- まえがき
- 序章
- 第一章 国語授業一〇の原理 文学初級編
- 1 先見性の原理
- 2 転移性の原理
- 3 恒常性の原理
- 4 教授性の原理
- 5 体感性の原理
- 6 演繹性の原理
- 7 帰納性の原理
- 8 習熟性の原理
- 9 凝縮性の原理
- 10 向上性の原理
- 第二章 国語授業一〇〇の原則 文学初級編
- 基本として身につけたい一〇の原則
- 1 一時に一事を伝える
- 2 常に全体を意識する
- 3 空白時間をつくらない
- 4 素に近い状態を評価する
- 5 学習活動を仕組む
- 6 活動の規模を提示する
- 7 定着度を確認する
- 8 ミスには即時に対応する
- 9 学習の妥当性を検討する
- 10 最後は必ず「個」に戻す
- 指導言を機能させる一〇の原則
- 1 指導言には三つある
- 2 「説明」がすべての前提となる
- 3 前提の共有が授業のフレームをつくる
- 4 説明のキモは「具体例」である
- 5 指示のキモは「規模」である
- 6 発問のキモは子どもたちの「分化」である
- 7 事象の説明のキモは「見える化」である
- 8 方法の説明のキモは「見通し」である
- 9 事前に起こり得るミス事例を伝える
- 10 「間」も指導言である
- 小集団交流を機能させる一〇の原則
- 1 ペア交流から始める
- 2 ペアを入れ替える
- 3 「観察者」をつくる
- 4 交流を振り返らせる
- 5 広げる交流と深める交流とがある
- 6 一人ひとりに意見をもたせる
- 7 交流方法を細かく示す
- 8 時間を指定する
- 9 小集団を組み替える
- 10 アイディアを出させる
- 音読指導を機能させる一〇の原則
- 1 音読には二つの方向性がある
- 2 教師自身が範読する
- 3 一文交互読みに取り組ませる
- 4 「連れ読み/追い読み」に取り組ませる
- 5 一斉音読に取り組ませる
- 6 グループ音読でバリエーションをつくる
- 7 「音読テスト/完全無欠読み」で練習回数を増やす
- 8 名文を暗唱させる
- 9 音楽記号で音読の工夫を考えさせる
- 10 教師がモデル機能を果たす
- 「設定」を指導する一〇の原則
- 1 「設定」には三つの要素がある
- 2 登場人物を列挙させる
- 3 子どもが書いた登場人物をすべて板書する
- 4 登場人物を検討する
- 5 「登場人物」を定義する
- 6 「主人公」と「対象人物」を捉える
- 7 その他の登場人物を捉える
- 8 いかなる登場人物にも役割がある
- 9 「時」を把握する
- 10 「場」を把握する
- 「構成」を指導する一〇の原則
- 1 物語・小説にも「構成」がある
- 2 冒頭部・展開部・終末部に分かれる
- 3 「冒頭部」で人間関係を紹介する
- 4 「展開部」で主人公の成長を捉える
- 5 「終末部」で主人公の評価を捉える
- 6 「起承転結」を捉える
- 7 「起承転結」は「展開部」の構成である
- 8 物語は「冒頭+起承転結」でできている
- 9 「起承転結」を問う
- 10 「起承転結」の分かれ目は「時」の分かれ目である
- 「描写」を指導する一〇の原則
- 1 「人物描写」を捉える
- 2 「会話文」には三種類がある
- 3 「比喩」には五種類がある
- 4 「色彩語」のコントラストを捉える
- 5 「五感描写」で語られている以上のことを想像する
- 6 「視線の移動」を追う
- 7 「情景描写」が登場人物の心情を象徴する
- 8 「呼称」の変化から人物像を捉える
- 9 「副詞」「副詞句」から形象を読み取る
- 10 「文末」から登場人物の心象を捉える
- 「主題」を指導する一〇の原則
- 1 「主題」を定義する
- 2 「主題読み」には六段階がある
- 3 「主人公の精神的成長」が主題である
- 4 「主人公」は問題を自覚し成熟する
- 5 「精神的成長」を言葉にしてみる
- 6 「中心事件」を的確に読み取る
- 7 「当初の主人公の問題」が重要である
- 8 「当初の主人公の問題」を読み取る
- 9 「主題」はゴールでもあり前提でもある
- 10 「ガリレオ型」から「古畑型」に転換していく
- 授業力を向上させる一〇の原則
- 1 「授業ノート」をつくる
- 2 「授業記録」を書く
- 3 「授業の録音」を聞く
- 4 日常の授業に課題意識をもつ
- 5 先輩教師の「板書」を見る
- 6 「研究授業」を繰り返す
- 7 「校内研究」を大切にする
- 8 「地元の研究会」で学ぶ
- 9 「発展途上人」から学ぶ
- 10 「研究仲間」をもつ
- 教材研究力を向上させる一〇の原則
- 1 「教材研究」には三つの過程がある
- 2 一度「素材研究」の妙を経験する
- 3 一文一文を検討する
- 4 「文章を読む」ということの意味を知る
- 5 「語り口」を読む
- 6 ディテールに関心を向ける
- 7 教材が読めないと指導書も理解できない
- 8 ディテールに配慮できるようになる
- 9 「素材研究」が「学習者研究」「指導法研究」につながる
- 10 「研究仲間」と議論する
- あとがき
まえがき
こんにちは。堀裕嗣(ほり・ひろつぐ)と申します。お初にお目にかかります。若い読者の皆さんにはおそらく「お初」だと思います。以後、お見知りおきを。
昔から文学教材の授業を苦手だと感じている教師が多いようです。昭和の時代にもそういう声をよく聞きましたし、平成の時代にもそうした声はよく聞きました。
「文学教材が苦手なんです。どうしたら良いでしょうか」
「文学教材の教材研究はどうすれば良いでしょうか」
「文学教材が読めるようになりたいのですが、何から始めれば良いのでしょうか」
国語セミナーに登壇すると、QAコーナーでこうした質問がよく出ました。しかし、ここ数年は、ちょっとそれらの声の重みの次元が変わってきているのを感じます。
文学的文章教材の授業、特に物語・小説教材の授業がうまくいかない、困っている、どう授業して良いかわからない、それらの声が「何をして良いかわからない」というレベルになってきているのです。「指導書通りにやってはみるのですが、まったくうまく運ばないんです」といった声も聞きます。教師の教材研究時間のないことがもはや社会問題化している昨今、なんとか手軽に教材研究し授業化できる手立てはないものか、そんな声もよく聞きます。要するに教材研究の勘所、授業化の勘所がわからないということなのだろうと思います。
物語・小説教材の教材研究の方法は、「これが答えだ!」というマニュアルがあるわけではありません。それが昭和の時代から現在にかけて、「文学教材は苦手だ」と感じる教師を量産してきた理由なのだろうと思います。また、それだけに提案する側にも諸派諸説が入り乱れ、新しい提案が出ては消え、消えては出てきた要因なのだろうとも思います。指導書も学習活動は提示するものの、その教材の意味・意義に頁を割くことはしません。それがその教材の価値が曖昧なままに学習活動を提示して、なんとなくしっくり来ないという感慨を多くの教師にもたらしているようにも思えます。
本書では、こうした悩みを抱く若手教師に、「最大公約数としてこれだけは言えるよ」という授業方法と教材研究法について、10原理・100原則の形で提案することにしました。第一に物語・小説教材の構造を押さえるにはどうしたら良いのか、第二に構造を押さえたうえでディテール(=細部)についてはどういうところを取り上げるべきか、第三に今後、教材研究力を高めていくにはどういったことに留意すれば良いのか、この三点について詳述しています。
ただし、本書の読者の皆さんに予め留意して欲しいのは、本書の提示しているのが物語・小説教材授業のあくまで「入口」であって、「完成形」を提示しているのではない、ということです。本書で基礎的な授業のつくり方を学んだ後は、どうか自分自身で授業法を改良したり開発したりして、自分なりの国語教室をつくっていくのだという意識をもっていただきたいと考えています。
文学教材の授業づくりに限らす、また国語科の授業づくりに限らず、授業づくりというものは生涯の教師生活をかけて追究していくものです。さまざまな教材と出会い、いろんな子どもたちと出会うことによって、自分の中にある方法が常に修正され、新しい方法が開発され、常に更新され続ける。それが自分自身の「方法論」として構築され、自分自身の「個性」として顕現されていく。そういうものです。
人間が人間を相手にして行うのが授業です。一人ひとりの教師がいろいろなら、一人ひとりの子どももいろいろです。決して「こうすればこうなる」式のマニュアルなど存在しないのです。どうか本書を「マニュアル」として捉えるのでなく、物語・小説教材授業の「ミニマム・エッセンシャルズ」だと捉えていただき、みなさんが個性的な「国語教室」を創造していくための基礎として機能させていただければ、と願っています。
また、本書で疑問に感じたところ、いま一つ理解するのが難しいというところがあった場合には、拙著『国語科授業づくり10の原理・100の言語技術 義務教育で培う国語学力』(明治図書/二〇一六年三月)をご参照いただければ幸いです。本書では難しくなりすぎるだろうと割愛した部分が詳述されています。
本書が、物語・小説教材の授業づくりに悩む若手教師に少しでも参考となるなら、それは望外の幸甚です。
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