- はじめに
- 第1章 ピア・サポートを生かした学級づくりプログラム 導入のポイント
- 1 ピア・サポートとは?
- 2 「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)とピア・サポート
- 3 活動への不安・緊張を軽減する
- 4 動機づけを高める工夫をする
- 5 振り返りの時間を必ずとる
- 第2章 ピア・サポートを生かした学級づくりプログラム
- @出会いの時期の交流を促す
- 1 ひたすらじゃんけん
- 2 じゃんけん列車
- 3 セブンイレブンじゃんけん
- 4 グー・チョキ・パーじゃんけん
- 5 バースデイライン
- 6 ファーストネームライン&ウェイクアップライン
- 7 お手玉ゲーム
- 8 ネームゲーム
- 9 質問じゃんけんで自己紹介&ホメホメワーク
- A学級の結びつきを強める
- 10 膝たたきウェーブ
- 11 チェアーウェーブ
- 12 トントン・パッ
- 13 木とリス
- 14 パーフェクト・ザ・ニコイチ
- 15 チャレンジ・ザ・迷画
- 16 足し算トーク
- 17 トラストウォーク
- B聞く力を身につける
- 18 一方通行と双方向のコミュニケーション
- 19 良い聞き方・悪い聞き方
- 20 くり返しの技法
- 21 事実と気持ちの理解
- 22 要約の技法
- C伝え合う力を身につける
- 23 上手な頼み方・断り方
- 24 アイメッセージを使った伝え方
- 25 私のハート
- 26 人間鏡
- D問題解決の力を身につける
- 27 閉じた質問・開いた質問
- 28 ブレインストーミング
- 29 問題解決スキルのロールプレイ
- 30 紙上相談
- E社会で豊かに生きる力を身につける
- 31 怒りのタワー
- 32 けんかの仲裁
- コラム リラクゼーション
- 第3章 ピア・サポーターの育成
- 1 ピア・サポーター育成の意義
- 2 トレーニングの流れ
- 3 ピア・サポーター育成の効果
- 4 ピア・サポートについてもっと学ぶために
- 参考文献一覧
はじめに
約40年前,私が教師となったころにこのような言葉を聞きました。それは「部活動をうまく指導できる教員は,クラス運営もうまい」という言葉です。女子のソフトテニス部の顧問となった私は,テニスの経験はありませんでした。生徒と一緒に頑張ろうと思いました。テレビアニメの「巨人の星」を見て育った私は,テニスの上手・下手は能力の差ではなく練習量の差であると考えました。それならば練習あるのみ。強豪校が2時間練習するなら,こちらは3時間。強豪校が素振り200回するならば,こちらは300回。そうすれば必ず強くなる。これが当時の私の考えでした。朝連は一番乗り,生徒と一緒にランニングをしました。私も生徒もずいぶん頑張りましたが,大会ではいつも1回戦敗退。それが続くと退部する生徒が続出しました。特にうまい生徒ほど辞めていきました。当時は気づきませんでしたが,テニスの素人の私からケチをつけられるわけですからうまい生徒は辞めて当然です。残ったのは,テニスは下手ですが,私の考えについてくる生徒だけとなりました。こうなってやっと,教師がすべてを指示・命令するコントロール型のやり方ではだめだと気がつきました。そこで上級生と「どのような成果をあげたいのか」「どんな練習をしたいのか」を話し合うようにしました。その結果,それまで顧問が決めていたその日の練習メニューを,キャプテンと話し合って決めるようになりました。折に触れて部活の状況を聞き,問題があれば生徒と協力して解決するようにしました。顧問である私が納得するまで際限なく行っていた練習を,毎日時間を決めて終わるようにもしました。そうすると,生徒が自主的に練習する姿が見受けられるようになってきました。生徒が自主的に練習に取り組むようになると,それとともに試合にも勝つことができるようになりました。生徒が主役であり,顧問は生徒をゴールまで連れていくためのリーダーだということ,そして教師の仕事とは,生徒が自ら考え,行動できるように指導して,自立に導くことだと気づきました。そこで,そのことを深めるためにカウンセリングを学び,それを通じてコミュニケーションの大切さを知りました。価値観・人生観が大きく変わったのです。
その後,教育相談に携わるようになった2000年ごろ,生徒同士が助け合うピア・サポートと出会いました。そこで,生徒の大多数が悩みを生徒同士で相談していることや,いじめを止めてほしい人も,解決している人も友人であるということを知りました。子どもの問題は大人が解決できないことが多いようです。ピア・サポートとは,支援することであり,これが友人を支えるための力となるものだと知りました。ピア・サポートとは生徒の自立を促すものであり,今後はピア・サポートが重要だと確信しました。
その後,静岡県立浜松江之島高等学校に赴任して保健主事になったことをきっかけとして,保健委員会でピア・サポートに取り組みました。1,2年生の各クラスの保健委員2名と生徒会役員,希望者を集めて放課後にピア・サポート・トレーニングを年間10回行いました。初回の参加者は約40名でした。ピア・サポートという言葉を知っている方はほとんどいない中で,校長,副校長は興味をもって見学に来てくれました。初回のトレーニングでは,異学年,男女混合の集団でしたので,お互いに知らない生徒が多く集まりました。教室には緊張がみなぎっていました。教室はいつもと違って机がなく椅子だけでしたので,お互いの顔が見えるレイアウトとなっていました。授業の形態とは違って生徒には新鮮な感じがしたようです。「バースデイライン」,「自己紹介・他己紹介」,「ほめほめワーク」などコミュニケーションにまつわる楽しいワークが目白押しでしたので,15分ほどですべての生徒が笑顔に変わっていきました。管理職の方々の驚く顔が印象に残っています。何かが変わる予感がしました。10回のピア・サポート・トレーニングを修了した生徒には校長先生から修了バッジと証書が贈られました。バッジは美術科の先生にデザインしてもらったオリジナルのものでした。このバッジは生徒には評判がよく,バッジほしさにピア・サポート・トレーニングに参加する生徒もいたほどでした。
翌年トレーニングを修了した数名のピア・サポーターと共に近隣の小中学校にピア・サポートの出前授業に出かけて指導をしました。高校生が小中学生を指導し,小中学生が笑顔になりました。この活動が評判となり,小中学校から出前授業の依頼が増えてきました。指導を受けた中学生の中にはピア・サポートの魅力に感化され,浜松江之島高校に進学してピア・サポートをやりたいという子どもも出てきました。
私は2016年3月で定年退職し,現在は第一学院高等学校と浜松市教育委員会に所属しピア・サポートを教えています。やりたいことをやらせてもらえる幸せを感じているところです。
2010年に浜松江之島高校で細々と始めたピア・サポートですが,当時はこの言葉の存在すら知らない人が大多数でした。第一学院高等学校の全国のキャンパスで実践され,浜松市の小中学校にもピア・サポートは広がっています。私がお手伝いしている愛知県一宮市では2017年度から全市でピア・サポートに取り組むようになりました。不登校,いじめが減らない今,スクールカウンセラーや適応指導教室など大人の視点だけでは問題の全ては解決されるとはいえない面があります。生徒の問題は,生徒自身が解決するピア・サポートの視点も必要になるのではないでしょうか。しかし,生徒には人間関係の間に立って問題を解決するためのスキルがありません。生徒を指導するのは先生です。そこでこの本を出版することにしました。ピア・サポートを生かして,生徒同士が自ら支え合う集団を育てたいと願う先生方に,この本を少しでもお役立ていただければ幸いです。
8年前,私を信じてついてきくれた生徒たち,私の活動を理解し,支援してくれた先生方,ピア・サポートにかかわったすべての人に,この場を借りて厚くお礼を申し上げます。また,この本の執筆にあたり高校の同窓である山崎裕人氏に文章面での助力を仰ぎました。
2019年1月 /山口 権治
-
- 明治図書
- よい2023/4/1530代・中学校教員
- よかった。一度では理解しきれないので、もう一度読もうと思う。2022/9/1920代・中学校教員
- 具体例があり参考になる2021/3/120代・中学校教員
- 実践的だった2020/3/2830代・中学校教員
- 学級びらき、集団づくり、そしてピアサポーターの育成へと、段階を経て生徒を育てていくための活動が載っている。一年を通して活用できる本だと思う。2019/3/2820代・中学校教員