- まえがき
- 第一章 美しい日本語で優れた日本人の育成
- 一 日本語の指導を徹底する教育を開拓・創造
- 二 「国語教育立国論」の理念追究と研究構想の確立
- 三 日本語ルネッサンスは国語教育の原点・基点
- 第二章 新世紀の教育を育む哲学・文化・思想
- 一 日本の教育向上を論議する前提条件
- 二 哲学的思索と学校教育の質的向上
- 三 教育者として歩み続ける哲学の道
- 第三章 変化する社会に対応する新言語行動観
- 一 新言語行動観に立つ国語科教育の理論構築
- (一) 言語観の歴史的推移と新しい言語観
- 1 言語道具観と言語思想一体観
- 2 理想主義に立つ理念的言語観
- 3 表現行為を重視した「言語過程説」
- 4 言語を具体的な生活、社会的な生態と捉える言語生活主義
- 5 言語の働きを重視する言語機能観
- 二 価値ある行動を重視する言語行動観の確立
- 1 新言語行動観の意義
- 2 言語の機能の明確化
- 3 言語行動観の構造
- 三 言語行動観を基盤に「行動学習法」を開発
- (一) 言語行動を主軸においた学習指導法の発見
- (二) 読む過程を重視した行動学習法の条件
- (三) 行動学習法の種類・機能・特徴
- (四) 「行動学習法」を導入した授業の展開
- 1 指導効果を高めるための留意事項
- 2 授業の展開と基礎的・基本的事項の構造化
- (五) 二十一世紀を拓く言語行動観に立つ国語科教育
- 第四章 国語科教育の体系化と欧米型読解法
- 一 「生きて働く国語力」と国語科教育の螺旋的系統
- 二 PISA型読解力と基礎・基本・統合発信力
- (一) 基礎的技能 (基礎学習)の指導法
- (二) 基本的能力 (基本学習)の指導法
- (三) 統合発信力 (統合学習)の指導法
- 第五章 授業力を高める指導法の組織化と国語科研究法
- 一 よい授業を創る国語科指導法の組織化
- (一) 「指導過程」は授業の中軸的機能
- (二) 「指導技術」は教師の秘策・秘術
- (三) 「指導形態」は人間関係力獲得に最適
- 二 授業力を高める国語科研究法
- (一) 「国語科研究法」のシステム化
- (二) 指導案作成の前提「教材研究法」の研究
- 1 生きる力に寄与する「内容的価値」の追究
- 2 基礎・基本・統合発信力の精選構造化
- 3 理解・表現・行動の精選と設定
- (三) 授業創造の前提「指導案作成法」の研究
- 1 PISA型読解法を見据えた指導案作成の基本的な考え方
- 2 学習指導案の主要項目と教材研究の成果を活かすポイント
- (四) よりよい授業を創る「授業分析・再構成法」の研究
- 1 「学習評価」の日常化と学力の向上
- 2 「授業評価」の継続と授業力の向上
- (五) 新教師論の基本理念と研究力・行動力
- 1 新教師論の基本理念と実践力
- 2 指導力向上を目指す教師の研究力
- 3 人柄+研究力・実践力
- あとがき
- 各章扉のイラストは、鷺宮小学校のPTAの教育力で作成した音読集『くさぶえ』に描かれたイラストです。この『くさぶえ』が基点となって『音読集』六冊(ひばり・おがわ・くさぶえ・すいしゃ・やまびこ・しおさい〈まどみちお・せがわえいし監修〉)が誕生しました。
まえがき
「正しく美しい日本語で優れた日本人の育成」
〜国語教育立国の道を拓く教師の理念追究と行動力〜
母語・日本語力で国力を高めていくことが、二十一世紀を拓く我が国の緊急課題であると考えております。この重要な課題解決にどう取り組めばよいかを永い年月をかけて模索していました。具体的研究に着手する契機となったのは『言語行動観に立つ国語科教育』(一九七七年七月、明治図書)を出版していただいたことが起点となっています。
今から約三十年前のことです。この本の序章を要約すると「変転極まりなく進歩することが予測されるこれからの時代においては、人間の価値観・倫理観が揺れ、乱れることが予想される。日本人の美徳とする誠実・謙虚・礼節を根底に、冴えた知性豊かな感性がにじむ行為で社会に奉仕・貢献する価値ある言語行動ができる人間を育成する学校教育が期待される。この課題解決には、普遍性と客観性を調和統一した『価値ある言語行動』ができる国語科教育を強力に推進する必要がある。」……と強調しています。
さらに、「激動期における教育理念は児童・生徒が主体的・創造的に生きる人間教育を徹底する─ことも重要な課題である」と提言しています。加えて、国語科教育は人間形成に直接寄与する教科であるので、ことばの機能を通して「自分で思考し判断し『価値ある言語行動』を駆使・運用し、国際社会に伍していく日本語教育を実現することが教師の責務である。」と提言しています。この根本理念・理論は、現時点でも不変であり普遍であると確信しています。
現在教育基本法の改正、教育再生会議・中教審等で「美しい国、日本」の国づくりに総力を挙げて対応しています。目標達成には教育の根本である哲学・文化・思想について深く思索し、施策に浸透・徹底する必要があります。現場の教師も教育の哲学・理念を究明し、価値観・人生観・教育観・言語観・児童観・生徒観・指導観・授業観等を確立しなければなりません。常に不易・普遍の真理・真実を根幹に、時代の変化に対応していくことが教育改革の原点・基点であることを認識することが必須条件であると考えております。
現時点における日本社会の情勢や教育界の実情は「ことばの乱れは心の乱れ、心の乱れは行動の乱れ、行動の乱れは社会の乱れ、社会の乱れは国の衰亡に連動する。」……という憂慮する状況にあります。国語科教育を軽視すると学力が低下し、人間力も弱体化し日本力が衰退していくという危機感・危惧感を抱く教師や社会人が数少ないとしたら、子供たちの生涯にわたる幸せ実現や、日本の発展・繁栄も期待できなくなります。
二〇〇七年二月九日、第三十五回「全国小学校国語科教育研究会・沖縄(名護)大会」が開催されました。人間力・国語力・授業力が低下し、我が国の将来が憂慮されている実情にある今、この懸念を払拭するような新世紀を拓く国語教育研究会が公開され、全国から参加した先生方が、共感・感激・感動体験を共有しました。
日本の国語科教育の原点・基点ここにあり、という嬉しい事実に直面しました。第一の感動体験は子供たちの学習でした。価値ある目標に向かって全知全能を働かせ、自己実現、向上的変容・変革をしていく姿に感激し目頭をおさえていた先生もおりました。しかも、目標達成の過程で確実に「生きて働く国語力」を身につけていたのです。
第二の感動・共感体験は先生方の授業力のレベルでした。いきいきと言語行動を展開する過程で基礎・基本・統合発信力を確実に定着・習得・獲得する「指導過程」と「指導技術」「指導形態」を有機的・相乗的に組み立てた密度の高い「よい授業」を創造したのです。しかも、「基礎学習」と「基本学習」・「統合学習」のコースで国語科教育の体系化に拠る画期的な授業でした。「統合学習」(統合発信力の指導)では「PISA型『読解力』指導」の「効果的に社会に参加するために書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」の育成を指向していました。教材・素材も「文章や表・写真・グラフ・パワーポイント・ビデオレター・手紙等々……複数の教材・素材で情報活用能力を駆使して立体的・構造的な授業を展開していました。欧米型読解力や東洋型教育法の長所を精選導入し、我が国の輝く歴史伝統を中核に据えた「日本教育立国論」を確立したいものです。
第三の感激・体験は、森林の国、フィンランドやスロベニアに共通する自然豊かな名護ヤンバルの子供たちは森を愛し心優しく純朴で、美しいことばで精一杯学習に取り組んでいたことです。加えて沖縄の先哲・聖人「程順則翁」の教育哲学・理念「六諭のこころ」を幼・小・中・高校の児童・生徒たちの「生きる力・人間力」の目標にしていることです。名護の教育行政の「美しい国語・美しい日本・美しい地球」を目指す施策に敬服でした。教育は「不易と流行」の精神で一貫することが大原則です。日本の歴史・伝統・文化や、教育の哲学・理念を継承すると共に、変化・流動の変に的確に対応しなければなりません。特に、これから急速に変化・発展していく情報化時代の光と影、プラス・マイナスの両面を厳しく比較分析し、的確に判断して国語科教育の改革を決断し行動する必要があります。
これからは教育立国を目指し国力を高揚して国際社会に伍していく日本の教育はどうあるべきかの具体策を講じることが重要且つ緊急の課題であると考えております。全国小学校国語教育研究会沖縄(名護)大会は、日本再生の命題追究の方向を示唆していただきました。本会は、名古屋・埼玉・北海道・北九州・岩手……と日本再生教育立国の原点・基点である「国語教育立国」を志向し継続して行きます。
新世紀に生きる人間の条件として「言語で価値ある情報を発信・受信・交流する力」は、獲得すべき新国語力です。また、「国語教育を中核に据えた学校教育の創造」や「国際社会に伍していく日本語教育」を国民一人ひとりの課題として取り組み、解決する体制を整え国民的運動として展開していく構想を立てることも重要です。
新生日本建設のための「国語教育立国論の理念追究」と「研究構想の実践的展開」は、国語科教育研究を軸に全国規模で推進したいものです。公的研究団体である全国小学校国語教育研究会等を中軸に、各研究会や全国の学校が協力して実現したいと構想しています。
このように念願しているとき、明治図書の教育図書企画室代表の江部満様から「国語教育立国論」のシリーズを発刊するようにというありがたいおことばをいただきました。厚くお礼を申し上げ、ご期待に応えるよう「国語教育立国の道を拓く」ために精進したいと心を新たにしております。
「人生は出会いである。教育研究を通しての出会いは生涯忘れることができない。また、尊敬・畏敬できる先達や、真を極める研究者・指導者との出会いは、その人の幸せを増幅する」……これまで多くの善き人との出会い再会に感謝しております。
我が国の教育の充実発展は、教育立国に連動する価値ある研究情報を全国的規模で発信・受信・交流し、質的に高い研究成果によって開花結実するものであると思います。「国語教育立国論」の理念追究と理論の確立や方法の開拓を目指していく国民的運動も、「子供を愛し研究に徹する」先生方と、常に「哲学的思索と教育の原理・原則に拠る振幅性・弾力性のある豊かな着想で時代を先取りしていく研究者」である先生方との協力・協調で前進していくものであると確信しております。
/瀬川 榮志
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- 明治図書