心理学 de 学級経営
ケース別でよくわかる! アドラー心理学に学ぶ「勇気づけ」実践ガイド

心理学 de 学級経営ケース別でよくわかる! アドラー心理学に学ぶ「勇気づけ」実践ガイド

これであなたも「勇気づけ」マスター!

アドラー心理学にとって「勇気づけ」は重要な概念です。しかしながら「子どもをほめるのではなく、勇気づける」と言われても、具体的にどうすればよいのかイメージしにくいという声もあります。本書では35のケースについて具体例をもとに「勇気づけ」を解説しました。


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ISBN:
978-4-18-295916-5
ジャンル:
学級経営
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 136頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年10月4日

もくじ

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はじめに
1章 アドラー心理学を学級づくりに生かす
1 アドラーの人物像と教育観
アルフレッド・アドラー
民主的な教育観
2 アドラー心理学の考え方
原因論と目的論
勇気づけの心理学
共同体感覚の育成
3 学級づくりの4段階
適切な行動,当たり前な行動を認める
子どもと対等な横の関係をつくる
競争よりも協力を大切にする
自律した学級をつくる
2章 アドラー心理学の考え方
1 勇気づけとは何か
「勇気づけ」とは
2 勇気くじきと勇気づけ
3章 場面別でよくわかる 学級づくりの「勇気づけ」実践講座
出会いの時期の「勇気づけ」
Case1 提出物を出さない子がいたとき
アセスメントで実態と背景を考える
Case2 子どもになめた態度をとられたとき
視点を変えて意味づけ直す
Case3 学級目標を考えるとき
目指すクラス像を共有し,所属感につなげる
Case4 スタートでクラスが落ち着いているとき
「ほめる」ではなく,「勇気づけ」る
授業中の「勇気づけ」
Case5 授業開始時が騒がしいとき
子どもの権力闘争にのらない
Case6 子どもが話を聞いていないとき
感覚タイプを意識する
Case7 テストの成績が思わしくないとき
不適切な行動に注目しない
Case8 漢字が苦手な子どもに指導するとき
相手の関心に関心をもつ
Case9 授業中に誤答があったとき
間違った意見でも貴重な意見として取り上げる
Case10 特に考えさせたいことがある授業のとき
生きることの価値につなげる
Case11 子どもたちの意見から授業を深めていくとき
「ありがとう」「うれしい」を意識的に使う
Case12 学ぶ意欲を引き出したいとき
四つの方針で勇気づける
話し合い(クラス会議)での「勇気づけ」
Case13 掃除さぼりを話し合うとき
子ども自身が考えられるようにする
Case14 ふざけたアイディアが出たとき
淡々と対応し,注目を与えない
Case15 友達の話を聞く態度が悪いとき
話を聞く練習をする
Case16 話し合いで相手と批判し合ってしまったとき
人を責めない方針を示す
日常生活場面の「勇気づけ」
Case17 給食指導のとき
誰の課題かを意識する
Case18 解決方法を自分で考えられないとき
課題を自分自身で考えさせる
Case19 他の子どものサボり情報がもたらされたとき
共感的に話を聞く
Case20 整列でおしゃべりばかりのとき
適切な行動をアクティビティで学ぶ
Case21 宿題をやってこないとき
宿題をやってこない事実に向き合う
Case22 友達にわざとぶつかる子がいたとき
適切な行動(当たり前な行動)に注目する
Case23 好き嫌いが激しい子がいたとき
克服することの意味を話す
Case24 忘れ物がひどい子がいたとき
一緒に解決策を考える
Case25 登校班で友達のいうことをきかないとき
よりよい解決策を考える
行事での「勇気づけ」
Case26 運動会指導のとき
子ども同士がつながるように支える
Case27 林間学校のとき
目的を意識する
トラブル場面での「勇気づけ」
Case28 机に落書きをする子がいたとき
スモールステップで行動変容を促す
Case29 友達への問題行動を起こす子がいたとき
ブレーンストーミングでよいところを書き出す
Case30 保護者から無理な要望が寄せられたとき
対立ではなく,協働を目指す
Case31 過敏な子どもが危険な行動をとったとき
感覚を想像し,共感する
Case32 物を盗む子がいたとき
短所にも共感的に接する
Case33 友達への無視が発覚したとき
介入ではなく被害者とつながる
Case34 いじめの加害者に指導するとき
いじめっ子にも共感し,劣等感に向き合う
Case35 同僚・後輩のクラスが荒れ始めたとき
得意な分野で自信を取り戻させる
おわりに

はじめに

 アドラー心理学では教育の目的を次のように考えます。それは「共同体感覚の育成」です。共同体感覚とは何かについては後で詳しく述べますが,簡単にいってしまえば「つながり感覚」であり,人は一人では生きていけない,だから周囲のもの(人,自然,宇宙)とつながって生きていこう,という感覚です。

 この「共同体感覚の育成」は,拙著『勇気づけの教室をつくる! アドラー心理学入門』でも述べましたが,日本の教育基本法第1条の教育の目的と合致します。「人格の完成を目指す」と「平和で民主的な国家及び社会の形成者を育成する」という部分です。

 このように見てみると,他の心理学のように人の心を分析したり科学的に説明したりするというよりも,人はどうあるべきなのか,どう生きることが幸福なのかということを追求した学問であり,心理学というよりも哲学的であるともいわれています。しかし,どうあるべきといいっぱなしではなく,そうなるにはどうしたらよいのかをあくまでも具体的に示すことも忘れてはいません。その代表的なものが「勇気づけ」であり,そのことをアドラーはあえて「人間知」と呼びました。

 このアドラーが示した「人間知」は非常にありふれた,当たり前の常識的なことが少なくありません。それは,常識とは人間が長い歴史をかけて生み出した解だからでしょう。個性的であろうとした若い頃の私は「常識的」であることにつまらなさを感じていましたが,今,50歳を過ぎた私はその解を受け入れられるようになってきました。

 そして,学校という場は,その解を受け継ぐ機関だと考えています。もちろん,その解を「絶対」のものと考えるのではなく,その解に照らして,どう個性的であるのか,また,個性にとってその解はどうなのかをいつも問い続ける必要があります。

 アドラー心理学を学級づくりに生かすと,次のようなよいことが起こります。


@子どもたちの学習意欲が向上します

A子どもたちが協力的になります

B子どもたちが主体的に問題を解決しようとするようになります

C子どもたちを常にコントロールしなければならないという考えから解放されます

D子ども,保護者,同僚との関係がよくなります


 これらのことのうち,一つでも実現したいとお考えの方であれば本書はきっとお役に立てると思います。本書は,というよりも,アドラー心理学は,といった方がよいでしょう。

 しかし,アドラー心理学の活用は,そのハウツーだけで,あるいはその思想だけで突っ走ると痛い目にあうことも忘れてはなりません。


@内発的な動機づけだけに価値を置くあまり,子どもは,楽しいこと,楽なことのみを追い求める

A自分の欲求のみに関心が向き,自己中心的になる

B主体的であることのみに価値を置き,他者からの指示や依頼に耳を貸さない

Cアドラー心理学の思想を使って,できていない他者(子ども,保護者,同僚)を批判,非難し,関係が悪くなる


 アドラー心理学の考え方を知ると,目からうろこが落ちたような感覚になり,これですべての問題が解決するかのような錯覚に陥ることがあります。また,アドラー心理学に基づいた様々なワークやクラス会議なども,大変魅力的であり,一度体験すればすぐに教室でやってみたくなるものです。しかし,理論と実践は車の両輪であり,どちらも地道に身につけていくことが必要です。実践しつつ振り返りつつ,試行錯誤しながら自分のものにしていくことが大切です。

 今,私は特別支援学級の担任をしています。その学級の子どもたちが,用意された材料を使って,ピザ生地の素が入った袋の説明書きを読みながら,自分たちの力だけで協力してピザを焼き上げました。100mLの水と15mLのオリーブオイルを計量カップと大さじでちゃんとはかっている姿に感動しました。一人ひとり順番に生地をこね,材料を刻み,トッピングして焼きました。少し不格好でも表面はパリッとして,よい香りのピザができあがりました。

 知的に,情緒的に,障害があっても人間知さえ備わっていれば「生きる力」は彼らのものとなります。はじめから内発的に動機づけられることをねらうのは無謀ですが,教え,勇気づけ,励ますことで,次第に教え合い,勇気づけ合い,励まし合い,協力して物事をなしとげる集団ができあがっていくのです。器官劣等性を補償し優越を目指すたくましさを特別支援学級在籍の彼らの中にこそ見るのです。

 もう一人の特別支援学級の担任がおいしそうにピザをほおばりながら,「僕たち,なんにもしませんでしたよね! 本当に自分たちでやりましたね! できないって決めてるのは僕たちの方なんですね!」と興奮して話してくれました。彼は私のかつての教え子。しかも,一番手を焼き,苦渋の1年を過ごした,あのクラスの子。共に働ける幸せは,教師冥利の一言につきます。

 アドラー心理学を学ぶということは,自分の共同体感覚も育つということです。相手の目で見,相手の耳で聞き,相手の心で感じる(アドラーの共感の定義)ことができるようになったとき,教師としてのやりがいと,人間としての生きがいが,以前よりももっと大きく育っていることに気づくはずです。具体的なケースを通して学んでいきましょう。

著者紹介

佐藤 丈(さとう たけし)著書を検索»

1964年東京都出身(55歳)。山梨大学教育学部で教育心理学を専攻し,卒業後心理学専攻科に残り「共感」をテーマに研究。1989年より山梨県公立小学校勤務。2003年山梨県総合教育センターに内地留学し「どの子供にも居場所のある学級」をテーマに研究し,アドラー心理学をヒューマン・ギルドにて学ぶ。2004年より小学校に戻り,クラス会議,アドラー心理学に基づく学級経営を実践。2011年より6年間,同教育センターにて研修主事。相談,研修,研究の業務にあたる。2018年より山梨県公立小学校教諭として現職。また,公認心理師として子どもの心の問題に対応。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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