- はじめに
- 第1章 ユニバーサルデザインの学級づくりとは
- 0 ユニバーサルデザインの学級づくりとは何か?
- 1 アセスメント 〜4つの視点から考える〜
- 2 教室環境の構造化
- 3 人的環境の構造化
- 4 個別支援と全体指導
- 第2章 ユニバーサルデザインの学級づくり 実践編
- 日常場面
- Case1 忘れ物が多い忘田くん ―不注意特性のある子がいるクラス
- ・事務的な作業が苦手な不注意特性
- ・不注意特性のある子への個別支援
- ・不注意特性のある子への合理的配慮
- ・忘れ物が発生しないための環境調整
- Case1 まとめ
- Case2 授業中に立ち歩いてしまう元気くん ―多動性特性のある子がいるクラス
- ・「じっとしていられない」多動性特性
- ・多動性特性のある子がいるクラスでの全体指導
- ・多動性特性のある子への個別支援
- Case2 まとめ
- Case3 朝,遅刻してしまう遅田さん ―衝動性特性のある子がいるクラス
- ・「我慢ができない」衝動性という特性
- ・衝動性特性のある子への支援
- ・将来のために報酬を活用する
- Case3 まとめ
- Case4 コミュニケーションが苦手な静香さん ―社会性の困難がある子がいるクラス
- ・多様な背景がある社会性の困難
- ・社会性の困難がある子への個別支援
- ・社会性の困難がある子がいるクラスでの全体指導
- Case4 まとめ
- Case5 時間に合わせた行動が苦手な頑固くん ―こだわり行動のある子がいるクラス
- ・1つの物事に集中してしまうこだわり行動
- ・こだわり行動のある子がいるクラスでの全体指導
- ・こだわり行動のある子への個別支援
- Case5 まとめ
- 学習指導場面
- Case6 周囲の音や刺激に敏感な繊細さん ―感覚の過敏がある子がいるクラス
- ・周囲に理解されにくい,感覚の困難
- ・聴覚過敏のある子への配慮と対応
- ・触覚過敏のある子への配慮と対応
- ・視覚過敏のある子への配慮と対応
- ・嗅覚過敏
- ・味覚過敏のある子への配慮と対応
- ・繊細さんを見逃さない
- Case6 まとめ
- Case7 音読が苦手な夜目内くん ―読むことの困難がある子がいるクラス
- ・学習障害は,「文字の困難」
- ・LDの2つの基準
- ・読むことの困難がある子への支援と対応
- ・ICT 機器を活用した合理的配慮
- ・学習障害のある子のための学習環境づくり
- Case7 まとめ
- Case8 作文が嫌いな加気内くん ―書くことの困難がある子がいるクラス
- ・文字は読めるけど,書くことが苦手な書字の困難
- ・書くことの困難がある子への支援と対応
- ・ICT 機器を活用した合理的配慮
- Case8 まとめ
- Case9 字が丁寧に書けない荒書きくん,小字さん ―書くことに不器用さがある子がいるクラス
- ・書字を綺麗にするための全体指導
- ・書字を綺麗にするための個別支援
- Case9 まとめ
- Case10 何かを触りたくなる澤多くん ―いじり癖のある子がいるクラス
- ・いじり癖を出さないための全体指導
- ・いじり癖がある子への個別支援
- Case10 まとめ
- 参考文献・資料一覧
- おわりに
はじめに
理由・背景を知ることでユニバーサルデザインを実現しよう
初めまして。こども発達支援研究会の前田と申します。日頃は,小学校や放課後等デイサービス(障害のある子を育てる福祉施設)で勤務をしながら,教育に関する発信を行っています。
また私自身,発達障害(自閉症,ADHD)を抱えており,障害の当事者としてもより良く生きていくための方法を考え,日々発信をしています。
本書では「通常学級の中で,発達障害などの困難を抱える子を含めた全員を育てる」ユニバーサルデザインの学級づくりについて紹介しています。最近では,インクルーシブ教育の考え方が広まり,通常学級でも障害の有無に関わらず,同じ場所で一緒に育てようという流れがありますが,一昔前は異なりました。
例えば,発達障害という概念が生まれる以前は,学校はそもそもインクルーシブな環境でした。落ち着きがない子も,話すのが苦手な子も,勉強が苦手な子も,個性的な子として教室に存在していました。今でも「昔はこんな子いっぱいいたよ!」と,発達障害や特別支援教育の考え方を否定的に見るベテランの先生は大勢います。
しかし,「こんな子」の行く末を知っている現場の先生はいません。どんな学校に進学し,どのように就職し,どう人生を過ごしているのかに興味のある先生もほとんどいません。学校で適切な教育を受けられなかった結果を知るのは,当事者だけです。そして,当事者の声はほとんど世の中に発信されず,「自己責任」という名の下,見捨てられているのが実態です。このように,困難を抱えた子の人生は,「昔はいっぱいいた」と一言で済ませられるほど軽くも,簡単でもないのです。
本書では,特別支援教育の視点を通常学級に取り入れて,どう学級づくりをしていくのかを紹介しています。
「困った子」で終わらせるのではなく,「なぜ困っているのか?」「なぜこんな言動をするのか?」という行動の理由・背景と具体的な対応をセットで紹介することで,よりわかりやすく読者の皆様にお伝えしたいと思います。
例えば,学校教育では「寄り添いましょう」「受容しましょう」という言葉がよく使われます。とても大切な行動だと思いますが,特別支援が必要な子の場合は,「寄り添って,受容した結果,行動が悪化した子どもたち」もたくさんいます。これは先生が悪いのではありません。そもそも,子どもの言動の理由や背景を知らずに,適切な行動を獲得することは難しいのです。
そこで,もし,「困った子」が皆さんの教室にいる時は,なぜその言動をするのか? その理由・背景を知って欲しいと思います。
・背景を知れば「こんなに大変だったんだね」と共感できます
・日頃の行動の意味もわかります
・何をするのか予想がつくので,対策も打てます
・先生の心の負担も軽くなります
・そして真に理解し,子どもと関係性を築けて指導が入るようになります
「知る」ことこそ,当事者を理解し,インクルーシブな環境が生まれる最初の一歩です。私は,発達障害の当事者として,現場の先生方に「知る」ということを,ぜひお願いしたいです。そのための方法を本書で紹介しました。ぜひお読みいただければと思います。
2021年1月 /前田 智行
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