- はじめに
- 第1章 楽しい道徳授業のベースづくりがもっとうまくなる7の技
- 1 道徳授業の達人になる前に学級づくりの達人になる
- 2 「傾聴三原則」を意識させる
- 3 心安らぐオウム返しで肯定感を高める
- 4 「教え惜しむ」姿勢をもつ
- 5 生徒に到着するホームを見つけさせる
- 6 「基本形」を知り尽くす
- 7 「守・破・離」を意識したしなやかさをもつ
- 第2章 「対話」を中心とした「考え,議論する」道徳がもっとうまくなる10の技
- 8 スリーシステム座席配置で対話をつくる
- 9 ペアトークで議論を始める
- 10 オープンクエスチョンで議論を深める
- 11 消えていく発言を「見える化」する
- 12 思考ツールで多様な考えを交通整理する
- 13 ファシリテーションで多様な考えを引き出す
- 14 自我関与させることで本音を引き出す
- 15 簡易アナライザーで心の葛藤を「見える化」する
- 16 教材の事前読みで議論する時間を確保する
- 17 中学生でも効果抜群の役割演技を使う
- 第3章 効率的で濃厚な教材分析がもっとうまくなる6の技
- 18 ねらいを定めるためにひたすら赤ペンで書き込む
- 19 付箋紙と模造紙をフル活用する
- 20 発問の大きさを読み物教材の特性から判断する
- 21 ストーリーの「変化」を逃さない
- 22 教材の活用類型をフル活用する
- 23 「遠・近・実・創」の4要素から授業展開を定める
- 第4章 明確な指導観を基にした授業構成がもっとうまくなる12の技
- 24 道徳科の目標から理想的な授業展開を見抜く
- 25 オーソドックスな共感的活用に 質の高い多様な指導法を流し込む
- 26 主人公の行動を第三者的に批判させることから授業を展開する
- 27 偉人やアスリート教材は「すごさ」を共有する
- 28 感動教材はストレートに感動を味わう
- 29 問題の所在を見つけて「問い」にする
- 30 導入で進むべき方向を決める
- 31 事前読みとICT活用で短く効果的に教材理解とあらすじ確認を行う
- 32 教材にかかわる議論は「拡散から収束へ」と展開させる
- 33 自己を見つめる「振り返り」から納得解へつなげる
- 34 終末に五感を刺激する芸術作品を投入する
- 35 説話は自己の失敗エピソードを語り,余韻をもって終わる
- 第5章 効果的な発問がもっとうまくなる5の技
- 36 中心発問は議論の発火点と考える
- 37 議論収束へ向けて連射的な補助発問をくり出す
- 38 深い学びは「ズレ」を起こさせる発問から始める
- 39 葛藤やジレンマを中心に据えた発問から授業を展開する
- 40 発問の立ち位置を捉える
- 第6章 「考え,議論する道徳」を支える板書がもっとうまくなる4の技
- 41 形式にとらわれず議論の足跡を残す
- 42 生徒の意見を短く表現する
- 43 時系列的な板書と構造的な板書を使い分ける
- 44 構造的な板書の切り札として思考ツールを活用する
- 第7章 白熱する楽しい道徳授業づくりがもっとうまくなる6の技
- 45 タブーにとらわれず自分の頭で考える
- 46 現代的な課題を扱う教材にはゲストティーチャーを招く
- 47 p4c(子どものための哲学)でとことん議論する
- 48 ローテーション道徳で授業の質を高める
- 49 日常生活の中から教材を開発する
- 50 小単元を構成してテーマ追究型のダイナミックな授業を展開する
はじめに
「アンコール!」「アンコール!」の大合唱。
私にとって忘れられない道徳授業のラストシーンです。
事の発端は,「『立志の会』を,もっと生徒の心に残る会にしたい」という学年主任の言葉でした。この言葉を受けて,道徳推進教師が,「うちの学校は,道徳教育が教育活動の柱。『立志の会』の中でも道徳の授業をやりましょう。ただ,学年道徳という形の授業は,やったことがないので校長先生にやってもらいましょう」と提案。満場一致で可決されました。
当日の主題は「家族への感謝」。使用した資料は,1994年,ピューリッツァー賞を受賞した「ハゲワシと少女」という写真。80年代から続く内戦と干ばつで深刻な飢餓状態となっていた南スーダンで報道写真家ケビン・カーターが撮った衝撃の写真。一羽のハゲワシがやせ細った少女をねらう場面。
感じたことを自由に発言させていくと,しだいにカメラマンの話に移っていきます。ほとんどの生徒がカメラマンの行動への憤りを語ります。しかし,そのカメラマンが撮影後に号泣したことを伝えると,会場の空気が変わりました。1人の女子生徒が「広い砂漠の中に,だれも助ける人がいない状況。見捨てられた状況が悲しく,何もできない自分が情けないんだと思う」と語ります。そして,今の自分たちの状況へと話が進んでいきます。家族を思い,友人を思う生徒の姿が確実に確認できる話し合い。自然な形で価値の主体的な自覚ができている…。涙を流し始める生徒が次々と現れます。何だろう,この授業は! 我を見失い,突然の「これで授業を終わります」の宣言。異様な雰囲気に,まとめもせずに終わってしまう自分がはずかしい…と思った瞬間,会場から手拍子が聞こえ「アンコール!」「アンコール!」の大合唱。
長年授業を行ってきて,授業のアンコールをもらったのは,後にも先にもこのときだけです。
若いころ,徹底的に道徳授業の「型」を教えてもらい,ある程度の授業ができるようになってくると,子どもたちにわかりきったことを答えさせていく授業展開が苦痛でたまらなくなりました。その「型」を超える本音で語り合える授業をしたいと思うようになりますが,当時の自分には頼るべき人も書籍もなく,自己流で進めるしかありませんでした。生徒から「アンコール」の声をもらえるまでに30年の歳月がかかってしまったのです。
今回,『道徳の授業がもっとうまくなる50の技』を執筆するにあたり,教科化された道徳の授業をされる先生方の授業づくりの指針となるような本を届けたいと考え,私が学んできた道徳の授業づくりのすべてを紹介させていただきました。生徒との関係づくりから始まり,教材研究の方法,発問のつくり方,授業展開の5類型,板書の仕方などを丁寧に説明しています。
この本を手にされた先生方にも,「アンコール!」の大合唱が起こるような道徳授業のすばらしさを体感してほしいと切に願っています。この本を手元に置き,ハンドブックとして活用していただくことで,先生が主役となって進めていく授業のはかなさと,生徒が探究学習をする中で自分の生き方を見つけていく授業の重厚さがわかっていただけると思います。
全国の小中学校で講演させていただくときのテーマは「うれしい,楽しい,道徳大好き!」。本書が教科化時代の道徳授業づくりの水先案内人となり,「道徳が楽しい!」という先生と子どもたちが増えてくれたら幸いです。
今も聞こえる「アンコール!」の大合唱が全国に広がることを願って。
2019年4月 /山田 貞二
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