- はじめに
- 第1章 「保護者を味方にする」コミュニケーションの極意
- ―信頼関係を結ぶ7つのポイント―
- 1 教育サービス業とは?―通常のサービス業との違い
- 2 保護者対応の目的は「信頼関係を結ぶ」こと
- (1) 求められる「ハイパー・メリトクラシー」
- (2) 保護者との信頼関係を結ぶ7つのポイント
- 3 保護者対応の基本スキル@ 傾聴のスキル
- (1) 他人の話を聞く3つのレベル
- (2) コノテーションとデノテーション
- (3) 知っておきたい7つの傾聴スキル
- @相手との位置関係
- Aアイコンタクト/顔の表情
- B相槌
- C反映的な聴き方
- Dペーシング
- Eミラーリング
- F要約/フィードバック
- 4 保護者対応の基本スキルA 質問のスキル
- (1) 「閉じた質問」と「開いた質問」
- (2) 開いた質問を行うための4つのポイント
- @相手の関心に沿って質問すること
- A未来に向けた質問をする
- B肯定的な質問をすること
- C開いた質問を作る
- 5 保護者対応の基本スキルB 勇気づけのスキル
- (1) 「勇気づけ」と「誉めること」の違い
- (2) T(アイ)メッセージを使ったコーチング的アプローチ
- 第2章 成功する「保護者面談・懇談」の極意
- ―具体的な提案と約束が信頼を生む―
- 1 懇談の構造を理解する―学校と学習塾の違い
- (1) 「アイスブレーク」から始めよう
- (2) 必ず行いたい「プラスの情報交換」
- (3) ひと工夫が必要な「マイナスの情報交換」
- (4) 信頼関係を高める「不満の聞き出し」
- (5) 「実行可能」な解決策の提案
- (6) 締めくくりで「展望」を示す
- 2 「保護者の知らない」子どもの良い点を伝える
- (1) お互いが理解している部分を共有しよう
- (2) リフレーミングで良い点を強調しよう
- 3 コップの水をゼロにし,不安を一般化する
- (1) 懇談における「コップの理論」
- (2) 不満や不安の「一般化」
- 4 「提案」と「約束」をする
- (1) 勉強に対する提案と約束
- (2) 生活面での提案と約束
- 第3章 成功する「保護者会・懇談会」の極意
- ―魅力ある内容とワークショップで活性化しよう―
- 1 会の目的を明確にする―個別と集団の違いを意識しよう
- (1) 保護者に「何を持ち帰ってもらうのか」を十分に考えよう
- (2) 多くの保護者に出席してもらうための「仕掛け」
- 2 保護者会・懇談会のプログラムを考える
- 3 「ワークショップ」を取り入れて保護者に気づきを与えよう
- (1) まずは「アイスブレーク」
- (2) 保護者会で使えるワークショップ例@
- :「子どもの良い点を見つけよう」
- (3) 保護者会で使えるワークショップ例A
- :「子どもの話をきちんと聞いていますか?」
- 第4章 失敗しない「クレーム対応」の極意
- ―ピンチをチャンスに変えるコミュニケーション―
- 1 「クレーム」と「コンプレイン」
- 2 知っておきたい「クレームの構造」
- 3 クレーム対応の原則は「誠意」と「スピード」
- (1) 「誠意ある対応」とは
- (2) スピードなくしてクレーム対応なし
- @冷静に対応する
- A問題を整理し,問題の本質を共有し,誰の問題かを明確にする
- B問題を解決し,再発を防止する
- 4 「失敗しない」クレーム対応のシステムづくり
- (1) 学年主任とチームを組んで対応する
- (2) 表面的な合意を信用しない
- (3) 記録を残す
- 5 クレーム対応のコミュニケーション
- (1) 相手の感情を聴く
- (2) 対応を約束する
- (3) 全肯定や全否定を避ける
- 第5章 保護者を「モンスターペアレント」にしないための極意
- ―小さなクレームにしっかり対処する―
- 1 保護者が「モンスターペアレント」になる背景
- (1) 学校の相対的な地位の低下
- (2) 「何を言っても大丈夫」という社会の風潮
- (3) 「教育は単なるサービス業」との誤解
- (4) クレームが発生する6つの要因
- 2 「初期対応」を徹底する
- 3 「毅然とした態度」で対応する
- 第6章 好感を持たれる教師になるために
- ―傾聴力・本質把握力・提案力を鍛える―
- 1 教師としての役割を自覚する
- 2 保護者対応に求められている能力とは
- 3 「プロ教師力」を高めるセルフ・トレーニング
- おわりに
はじめに 〜なぜ,この本を書いたのか〜
皆さんの学校には,こんな保護者の方はいませんか。学校や教師に対して不信感を持っている保護者は。
私は,そういう保護者の方と話をすることが多いのですが,必ず言うことがあります。
「お母さん。お母さんが,お子さんの通っている学校や教師に対して不満に感じていたり,子どもの前でその不満を言っていたら,それは,お子さんにとって不幸ですよ。お子さんは,お母さんの言葉も信じたいし,自分の学校も信じたいし,自分の先生も信じたいのです。お母さんが,学校や教師に不信感を抱いていたら,お子さんも学校や教師に対して疑心暗鬼になって,どちらの言うことも信じられなくなってしまいますよ。そうなれば,誰が一番不幸になるんですか!お子さんですよ。」
子どもにとって学校での生活は,一日の大半を過ごし,1年の大半を過ごす,非常に大きな領域を占めるものです。その学校に対して保護者が不信感を抱いていたら,子どもはどういうことになるでしょうか。親の見方に影響されないわけはないのです。そうなれば,学校に積極的に参加することにブレーキが掛かり,教師の指導に対しては,斜に構えるような態度になってしまう可能性が出てきたりするのです。子どもは,学校での生活を思いっきり楽しめないどころか,上手く過ごせない状況になってしまうかもしれないのです。
子どもは,保護者だけではなく,まわりの大人と関わって大人になっていくものです。地域社会がその任を背負えなくなって,そういった意味では,学校の教師が,保護者以外の大人として子どもと関わっているのです。そういう暗黙の役割を背負わされた教師が,子どもの保護者と手を携えて子どもと関わることが,子どもにとっても非常に幸せなことだと思うのです。保護者と教師が良い関係性であれば,いろいろなことが子どもに対してできるはずです。
例えば,保護者と教師が結託して,子どもに対峙していくことも必要な時がありますし,逆に,保護者と教師が,ある役回りを演じて,子どもの心の居場所を作ってあげなければならない時もあるでしょうし,また,教師と子どもが結託して,保護者に対峙し,子どもの言い分を保護者に認めさせたりすることが必要な時もあるでしょう。そういう時に,保護者と教師が,何でも語り合える関係でいられれば,子どもに対して最適な対応ができるというものです。
今回は,そういう思いで,保護者対応の本を書きました。保護者と教師がちょっとしたことで敵対関係になってほしくはないのです。子どもに対する思いはお互い一つなのに,保護者と教師がお互い不信感を抱き合ってしまうような状況にならないために,本書を書いたのです。子どもの成長のために,保護者と良い関係性を築いてほしいと思います。そのために,教師が保護者の気持ちや感情を理解して,歩み寄ることが必要なのです。そのためのスキルが,本書にはあります。ぜひ,参考にしていただき,より良い保護者対応を行っていってください。
今でも忘れられないことがあります。それは今から20年前,進路に関して四者面談をしていた時のことです。志望校でもめていたA君とご両親は,私に仲裁を求めてきました。A君は,目標にしていた志望校の受験を避けて,一つ下の高校を受験したいと言い張り,ご両親は従来どおりの志望校を受験してほしいと聞きません。A君は,志望校に合格する自信がなかったようですが,私としては,A君の実力であれば合格するだろうと思っていましたから,最後にA君に従来どおりの志望校を受験しなさいとアドバイスをしたのです。そうしたらその瞬間,A君が,「先生までそんなこと言うのか!裏切ったな!」と言って,教室から出ていってしまったのです。後に残ったご両親と私は,A君の志望校について確認をし,私の方から志望校に関してはA君に言い聞かせるから心配しないで良いと言って,話は終わりました。
受験結果は,当然合格です。その受験から5年後,A君がひょっこり私を訪ねてくれました。そして,あの時のA君の心境を話してくれたのです。
「先生に背中を押してもらわなければ,僕は受験する勇気が出なかった。あの面談の時は,僕の気持ちを先生はわかってくれていると思っていたのに,僕の思いとは全然違うことを言ったので,裏切り者!と思ったけど,実は,後で思ったら,先生も僕の実力を信じてくれていたんだって,嬉しかった。」
こんな話をA君がしてくれました。その時,やっと私の中に残っていた棘が一つ消えていったように思ったものです。当然その日は,A君にご馳走をしました。二人で焼肉を10人前ぐらい食べて,思わぬ出費になって,痛かったことも忘れることができない思い出です。
私たち教師は,子どもの成長に関わる仕事をしています。ぜひ,子どもの成長にとって良い環境を作っていきたいものです。そのために,本書が少しでも読者の皆さんのお役に立てれば,これに勝る幸せはありません。
/中土井 鉄信
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- 明治図書
- 保護者対応は若手指導には欠かせないものとなっています。ぜひ2021/1/19