- 巻頭言
- 学習指導要領と「通級による指導」 /上野 一彦
- 提言
- 幼稚園,小・中学校における特別支援教育に関する学習指導要領の改善及び必要な方策の方向性 /田中 裕一
- 第1章 キーワードでみる学習指導要領改訂のポイントと今後の特別支援教育の方向性
- アクティブ・ラーニングと特別支援教育
- 育成を目指す資質・能力と個に応じた指導
- 特別支援教育の視点を取り入れたカリキュラム・マネジメント
- ICT環境の整備とAT(アシスティブ・テクノロジー)
- 社会のグローバル化と外国語教育
- チームとしての学校(学校の教育力・組織力の向上)
- 言語能力の育成,発達段階に応じた言語活動
- 学級経営の充実,児童生徒理解の深化
- 授業研究による教員の学び合いの実際
- 苦手さのある子への学習評価
- 障害者の権利に関する条約
- 障害者差別解消法
- インクルーシブ教育システムの構築
- 合理的配慮と基礎的環境整備
- 「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」づくり
- 高等学校・通級による指導
- 第2章 事例でみる学習指導要領改訂のポイントと今後の特別支援教育の方向性
- 学びを深める協同学習の実際
- ICT活用の実際
- 合理的配慮と基礎的環境整備の実践例
- 学級経営の充実(どの子も大切にするクラスづくり)の実際
- 授業の「ユニバーサルデザイン」の実際
- 各教科での学びにくさのある子への手立ての実際
- 読み書きが苦手な子への英語の指導例
- 自立のためのキャリア教育の実際
- 付録
- 小学校学習指導要領(案) 抜粋(平成29年2月)
- 中学校学習指導要領(案) 抜粋(平成29年2月)
- 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(案) 抜粋(平成29年3月)
- 資料
- 執筆者一覧
巻頭言
学習指導要領と「通級による指導」
東京学芸大学名誉教授 /上野 一彦
1 特別支援教育の理念と「通級による指導」
我が国の特別支援教育は支援のシステムとしては,特別支援学校,特別支援学級,「通級による指導」の3つである。
「通級による指導」は,1993(平成5)年の学校教育法施行規則改正による特別の教育課程として告示されたが,それは,いわゆる「ことばの教室」の規定・制度化であった。その制度の検討過程ではじめてLDが取り上げられたことは歴史的な事実でもある。
しかしLDやADHDなどが「通級による指導」の正式の対象となったのは,13年後の2006(平成18)年3月学校教育法施行規則の一部改正(同年4月施行)いわゆる「通級制の弾力化」以降である。翌年の特別支援教育への移行は,その対象の拡大だけでなく,教育理念そのものにも大きな変革をもたらした。
文部科学省が定義する「特別支援教育の理念」を抜粋すると,次に挙げるような文言がある。「幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し…幼稚園から高等学校にわたって行われるものである。これまでの特殊教育の対象だけでなく,知的な遅れのない発達障害も含めて…:器質的な障害(視覚障害・聴覚障害・運動機能障害・知的障害等)に加え,発達障害者支援法に定義されるLD,ADHD,高機能自閉症等も対象とする。」
特別支援教育とは,単に障害のある子供を画一的にどう教えるか,どう学ばせるかではなく,その障害や個人の特性からくる学び方の特徴を踏まえた,1つの個性としてもった,つまり「特別なニーズをもつ子ども(children with special needs)」として,本人の主体性を尊重しつつ,できる効果的な支援の形とは何か考えていこうとする取組にほかならない。個別の教育支援計画や個別の指導計画が必須なのはそのことに由来する。
2 「通級による指導」と学習指導要領
「特別な教育的ニーズ」が特別支援教育のバックボーンだとすれば学習指導要領とは誰のため,何のためにあるのだろうか。
学習指導要領は,学校教育法施行規則に基づいて小学校,中学校,高等学校,特別支援学校等の各学校が,それぞれの教科等の目標や教える大まかな内容を定めたもので,この学習指導要領を踏まえ,地域や学校の実態に応じて,教育課程(カリキュラム)が編成されていることはご存じのとおりである。
今日のような形での学習指導要領がスタートしたのは昭和33年のことであり,それ以来,ほぼ10年ごとに改訂され今回の平成30年度から実施されるものは6回目の改訂となる。
小・中学校の特別支援学級においては,原則的には,小・中学校の通常の教育課程に準じるが,特に必要がある場合には障害の改善・克服を図るための通常の学級とは異なる特別の教育課程を編成することができる。
急増する発達障害のある子供が利用する「通級による指導」は,通常の学級と連動する支援システムなので,原則的には通常の学級における学習指導要領に準拠することとなる。
しかし,こうした子供の学びにくさや習得上の困難さは,まさにそれぞれの子供の特異性の上に生じる。したがって,学級とかグループ,その個別の支援プログラムやゴールに共通性があってはじめて成り立つものであり,まず,最初に学級や集団があると考えるべきではない。
3 学習指導要領の改訂が与える影響
インクルーシブ教育とは全ての子供に同じ教え方を強要するものではない。インクルーシブ教育と合理的配慮は表裏一体となっていることを強調したい。それぞれの子供に合った教育が支援教育であって,教える形態もまた画一的ではないはずである。究極の目標は社会の中での自立と参加である。
学習指導要領が,子供たちが身に付けるべき資質や能力に到達させるための「学びの地図」であるならば,「何を」「どのように」学ぶのかには,まさにその子供の個性や学び方の特徴をしっかりと把握することが求められる。
改訂では,「学び」の本質として「アクティブ・ラーニング」の視点が強調されている。それは「主体的・対話的な深い学び」の実現とされる。
かつて,受動的な学習からは本当の創造力は育たないといわれてきたことともどこか通じるものを感じる。大切な視点だと思うが,広い人間観に立ち,個を尊重することから始めなければ,それもまた色あせていくだろう。
発達障害(LD,ADHD,知的遅れのないASD等)は,障害のある子供と障害のない子供,支援の必要のある子供と支援の必要のない子供といった二分する考え方から,それらの懸け橋となる中間的存在であり,それらの連続性を担保するものにほかならない。
だからこそ今,個の学びの特徴や学び方をその子供のつまずきからしっかりと見つめ直すことから始めるべきなのではないだろうか。
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- 明治図書
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