- はじめに
- 第1章 単元づくり
- 01 育みたい「ことばの力」を明らかにする
- 02 3つの視点から教材の解像度を上げる
- 03 3つの視点から子どもの実態を捉える
- 04 単元を貫き更新していく問いを設定する
- 05 ICTの活用局面を構想する
- 06 縦と横の系統性を明らかにする
- 07 方法・場面・基準から評価計画を立てる
- 08 言語感覚・言語意識を高める手立てを講じる
- 09 身についた力を活用できる言語活動を設定する
- 第2章 授業づくり
- 10 問いが生まれる導入をつくる
- 11 3つの発問で学びの質を高める
- 12 複数の発表形態で学びを広げる
- 13 目的を絞った話し合いで学びのステージを上げる
- 14 子どもの内面を見取り評価する
- 15 構造的・構成的な板書を意識する
- 16 1時間の授業をユニットで捉える
- 17 ゲームの要素を取り入れる
- 18 学びののりしろをつくる振り返りを行う
- 第3章 話すこと・聞くことの指導
- 19 スピーチ活動は準備が10割
- 20 説明・発表活動はおもてなし
- 21 聞く活動は「効く」まで見通す
- 22 話し合い活動は「名前をつけて保存」
- 23 対話活動は「キャッチボール」
- 第4章 書くことの指導
- 24 文章作成のプロセスを大切にする
- 25 個に応じた支援の引き出し
- 26 説明的な文章を書く活動は型にはめる
- 27 実用的な文章は目的意識を明確に
- 28 文学的な文章を書く活動はダイジェストで
- 第5章 読むこと(説明的文章)の指導
- 29 説明文の典型(基本構成)をおさえる
- 30 4つの基本文型を捉える
- 31 要約・要点・要旨を区別する
- 32 意見と理由と事実を区別する
- 33 具体と抽象を区別する
- 34 段落相互の関係を明確にする
- 35 説明文と論説文を区別する
- 36 自分の考えをもちながら読む
- 第6章 読むこと(文学的文章)の指導
- 37 物語の典型(基本構成)をおさえる
- 38 教材の特徴を生かして補助教材を選ぶ
- 39 「設定」を三要素で捉える
- 40 「変容」をミクロとマクロで捉える
- 41 人物関係を読む
- 42 描写を読む
- 43 作品の心を読む
- 第7章 読むこと(詩)の指導
- 44 詩の表現技法を読む
- 45 詩の心を読む
- 46 詩の鑑賞と創作を表裏一体で進める
- 第8章 言語事項の指導
- 47 漢字指導を知的にする
- 48 言葉の指導に納得を生む
- 49 読書指導に継続性を生む
- 50 「情報の扱い方」をツールとして組み込む
- 51 ポイントを絞って語彙の拡充を図る
- おわりに
- 参考文献
はじめに
マニアックな国語教室にようこそ!
さて皆さん,以下の図はある物語を表したものです。何だと思いますか?
(図省略)
答えは「お手紙」でした。縦軸に幸福度,横軸に時間の流れを配して,黒線ががまくん,赤線はかえるくんの心情とすると,何となく曲線の上下動に納得できる部分が見えてきませんか。アメリカの小説家,カート・ヴォネガットが「よくできた物語はグラフに起こすことができる」と説いていますが,テキスト上では複雑な構成に思える物語も,要素を抜き出して図にすることですっきり分かりやすくなるのです。さらに,物語の面白さの肝と言える部分(「お手紙」であれば“2人の心情のずれ”)も可視化されます。
もちろん物語の読解以外の授業にも図解による可視化は有効です。それは図解が以下のような“強み”をもっているためです。
・思考のプロセスを整理して単純化できる
・相互関係やイメージを自然に,簡潔に伝えられる
・受け手に「自分事」としての強い印象を残し,理解度を上げられる
昨今,「思考ツール」をはじめとする図解の手法が,授業で日常的に活用されつつあるのも,このような強みが意識されてきたためでしょう。
もちろん図解を用いることにはデメリットもあります。
・本来の情報が削減されてしまう
・図の見方によって誤解を招くことがある
・何となく,分かったつもりになってしまう
特に3つ目の「分かったつもり」で授業が進むことへの恐れは大きく,国語ではあえて図解を避ける教師がいるほどです。また,自分には図解のセンスが無いと,最初からテキストのみで授業を進める教師も見受けられます。
しかし,図解による理解は文章による理解と相反するものではありません。むしろ相補関係にあると考えるべきなのです。
人がものを十全に理解するのは,思考対象を“線状的ロジック”である文章(シナリオ・ストーリー)で理解することと,“構造的ロジック”である図解で理解することの双方が揃ってこそ可能になる。
波頭亮『論理的思考のコアスキル』(筑摩書房)
ここまで説明しておいて心苦しいのですが,本書は国語指導に図解を取り入れることを勧めるものではありません。様々な書籍や教師の実践で語られてきた国語授業づくりのコツを,図解しようと試みたものです。その取捨選択にはわたし自身の授業観が大きく影響しておりますし,図解による誤解や省略を避けるため,単純化とは程遠い,くどい図になっていることも否めません。それでも,図解によって様々な指導内容や手法をずいぶん明確に表すことができたと自負しております。あなたの明日の国語の授業がますます面白いものとなる一助としてご活用いただければ幸いです。
2023年3月 /宍戸 寛昌
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