- はじめに
- 第1章 生徒の意欲づけがもっとうまくなる4の技
- 1 授業で目指す生徒の学びの姿をイメージする
- 2 題材を「自分ごと」として捉えさせる
- 3 生徒の「こうしたい!」を授業の中心にする
- 4 導入で意欲を引き出す
- Column 授業改善「今,やる気がない人はいますか?」
- 第2章 指導計画の立て方がもっとうまくなる7の技
- 5 3年間を見通した計画を立てる
- 6 教科書を積極的に活用する
- 7 学年の特質を捉える
- 8 「つなげる」視点で学びの内容を広げ,深める
- 9 美術と他教科をつなげる
- 10 題材への配当時間にメリハリをつける
- 11 卒業期の生徒の学びの姿をもとに,3年間の指導計画を見直す
- Column 若者の声を聴く仕事
- 第3章 学習規律づくりがもっとうまくなる4の技
- 12 授業を成立させるための「指示」を見直す
- 13 授業の質を大きく左右する「説明」を見直す
- 14 生徒との合意形成をはかる
- 15 作品完成までの時間差に対応する
- Column これからの時代とデザイン
- 第4章 主体的な学びを生み出すことがもっとうまくなる12の技
- 16 美術で生み出される多様性の面白さを実感させる
- 17 「見て描く力」は努力で高められることを実感させる
- 18 材料や用具は,表現の前にまずは触って試してみる
- 19 想像することの面白さを実感させる
- 20 デザインや工芸の面白さに気づかせる
- 21 美しい色彩を生み出すことに興味をもたせる
- 22 美しい形を生み出すことに興味をもたせる
- 23 発想力を高める思考の仕方を実感させる
- 24 美術の時間を通してよりよく生きることについて考えさせる
- 25 美術が社会に貢献していることを実感させる
- 26 自分の表現意図に応じて描画財を選択できる力をつける
- 27 鑑賞の面白さを実感させる
- 第5章 学びの見取りがもっとうまくなる4の技
- 28 生徒の姿から学びを捉える
- 29 机間巡視での声かけは生徒の学びを捉えた上で行う
- 30 作品への思いや表現意図を生徒に尋ねる
- 31 生徒の可能性を信じる
- Column 「描かされる絵」と「描く絵」(1)
- 第6章 より深い学びを生み出すことがもっとうまくなる6の技
- 32 生徒同士が学び合う場を設定する
- 33 表現過程で学んだことを解説させる
- 34 1冊のスケッチブックに学びを集約させる
- 35 グループ学習は意図に応じて常に形態を変える
- 36 毎時間振り返る場をつくる
- 37 生徒の思いを踏まえた個別指導をする
- Column 「描かされる絵」と「描く絵」(2)
- 第7章 授業改善がもっとうまくなる4の技
- 38 評価の資料から授業を見直す
- 39 授業記録の動画を分析する
- 40 学校内のつながりを生かして学ぶ
- 41 他校の先生とともに学ぶ
- Column 中学校美術Q&Aという研究会のこと
- 第8章 生徒が学びやすい美術室づくりがもっとうまくなる5の技
- 42 材料や用具の置き方で画材売り場のようなわくわく感を生み出す
- 43 フレキシブルに活用できる美術室にする
- 44 生徒の学びを広げ,深めるものを置く
- 45 美術室に資料室としての機能をもたせる
- 46 開かれた美術室にする
- Column 授業の節目に振り返ることの大切さ
- 第9章 作品展示がもっとうまくなる4の技
- 47 全員展示を目指しつつ,生徒の展示への意思も大切にする
- 48 作者としての生徒の言葉を添えて展示する
- 49 校外展を開催し,中学生のよさや美術の面白さを伝える
- 50 複製画や,生徒が気軽に描いたものをどんどん展示する
- Column 環境構成という考え方
- 付録 誌上ギャラリー
- おわりに
はじめに
美術のよい授業とは,どのような授業でしょうか。
まず,よい授業をつくる上で私が大切にしている2つの柱を紹介します。
1つは,題材設定です。よい授業になるかどうかの最大のポイントは,題材を設定する段階で,この題材を提案したら,生徒は一体どう考えるだろう? どのような力を発揮するだろう? どのような表現,鑑賞をするだろう? と,「生徒が見せてくれる姿」に教師がわくわく感をもてるかどうか。ここがよい授業になるかの分かれ道だと考えています。それは私が深く実感していることです。一人ひとりの表現や鑑賞はその生徒がこの世に存在しているからこそ生まれたものです。まず,生徒がいます。当たり前のことですが,とても大切なことです。
そしてもう1つ,それは義務教育最後の卒業制作で見せる生徒たちの姿から今までの授業が望ましいものかどうかを判断するということです。もちろん,「卒業制作」は中学校の美術で必ずやらなければならないことではありませんが,おすすめの実践として本書でも紹介しています。
卒業制作は,義務教育の最終段階の姿です。卒業記念ではありません。思い出にするためのものでもありません。中学校3年生だからこそできることに,生徒が自分ごととして本気になって取り組んでいるか,その生徒の姿からそれまでの授業を問うのです。そこが授業改善のヒントになります。
本書では,このようなことを柱として考えながら,美術の授業で大切にすべきことを「50の技」として具体的にまとめました。皆さんは,目の前の生徒たちのために,よりよい授業をしたいと思って本書を手に取ってくださったのだと思います。そのような思いをもたれている方に,少しでもお役立ていただければと思っています。
また,本書を執筆しながら,もう1つ考えていたことがあります。それは,美術という教科の未来です。
今の生徒たちが生きる未来は,AIと人間の知能が逆転するシンギュラリティを迎えるかもしれないと言われるような時代です。これからの美術という教科の未来は,「美術」という枠だけにとどまって考えていていいわけがありません。「STEAM教育」(アメリカで始まったSTEM教育にARTの要素Aを加え,STEAMとしたもの)もこうした時代背景から生まれてきました。こうしたことから時には教科の枠を超えた実践をしたり,地域に実践を開いたりすることも大切になってくるでしょう。
こうした未来を踏まえつつも,今,授業をつくる上で大切なことは,学習指導要領(平成29年告示)が示している美術科の目標「表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を(中略)育成すること」を実現することです。
そして,美術の時間にしかできないこと,美術の時間だからこそできること,美術専科だからこそできること,そうしたことを意識し,美術教師同士で共有しておくことが必要でしょう。それは地域の教育研究の大きな財産にもなることでしょう。
以上のような,美術という教科の今後の在り方を,頭の片隅で考えながらお読みいただきたいという思いも込めて,本書を執筆しました。読者の皆さんから,「50の技」を超えて,美術という教科の未来を照らすよりよい実践が生まれてくることを願っております。
2019年8月 /山崎 正明
20代の時に読みたかった。
今まで自分がやってきた授業について、いい点も悪い点も振り返り、これからに活かせそう。
来年の新学習指導要領に合わせて授業を考え直すにあたり、初心に帰れた。
できるところから取り入れ、自分のものにしたい。