なご助言をいただきました。心からお礼申し上げます。


 浅井純,石黒麗子,江部満,奥脇千鶴子,加々本裕紀,片山敏郎,北川達夫,小林圭一,佐保文章,澤口哲弥,諏佐ゆかり,仁平博幸,堀江祐爾,本多豊,吉田佳恵,水戸部修治

著者紹介

有元 秀文(ありもと ひでふみ)著書を検索»

〈略歴〉

1967年 山口県立岩国高校卒業

1971年 早稲田大学教育学部国語国文学科卒業

都立新宿高校国語科教諭

1986年 文化庁国語課国語調査官

1991年 国立教育研究所主任研究官

現在  国立教育政策研究所総括研究官

〈専門〉 国語教育

PISA型読解力

ブッククラブ

コミュニケーション教育

いじめ解消のコミュニケーション

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
    • この商品は皆様からのご感想・ご意見を募集中です

      明治図書
    • 国語・学力テストの向上のために、参考にしました。
      2019/12/2650代・教頭
    • 今年は久しぶりの担任、国語の授業をしています。これまで場面ごとに読んでいく授業しかしたことがない自分には、言語活動を柱にした年間計画や単元構想についていけない思いがありました。この本を読んで、確かに、場面ごとに読んでいく時間があれば、もう何冊も読めたと思いました。
      2015/8/1660代・小学校教員

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