- まえがき
- 横浜国立大学教授 /青山 浩之
- 第1章 生きて働く「書字力」を身に付けよう
- 1 これからの社会で求められる学力
- (1) 今日求められる学力とは
- (2) 新しい学習指導要領等が目指す姿とは
- (3) アクティブ・ラーニングにつながる書写の学習とは
- 2 「書写力」から「書字力」へ
- (1) 書写における課題解決学習と生きて働く「書字力」の獲得
- @書写力―「人に優しい文字」を書く力
- A語彙力―「自分の考えにふさわしい言葉」を使う力
- B活用力―「場面に合った書き方」ができる力
- (2) 学習の振り返りを大切にする
- 第2章 「書字力」育成のための基礎・基本
- 1 子供の実態に基づいた正しい姿勢と鉛筆の持ち方指導
- (1) 正しい鉛筆の持ち方は正しい姿勢から
- (2) 実際の姿勢を把握して正しい姿勢に
- (3) 鉛筆の持ち方の矯正方法
- (4) 毎日の生活で意識づけをする
- (5) 指導の実際
- 【資料】アイデア練習用紙
- 2 授業の要―「板書」
- (1) 板書の目的
- (2) 板書の利点
- (3) 板書の心構え
- (4) 板書の留意点
- @姿勢/Aチョークの持ち方/B文字の大きさと字数/Cレイアウト/D色使いのルール
- (5) 板書例
- @5年:書写「組み立て方 道」/A1年:生活科「がっこうたんけん」
- 3 授業を創る―「ノート指導」
- (1) 振り返ることのできるノート作り
- (2) 優秀ノートの例
- 4 正しく速く書く力を付ける―「視写」
- (1) 視写教材「えんぴつタイム」
- (2) 「えんぴつタイム」教材のねらい
- (3) 教材の使い方
- (4) 「えんぴつタイム」活用の実際
- 5 「書写」の年間計画
- (1) 学習指導要領国語科―書写の指導事項
- (2) 書写の年間計画と各教科学習との関連
- (3) 単元を通した「振り返り」の授業と年間計画
- 第3章 「書写力」を付ける! 指導のアイデア&授業モデル
- 基本MODEL 毛筆書写の授業アイデア―3年はらい「大」―【重点指導:筆使い】
- 1 準備/2 授業の実際/3 片付け
- MODEL1 小学1年 「とめ」「はらい」「はね」 【重点指導:筆使い】
- MODEL2 小学1年 「はらい」 【重点指導:筆使い】
- MODEL3 小学2年 画の方向「おれ」 【重点指導:字形】
- MODEL4 小学4年 画の方向「麦」 【重点指導:字形】
- MODEL5 小学5年 筆順と字形「成長」 【重点指導:字形】
- MODEL6 小学5年 毛筆「きずな」から硬筆への関連指導 【重点指導:筆使い】
- MODEL7 小学6年 ひらがなの筆使いと文字の中心「ふれあい」【重点指導:筆使い】
- MODEL8 小学6年 書き初め「伝統を守る」 【重点指導:配置】
- MODEL9 全 校 書き初め大会 【重点指導:配置】
- MODEL10 中学1年 行書の筆使いと字形〈変化と連続〉「大洋」 【重点指導:筆使い】
- MODEL11 中学2年 書き初め「信念を貫く」 【重点指導:配置】
- COLUMN ビジュアル写真館
- 第4章 「語彙力」を高める! 指導のアイデア&授業モデル
- 1 語彙力の学年別目標
- (1) 語彙力を豊かにするために
- (2) 学年別・付けたい語彙力
- 2 語彙を豊かにする「新出漢字」の学習
- (1) 漢字学習時間を活用する
- (2) 硬毛のつながりを大切にする筆ペンの活用
- (3) 授業の流れ
- (4) 新出漢字用練習用紙
- 3 全校児童集会・校長授業で語彙力を高める
- 4 「朗読名人」を目指す取り組み
- (1) 語彙を豊かにする朗読
- (2) 朗読検定の課題
- MODEL1 小学1年 国語科「ぶんをつくろう」
- MODEL2 小学3年 音楽科「子犬のワルツ」
- MODEL3 小学3年 国語科「思いを言葉に」
- MODEL4 小学5年 国語科「漢字の由来に関心をもとう」
- COLUMN ビジュアル写真館
- 第5章 生活に広げる「活用力」! 指導のアイデア&授業モデル
- 1 活用力の学年別目標
- (1) 活用力を豊かにするために
- (2) 学年別・付けたい活用力
- 2 筆記具を選んで書く
- (1) 1年生の学習からできた「じをかくどうぐ」
- (2) 3年生「感謝の気持ちを伝える筆記具は」
- (3) 高学年用 筆記具用途別一覧
- 3 手書きのよさを伝える文字環境作り
- (1) 手書き文字で環境にぬくもりを
- (2) 充実した校内の文字環境
- MODEL1 小学1年 生活科「秋となかよし」
- MODEL2 小学3年 国語科「ゆうすげ村の小さな旅館」
- MODEL3 小学4年 総合的な学習「ツバメと友だち」
- MODEL4 小学5年 総合的な学習「デンデンガッサリ」
- MODEL5 小学6年 総合的な学習「ふるさと山中」
- MODEL6 中学3年 書写「好きな言葉を書こう」
- あとがき
- 研究同人
まえがき
子供たちの書き文字が汚い。先生や保護者の切実な悩みではないでしょうか。
言葉を「話す」ときには,丁寧さや親しみやすさで言葉遣いを変えます。一方で文字を「書く」ときには,場に合った書き方自体に無頓着です。このことは,文字がきれいに書けないことよりも問題です。
例えば,算数指導でも,計算のしかたを覚えさせ,○×で評価するだけでは必ず苦手意識をもつ子供が出てきます。能力の差というより,興味がもてないことが大きな理由になることもあります。足し算や引き算は買い物のときに役立つことは子供にとっても想像できることです。しかし,「分数って何?」「割合って何?」「それは何のために勉強するの?」という疑問に,そのつど指導者がきちんと対峙しなければ,子供たちは歩みを止めてしまうかもしれません。
文字の指導,とりわけ書写の指導も同じです。「お手本をよく見て,何度も練習しましょう」と言われても,興味がわかないのは当然です。興味のないものは身に付きません。字はきれいな方がいいということは子供たちも知っています。でも,なぜきれいな方がいいかを問うと意外に分かっていないのです。多くの子供が答える「字が汚いと恥ずかしいから」という理由には,明らかに「自分」という範疇でしかそのことを捉えていない実情が伺えます。
文字は何のために書くのか。まずは,自分の思考活動のために。そして,自分が考えたことや記録にとどめたことを他者と共有し,深めるために。文字は,「伝え合うために書く」とも言えます。では,文字はなぜきれいな方がいいのでしょうか。それは,
「相手に気持ちよく読んでほしいから」。
こうした他者と自己との関係性の中で文字を書くことを捉えられる子供の姿を,私たちは育んでいく必要があると思います。
手書き文化は,日常の思考活動や表現活動を支えています。そのために,私たちは「書きやすさ」を手に入れなければなりません。淀みなく溢れ出す創造を,心地よい手指の動きで書き付ける。持ち方や書き方を練習するのはそのためです。一方で,伝え合う活動の中で,自分の考えや思いを適切に,効果的に伝えるためには「読みやすさ」も必要です。
「読む」主体は誰なのか。字形や配列の学習を通して,そのことをしっかりと捉えられる子供たちを育んでいかなければなりません。字をきれいに書いたり,行を整えたりする練習は,相手意識や目的意識を伴わせた活動として取り組む必要があります。そのことが,本来的な手書き文化の継承にもつながるからです。
本書では,小学校の書写を中心に,指導のアイデアと授業モデルを紹介しています。教育現場の実情として,書写実践の方法が分からないという声は今も多く聞かれます。そうした問題に,少しでも役立てばと思う一方で,本書の提案が指導のヒントとしてだけでなく,なぜこうした指導が必要なのかをともに考えていくきっかけになればと願っています。
第1章では,今日的な学力観やこれからの教育課程を確認し,書写がどのような役割を担えばよいのかを考えます。その中で,本書のタイトルにも表した「書写力」「語彙力」,そして両者を生かして書く「活用力」を身に付けることの意義やそれらを総体として捉えた「書字力」の必要性について述べます。
第2章は,「書字力」を育成するために,学校全体でどのように取り組めばよいのかの提案です。実践校の日々の取り組みを,子供たちの様子を含めて詳しく紹介しています。
第3章からは,具体的な指導アイデアと授業モデルを提示しています。まず,第3章は要となる「書写力」をつける指導です。「基本MODEL」として示した「3年はらい『大』」(38―41ページ)の実践は,日常生活の硬筆から入り,毛筆で書き確かめ,最後に再び硬筆で生活に返すという手順を踏んでいます。硬筆文字から身に付けるべき原理・原則を見出し,毛筆学習を通して知識・技能を深め,それらを別の文字にも転移させながら,生活や日常の中で生かせる書写力を習得するまでを単元化しています。そして,その学びの過程に,主体的・対話的で深い学びが意図されています。
多くの授業モデルで筆ペンを使用しているのは,大筆→筆ペン(小筆)→硬筆とつなぎ,徐々に日常の筆記具に近づけることで,毛筆で身に付けた知識・技能の日常化を目指しているからです。低学年でも絵筆や筆ペンを使っていますが,学習指導要領が示す「毛筆は第3学年以上」という点に配慮しつつ,一方でこうした緩衝作用のある軟筆(硬筆に対して軟筆)を早期に使うことによる効果を捉え,子供たちの持ち方や滑らかな書字動作の習得に生かそうとする試みです。このような発達段階を考慮した指導アイデア,授業モデルは,小学校からの系統を重視して中学校へとつなげる必要があります。本書ではそのような考えに基づき,小学校を中心としながらも,地域の現職教員研修の取り組みとも連携し,中学校実践も提示しました。
書かれた文字の質から,文字を書くことの質へ。筆記具の持ち方や書字動作一つを捉えても,問題は山積しています。滑らかな書字を支えることは,広く見れば書くことの言語活動の原点を支えることにもなります。また,毛筆文化は長きにわたって文字を書くことの文化の中に継承され,日本文化の象徴と捉えられています。今後ますますグローバル化する社会において,書写が伝統的な言語文化の享受,文字文化の尊重といった教育の大切な一面を支えていかなくてはならないことは言うまでもありません。第4章,第5章で紹介する「語彙力」「活用力」の育成を図る指導アイデア,授業モデルを通して,生きて働く「書字力」を育んでいくことは,全ての子供たちの未来や社会生活を豊かにすることにつながると信じています。
平成28年9月 横浜国立大学教授 /青山 浩之
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- 明治図書
- 書写教育の要点(手本の似せ書きではなく、原理原則を応用する考え方)を学べてよかった2022/2/2230代・会社員