- はしがき
- 第一章 子どもと授業
- 第一節 自己実現をはかる授業をめざして
- 一 子どもの自己実現をはかる授業に
- 二 子どもをとらえることからの出発
- 1 子どもに支えられる教師
- 2 子どもの個性が表出する
- 三 個性がぶつかり合う
- 1 授業の実際
- 2 自己実現をはかる授業のために
- 第二節 自己実現をはかる授業の構想
- 一 自己実現をはかる授業の構想の具体化
- 1 研究の視点
- 二 個が育つ教育経営
- 1 朝活動
- 2 くらしのたしかめ
- 3 自主活動
- 第二章 子どもと教材
- 第一節 自己実現をはかる「教材」の発掘・選定
- 一 身近なくらしからひとりひとりのくらしに迫る教材
- 1 日常性および慣れからの離脱をはかる
- 2 ひとり追究を支える子どもの調査活動を見通す
- 二 子どもの意欲を揺さぶる教材
- 1 適切な素材を「子どもをとらえる二つの眼」から選定する
- 2 教材の発掘・選定における新たなる方途を求めて
- 三 子どもの創造力をひらく教材
- 1 「あ表現」を「ん表現」に結実する教材の特性
- 四 仲間とともに総力を結集する教材
- 1 「全員が主役」の実感をひとりひとりに保障する教材化の要件
- 2 教材の「競演化」が仲間とつくる楽しみを倍加する
- 第二節 自己実現の契機としての教材提示
- 一 初発の提示こそ、最大限の教師の支援
- 二 自己実現の契機としての教材提示の工夫
- 三 子どもの想像が創造へと膨らむ教材提示の要件
- 1 「個」と「集団」が両立するための初発の教材提示における七つの視点
- 2 切実感をベースにした初発の教材提示によって、子どもの原感情を揺さぶる
- 3 自己実現に向けて、子どものあるがままを表出させる場と機会を保障する
- 四 効果的な「資料」と「活動」の時差提示が自己実現に弾みをつける
- 五 子どもの学年発達と教材提示のかかわりを見直す
- 1 期待感を効果的・継続的に発展させる難しさ
- 2 期待感から問題意識に発展させる提示の難しさ
- 3 教材から離陸し自分自身に着地する提示の難しさ
- 第三章 ひとりひとりの追究を支える
- 第一節 自立的な迫究態度が育つひとり学習
- 一 ひとり学習の意味とねらい
- 1 自己を高めるひとり学習
- 2 自立的な追究をはぐくむ
- 二 ひとり学習での子ども
- 1 問題は個において成立する
- 2 ひとりひとりの追究状況は個性的である
- 3 自ら追究動機を強化していく
- 第二節 子どもに寄り添い支援する
- 一 子どもに寄り添う教師こそが、自己実現をはかる授業を可能にする
- 二 子どもの追究を支える内面の意識をとらえる
- 三 子どもを謙虚にみつめ、支援の手を差し伸べる
- 1 子どもの問題や悩みを共感的にとらえ、取り組み方を共に模索する
- 2 見方が変化していることに気付かせ、さらなる発展を期待する
- 3 停滞の原因を探り、乗り越えようとする意欲を引き出す
- 4 取り組みに意味と可能性を見いだし、それに到達するように対応する
- 5 自己への気付きを評価し、さらなる発展を促す
- 四 子どもへの支援を決断するとき
- 1 その子どもの追究状況から、支援の仕方を決める
- 2 取り組みの変化を見逃さない
- 3 取り組みの変化に価値を見いだし、支援する
- 4 ひとり学習の深まりを期待する集団学習
- 第四章 追究を確かにする集団学習
- 第一節 集団学習の意味とはたらき
- 一 集団学習の意味
- 二 集団学習の設定
- 1 追究のエネルギーを生み出す集団学習
- 2 自らの追究の方向を確かにする集団学習
- 3 自己の見直しをはかろうとする集団学習
- 三 集団学習のはたらき
- 1 他との違いに学び合う
- 2 友達のよさを受けとめ、考えを広げようとする
- 3 新たな自分をつくりだしていこうとする
- 第二節 子どもにとって意味ある集団学習にするために
- 一 事前にはこれだけの準備が必要
- 二 集団学習における教師のはたらきかけ
- 三 集団学習のはたらきを確かめる
- 第五章 追究の深まりをとらえる
- 第一節 追究をとらえ、指導に生かす
- 一 評価の意味と必要性
- 二 評価をより確かにしていくために
- 三 評価をつぎの指導に生かす
- 1 指導と評価の一体化をはかる
- 2 評価の規準の変容
- 3 新たな見通しをもつ
- 第二節 自己評価の力を高める
- 一 学習対象を自らに求める自己評価のはたらき
- 1 自己評価の重要性
- 二 子どもに応じた自己評価のあり方
- 1 自己評価するきっかけ
- 2 自己評価している子どもの教材化
- 3 他者評価をきっかけにした自己評価
- 4 追究の意味を考えようとする自己評価
- 第六章 どの子も生きる学級づくり
- 第一節 学校生活の中のいろいろな場と機会を生かす
- 一 朝活動
- 二 くらしのたしかめ
- 1 聞く構えを育てる
- 2 子どもの心の奥底にひそむ深い悲しみや悩みを垣間見る
- 三 自主活動
- 四 学級活動
- 1 動物の飼育にかける子どもの願い
- 2 「ガンガンがんばる協力国」に寄せる子どもの願い
- 五 学級だより
- 第二節 教師の個性が学級風土をつくる
- 一 ねばり強くひとりひとりにはたらきかける学級づくり
- 1 引っ込み思案の子どもも発表できるようになる
- 2 弱い立場にある子どもの気持ちを思いやる
- 3 甘えん坊に自立性を育てる
- 4 よい友達関係をつくる
- 5 基本的な生活習慣を身に付けさせる
- 二 私の学級運営(座談会)
- あとがき
はしがき
新しい学力観に立った学校教育の推進ということが盛んに強調されております。今までの知識・理解を中心とした教育から、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力、たとえば、思考力・判断力・表現力などを育てる教育へ転換をはかっていかなければなりません。私たちは、子どもが教材を手がかりにしながら、人間・自然・社会・文化などにかかわり、はたらきがける過程で自分のよさや可能性を発揮し、それを高めたり豊かにしたりして自らの願いを達成していくことが自己実現をはかることであると考えております。
この理念は、たいへん分かりやすいので、その実現も容易なことのようにとらえられる傾向があるように思われます。ここで懸念されることは、方法論が先行して「やらせる体験的な活動」や「やらせる問題解決学習」に陥ることであります。理念と方法があまりにも安易に結びつくとすれば、理念の理解が十分なされているのだろうかということを疑ってみる必要があるのではないでしょうか。
まず、子どものよさを引き出すといっても、ある子どもの一つの発言を「よさ」ととらえるか、つまらない戯言ととらえるかの判断には、教師の深い教材観や子ども観、人生観がかかわってまいります。五年社会科「くらしと運輸業―宅急便―」の授業で、宅急便の会社がいろいろな工夫をしているために私たちの生活が大いに便利になったことを学習しているとき、「昔は何でも自分でやっていたのに、こんなにぜいたくにしたら人間がだめになってしまう」と涙ながらに発言した男の子がおりました(一四四ページ参照)。教師は、この発言をどう取り扱えばよいのでしょうか。どう取り上げればこの子のよさを伸ばすことになるのでしょうか。
また、子どものよさといっても、一年生のよさと六年生のよさとは質も違えば、引き出し方も違うかもしれません。知識、理解や技能なら学年を追って高まりを想定することはある程度容易です。しかし、対象への関心のもち方、学習の構えなどがどのような学習経験によって、どのような段階を経て育っていくかということはあまり明らかにされてはいないと思います。
教材についても、これまでは、内容的に見て易から難へとなるように配列しておけばよかったかも知れませんが、子どもの関心や意欲を大切にしようとすると、経験や願いの異なる子どもにどんな教材をどのような順序で用意すればよいかということは容易ならざる問題であります。教材の提示、ひとり学習への支援、集団学習(話し合いの場)の設定、スタートもゴールも異なるひとりひとりの子どもの歩みの評価なども同様にきわめてむずかしい問題を内包しています。そこで、私たちは、学習指導要領が求めている理念の実現と定着をめざして、日々の教育に生きる実践的な理論を構築したいと考え、実践研究を重ねてまいりましたが、ようやくここにそのつたない成果を上梓する運びになりました。
・ 教材に関しては、出会いにおいて子どもの興味を引くだけでなく、単元の初めから終わりまでの迫究の節々で子どもが意欲的にかかわれる要件を明らかにすることに努めたこと
・ ひとり学習では今までブラックボックス的であった教師の支援のあり方を明らかにすることに努めたこと
・ 集団学習(話し合い学習)の設定に当たっての留意点を整理したこと
・ 新しく評価の基準の設定や自己評価のあり方について考えてみたこと
・ 教科の授業以外の学校での活動や学級の風土、教師の学級経営の姿勢などが、子どもの育ちにどのように影響するか考えてみたこと
などが本書のささやかな特徴といえるかも知れません。もとより考え方の上でも、まとめ方の上でも、多くの問題があろうかと思います。厳しいご批判と温かいご指導を賜ることを切にお願いするものであります。
また、この書の出版を快くお引き受けくださった明治図書と同編集部の嶽崎峻氏に対し、深く感謝の意を表するものであります。
平成六年三月三一日 富山市立堀川小学校長 /雄川 美勝
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- 明治図書
- 集団学習の言葉に惹かれて購入した。届くのが楽しみである。2017/10/13